“今だけ”の景観を求めて - 八ッ場ダム予定地と吾妻渓谷を歩く

吾妻渓谷
すったもんだの経緯もあって広く名前を知られるようになった八ッ場ダム。その工事現場から吾妻川の下流へ向かって名勝・奇勝が続く吾妻渓谷。土木建設と自然美。対照的な景観の中を歩いてみた。

歩く距離が長く、長大なトンネル越えもあって、ぶらり散歩と言うにはちときつい。ダム工事が終わればもっと利用しやすい遊歩道なんかが整備されたりするんだろうか。

でも工事の様子は今しか見られない。当時は紅葉がちょうど旬の時期でもあった。“今だけ”の景色を求めていざ一人旅へ---。

前半は八ッ場ダム編

発展途上の川原湯温泉街

JR吾妻線を川原湯温泉駅で下車し、川原湯温泉の共同浴場「王湯」に入浴して出てきたところから話は始まる。

王湯のすぐ近くに「お福 まるきやCafe」というお店があったので水分補給にコーヒーでもと思って入ってみた。残念ながらカフェは休業中だそうだ。あらら。店の半分はお土産ショップになっており、少々買わせていただきました。

温泉街は八ッ場ダム工事にともない現在の場所へ移転してきた。あたり一帯は造成中のニュータウンといった様子で、真新しい建物・空き地・工事関係者のプレハブなどが入り混じっている。対岸の川原畑地区との間を結ぶ八ッ場大橋が印象的だ。谷底に目をやると、吾妻線の廃止された旧線路と旧鉄橋が見えた。
八ッ場大橋と谷底の旧線路

情報密度が濃い、なるほど! やんば資料館

5~6分歩いて八ッ場大橋のたもと付近にある「なるほど! やんば資料館」に着いた。平屋の小さなプレハブ造り。
なるほど! やんば資料館
中はダム工事を説明する展示でいっぱい。字が細かくてものすごい文章量。全部読んでられねーっす。個人的には周辺地形を示すジオラマ模型が見どころ。スケールのでかい工事現場の全体像を把握できるし、これから進むルートについて距離感や高低差のイメージを得ることもできる。

ダムカードに関する展示なんてのもあった。各地のダムを訪問すると入手できるらしい。訪問記念のスタンプ代わりのコレクション品だ。へー、ダムカード集めなんていう世界があったんだね。

八ッ場大橋から見るダム建設現場

お次は八ッ場大橋へ。吹き抜ける風が強い。橋の中央部に設置してある望遠鏡でダム堰堤の建設現場を観察できるようになっていた。レンズ越しに見る限り、止めてある車両と比較して、堰堤はもうマンションくらいの高さまで伸びてきていた。ここからもっと伸びていくだろう。
八ッ場ダム建設現場
谷底の旧鉄橋は現在工事車両が通る道路として使われているようだ。また堰堤の左側に巨大なプラント設備があり、その近くに「やんば見放台」という展望台が設けられているのがわかる。

橋を対岸まで渡り、やんば見放台まで行けば堰堤をもっと近くで見ることができたが、あそこまで歩きで行く(+登る)のは相当大変だ。時間的な都合でパス。工事が完成すれば湖面を渡る橋となる姿を想像しつつ八ッ場大橋を折り返した。

「赤いえんとつ」のお切り込みうどん

川原湯温泉街をずんずん東進していくと、「キッチン 赤いえんとつ」という食事処の先に展望台が設けられていた。八ッ場大橋よりも堰堤やプラントが近いとはいえ、木に隠れてしまう部分が多いのでやんば見放台ほどの景色ではないんだろうが、こんな感じ。スマホだと写りがイマイチ。
川原湯展望スペース
前半の八ッ場編はこれにて終了。後半編へ入る前にエネルギーを補給しよう。先ほど通り過ぎた赤いえんとつへゴー。
キッチン赤いえんとつ
当店にはとんかつやカレー、丼ものやチャーハンなんかもあったが、ご当地メニューっぽい「お切り込みうどん」を注文した。出てきたのがこれ。なすとねぎがこれでもかと投入されたきのこ汁の中にうどんが沈んでいる。
お切り込みうどん
うどんは極太の平打ち麺。山梨のほうとうに似ているといえば似ている。こういう郷土料理があるとは知らなかったなあ。味付けは濃い目だがうまいうまい。量が多いわりにはあっさり食べ切った。


