標高2000メートルの別天地。雲の上の秘湯宿 - 高峰温泉

高峰温泉
暦の上では初秋と呼んでも差し支えない季節になった。でもまだまだくそ暑い。遅めの避暑に行きたいとの要望から企画されたグループ旅行にて、1泊目に選んだ旅館は長野県小諸市の「高峰温泉」。

なにしろ所在地が標高2000mの高峰高原なんだから涼しくないはずがない。それに温泉の一部はぬるめで提供されているという。おー良さそう。

実際に、現地の日差しは強かったけど空気は温度・湿度が低めで爽やかだし、ぬるい方の温泉は自分の嗜好にマッチして大変結構。秘湯感は十分だし、いろいろな催しをやっているし、かなり頑張っている印象。大勢のお客さんで盛況だったのも納得できる。

高峰温泉へのアクセス

ぴんころ地蔵に寄り道

今回は車利用でドライバーは自分。東京方面から高峰温泉はまず関越道・上信越道経由で小諸ICまで行く。

実際の我々は小諸ICまで行かず、手前の佐久小諸JCTから中部横断道へ入り、佐久南ICで下りた。向かった先は「ぴんころ地蔵」。健康長寿が叶ってピンピンコロリでいけるそうなので拝んでおいた。
ぴんころ地蔵
初日の観光はぴんころ地蔵をもって完了。あとは高峰温泉へ行くだけ。小諸市街に入ったらチェリーパークラインなる山登りの道路に合流する。あとは道なりにひたすら登る。

標高2000mの高峰高原へ

急坂とヘアピンカーブが続くものの片側1車線が確保された舗装道だから自分の運転でもどうにかなった。一気に2000mの高さまで登ってくると、まず現れたのが高峰高原ホテル。その先に高峰高原ビジターセンター。ビジターセンターから先は狭いダート道となるが1km・2~3分も走れば到着するのでまあ大丈夫。

公共交通機関を利用する場合は新宿から当館前まで高速バス1本で行ける。へー、そうなのか。便利ですな。

なおマイカーにせよバスにせよ、以上は夏季の話。冬季は上述のダート道が通行止めになってしまうから、ビジターセンターを通り過ぎた先のアサマ2000スキー場に駐車する(あるいはバスを降りる)。そこからは雪上車で送迎してもらうことになる。ワイルドですな。


秘湯感たっぷりのランプの宿

敷地の一部は群馬県

高峰温泉の駐車スペースはすでにたくさんの車やバイクで占められていた。登山の帰りに立ち寄る日帰り客も大勢来ているんだろう。スタッフさんが駐車する場所を指示してくれて助かった。自助努力だと駐車難民化していた可能性がある。

車外へ出ると…おお涼しい。狙い通りの環境だ。当館の住所は一応は長野県小諸市なんだけど、群馬県嬬恋村との境界が敷地内を通っている。玄関前の階段の1段目は群馬県だそうな。我々の車を止めた位置もどうやら群馬県側になるっぽい。

長野県側の館内でチェックイン。案内された部屋は1階の8畳和室。シャワートイレ付き。洗面所は部屋外に共同のがある。冷蔵庫なし、金庫は暗証番号式。「ランプの宿」というサブタイトルを冠する通り、ランプがありますな(電気式)。
高峰温泉 客室

三重窓に見る冬場の厳しさ

印象的だったのが三重窓。冬場の寒さは相当なものなんだろうな。強力そうなヒーターがある一方でエアコン等の冷房設備はない。三重窓の断熱性能があまりに良すぎたか、室内には若干ムッとした熱気がこもっていた。網戸にすれば涼しい空気が入る。

ガラス越しに見た外の景色がこちら。高原の一軒宿だから近隣に他の家屋や集落は見えない。
窓の外の景色
室内にWiFi完備。一方、携帯の電波レベルは微弱で、自分のスマホは時おりプチプチ切れながらも一応ネットに繋がったが、キャリアや機種によってはまったくダメかもしれない。


非日常感が印象深い、高峰温泉のお風呂

待ち人並ぶ野天風呂

高峰温泉の浴場は3箇所。いずれも男女別の源泉かけ流し。

・野天風呂…宿泊者のみ
・展望風呂…宿泊者のみ
・一般内湯…日帰り入浴可

最も特色があって人気を集めるのは野天風呂。チェックイン後にさっそく行ってみた。1階というか中2階というかの廊下のつきあたりにある扉を開けると待合所があって、すでに順番を待つ客の姿があった。

