何もない、だがそれがいい - ワンダーな霊泉寺温泉にしびれる

昨年暮れ、長野県上田にある霊泉寺温泉へ行ってきた。まるで昭和にタイムスリップしたような、懐かしく鄙びた温泉地。その雰囲気に溶け込むように佇む松屋旅館の「ほっとする」温泉に包まれて、1年の疲れを癒やした。

ここでは霊泉寺温泉までの行程と温泉地の雰囲気について書く。泊まった先の松屋旅館については別記事で。

霊泉寺温泉までの道のり

隠れた名湯  霊泉寺温泉

霊泉寺。なんといっても語感が格好いい。小田急線の駅名・豪徳寺に通じるものがある。あるいは中二病的なマンガの登場人物の名前っぽいというか…。

ネットで調べると、ぬる湯好み・鄙び好みの多くのファンに支持されている様子で、「とにかく静かで何もない」との評判に惹かれた。そこまで強調するって一体どんだけ静かで何もないの? これはぜひとも行かねばなるまい。

霊泉寺温泉は鹿教湯温泉・大塩温泉とともに丸子温泉郷の一角をなす。石川理夫「本物の名湯ベスト100」(講談社現代新書)に丸子温泉郷としてランクインしており、霊泉寺温泉については多くの字数が割かれている。まぎれもない名湯だ。

上田駅からバスで1時間

霊泉寺温泉へは北陸新幹線・上田駅からバス(鹿教湯車庫行き)が出ており、最寄りのバス停・宮沢までは1時間だ。

実はショートカット気味の別経路を通って30分で行ける急行便もあるのだが、数が少なくて、タイミングを合わせるのが難しい。のんびり通常便で行きましょう。

バスはしばらく旧丸子町の開けた市街地を走るから、あんまり山里に来た感じはしなかったものの、やがて途中の大きい病院を過ぎたあたりから徐々に建物がまばらになってきた。そうして山間の田舎らしい風景が姿を現し始め、ほどなくして宮沢バス停に到着した。

停留所のそばには「宿に電話くれれば迎えに行くよ」的な霊泉寺温泉の看板が、一部壊れて欠けたままで立っていた。いいねえ、この鄙び感…期待が膨らむ。
霊泉寺温泉の案内看板

バス停からさらに徒歩15分

あえて送迎をお願いせず、散歩を兼ねて、目的地まで15分ほどの道のりを歩いた。年末の時期でも雪は田畑にうっすら見えるくらい。一部の日陰を除けば路面に雪はない。

霊泉寺川に沿った一本道は誰とも出会わない。周囲にも人の気配はない。車も通らない。そこにはただ風が吹いているだけ…いいよいいよ、期待通りだ。寝ぼけ熊が出てきても助けを求められないな、どうしよう、といらぬ心配をしてしまったが。

すたすた歩いていくと、両側に続く田畑がどこもかしこも鉄柵で囲われているのに気づいた。獣害対策だろう。後に宿の方に確認したところでは鹿だそうである。近くに鹿教湯温泉てのがあるくらいだから、もともと鹿が多いんだろうな。


本当に「静かで何もない」ところだった!

お寺、駐車場、旅館、以上

赤い欄干の橋を渡るといよいよ目的地だ。まず目の前に現れたのが温泉の名前にもなっている霊泉寺。さて…うん、何もない。観光スポットという感じではなく、結構重厚なお寺の建物がただひっそりと、風に吹かれて佇むほかには何もない。

続いてお寺の駐車場、その先に廃業したと思しき旅館。それから営業中の旅館が続く。見る限り4軒だと思う(旅館遊楽・中屋旅館・和泉屋旅館・松屋旅館)。土産店や食事処は一切なくて温泉街といえるものはない。

圧倒的な霊泉寺ワールド

それにしてもあまりに静かで人の気配がない。これか…これが噂の霊泉寺ワールドか…。

秘境というのとはまた違う静寂があたり一帯を支配している。以前に行ったことのある山の一軒宿、たとえば貝掛温泉でさえ、泊まり客や日帰り客らのにぎわいが感じられたというのに。

趣味で温泉旅を始めてからまだ日が浅いけれども、いまのところ「静寂度」「時が止まってる度」No.1である。こういう雰囲気が好きな人はハマるだろうなあ。

複数の旅館があって、少し民家もあって、お寺もある。人工物が何もないわけじゃない。でも「何もない」と感じるのはなぜだろう。そこに圧倒的な「静か」が加わると、ちょこまかと動き回る自分が場違いにすら思えてくる。

昭和レトロな共同湯

旅館群に挟まれて共同湯の施設があった。「昭和にタイプスリップした感じ」を代表する、いろんなホームページやブログで紹介されている建物だ。赤いポストがかわいらしい。

自分の撮った写真を掲載しておくが、とてもじゃないが霊泉寺温泉の雰囲気を十分に伝えきれていない。おそらくこの写真から受けるであろう印象よりも実際はずっと濃いのである。
霊泉寺温泉の共同湯施設

…すまない。申し訳ない。この記事はメインディッシュ抜きだ。なぜなら共同湯に入らなかったから。意味ねえー。宿でだらだら過ごすことを優先して、すぐに松屋旅館にチェックインして引きこもってしまったのだ。

泉質は同じだから、別記事の松屋旅館の入浴記を参考にしていただきたく。無色透明・石膏泉のほっこりするぬる湯だ。

何もないのが癖になる

旅館群を過ぎた奥に小さな橋があって、渡った先にも道は続いている。奥へ少し進みかけたが、すぐにやめて引き返した。いかにもどん詰まりで終わっていそう。地図上の道もこのあたりで途切れている。

田舎道の支線の奥のどん詰まりで独特のワールドを展開する霊泉寺温泉。この地を慌ただしく行き来するのは野暮というもの。「朝から晩まで何もない丸1日」をあえて過ごしてこそ、真髄を味わうことができると直感した。ゆえに今回の1泊旅行は若干食い足りなさが残った。いずれ連泊前提で再訪したい。

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