名は体を表す。極上ぬる湯のレトロ宿 - 微温湯温泉 旅館二階堂

微温湯温泉 旅館二階堂
福島市の微温湯(ぬるゆ)温泉「旅館二階堂」は温泉名が示すようにぬる湯、それも極上のぬる湯を楽しめると同時に、秘湯と呼んで間違いないロケーション、加えてあまりにも昔懐かしすぎる超レトロな建物という、ある種の方向に振り切った特徴を持つ宿だ。

ぬる湯大好きおじさんにとって今回の福島遠征のメインディッシュにも等しい存在だった。現地に到着するまでの道路がなかなか険しいのだが、運転に尻込みしてる場合じゃない。むしろ気力体力がまだしも充実している年齢のうちに挑戦しとかないと後悔するぞ、と奮い立って決行。

…すんごい温泉だ。無限に入れちゃう極上ぬる湯がドバドバかけ流し。旅館の雰囲気もたまりません。最高かよ。

微温湯温泉へのアクセス

ぬる湯に長く入るため早く到着したいが…

旅の2日目の昼、途中で立ち寄った中ノ沢温泉・ボナリの森の酸性硫黄泉を体験した後、今日はもう寄り道せず微温湯温泉へ直行する予定だった。早めチェックインOKみたいだし、ぬる湯だから長時間入浴を何度もやりたかったのでね。

まず土湯峠を越えるために国道115号を走る。よく整備されたワイドな道路で走りやすい。そのまま麓の土湯温泉まで走ればいいのに、途中でなぜかカーナビが左折を指示してきた。しゃあないな~と従ってみると…これ旧道じゃないか? やたらくねって狭くて路上に枝とか落ちてるし、走りにくいぞ。後日グーグルマップで確認したら、やっぱりR115をそのまま行くのがベストだった。だまされた~。

さらに妙な考えがむくむくと → 明日は雨になりそうだ。明日行こうと思ってた見学スポットを今日のうちにクリアしておくかな。こうして福島市街の南の外れに向かったのである。その場所とは、
へたれガンダム
へたれガンダム!! 福島の誇る機動戦士を見逃すわけにはいかない。後ろ姿もどうぞ。
へたれガンダムの後ろ姿

険しい道路にへたれてる場合じゃない

さあもう心残りはない。アムロ、微温湯温泉に行きまーす。現地まで一般には県道126号(微温湯街道)経由とされているが、噂ではいわゆる「険道」なんだそうで。しかも当時は一部区間が通行止めだった。

代替ルートとして、あづま総合運動公園の南側からアプローチする名もなき道路を使う。「流しそうめん吾妻庵」や「館林藩 森谷留八郎垂休 富塚忠三郎 供養碑」の場所を調べれば見当つくはず。

この代替道路も狭くてカーブは多いけど、問題の県道に比べたら走りやすさは数段上。仮に通行止めがなかったとしてもこっちを使う方がいいと思う。沿道は太陽光パネルが大規模に広がっていて、工事の車や人もいたりして、秘境感はあまりない。

代替道路を10km・20分ほど走ると県道126号に合流する。そこから微温湯温泉までの3kmは県道の通行可能区間である。このラスト3kmは狭さとカーブのきつさと見通しの悪さが数段アップするから気合を入れてどうぞ。ラストの区間で行きも帰りも対向車と出会わなかったのが救いだった。
微温湯温泉帰り客向けの迂回路案内板
ふー、着いたぜ。帰る客に向けた道案内の看板を見かけたので参考までに。


なかなかできないディープな宿泊体験

超レトロな風情の館内

事前にネットの写真でわかっていたとはいえ、あらためて実際の建物を目にすると、歴史の重みが放つオーラがすごい。現代にこのような建物が残っていて旅館として営業してるんだからなあ。玄関入ってすぐのあたりはこうなっている。
1階玄関付近
当館は日本秘湯を守る会の会員宿である。また複数の猫ちゃんに会える宿として知られているが、当時は夕食前に1匹を見かけたのみ。ちょっかい出したり写真を撮る余裕もなく姿を消した。