野天風呂の定員=男女各4名に合わせて待合所には脱衣かごが男女各4つずつ用意されている。待合所から風呂へ向かう際に脱衣かごを持っていくので、かごが見当たらなければ現在満員ということだ。

まさしく野趣あふれる温泉

利用客の回転率は高いみたいで、満員でもよほどのことがなければ30分待ち・1時間待ちなんてことにはならなそう。我々もスムーズに脱衣かごにありついた。

専用サンダルに履き替えていったん屋外へ出ると、足元にランプが置かれた野道が50mほど続いて、手前に女湯・奥に男湯の分岐があった。野天風呂のつくりはいたってシンプル。2段の棚にかごを置いて服をしまう。そうして振り返れば目の前は浴槽だ。洗い場などはない。

浴槽は定員4名なりのサイズ、いや3名ってとこかな。詰めれば4名って感じ。お湯は白っぽい半濁で軽くタマゴ臭がする。熱すぎずぬるすぎずの適温だから万人向けだろう。浴感は大変結構なり。

絶景を眺めながら入る贅沢

本来なら最初に強調すべきなのが風呂から見える景色。「雲上の野天風呂」と呼ばれる通り、高原の展望台に匹敵する絶景が飛び込んでくるのである。うわーい。

近景は深い谷。谷が開けた麓のあたりに小諸の町が広がっている。遠くの中央アルプス(?)の峰々にかかった雲がまるで眼下の高さに見える(同行者に「あそこは八ヶ岳だ」と嘘を教えちゃったかも…)。

よく晴れて雲の少ない気象条件のおかげもあるが、下界や遠くの山までしっかり見通せた。このクオリティの温泉に浸かりながらあんな景色を見られるんだから、なんとも贅沢だ。

ただし長湯のできるぬるさではないことと出入りの多い雰囲気、そして待合所で順番を待つ人がいるかもしれないと気になって、あまりゆっくりしてはいられない。わりとあっさり短時間で出た。

野天風呂の利用可能時間は季節や天候により変わる。当時はたしか夜が18時30分まで、朝は6時30分から。けっきょく野天風呂は最初の1回だけだった。ちょっともったいなかったかも。

創生水で体を洗う展望風呂

続いて展望風呂へ行ってみた。野天風呂への扉の脇から階段を上がると飲泉場のある休憩所に出る。
展望風呂前の休憩所
その隣が展望風呂だ。男湯の脱衣所には創生水についての説明書きがあった。当湯では環境保護のため石鹸やシャンプーの類を置いていない。かわりに蛇口から出てくる創生水で髪や体を洗い流せば、皮脂や汚れを十分に落とせるそうだ。

また壁に掲示された分析書によれば「含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉(硫化水素型)」とのこと。白濁していたりタマゴ臭がするのも納得である。

浴室内にカランは6つ。ただしシャワー付きは2つ。他の4つは蛇口の開き方からしてよくわからん。もしかして塞いであるのか?と思ってしまった。全然混んでないから困ることはないが。

ぬる湯と飲泉と雲海

浴槽は木製で右側に4名サイズの加温槽と左側に2名サイズの非加温槽が並ぶ。前者は湯口がなくて底の一部に空いた穴から熱い湯の塊がボコボコ噴き出している。浸かってみると適温。野天風呂よりも濁りとタマゴ臭は強く、湯の花もはっきり確認できる。

後者はちょうど体温と同じくらいのぬる湯でまさに自分好み。ずっと入っていたい感じ。加温槽のお湯がやや青みがかった白濁とすれば、こちらは青みのない乳白色。

ふと見ると飲泉用の枡が置いてあったから湯口から汲んで飲んでみた。ややしょっぱくて硫黄の匂いが鼻に抜けてくる。入って良し・飲んで良しのいいお湯だ。

展望風呂という名前はガラス越しに野天風呂と似た景色を拝めるからだろう。翌朝5時台に入りに来た時が特にすごかった。下界に見えるはずの小諸の町をすっかり覆い隠す幻想的な雲の群れ。おお…これは…雲海ってやつか…。えらいものを見てしまったな。

