保養向きの湯宿で浴びる有生の湯 - カルルス温泉 鈴木旅館

カルルス温泉 鈴木旅館
登別温泉は全国区の知名度、それどころか海外からの観光客にもよく知られた名前だと思われる。地獄谷・大湯沼・クマ牧場など観光ネタにも事欠かない。だが今回訪れたのは同じ登別でも一味違うカルルス温泉だ。とある入浴剤のシリーズに入っているから、そちらで知っている方が多いかもしれない。※入浴剤は白濁系だが実際のカルルス温泉は無色透明系。

北海道で最初に国民温泉保養地に指定された実績を持ち、湯治向きの性格が強め。ならばお湯の良さに間違いはあるまいと思って泊まってみることにした。お世話になったのは鈴木旅館。やはり湯治や静養に向いた、リーズナブルなお値段で泊まることができる温泉宿だった。本物の熱めなカルルス温泉を体験できる。

カルルス温泉 鈴木旅館へのアクセス

登別温泉までなら鉄道+バスで何とでもなるだろう。しかし登別温泉~カルルス温泉を結ぶバス便が2024年をもって廃止されてしまった。宿の送迎サービスもない模様。こうなると車が必須ですね。山登りの車道8kmを徒歩で歩き切る覚悟があるなら別だが…。

どのみち効率的に湯めぐりをしたかったので最初から迷わずレンタカーに頼った。新千歳空港近辺のレンタカー店を出発し、道央道で登別東ICへ。そのままカルルスへは直行せず、まず虎杖浜・アヨロ温泉への立ち寄り入浴をこなし、その後に当宿へと向かった。

途中までは登別温泉のルートと重なる。登別温泉の第一滝本館という旅館に過去2回訪れていたから景色にほんのり見覚えがある一方で、過去に見落としたか、もしくは記憶から失われていたのが、ユートピア牧場の看板を見かけたことだ。

ユートピア牧場といえば…淀に咲き淀に散った稀代のステイヤー・ライスシャワーの生産牧場では?…起伏のある丘陵地だから走り回ってればスタミナ強化されそうだなあ。虎杖浜〜登別〜カルルスの温泉ライン上にあるなら水も良さそうだし。

(追記)当時見かけたのはユートピア牧場の分場だった。ライスシャワーが生まれたのは市内の別の場所にある本場だそうです。いずれにせよ観光牧場ではないから勝手に押しかけたりしないように。

途中からオロフレ峠越えの洞爺湖登別線へ分岐した後は、いよいよ山道らしくなり、熊に遭遇しないことを祈りながらの運転となった。分岐から10分ほどでカルルス温泉の看板が出てくる。そこを左折してすぐの旅館は湯元オロフレ荘で、橋を渡った対岸にあるのが目的の鈴木旅館だ。ご当地にはもう一軒、森の湯山静館もある。


いい意味で気取りのない旅館

生き物とレトロ物件がいっぱいの館内

建物前の敷地が10台ちょっと収容できる駐車場になっており、結構埋まっていた。宿泊というよりは日帰り客の車じゃないかな。さあ着いたぞ。前述のオロフレ荘との間に流れる登別川をなんとなく撮影してみた。
登別川
では入館。いきなりキャットマンションがあるぞ。
キャットマンション
猫と直接触れあう機会はなかったけど、この玄関の網戸越しに見かけることはあった。帳場の中にもケージが設置されててガラス越しに居眠り中の猫を覗いたりした。
猫ちゃん大集合
生き物はほかにもいる。1階廊下の水槽にいた鈴木亀吉くんだ。大きく育ったミシシッピアカミミガメですな。
鈴木亀吉くん
同じ場所がちょっとした休憩所兼マンガコーナーになっている。このミシンはいったい…。
休憩所兼マンガコーナー
売店・ロビーの紹介を忘れるところだった。こちらでございます。
ロビーと売店
全般に「ん?」と心に引っかかるものやレトロな物件が多い。ロビーや客室に「鈴木旅館 館内マップ」が置いてあるから、あちこち探検してみよう。売店の奥の棚も情報量が多いぞ。懐かしのスーパーヨーヨーにバンバンボールでババババーン。
売店奥の棚のレトロコレクション

一人旅向きな東館の部屋

案内された部屋は東館1階の6畳和室。布団は最初から敷いてあった。
鈴木旅館 6畳客室
トイレは共同。近くの男子トイレは小×2とシャワートイレの個室1(シャワーは作動せず)。男女共用の洗面所は4名分。室内に冷蔵庫あり、金庫あり、WiFiあり。夏向けの温度調節としてはエアコンがなくて扇風機のみ。北海道でもそれなりに暑さは感じたが扇風機をつければしのげる程度。

窓の外はこんな感じ。さわやかな緑の向こうにオロフレ荘の建物がちらちらと。
窓から見える景色
風呂あがりのビールについては抜かりない。1階廊下の自販機でサッポロクラシックともう1銘柄を買える。あわせて日本酒男山の自販機もあった。


生命が生まれいずる有生の湯

渡り廊下を通って行くような感じ

鈴木旅館の大浴場は生命が生まれいずる湯ということで「有生(ありお)温泉」と名付けられている。亀有のヨーカドーじゃないよ。東館から行くには本館に出て別館へ続く廊下を通る。この廊下にもなんだかレトロな遊戯物があったぞ。
別館・大浴場へ続く廊下
つきあたりを左に折れたら階段を少し上がって右。自分の部屋を基準にすると中2階か2階くらいに相当しそう。手前が女湯、奥が男湯だった。