2階に上がるとレトロなタンスが置いてある。昔の面影を伝える写真も掲げられていた。
レトロなタンス
障子越しにいくつもの客間が連なる廊下がたまらんね。昔の湯治場風情そのまんまですな。微温湯温泉でしか摂取できない栄養があると言いたくなるやつ。
2階の廊下

部屋もタイプスリップ気分満載

自分が泊まった部屋は廊下の先の別館的な建物の角部屋だった。田舎のおばあちゃん家と表現するレベルを超えたタイムスリップ感あふれる8畳間。布団はセルフかと思いきや、夕食中に敷いてくれてた。
微温湯温泉 8畳客室
GWを過ぎた時期なのにこたつやストーブが置いてある…本当に使う想定ではないだろうけど。部屋に金庫・冷蔵庫・エアコン・WiFiなし。カメムシはたくさんいそうでいなかった。かわりにカマドウマがいた。ダークモードのクツワムシだと思えばどうということはない。

部屋の中をそろりそろりとすり足で歩いてるつもりでも、ミシッミシッと床がうねる感触がする。これぞ歴史的建築物だなあ。一方の窓から見える景色はこんな感じ。微温湯温泉でしか摂取できない(以下略)。
窓から見える景色
トイレは部屋の前に男女共用(?)の小×2+和式個室×2があったけど使わなかった。2階全体で共用という感じの男女別トイレが先ほどの階段近くにあって、そっちを使った。男子用は小×2+和式個室+洋式個室。洗面所は1階の風呂場へ続く通路の途中にある。水道の蛇口が3~4つあったかな。洗面所から見える茅葺屋根の景色もなかなかですぞ。
1階洗面所から見える景色

名前に偽りなし。最上級のぬる湯

いきなり派手なオーバーフローを見せつけられる

微温湯温泉のたいそう素敵なお風呂は1階の洗面所のある通路を先へ。途中に自炊室みたいなのがあったな。つきあたりに左=女湯、右=男湯の入口が現れる。脱衣所には棚とかご。脱衣所に分析書が貼ってあったか覚えてないけど、少なくとも浴室内にデカデカと説明板が掲げられてる。「酸性-含鉄(II,III)-アルミニウム-硫酸塩泉」だって。PH2.9。源泉温度は31.8℃。もちろんパーフェクトな源泉かけ流し。

浴室に入って数段の段差を下りると、床がお湯の池みたくなっていた。左側のメイン浴槽から容赦なくオーバーフローしていたからである。そこを越えて奥へ進むと2名分の洗い場。アメニティは固形石鹸とシャンプー・リンス。

先ほどのメイン浴槽は木製で6名サイズ、その隣に上がり湯用の3名サイズのポリバスがある(半分くらい蓋が覆っていて、蓋を動かさないなら頑張って2名まで)。こちらは「温泉ではありません」とはっきり書いてある。

体感的に冷たすぎない源泉をドバドバ投入

さあではメイン浴槽へ。一見すると無色透明の湯で強烈な特徴はなさそうに思える。浸かってみると…32℃前後を想像してヒヤッとするのかと予想していたら意外とぬくぬくしますな。ああ全然いけるわ。

1ヶ月前に体験した島根の国民宿舎さんべ荘の「33℃の源泉です」と謳っていたお風呂に比べても、冷たさに抵抗しながら肩まで沈めるといった覚悟込みの動作が不要だし、感覚的には体温に近い不感温度の印象すら抱く。

浴槽は深めで、自分の体格で体育座りするとあごのところまでお湯が来てしまう。シンプルな1本のパイプが湯口になっており、暴力的な量と勢いでお湯が投入され、ゆえに床にあふれ出る量も半端ない。浴槽内のお湯はどんどん入れ替わっていることだろう。鮮度は間違いなく一級品。

長湯を誘う極上ぬる湯

花粉症と似た症状に悩まされていた鼻を近づけて匂いを確認してみる。うん、よくわかんない。金気臭かなという気はするけど。湯の花や泡付きはあるような、ないような、これまたよくわかんない。

