ウトロの知床観光船:海からの秘境ウォッチング

観光船から見える知床半島
地の果ての秘境イメージにロマンを覚えてしまう知床半島は道東を周遊する上で外せない。中でもこの旅行の目玉に位置づけたのが、海から知床の大自然を見学する、ウトロ発着の観光船クルーズである。ポピュラーなのは大型船のやつだが、今回は小回りがきいて陸地の近くまで寄ってくれるという小型船にチャレンジしてみた。

乗船時間が3時間に及ぶことからも知床の雄大さがうかがえる。しかしあいにくの天気で波も荒れ気味となり、途中で引き返したこともあって事前に思い描いていた筋書き通りにはいかなかった。一応は見どころをいくつか巡ってヒグマの姿を見ることもできたし、船が欠航にならなかっただけ良しとしよう。

(補足)2022年4月、知床観光船遭難事故が発生しました。亡くなられた方のご冥福をお祈りします。以下で紹介する船は事故を起こした運航会社とは別です。クルーズ中に危ない点は特に感じませんでした。

知床世界遺産クルーズFOX

羅臼の丘で遥か国後を望む

知床といえば思い出すのが映画「男はつらいよ 知床慕情」(第38作)。数あるシリーズ作の中で個人的に最も好きな作品のひとつだ。その知床へ行くことになるなんてなあ。とくに映画のクライマックス=バーベキューで寅さん「行っけぇぇぇー」と叫ぶ胸熱シーンの舞台となった草原は、フレペの滝やウトロ灯台のあたりらしい。現地へ行く計画はありませんがね。

それはともかく旅の3日目。川湯温泉・欣喜湯をチェックアウトした我ら一行は一路西へ。前日に立ち寄った開陽台を横目になおも西へ進み、標津の海岸線を目指す。今日はもう雨確定。予約した観光船は運航してくれるみたいだけど、一筋縄ではいかないかもしれないな。

川湯温泉の効果か、朝から車内で爆睡しているうちに、気づけば海沿いの国道335号を走っていた。おー、車窓はオホーツクの海だ。じゃあ向こうに見える島影は国後島か。

いよいよ知床半島の羅臼側に入り、道の駅「知床・らうす」を経てクジラの見える丘公園へ。車1台分の幅しかない道を少し登ると羅臼灯台や展望デッキのある場所へ出る。
羅臼灯台
国後島もおぼろげながら見えた。
国後島

素人考えの雨対策は不十分?!

ここから知床峠を越えていく。羅臼岳にはまだ雪があったし、関東だともう半袖で過ごしてよい季節なのに現地は町中でも気温15℃くらいだった。知床峠の展望台はすっぽり雲の中に入ってしまい真っ白で何も見えず。さらにウトロ側へ下りてきたら完全に雨模様。あー残念。

いまさら天気を恨んでも仕方ない。予定通りに知床五湖へ寄り道してから観光船「知床世界遺産クルーズFOX」の集合場所・cafeFOXへ。同じ並びに同業の小型観光船の拠点がいくつかある。どうやらクルーズ便が大きく定員割れすると同業他船との合同開催になるようだ。この日がそうだった。

寒さに関してすっかりなめていて、この日の気温&雨風だと関東における春秋向けジャケットを持参した程度では明らかに太刀打ちできない。一方、さすがに運営側は慣れたもので準備がいい。これを着てくださいといってライフジャケット+その上に着る厚手のダウンコート+その上に被るレインコートを全員に貸してくれた。かなりモコモコな格好になったが、これくらいの装備でないと耐えられないだろう。

あと希望者は双眼鏡をレンタルできる。600円。予約しておくと無難。陸地の熊を探す際に役立った。


いざ出航。海上からの知床観光

小型観光船の状況について

いよいよ船に乗船して出航。席は予約時に指定する方式で、迫力重視の先端部(屋根なし)や雨風をしのげる船室内や後部・2階(屋根なし)から選べる。自分は事前の天気予報に日和って船室内の席にしてもらったが、狭い窓から外を見る感じになるので、天気が良くて寒さを気にしないなら屋根なしの先端部や後部や2階がおすすめ。船室席よりは酔いにくいということもある。
我々が乗った小型観光船
一方この日は悪天候だったため先端部の席を取った別のメンバーは大変だったようだ。レインコートがあっても横なぐりの雨が吹き付けるせいでズボンがぐっしょり濡れていたし。このへんの判断はなかなか難しいですね。

