絶句! 最強クラスのあふれるぬる湯かけ流し - 松の湯温泉 松渓館

松の湯温泉 松渓館
いやー、すごい温泉があったもんだ。すごい・スゴイ・SUGOI。絶対に忘れられない強い印象を刻みつけたのが群馬県・吾妻渓谷近くにある松の湯温泉「松渓館」だ。2017年下半期の大型一人旅企画「晩秋のぬる湯三昧」の1泊目の宿である。

温泉愛好家の間ではよく知られた存在で、熱烈なファンも少なくないようだ。自分も興味はあったのだが、週末を中心に早くから予約が埋まってしまうため、なかなか行く機会を得られなかった。

それが今回ようやく念願叶って訪れることができた。浴槽からドバドバあふれ出る湯量は噂通りの出血大サービス。加えてびっくりするほどの泡付き。温泉気分を盛り上げる硫黄臭。気持ちのよいぬる湯。ちょっと寒かったけど最高だった。

松の湯温泉「松渓館」へのアクセス

松渓館の最寄り駅はJR吾妻線・岩島。しかしここから歩くのは大変だ。3キロ40分はみておかないといけない。

吾妻川の右岸(北岸)に沿って国道145号旧道をひたすら進み、ふれあい大橋や道の駅あがつま峡につながる雁が沢交差点まで来たら右折して、吾妻川の支流・雁ヶ沢川に沿って北上すると、5分もすれば着く。

乗合バスを使う方法もある。9人乗りジャンボタクシーで運行されており、岩島駅前停留所から天狗の湯線左回りで4分・210円。雁が沢交差点近くの川中温泉口停留所で下車。帰りはそこから右回りに乗る。ただし本数は非常に少ない。日曜祝日は1日2便のみ。

自分は吾妻線を川原湯温泉駅で下車して、共同浴場「王湯」に入浴したり吾妻渓谷を観光したりしながら、半日かけて歩いて行った。松渓館に泊まった帰りは上記のジャンボタクシー川中温泉口9時51分発の右回りに乗って岩島駅まで行った。


山あいのレトロな宿

硫黄の匂いがお出迎え

松渓館の建物が目に入ると同時に硫黄のタマゴ臭がぷ~んと鼻をついてきた。キタキター! 盛り土の土台に突き出た太いパイプからお湯がドバドバっと勢いよく落ちていた。匂いのもとはこれだろう。かけ流された源泉の排出先か。
松渓館 温泉排出口
それにしてもまだ15時前だというのに辺りが暗い。当宿はちょうど沢の斜面に位置しており、西も東も斜面に遮られ、陽光の差す時間帯がとても短いそうだ。夏は涼しくて良さそうだけど。
松渓館周辺の景色

ダラダラまったりできる部屋

では入館しよう。石段を上がって2.5階に相当する高さが正面玄関だ。チェックインをすませて案内された部屋は同じフロアの廊下の奥にある6畳和室。トイレ・洗面はなし。すぐ隣に共同の洗面所とシャワートイレがある。

部屋は古びているものの清潔に手入れされており問題なし。ファンヒーターとこたつで寒さ対策はバッチリ。テレビはもちろんあるが冷蔵庫・金庫はない。部屋でダラダラまったりする人が多いのか、何冊かのコミック雑誌が置いてあった。
松渓館の部屋
窓の外は斜面に生える木々といった感じで絶景ではないけど、ごみごみした市街地ではないから落ち着く。

灯りは自動におまかせ

カメムシの出没を覚悟していたものの基本的には出なかった。基本的にというのは、夜カーテンをふと見たら、なごり雪的なのが2匹いたから。違った、寝る前にもう1匹出たわ。備え付けのガムテーブで貼ってくるんでゴミ箱へさようなら。

なお、洗面所・トイレの灯りを入れるスイッチがよくわからない。「どうやって電気つけるんだ?」と不思議に思っていると、夕方暗くなったら常時点灯状態になった。なるほどね。廊下は人が通るのを感知して自動で点灯する。

それと、どうやら6畳間より広い部屋はなさそう。となると現実的に受け入れられるのは2名のグループまでだ。そもそも大勢でワイワイするために行く宿じゃない。


幸せすぎて笑いが止まらない、極上風呂

風呂独占し放題のシステム

さあファンの多い風呂を体験しに行こう。松渓館は1日に客を1~2組しか取らないと言われており、入り放題の独占し放題。2組いる日は玄関前にある貸切予約ボードを使って希望時間帯を押さえておく方式のようだ。しかしこの日の客は自分だけ。よっしゃあ。

風呂場は玄関を出て石段を下りた、0.5階の高さにある。男女の別はなく1室のみ。脱衣所も浴室もそんなやたらと広いわけではない。換気扇がなく窓を開け放っているため季節によってはちと寒い。壁の分析書には「カルシウム-硫酸塩泉、中性、低張性、低温泉」とあった。

浴室にカランは一つ。金属部分が硫黄でやられたっぽく黒ずんでいる。壁のタイルの目地にはカルシウムらしき白い析出物がこびりつき、天井を見上げるとむき出しの無骨なコンクリートが温泉の湯気にやられてぼろぼろになった風。