しかし細けえことはいいんだよと言いたくなるほど浴感がすばらしい。ぬる湯なんだけど冷えすぎない。いくら長湯してもブルブルッと寒気がこない。かといって全然熱くない。お湯と身体の境界線がなくなったかのようなジャストフィット。

まさに文字通り無限に入れる温泉だ。酸性泉だからと一応気にして1時間で区切りをつけるようにはしていたものの(※浴室内に時計あります)、その気になればもっと入り続けることもできた。

極上ぬる湯に浸かっているといつの間にかウトウト居眠りしちゃうのはここでも同じ。浴槽の縁はあふれるお湯びたしになってて、頭を乗せて寝る体勢を取ることはできない。でも体育座りのまま夢の世界に行きます。お湯が絶妙に、ぬるいので(←地面師たちが用意した替え玉地主)。

ぬるくても不思議とぽかぽかする

浴室は旅館の建物と同様にレトロ&鄙び感が充満している。こういうのが好きな人にはたまらないでしょう。非日常的すぎて別世界に来たみたいだ。もちろん管理はしっかりされていて、古い=汚いではないから念のため。

入浴30分経過あたりから指先がとんでもなくしわしわになる。怖いくらいよ。人生最大級のしわしわ度であった。こうしてメイン浴槽に45分~1時間ほど浸かってから最後に上がり湯1分、のパターンを宿泊中に5回やった。この入り方だと締めの上がり湯も気持ちがいいね。

入浴後はぬる湯なのに妙に体内がぽかぽかする。めちゃめちゃ効いてるなあという感じ。一方で過剰にカッカしたりのぼせる感覚はまったくなくて心地よさだけが残る。だから1時間浴を繰り返してしまう。おそろしや。


食事は山の湯治宿らしい内容

なんだかんだでボリュームたっぷりの夕食

微温湯温泉の食事は朝夕とも1階の食堂にて。夕食は18時、朝食は7時半で固定。特に呼び出しはないので適当に頃合いをみて出ていく。テーブルの天井付近に名前を書いた紙がぶら下がっているから確認して着席。

夕食のスターティングメンバーがこちら。山の秘湯らしい面々が並ぶ。
微温湯温泉の夕食
場所柄、海鮮グルメがドーンと出てきたらかえっておかしいでしょう。湯治の宿だし、こういうのでいいのよ。ビールはどうしても量を多く飲むことになるし、炭酸で胃が膨れそうだから、冷酒にしてみた。結果的には正解。

お肉もあります。鴨肉っぽい。おじさん世代にはありがたい、脂のきつさがない食べやすいお肉。
鴨肉とデザート
なんだかんだで最後のデザートまで1時間くらいかかった。岩魚味噌焼きという援軍がいたにもかかわらず、お櫃のご飯は食べきれなかった。ビール飲んでたらもっと手前でギブアップしてたかもな。十分じゃないでしょうか。

朝食のお米が美味しかった

朝食はこのような布陣。焼き魚不在はむしろ潔い。
微温湯温泉の朝食
右の卵を生かと思って、(卵かけご飯にするつもりがなくて)あとで単体で一気にすすろうと思ってずっと温存してしまった。実は温泉玉子だった。最初に割ってみるべきだったね。

お米が美味しくて自分には珍しくご飯をおかわりした。食後はコーヒーもいただける。ちなみに食堂にはかなり古そうなポスターが何枚か展示されている。わざと狙ったデザインじゃなくて本当に昔の古いやつだろう。
食堂の古いポスター
宿泊料150円て。いつの時代や。

 * * *

前から興味のあった微温湯温泉に行けて大変満足している。温泉のクオリティはかなりのもの。自分がぬる湯派だけになおさら感動が深い。険道の運転ガー、なんてことを気にして消極的な態度のまま行かずじまいだったら、あまりに大きな機会損失になるところだった。

「人生は短い・やりたいことはやれるうちにやっとけ」理論に年々強く傾いてきているのだが、またひとつ成功事例が積み上げられた。今後もこの理論に乗っかって各地の温泉にトライしたい。