後半は吾妻渓谷編

いきなりの試練、長大な吾妻峡トンネル

後半はいきなり厳しい試練が待ち構えていた。八ッ場ダム堰堤の向こう側から吾妻川に沿って吾妻渓谷が始まっており、しかしその“向こう側”へ直に行ける道路は存在しない(工事関係者のみ通行可の工事用道路はある)。

“向こう側”の吾妻渓谷へは山寄りの県道を使って迂回しなければならないのだ。歩行者目線でいうと1769メートルの吾妻峡トンネルを歩いて抜けなければならないことを意味する。一応広い歩道付きとはいえ、20分以上も車の行き交うトンネル内を歩かされるわけだ。
吾妻峡トンネル
ゴクリ…さあ行くぞ。意を決してトンネル内を早足で進む。こもった排気ガスを感じなかったこと、全般に緩やかな下り坂でさっさか歩けたことは幸いだった。一方、トンネルへ車が進入してくると、たとえそれがはるか遠くでも、ものすごい轟音となって耳に響く。心を折るべく襲い掛かってくる最大の難敵だ。

心を無にして何も考えないようにしてひたすら歩を進めること20分、ついに再び陽の光の下へ出た。やった! この先は自然美の吾妻渓谷ウォークだ。

元・日本一短い樽沢トンネル

県道から分岐する急な下り坂のヘアピンカーブの先は十二沢パーキング。付近には「猿に注意」系の立て看板が点在し、吾妻川は猿橋という名前の橋がかかっていた。猿橋から見る渓谷美ってやつを撮ってみたが、影に入っちゃって、何が何だかわからねー。
猿橋から見る吾妻渓谷
猿橋から上流(八ッ場ダム工事現場へ戻る方向)の八丁暗がりと呼ばれる渓谷美を楽しむルートは2つ。山林の遊歩道か、車両通行止めになった国道145号か。今回は舗装されて歩きやすい後者を選択。

国道145号を選んだ理由はもう一つあった。かつて日本一短い鉄道トンネルだった樽沢トンネルを見学するためである。自分は決して鉄ちゃんではないが、見ておかないと損する気がした。

道路と並行して吾妻線の廃止された旧線跡が残っており、猿橋から数分で樽沢トンネル跡が現れた。これです。全長7.2メートル。
樽沢トンネル
たしかに短い。短すぎる。なぜだか短く切ったちくわを思い出した。

迫力の渓谷美が展開する鹿飛橋

樽沢トンネルからさらに数分行くと鹿飛橋の看板が出てきた。国道から落葉の積もる階段を下りたところの小さな赤い橋、これが鹿飛橋だ。深い谷の上にかかる少し揺れる橋。高所がだめな人は渡れないやつ。
鹿飛橋
鹿飛橋を渡った先で山林遊歩道と合流できるようだ。また橋から見る渓谷は特に美しく迫力がある。冒頭の写真がそれ。両岸の間隔が非常に狭く、鹿が飛んで渡る=鹿飛とも呼ばれるスポットだ。

山林遊歩道にせよ国道145号にせよ、鹿飛橋付近からもう少し奥まで行くことができる。行けるところまで行って八ッ場ダム工事を裏側から見たろかという野望もなくはないけど、残念ながら時間切れ。今度は向きを反転して国道をひたすら下流方向へ進む。

温泉施設を備える道の駅あがつま峡

樽沢トンネルや猿橋を過ぎ、もみじ茶屋と渓谷パーキングの並びを過ぎ、松谷発電所を横目に30分あまり歩き続け、雁が沢という交差点まで来た。そこで吾妻川にかかる「ふれあい大橋」という平成っぽい名前の橋を渡る。このあたりが吾妻渓谷の終点であるようだ。
ふれあい大橋から見る吾妻渓谷
ふれあい大橋を渡ると道の駅「あがつま峡」がある。本日のウォーキングはここが終点。ここには天狗の湯という日帰り温泉施設や足湯コーナーがあるから、ちょっとした温泉気分も味わえる。自分はこのあと近くの温泉宿にチェックインするからスルーしたが。
道の駅あがつま峡 農産物直売所てんぐ
また農産物直売所では地元の野菜やお土産品を販売するほか、フードコーナーも併設されている。中はそこそこの人出で賑わっていた。


変化に富んだウォーキング

この日の行程は、王湯を出てから道の駅あがつま峡まで、資料館見学やランチ込みでほぼ3時間。ゆっくり歩いたり景色をじっくり眺めながらだと4時間かかったかもしれない。

やはり普通は車で回るべき観光地だろう。旅の全荷物を背負ってのウォーキングは結構疲れたが、工事現場から自然美まで変化に富んだコースには満足している。


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