春の九州遠征の1泊目を九重町の筋湯温泉たからや旅館とした。標高1000mという高所にあり、冬は雪が積もっちゃうような場所だから、温暖イメージの九州でも油断できない。2025年は4月初めまで真冬並みの寒波が来てたりしたし。実際に訪れた頃は幸いにもだいぶ春らしくなっていて雪・凍結の気配はまったくなかった。
筋湯温泉の名前は「筋肉をほぐす」「筋の痛みに効く」お湯が由来らしい。あーそうだったのか。有名な打たせ湯が一本一本、筋のように落ちてくる様子から来ているのかと勝手に勘違いしていた。
この有名な打たせ湯を提供しているうたせ大浴場についても当館とあわせてレポートする。どちらも透明適温でなじみやすいお湯だ。
筋湯温泉たからや旅館へのアクセス
車なしで筋湯温泉へ行こうとすると、JR久大本線豊後中村駅から九重町コミュニティバス九重縦断線に乗って、便によっては乗り換えもありつつ、約50分で筋湯下車。ほかに熊本や大分から筋湯温泉入口を経由する高速バスがあるみたいだけど、このバス停は温泉街から7km以上離れているから厳しいでしょう。
くじゅうエリアの湯めぐりに車は欠かせない。旅の初日は大分空港→いったん熊本県入り→わいた温泉郷豊礼の湯→奴留湯温泉共同浴場→大分県に戻って筋湯温泉と走ってきた。途中で立ち寄ったのは2箇所でも、運転中に目にした温泉名はいったいいくつあっただろう。とにかく温泉の数がとんでもなく多い。
筋湯温泉に向かって標高が上がってくると、人の住んでる気配がなくなって秘境ぽくなってきた。このような場所に本当に温泉街があるのだろうか。と思ってたらありました。筋湯温泉の看板が出てきて道路沿いに公共駐車場(無料)が現れた。ひとまず偵察してみようと公共駐車場に車を置いて歩き出した。駐車場から見えるのは涌蓋山かな。知らんけど。
細い、わりと急な坂を下っていくと貸切露天風呂の小屋を見つけた。後で知ったのだが、たからや旅館が管理していて宿泊者は入ることができる。その向こうに見えてる建物がたからや旅館だ。
いったん旅館の前を通り過ぎて近くのうたせ大浴場を体験してみた。詳しくは後述。それから当館にチェックインしたところ、車は公共駐車場に止めればいいとのこと。意図せず正解な行動を取っていたわけだ…我ながら筋が良かったな、筋湯だけに。
レトロな雰囲気が強い旅館
階段を上りかけながら帳場の方を撮影したのがこちら。手前に写ってる浴衣は大中小サイズが用意され、自分に合ったのを持っていく。
浴衣の棚の裏側がロビー的な空間だった。レトロな蓄音機やなぜか兜が展示されている。
階段で2階に上がるとすぐコミック棚コーナーがあった。冊数規模はそんなに大きくない。階段は3階まで続いているものの暗くて使用感がなく、繁忙期などに使われることがあるのかどうかよくわからない感じだった。この日は2階だけで収まっていた様子。
全般にレトロな木造建築の雰囲気だな。こういうのは嫌いじゃない。で、案内された部屋は6畳+広縁和室。布団は最初から敷いてあった。星一徹がひっくり返しそうなちゃぶ台がかわいい。
部屋にトイレなし。共同の男子トイレは小用がなくてシャワートイレの個室×2。また2階奥に2名分の洗面台と流しを併設したコーナーがある。金庫あり(ただし昔ながらの100円コイン方式、もしかすると今は100円要らずに改造されている可能性もあったが調べもせず使わなかった)、冷蔵庫なし(共同冷蔵庫の存在も見かけず)、WiFiあり。
窓の外はこのような感じ。向かいは大黒屋という旅館だ。
豊富な湯量を感じさせるお風呂
シンプルに内湯がひとつ