思わずのけぞる! 豪快にあふれ出る源泉

3名規模の浴槽がL字型と小さな□型に仕切られ、L字の方が源泉槽。

ここからオーバーフローする湯量がとんでもないと評判なのだが、本当にとんでもなかった。もったいないお化けが出そうなくらいに、ざばざばとあふれ出ては、ゴーッという音を立てて排水口に吸い込まれていくのだった。

それだけの量を投入している湯口は見えない。源泉槽の底から入れているためだ。浴槽に体を沈めると、アルキメデスの原理で人の体積分だけさらにお湯があふれてエライことになる。そして立ち上がると浴槽内の湯量は当然減っているが、みるみるうちにまた一杯になってあふれ始める。圧倒的な投入量だ。

目を見張る、半端ない泡付き

お湯は無色透明。硫黄の主張が強く、手ですくって鼻を近づけると明らかにタマゴ臭い。そしてぬるい。ぬる湯好きにはたまらない。というかむしろ冷たい。32℃だからね。慣れると全然平気だけど時おりゾクッとくる。

オーバーフロー・硫黄臭・ぬる湯、この3つだけでも相当の個性だが、それだけじゃない。泡付きがまたとんでもないのだ。入った瞬間から腕や足にびっしりと細かい泡がつく。それに、無色透明と見えたお湯に目を凝らすと、実は微小な気泡が大量に漂っていた。うっわーすげー(にやにや)…幸せの笑いが止まらない。

底にある源泉投入口の穴を背にすると、背中に立ち上る源泉の勢いに加えて泡のパチパチした感触がするのは気のせいか。

ワンポイントのアクセントに加温槽

小さい□型の方は加温槽だ。源泉槽から移ってくると温かさが気持ちいい。壁に生えている「源泉(加温)」と「源泉」と書かれた2つの蛇口にはホースがつながれてお湯の中に突っ込んである。自分で足して調整するんだろう。その意味では掛け流しでなく溜め置き方式だ。

加温槽のお湯は泡が付かない。硫黄の感じも薄れる。松の湯温泉を堪能するなら、やはり源泉槽で長湯したい。

初回の入浴では「冷温交互浴だ~」と両槽を行き来してみたが、加温から源泉槽へ戻った際に温度の落差のせいで冷たさが強調されてきつかったので、2回目以降は最後出る前だけ加温槽で仕上げるという使い方になった。

至福の時間が流れる風呂場

まあそれにしても噂に違わぬ素晴らしさよ。ぬるいだのゾクッとするだのいいつつ、源泉槽へいったん入るともう抜けられなくなる。泡と硫黄臭に包まれて1時間があっという間に過ぎるのだ。

光の屈折で湯の中のタイルの並びがフィッシャーのだまし絵のように狂って見える不思議な感覚を味わいながら、誰もやって来ない独占状態の湯船でただただボーっとしていられるなんて、なんという幸せだろうか。

結局、夕方2回・夜1回・朝1回それぞれ約1時間ずつ入った。女将さんによれば夜は22時まで、朝は7時から利用可能とのこと。ここへ泊まるものは皆、きっと時間の許す限り、取り憑かれたように風呂へ入り浸るんだろうね。


山の素朴さが好印象の食事

こんにゃくが何気にイカす夕食

松渓館の食事は朝夕とも別室に用意される。部屋の広さからして宿泊客が2組あれば別々の部屋を当てるはずだから完全な個室といってよい。チェックイン時に食事は何時がいいか訊かれたから、18時と8時を中心に多少の時間の融通は効くと思われる。

夕食のメインディッシュは豚しゃぶだった。それと鮎の塩焼き・天ぷらなど。群馬の食材といえばこんにゃくのイメージがあるが、こんにゃくを使った料理が2品あったのはさすが。とくに刺身こんにゃくがよかった。
松渓館の夕食
派手さ豪華さはないけど山の静かな宿に来た感があって大変よろしい。すべて美味しくいただいた。量が足りないこともなく、十分にお腹がふくれた。お櫃からよそうご飯はお腹いっぱいで完食できず。

おからの新しい一面を垣間見た朝食

朝は鮭の和定食。文句なし、満足だ。自分は子供時代のトラウマでおからがまったくの苦手なのだが、ここのはうまく味付けしてあるようで何の抵抗もなく食べられた。
松渓館の朝食
というか、この旅ではどこの旅館でもおからが出てきて、どれも問題なくうまいと思って食べた。子供の時に食べさせられたあの、豆の搾りかす臭しかしないパッサパサの、喉を通らないあれは一体何だったのか。

ともかく壁に貼られた東吾妻町の春夏秋冬観光ポスターを眺めながらの食事であった。


ファンの多さに納得の良泉宿

松の湯温泉・松渓館。もう一度言う、松の湯温泉・松渓館。ここはそりゃまあ熱烈ファンが多いやね。あの温泉と食事で税込み7800円だったのがまたびっくりだ。お得にも程がある。

しかしただ値段だけを理由に利用して欲しくはない気持ちもある。本当に温泉好きの方が、あのあふれ出る源泉槽を骨の髄まで楽しむために利用していただければ、と願う次第である。

世話好きそうでいて適度に放置してくれる女将さんの対応は居心地が良い。また風呂も食事も自分一人の世界で終始できるシステムなのが素晴らしい。カッコよくいえば「自分と向き合える時間」ってやつだ。自分のような志向の者には本当に大当たりの宿だった。