脱衣所には棚+かごが並ぶ。分析書をチェックすると「単純温泉、低張性、中性、高温泉」だった。湯使いは不明なれど、後述するように一部浴槽で加水あり、ゆえに逆に加温はないと思われ、循環・消毒もない気がする。感覚的にだけど。

加水率と温度が異なる浴槽群

浴室にはカランが3台。加えて別の場所の高い位置に取り付けられたシャワーが2台。どうも2010年代の個人ブログ情報を参考にすると、このシャワーの場所がもともと「福の湯」と呼ばれる打たせ湯だったみたい。洗い場の隣には「かぶり湯」があった。加水率5~20%と書いてある。温度はぬるめの適温。頭からかぶらずに首から下へのかけ湯として使った。

通常の浴槽はすべて内湯で3種類。最も手前の「玉の湯」は2~3名サイズで加水なしの源泉100%。そのかわりに熱い。1分耐えるのがやっとであった。ただ熱いだけではない温泉特有の浴感がしっかり感じられ、きりっと引き締まるようなお湯だ。色や匂いに尖った特徴はなくて無色透明無味無臭(やさしい温泉臭)に近い印象を持った。

その隣の「泉の湯」は加水率5~20%と書いてある。かぶり湯と同じ数字だけど、もっと熱くて中くらいの適温に感じた。冬だとちょうどいい湯加減で人気が出るかもしれないね。浴槽は3~4名サイズでこちらのお湯も無色透明無味無臭に近い。

打たせ湯付きでぬるめな福の湯

一番奥が二代目(?)「福の湯」だ。加水率10~30%と書いてあるくらいだから、3つの中では最もぬるめ。とはいえ適温の範疇であってぬる湯ではない。一部が浅く作られていて全体のサイズは5~6名向け。ぬるいのを好むのと、玉の湯との温度差を利用した温冷交互浴に勤しんだため、最もよく利用した浴槽となった。

現在の福の湯にも1本の打たせ湯が設けられている。落ちてきたお湯はそのまま福の湯浴槽へ注がれる。試しに当たってみたところ、痛いというより熱い。マッサージ効果を感じる前に熱さに負けて逃げてしまった。根性が足りないが、もうええでしょう。

3浴槽の周囲の床は木の板張りになっており、宿の入浴指南ではトド寝を推奨していた。床に寝転がって、ときどき湯船のお湯をすくって身体にかける、みたいな。ほぉーぅ、トド寝やっていいのか。実際に実行している人も見かけた。自分は本格的にやりたい欲求はなかったけれども、ものは試しで10秒くらい寝転がってみた。ほぉーぅ、これがトド寝かー…まあそれだけの話でオチはありません。

長い時間・何回も頑張って入浴しなくても温泉が効いてくる気がする。夕方・夜・朝起床後の3回で十分だった。入浴後はお肌スベスベ。


食事内容は湯治向きで適度なボリューム

夕食でのんびりしてたらビリッケツ

鈴木旅館の食事は朝夕とも本館1階の食事処で。自分が夜18時・朝7時半にした以外にもいくつか選択肢はあるようだ。18時に行ってみると部屋番号の札が置かれたテーブル席にスターティングメンバーが並んでいた。
鈴木旅館の夕食
たしか一気出しで、これがすべてだったように思う。大食いの人には物足りないかもしれないが、自分は「これなら途中で苦しくならずに堂々と完食できる(米以外)!」と勝利を確信してほくそ笑んだのであった。

宿が湯治寄りの性格であることと…湯治連泊するとして毎日豪華な会席料理を出されても困るだろう…お値段のことを考えたら十分な内容であること、そしてお櫃のご飯は残してしまうほどたくさんあることを考えたら全然オッケー。いま米は貴重だからね。

勝利にみなぎる自信から、ビールをやりつつゆっくり攻略していたら、他の客はさっさと食べ終わって部屋へ戻っていき、自分が最後になっていた。みんな早いなあ。なんだか居残り給食みたいになっちゃったぞ。そこから焦ってスピードアップして見事完食(米以外)。ごちそうさま。

朝はおいしい一杯の水から

朝も同じ食事処で。テーブル席の割り当ては変わっていた。水とお茶はセルフでお願いします。
鈴木旅館の朝食
水については、部屋の中の紙に「当館の洗面所の水はおいしい天然水です」と紹介されていたくらいだから、この水もうまいはず。朝の一杯としては最適でしょう。いつも以上の勢いで、ガッ→ゴクゴクッと飲み干した。あーうまい。五臓六腑にしみわたるぜぇ。

魚はししゃもじゃないかと思うけど、なにせ北海道だからな。ノルウェー産とは限らないぞ。鵡川あたりの…などと夢想してみると、うまさがアップする。心理的優位ってやつよ(丹下段平)。お米についてはまず少なめに盛っておいて、お腹の具合と相談しながらお櫃から足していく作戦。いつもより多めに食しております。

朝も他の客が早くて自分はほぼ最後となった。食後のコーヒーは、ていうかこのタイミングでなくてもいいんだけど、コーヒーの提供は有料で350円。うー、どうしよう、まあいいか。久しぶりにコーヒーを飲まない1日となった。

 * * *

大きなホテルや旅館が立ち並ぶ登別温泉の影に隠れちゃってる感はあれど、温泉・静養目的だったり一人旅ならマッチするのではないか。訪日客がぎっしり・ぞろぞろ・ガヤガヤって喧騒もないし。

リーズナブルなお値段で泊まれるので、こちらを拠点にして登別温泉は立ち寄り湯でチャレンジする手もあるだろう。入浴剤だけじゃなくてぜひ本物のカルルス温泉を体験してみてほしい。