たからや旅館の大浴場は2階奥の階段を下りた1階にある。すぐ正面が女湯で右隣が男湯。男女の入れ替えなし。脱衣所の分析書によれば「ナトリウム-塩化物温泉」で源泉温度は88℃と高い。湯使いは不明ながら、源泉温度からして加温するはずないし、湯量豊富そうだから温度調整の加水くらいで循環・消毒はないんじゃないかと予想する。
浴室の洗い場は3名分。今どきの単一ダイヤルで温度調整できるやつじゃなくて水の栓と湯の栓をひねる度合いで調整するタイプ。どうひねっても冷たい水か熱湯かに二極化しやすいパターンのやつだが、ここのは比較的中庸ゾーンにもっていきやすかった。
浴槽はひとつのみ。縁が木造で奥側の壁は岩風呂風になっている。向かい合わせになっても窮屈な感じはしないから、2名×3組のような形で6名は十分いけるサイズ。
親和性を感じるお湯で筋肉もほぐれます
湯口からの投入量はまあまあ多く、湯尻からしっかり排出される様子からも、かけ流し運用と思われた。お湯の見た目は無色透明で木くずのような茶色い小片が舞っている。浴槽の縁の木がこんな勢いでボロボロ崩れているとは思えないから普通に湯の花なんだろう。
匂いに強烈な個性はないものの明らかに沸かし湯とは違う温泉らしい風味(?)を感じる。泡付きはなし。温度は熱すぎない適温ゆえにガツンガツン攻め立ててくるタイプではない。入浴者に力で対抗するのでなく、逆にスッと全身になじんでくる親和性を感じた。そういう泉質なんですかね。
個人的に好むぬる湯と違って1時間浸かり続けるお湯ではないけれども、気分的には「のんびり入ったな~」という感想を抱くようなお風呂だった。湯あがりは全身が結構ぽかぽかして、ほどよい脱力感がある。たしかに筋肉をほぐしてくれそうだ。
うたせ大浴場を体験してみた
コインを買って入るオート方式
チェックイン前に近くのうたせ大浴場を体験しに行った。名前が示す通り、豪快な打たせ湯で知られる。
まず入口前の自販機で1枚400円のコインを買う。1名が利用するにはコイン1枚。で、無人ゲートの機械にコインを投入したらゲートのバーを押して入る。基本は無人運営で「なにかあれば○○か、たからや旅館まで」なんて書いてある。当館が運営に噛んでいたのね。
右手の男湯の脱衣所に入ると100円戻らない式ロッカーがずらり。かご+棚の部分はないから必ずロッカーを利用する。分析書は見当たらず。
大きめ浴槽とたくさんの打たせ湯
浴室に洗い場は3名分。石鹸の類いはなかったんじゃないかという気がする。まあ基本は打たせ湯に当たりに行くところだからね。浴室は奥行きよりも横幅が広くて、手前は8~10名が横並びで入れるサイズの浴槽になっている。
お湯はたからや旅館と同様。無色透明で、それっぽい温泉臭があって、茶色い湯の花が見られて、適温。入りたてはやや熱めに感じるかもしれない。身体になじみやすい感触も同じだ。
浴槽の向こう、奥の壁に何本もの打たせ湯が落ちてきている。湯気もうもうですぐにはわからないが、近寄って数えてみたら、2本で1組のような感じで8組あったから16本。しかしネット情報では18本が正解。ミステリ~。
先客の様子を観察すると、2本を両肩に当てるのを基本形として、当時はガラガラだったから3~4本を独占して背中とふくらはぎに同時に当ててみたり、いろいろな体勢を取っていた。しばらく打たせたら湯船に浸かる。その繰り返し。
打って打って打ちまくれ…実は簡単じゃない
真似して両肩に当ててみた。3mの高さからドボドボ落下するお湯は量も多いしかなりの勢い。痛い、ていうか熱い。肩で反跳したお湯が容赦なく耳の中に飛び込んでくる。物理の散乱実験かよ。自分は根性控えめなので1セットにつきごく短時間しか打たせられなかった。それでも打たせた後はジンジンしてくる。筋に来るぜえ。湯船に浸かるのと交互に数セットやっておしまい。
