新たな歴史へ再起動した吾妻川のいで湯 - 川原湯温泉 王湯

川原湯温泉 王湯
今回の一人旅は2017年下半期というか年間を通じての最大企画「晩秋のぬる湯三昧」。最初の行き先は群馬・吾妻峡だ。そこには八ッ場ダムの工事にともない新しい場所へ移転した川原湯温泉がある。

ここの共同浴場「王湯」を訪ねた。焦げ硫黄臭が印象的な、よく温まる温泉である。また露天風呂からの眺めがなんともダイナミック。必ずしもぬる湯とは言えないので、いきなり企画タイトルから逸脱した格好だが、細けえことはいいんだよ。気にしないでいこう。

川原湯温泉・王湯へのアクセス

川原湯温泉の最寄り駅はそのものずばりのJR吾妻線・川原湯温泉駅。もともとあった当駅の位置が八ッ場ダムの建設予定地にかかっており、前後の線路とともに高台へ移転している。

川原湯温泉駅を出るとすぐに巨大な不動大橋が見える。渡った先にある道の駅「八ッ場ふるさと館」が観光の拠点となっているのだが今回はパス。まっすぐ王湯へ向かった。
川原湯温泉駅から見る不動大橋
このあたりは造成中のニュータウンといった感じで、まだ街が完成していない。王湯への本来のルートになるだろうと思われる道路や橋も未完成だから、山側を通る336メートルの川原湯温泉トンネル(広い歩道付き)を歩いて抜ける必要がある。トンネル入口には唐突に薬師堂が。
川原湯温泉 薬師堂
トンネルを出ると八ッ場大橋が姿を現した。下の写真の撮影位置は王湯を少し行き過ぎたところ。駅から王湯までは徒歩10分から15分で着く。
八ッ場大橋

焦げた硫黄臭が特徴的な王湯

湯かけ祭りの桶を展示

王湯の建物は近年移転してきたばかりとあって新しい。では入ろう。受付カウンターに置かれた販売機で入場券を買う。500円なり。2時間という時間制限があるようだが十分だ。タオルは持参すること。

館内もきれいで新しい。気持ちよく快適に利用できるだろう。男湯・女湯の扉の前の壁には「湯かけ祭り」と書かれた桶がずらっと並んでいた。1月20日早朝にふんどし姿の若い衆がお湯をかけ合う奇祭だそうだ。その日、王湯は休業となる。

脱衣所の分析書には「含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉」「低張性、中性、高温泉」とあった。成分多彩ですな。加温・循環・消毒はなく加水のみの模様。

なお、脱衣所の小さい貴重品ロッカーは入れた100円が後で戻ってくる方式。大きい方のロッカーは入れた100円が戻ってこない。

サラッとした熱めの内湯

浴室に入ると焦げたような匂いがモワっと。いきなりくるねー。内湯は3名分の洗い場と6名規模のタイル浴槽があった。お湯は無色透明というべきだが、心なしか何色と言い表せないほどの微かな色が入っているようにも、微妙に濁っているようにも見える。

入ってみると、やや熱め。お湯をすくって鼻を近づけると焦げ硫黄に通ずるアブラ臭がした。こいつはなかなか強い特徴だ。一方で感触については濃ゆい印象はなくサラッとしている。浴槽内の客は自分以外に1名。

じわじわとよく温まるな…この日は王湯のあと屋外を数時間歩き続ける予定だった。よく晴れていたとはいえ直前まで雪の予報もあった。体が芯から冷えるようなことがあってはたまらない。今のうちにしっかり温めておこう。

今だけ。谷底の工事現場を望む露天風呂

続いて奥のドアから屋根付き露天風呂へ。向かい合わせになれば8名くらいはいけるんじゃないかという横長の浴槽には、すでに2名の姿があった。

こちらのお湯も内湯と同様。ただし露天の分だけ冷めるせいか、ややぬるく感じた。外気はちょっと寒いし、お湯につかったまま、いつまでも出られなくなりそうだった。

露天風呂からの眺めはなかなか壮観。吾妻川が作る谷の向こうの山は紅葉が見頃を迎えていた。中腰になって谷の底をのぞき込むと八ッ場ダムの工事の様子が目に入る。ぬるめで長湯できるのをいいことに、しばらく景色を見ながらまったり過ごした。

2020年といわれる工事完成の日が来れば、もともとあった旧王湯を含む旧川原湯温泉街はダムの底に沈む。そしてここ新王湯の露天風呂からは谷の代わりにダム湖の湖面を望むことになる。


知らない者の強み

露天風呂を出てちょっとだけ内湯へ入り直してから入浴終了。当館の2階は休憩処になっており、ビールも飲めるようだったが、次の予定を優先して誘惑を振り切った。

あー、焦げとアブラ臭をたっぷり吸い込んだぜ。温泉気分に満たされながら王湯を後にしたのだった。

自分は移転前の旧王湯を体験していない。ネットの口コミを見ると、旧王湯のとがった特徴を懐かしみ、新王湯を「丸くなってしまった」と残念がる論調が散見される。へー、もとの王湯はそんなに強い印象を残すほどだったのか。入ってみたかったな。

でもそこは逆に知らない者の強みである。いま高台にある川原湯温泉が唯一の川原湯温泉であって新王湯が唯一の王湯なのだ。差分を取るべき相手はなく残念に思う余地もない。焦げとアブラを感じつつただ満足して出ていく。それでいいのだ。