ちゃっかり6時台にも来てみたら、先ほどの雲はまさしく雲散霧消してしまっていた。あの雲海は時間限定の絶景だったのか。早起きは三文の徳だね。

ベストのぬる湯を擁する一般内湯

玄関寄りにある一般内湯へは夕食後に行った。日帰り入浴の時間は終了しているし、ちょうど宿が主催する「星の観察会」が行なわれている最中だから、独占できるんじゃないかと期待してたら、その通りだった。

全般に展望風呂をひと回り小さくしたようなつくりである。カランは6つで、右に2~3名サイズの適温の加温槽、左に2名だときついくらいの非加温槽。

主に非加温槽専門で浸かったのだが、展望風呂のやつよりもさらにぬるい。明らかに体温以下。しかしこれが気持ち良い。永久に入っていられるんじゃないかと思うくらい。泥沼に引きずり込まれたかのごとく出るに出られなくなってしまった。

夏季ならここの非加温槽が一番好みかな。ただし昼間は日帰り客がたくさんいて、落ち着いて入れない可能性はある(憶測)。


高原の秘湯に来た気分に浸れる食事

美食と美夜景を楽しむ夕食

高峰温泉の食事は朝夕とも2階の食事処で。夕食は18時固定。部屋ごとに決まったテーブル席が割り当てられる。スターティングメンバーがこれ。
高峰温泉 夕食
食前酒はガマズミ酒。へー、初めて見聞きした。飲んだらちょっと渋みがあったけど爽やか系で悪くない。高山の秘湯なんで刺身はこんにゃく。しかしこれがまたうまい。こんにゃくだからとなめてはいけない。

全体にどれも丁寧な作りでよろしおます。牛肉をやっつけた頃にはすっかりお腹いっぱいになってしまい、その後に出てきた鮎塩焼きと山菜天ぷらでダメ押し。もともと少食とはいえ、この頃すっかり胃が縮んでしまったなあ…。
高峰温泉 夕食その2
ちなみに山菜には菱野南蛮や軽井沢菜というご当地ものっぽいのがあった。最後にご飯・味噌汁・デザートで終了。いやー食べた食べた。

そういえば夕食の開始からしばらくの間は窓から見える日没マジックアワーの夕焼けが美しかった。食事時にも絶景が見られるとはおそるべし。

朝食も結構なり

朝食は8時固定。前夜と同じテーブルで。
高峰温泉 朝食
朝はこれくらいで十分でしょう。野沢菜はスジが歯に挟まって取れなくなるのがいつものパターンなので苦手なんだが今回はやけにスムーズだった。なにか秘密が…ないよね。

ちなみに食事とは直接関係ない話として、1階のロビーではそば茶をいただける。また一般内湯近くの休憩室ではくま笹茶をいただける。
高峰温泉 ロビー

いろいろな催しもやってます

高峰温泉のサービスはこれだけじゃない。いろんな催しをやっているのだ。

・17:00 - 17:45/温泉療養講座
・19:30 - 20:30/高峰温泉の歴史を語る
・20:30 - 21:30/星の観察会
・7:30 - 8:00/野鳥観察会
・9:00 - 12:00/自然観察会

食事・風呂・寝る、あとこれらの催しにすべて参加すると1泊2日の時間はきっちり埋まるんじゃないかな。部屋でだらだらしている暇などない。

我々は後半3つ=観察会シリーズに参加した。夜も天気に恵まれて星の観察会では本当にやばいくらい星がたくさん見えた。レーザーポインターで空を指し示して「あの星は~です」と教えてくれたり望遠鏡をのぞかせてくれたりする。※ちゃっかり途中で離脱して一般内湯へ行ったのは上述した通り。

朝食前の野鳥観察会ではエサ台に集まるやつらを休憩室の窓越しに見学。当時はキジバトとコガラのみ。寒くなって森にエサがなくなってくると、もっとたくさんの種類を見られるらしい。

自然観察会はチェックアウト後に行われる池の平湿原のガイドツアー。これがまた印象に残る大変すばらしい内容で、記事をあらためて紹介したい。

結論としては、自分の嗜好とうまくマッチしたこともあり、大当たりといってよかろう。日本秘湯を守る会の会員宿だからスタンプ集めも前進したし、もう何も言うことはない。山より高い満足感とともに高峰温泉を後にした。