石灰華ドームが印象的なぬる湯の秘湯 - 二股らぢうむ温泉

二股らぢうむ温泉
様々な病・難しい病に効くと評判の温泉は全国にいくつかあるが、長万部町の二股らぢうむ温泉はそのひとつに数えられるだろう。しかも特徴ある濁り湯、ぬる湯設定の浴槽あり、北海道の天然記念物に指定されている珍しい石灰華ドーム、秘境ムードたっぷりのロケーション…温泉ファンなら行ってみたくなる要素が満載だ。

内地から行くとしたら長万部だし函館IN/OUTがベストなのだろう。しかし航空会社のタイムセールで入手した格安チケットが新千歳IN/OUTだったので、間に1泊挟んで2泊目の宿として目指す計画にした。

うむ、やはりお湯のクオリティはお見事。おかげで濃ゆい温泉に長時間、しかも何度も入ってしまった。

二股らぢうむ温泉へのアクセス

二股らぢうむ温泉の最寄り駅はJR函館本線の二股。とはいえ駅から10km近く離れており、バス便もないしタクシーがいるような駅でもないから、二股起点で考えるのは現実的でない。それに二股駅は2026年春に廃止予定だ。宿が提供する長万部駅までの送迎サービスを利用しよう(前日までに要連絡)。

自分はカルルス温泉鈴木旅館をチェックアウトしてレンタカーで当館を目指した。途中、蟠渓ひかり温泉に立ち寄り、いったん道の駅そうべつ情報館で小休止。このまま直行すると早すぎる。どこかの観光スポットに寄っていくか…2階に上がってふと窓を見ると有珠山と昭和新山が見えた。
有珠山と昭和新山
寄り道するならやっぱり洞爺湖・有珠山が最適かな。少なくとも1回はガッツリ見学してるんですけどね。他にアイデアもないのでとりあえず有珠山ロープウェーまで行ってみた。駐車場500円。目の前が昭和新山の撮影スポットだ。
昭和新山
ロープウェーは往復2000円。北海道でも30℃超えてそうな日でロープウェー内はサウナ状態、なかなか大変だった。頂上駅付近にカフェテラスがあって洞爺湖や昭和新山を一望できる。晴れててもアングル的に羊蹄山は厳しいかな。
Mt.USUテラスから見た洞爺湖
ロープウェー山頂駅から徒歩7分の有珠山火口原展望台で見た景色がこちら。遠くにうっすら噴火湾が見える。
有珠山火口原展望台からの眺め
暑さでまいってしまったのと、14時チェックインにむしろ遅参しそうなことがわかって、さくっと下界へ戻って出発。あくまで旅の主役は温泉だ。洞爺湖岸に寄るのはパスしてそのまま当館へ向かった。高速代をケチって国道37号で長万部市街に入り、国道5号で函館本線に並走しながら二股へ、カーナビと標識を手がかりに道道842号へ左折したら秘境への道を7~8km進む。対向車がいたら発狂しそうな狭隘区間が多々あるので注意。


規模感とにぎわいのある湯治宿

馬も人もトレーニング大事

ではチェックイン。日帰り客の出入りも多くてフロント付近はわりとにぎやかな雰囲気だ。飲料の自販機があり、缶ビールも含まれている。ただし当時は売り切れ中。のちに湯あがりに飲めなくてどうしようと自販機の前をウロウロしていたら、女将さんが察してパントリーから瓶ビールを出してくれた。

フロントから少し離れた場所にロビー兼談話室。書棚にはコミックよりも小説・ビジネス書・ゴルフ関係の本が多い。三冠馬コントレイルが現れる前に出版されたらしきノースヒルズの馬作りについて書いた本もある(キズナとワンアンドオンリーに焦点が当たってる)。
ロビー兼談話室
渡されたキーの部屋へ向かう最中に見かけたのがトレーニングマシンのコーナー。健康づくりの意味で温泉入浴を補完する存在には違いない。
トレーニングコーナー

一人旅や湯治に適したコンパクトな部屋

今宵の部屋は1階の6畳和室。古さは感じない。布団はセルフでお願いします。
二股らぢうむ温泉 6畳客室
トイレと洗面所は共同。トイレは男女共用で男性小用×2・シャワートイレの個室×2。水道は炊事場風1名分が1箇所と化粧室風2名分が1箇所。室内には金庫なし、冷蔵庫なし。WiFiはフロントに説明あり、室内には説明なし、自分はキャリア回線でカバーしたので実態はわからず。

通常のタオルと浴衣あり、バスタオルなし、歯磨きセットあり。その昔、衰えたゾウの花子さんを当湯へ連れて行って湯治させた話の冊子が卓上に置かれてた。エアコンなし、扇風機なし。蒸し暑い日だったし、なんだか床下から熱気が上ってくる感覚があり(もしや温泉熱?)、夜になっても思ったより室内に熱がこもる。