実はたからや旅館に泊まるとうたせ大浴場のコインを1枚くれるサービスがあった(チェックイン時に知った)。しまったああああああ。ということで、せっかくのサービスコインをありがたく頂戴し、翌朝再びうたせ大浴場を利用したのであった。
最後に貸切露天風呂小屋の件について。最初は入るつもりがあったけど、夕方&夜=館内/朝=うたせ大浴場でもう十分な気分となってしまいパスしちゃった。
筋がほぐれたところでお食事を
夕食は豪華に牛肉のステーキで
たからや旅館の食事は朝夕とも1階食堂で。テーブル席が並ぶ空間は決して広くはないが隣席との間隔は十分で窮屈さはない。旅館の雰囲気から、湯治風情なライトな感じなのかと勝手に予想していたらとんでもない。夕食のスターティングメンバーがこちら。
サシの入った分厚い牛肉があるぞぉ! めっちゃ贅沢。これだけで一食分のおかずになるぞ。陶板がある程度熱されてくると、あとはどんどん焼けてくる。口に入れるスピードが追いつかない。レアも好きだがウエルダンも好きなので一向にかまいませんけど。いい肉をガッツリ食べてしまった。
ビールを飲みながら他のおかずもいただく。刺し身はやや色みの異なるオレンジが2種。どちらもマスの系統かな。茶碗蒸しのように見えるのは、蓋を開けたら道明寺的なあんかけ物だった。
途中で天ぷらも投入されて胃の容量面でギブアップ近くまで追い込まれた。そのため締めのご飯は季節物のタケノコご飯だったのに、ほんのちょっとしか食べられなかった。もったいねー。なおデザートのいちご(あまおう?)は別腹でしっかりいただいた。
品数多い朝食
朝も同じテーブル席で。朝風呂のうたせ大浴場でお腹に打たせ湯してきたから、というのは嘘で、寝ている間に前夜の分はなんとか消化できたようで、朝食の態勢は整っていた。
ご飯と味噌汁はセルフでお願いします。まずは軽く盛って様子見。関東人だが納豆への執着はそれほどでもないので、生卵を納豆に使わず直接ご飯に投入して卵かけご飯とする。結果的には0.5杯分のおかわりをすることになった。
プレートに収まってる赤い塊はなんだろう。やっぱり九州だから明太子?…違います、いくらなんでも適当すぎ、よく見なさい、トマトです。甘い味付けでフルーツみたいだった。
あと補足するならセルフでコーヒーをいただける。紙コップで提供されてるから部屋に持ち帰ることも可能。朝食だけでなく夕食時にも同様にコーヒーが提供されているのは良かった。
* * *
一人泊OKと予算面から選んだたからや旅館であったが、自分の嗜好にはうまい具合にはまっていた。温泉面もなかなかのもので、貸切露天風呂やうたせ大浴場との連携を考慮するとお得だし、楽しみが広がるだろう。旅の中継点としてだけでなく、プチ湯治や一人ワーケーションと称して連泊するのもアリかと思う。
おまけ:筋湯温泉街の朝さんぽ
朝起きてうたせ大浴場に入った後、温泉街を散歩した。筋湯には共同浴場がもう2箇所あり、ひとつは薬師湯。檜の内湯だ。
もうひとつは岩ん湯。露天の岩風呂で打たせ湯もある。薬師湯と岩ん湯は一方が男湯なら他方が女湯となり、男女は日替わりで入れ替わる。当時の岩ん湯は女湯の日だったため、スマホのカメラを向けて変な疑惑を招くといけないので撮影はやめておいた。
薬師湯の近くには薬師堂がある。
薬師堂からうたせ大浴場・たからや旅館方向を見下ろす。
うたせ大浴場の裏手には足湯コーナーがあった。
温泉街を貫く川。たからや旅館の脇もこの川が流れてる。
この川はやがて玖珠川として九重町・玖珠町・日田市を流れ、最終的に筑後川として有明海へ至る。