船酔いについてもコメントしておく。当日は波レベル2(下から2番め)とのアナウンスだったが、途中から結構揺れて、一緒に船室席を取ったメンバーは船酔い手前まで追い込まれたと聞いた。本来は知床半島先端まで行ってくれるはずの船が4分の3くらいの地点で「波が荒れてきたので引き返します」となったから、最終的に波レベル4(上から2番め)くらいまで悪化したんじゃないかな。引き返した場合は状況に応じて一部返金される。

フレペの滝とカムイワッカの滝

さて、さっそく見どころに近付いた。個人的に思い入れのあるフレペの滝だ。あの向こうの草原で屈指の名シーンが展開していたわけか。滝そのもの以上に寅さん絡みで感慨深い。
フレペの滝
こんな感じで陸地に見どころがあると近くまで寄ってくれる。大型船にないサービスだ。スピーカーを通じた説明のアナウンスがキンキン鳴ってよく聞き取れなかったため、逐一の具体的なスポット名はわからない。予習しておかなかったこちらが悪いんですけどね。名前はおいといてこんな穴とか、
断崖絶壁に空いた穴
こんな滝とかを見られました。有名なカムイワッカの滝だと思う。※滝が温泉になっているのは内陸部にあるカムイワッカ湯の滝。こちらは“湯”がつかない別の滝。
カムイワッカの滝
基本的に断崖絶壁続きで海に落ち込むパターンの滝は多い。これとか。名前はわからない。
知床半島の滝(名前不詳)

悪天候で半島先端までは行けず

断崖絶壁が続く中にもわずかに上陸可能そうな地点はある。ルシャ川河口がそのひとつで、近くには漁師さんが使う番屋があった。
ルシャ川河口近くの番屋
不運なことに気象状況は悪化する一方。波も荒れてきて、ついに引き返すという決断が下った。プロがそう判断するなら仕方ない。もう少し進むとカシュニの滝があるからそこまでは行きましょうとのアナウンス。そのカシュニの滝がこれ。
カシュニの滝
正直なところ寒さと雨と揺れでだいぶ心を折られかけていたから、引き返す判断に異論はない。御意。やっちゃってください。カシュ二の滝で反転してウトロ帰港を目指す。

ヒグマを探せ

せめて最後のトライとして、先ほどのルシャ川河口の岸辺でヒグマを探してみることになった。岸近くで船を停止させて目視で熊を探す。ここは熊がよく現れるスポットだそうだ。プロのガイドさんが一所懸命に探してくれたし、「皆さんも双眼鏡で探してみてください」とアナウンスが。
ルシャ川河口
とはいえ、そう簡単に見つけられるほど甘くはない。2分、3分…あきらめかけたその時、ガイドさんの声が響いた…「あそこに1頭いますよ、黒っぽいのがわかりますかね。河口の橋の少し左。」…おおっ!!! 教えられた地点に双眼鏡を向けると、たしかに黒い熊らしき生物がもぞもぞ動いているのが見えたんで、慌ててスマホでズーム撮影してみた。
ヒグマ発見地点(写ってない)
なんだよ写ってねーじゃん。そいつが川面に降りると姿が隠れて見えなくなるので、撮影タイミングが悪いとこうなってしまう。

とにかく自分はこの目で見たんだからいいや。休航もあり得たこの天候で、4分の3まで行ってくれてヒグマも見られたから、この状況なりに良しとすべきだろう。寅さんみたいに長逗留すれば好天の日を狙ってトライすることもできたろうけど、そうもいかないのが小市民のつれえところよ。


おまけ:雨の知床五湖

観光船の前に知床五湖に立ち寄った。普通にヒグマが現れてもおかしくない地域であり、少々びびっていたが、さすが令和の時代は安全対策ばっちり。高架木道が整備されていた。木道は電気柵で守られているから安心ね。
知床五湖の高架木道
5つある湖のうちの一湖を望む展望台まで木道が続いている。本来は羅臼岳などの山もよく見えるはず。当時はあらかた雲に隠れてしまっていた。
知床の山々は雲の中
駐車場から展望台までは結構長くて片道10~15分みておきたい。終点の展望台では知床一湖が眼前に広がっている。
知床一湖
観光船から見たのとは逆の立場で、丘の上から海が見えるようなスポットもあって、木道を歩くだけでも景色が楽しい。なお木道から数十メートルのところに熊じゃなくて鹿の姿を見た。