窓の外はこんな感じ。虫が入ってきそうだから網戸を閉めたまま撮影。板塀の向こうに温泉関連の設備がありそうだな。
窓の外の景色

個性的で濃ゆいぬる湯がとてもいい

洗い場を利用するなら1階浴場へ

二股らぢうむ温泉の大浴場は階段をずーっと下った先にある。この時点で以下に述べる上下2層の浴場はすべて地下フロアに相当するのだが、相対的に上層フロアに位置する方を1階浴場、下層フロアに位置する方を地下浴場と呼称しているようなので、それにしたがうことにする。

いったん階段を下りきると、休憩室や1階浴場が現れる。1階浴場には内湯・露天からなる女湯と内湯のみの男湯(一部時間帯は女性専用タイム)があり、洗い場付きは1階浴場のみとなっている。

まず1階男湯について。朝起床後に行ってみると、誰もいなかった。「水」と書かれた蛇口と「炭酸水」と書かれたハンドルのない=使えない蛇口が並ぶ隣に、細長い木製のかけ湯槽のようなものがあり、そこからお湯を汲み出して…場合によっては水を混ぜつつ…洗身洗髪に使う模様。

このお湯が後述する濃ゆい温泉そのもので、ジャリジャリするシャーベット状の湯の花が浮いてるし、泉質的にすごくキシキシしそうだから使うのをやめた。脱衣所の棚上に置いてあるシャンプー・ボディソープが宿の提供物なのか/連泊の個人が面倒くさがって私物を置きっぱなしにしているのかも判断しかねたし。

丁寧なかけ湯の後に湯浴みだけすることにして、2つあるうちの大きい方の浴槽へ。5名サイズでぬるめ。そのほか細かい特徴は後述の地下浴場の説明と重なるので割愛します。小さい方は階段状に深くなっていって最後は立ち湯になるらしき1名サイズ。自分は入らなかった。

地下浴場に待つたくさんのお風呂

地下浴場は混浴。男性用脱衣所は1階浴場と同じ上層フロアにあって、中は普通な感じ。分析書をチェックすると「ナトリウム-塩化物温泉、低張性、中性、温泉」とあった。温度は40.7℃、PH6.6だったかと。はっきり明記されてなかったが、加水・加温・循環・消毒なしの100%源泉かけ流しのはず。

そしてこの脱衣所の奥で女湯から通じる通路が合流した後に地下への階段を下りていく構造になっている。つまり女性が地下浴場へ行くには女湯から男性用脱衣所をかすめていかねばらならず、しかもそこから先は完全に男性と一緒になる。しかも男女とも水着・湯浴み着・タオル巻き禁止。これはハードル高いっすねー。なので実質ほぼほぼ地下浴場=男湯だ。

階段を下った先に4つの浴槽からなる内湯主浴室があった。手前に5~6名サイズと3~4名サイズが並び、どちらもお湯は熱め。だんだん深くなっていって最後は立ち湯になるスタイル。お湯は黄土色に濁っており、浴槽の底はまったく見えない。匂いを嗅ぐと、そんなに強くない金気臭がする。

夕方は湯の花がなかったのに、夜と朝になったら大量に浮かんでいた。小さい粒がお湯の中を漂うなんてレベルじゃない。ジャリジャリのシャーベット状になった白っぽい塊が湯面を浮遊しているのだ。この現象がMAXに行き着くと花山温泉三船温泉で見たような、板のようになった流氷状の塊が湯面を覆う光景になるのだろう。今回見た限りではMAXまでいかなかったようだが。

極楽寝湯式内湯と冷涼なプール浴槽

地下の主浴室にも水の蛇口とハンドルのない炭酸水の蛇口はあった。ただし洗い場としての使用は禁止。先ほどの2浴槽に加えて奥には2名サイズと6名サイズの浴槽が並ぶ。前者は適温で湯口から豪快に投入されている。ちょっと深めかもしれない。

後者の浴槽が一番人気に見えた。ここだけお湯の色が少し違う。赤みが混じって明るい茶色を呈している。ほかの浴槽にシャーベット湯の花が浮かんでる時でもここには存在しなかった。温度はぬくぬく系のぬる湯で連続30分くらいは全然いける。

右半分が浅く作られていて木の枕が2名分用意されている。そこで寝湯体勢になって長湯するのがとても心地よい。考えることはみな同じだったようで、同じ行動パターンのお客さんが結構いた。なので木の枕の競争率高し。

内湯主浴室の隣にはプールと呼ぶ大きい浴槽を擁する部屋。屋根付きだからこれも内湯の一部なのかな。細長い四角形で、長い辺の一方には腰掛ける段差が付いていて、横並びに15名座れそう。あとは立って入るとすれば30名以上収容できそうだ。はしごを伝って温水の中へ下りていく構造などはまさしくプールそのもの。

2箇所の湯口からの大量投入により、世間の温水プールに近い温度の温泉で満たされ、ぬる湯としてみれば超ばっちりな条件だ。ただしビート板が置いてあることから、歩行浴に限らず健康づくりの一環として普通に泳ぐことが認められていそうな雰囲気を感じる。実際にバタ足クロールしてる人がいたし。なのでぬる湯へ静かに浸かりたければ、ガチスイマーのいないタイミングを狙いましょう。

石灰華ドームを間近に眺める露天風呂

露天風呂もある。3~4名サイズの熱め浴槽と6名サイズのぬるめ適温の浴槽。どちらも岩風呂でなく木の浴槽だ。さらに奥には1名サイズの小さな箱が2つあるが、ドロンドロンになったお湯の状態や動線のなさから、単なる湯溜めにも見えて遠慮してしまった。

ぬるめの6名サイズ側の露天風呂もなかなかの人気ぶり。屋根付きとはいえ外の景色を最も間近に見られるし、知る人ぞ知る天然記念物の石灰華ドームを拝むにはベストな位置。さすが北海道はでっかいどう、面構えが…じゃなくてスケールが違う。浴槽にこびりついてる茶色い析出物があきれるほどのスケールにまで成長したようなものだ。こいつは一見の価値あり。

木の枕寝湯⇔プールの往復をメインディッシュとし、ときどき露天風呂を使うパターンを織り交ぜながら、ぬるめ適温~ぬる湯三昧を堪能した。90分浴しちゃったこともあるし。個性強めで濃ゆそうな温泉なのに長湯×回数多く入ってしまったけど大丈夫かな。


山の湯治宿らしいお食事

おじさんにはちょうどいい感じの夕食

二股らぢうむ温泉の食事は朝夕ともフロント近くの食堂にて。最初にお断りしておくと、時間は夕食17時半・朝食8時に固定されている。また、宿泊グループごとの席割りは考慮されない。当時は4人がけテーブル4組だか5組だかのそれぞれに2~3名分の料理があらかじめ配膳されており、自由に早い者勝ちで席を取る方式だった。当然ながら相席になることもある。

当時はテーブル席だけで間に合ったが、もっと満室近くなってくると、奥の座敷の座卓にも配膳されていくものと思われる。そちらも席割りなし・相席前提の自由席方式になるはず。湯治場としての性格と現実の運営体制を考えたらそうなるのだろう。

夕食の内容がこちら。水・お茶・ご飯・味噌汁はセルフでお願いします。
二股らぢうむ温泉の夕食
典型的な旅館の会席御膳風でないのはわかっていたし、そもそもそういうのを求めて来てないから、これでいい。自分の胃の容量からしたらボリューム面も十分だった。育ち盛りの人はご飯のおかわりで調整しましょう。

煮物に入ってる山菜と味噌汁のきのこが良かったな。おかげできのこが恋しくなっちゃって、翌日の空港への帰路で「きのこ王国大滝本店」に寄ってプレミアムきのこ汁を食べてしまったよ。なお、お酒のメニューや「お飲み物はいかがしますか?」的なのはなく、周りの誰もお酒を飲んでなくて、そういうものかと思ってお酒は飲んでない。

朝は雑穀米粥で攻める

朝も同じ食堂にて。早めに談話室に入って時間調整して8時きっかりに食堂入りしたら、夕食時と同じ席を確保できた。
二股らぢうむ温泉の朝食
まずは朝の一杯でおいしい水を飲み干す。ぷはー、五臓六腑にしみわたるぜぇ。ご飯は白米のほかに雑穀米のお粥があったので、そっちにしてみた。みんな考えることは同じだったようで、のちに珍しくおかわりを求めて雑穀米の炊飯器を開いたら、ほとんどなくなっていた…。

海苔はしじみ味が付いてるみたい。でもしじみの味かどうかはよくわからなかった。あさりの味だとしてもきっと判別できなかっただろう。食後は談話室でちょっと本をぱらぱらめくってから部屋へ戻った。

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個性的かつ効能ばっちりのハイクオリティなぬる湯と印象的な石灰華ドーム。至れり尽くせりの「おもてなし旅館」でないことをわかったうえでなら、百聞は一見にしかずの価値ある温泉。

ずいぶん前から行ってみたい温泉候補地だったので、実際に体験する機会を得られてよかった。熟練ドライバーじゃないから、運転する距離とか秘境の道路とか尻込みする要素はあったのだが、思い切って計画に組み込んだ自分を褒めたい。