ぬる湯に舞う、かき玉汁みたいな湯の花 - 奴留湯温泉共同浴場

奴留湯温泉共同浴場
熊本県小国町に奴留湯温泉があることを知った時、いつか絶対に行かなければと思った。なにしろ漢字の読みが「ぬるゆ」だからね。ぬる湯派としては聖地巡礼みたいなものだろう。漢字の当て方もなんだか意味深だ。調べてみるとその昔、殿様がこの村を訪れた際に、殿様の家来=奴さんたちがぬるいお湯に長く留まって旅の疲れを癒やしたことが由来だそうだ。

現地は旅館やホテルが立ち並んでいるわけではなく、共同浴場がひとつ。地元密着型だが観光客も利用できる。訪問時は独泉に近い状況でゆっくり楽しめた。大きな石を敷き詰めた足元湧出風の湯船を満たす体温前後のお湯がとても心地良く、滞在した60分があっという間だった。

奴留湯温泉へのアクセス

以前は奴留湯というバス停があったようだが今はもうないんじゃないか。いずれにせよ車じゃないと厳しそうだ。自分は大分空港からレンタカーで熊本入りし、岳の湯温泉豊礼の湯へ入浴した後に奴留湯へ向かった。岳の湯から奴留湯までは車で10分くらい。入浴間隔を空けるために岳の湯大地獄の見学を挟むなどして時間を稼いだ。

ちなみに現地の地名は北里であり、かの北里柴三郎を輩出している。当湯の近くに北里柴三郎記念館があって、入浴間隔を稼ぐのならそちらを見学する案もあったけど、それはそれで逆にスケジュールがきつくなりそうな予感がしてパスさせてもらった。

国道387号を南下するとやや小さめな奴留湯温泉の看板が現れるので右の枝道へ入る。100~200mも行けばそれらしき建物と「←奴留湯温泉」の看板が出てくるから、民家との間の狭めな坂を下ると、奴留湯ふれあい会館の左に第1駐車場・右に第2駐車場がある。どちらも数台分のスペース。当時は第2がほぼ埋まってて第1がガラガラだった。
奴留湯ふれあい会館
第2駐車場には小国八十八ヶ所札所の三十三番・薬師如来が。その背後には神社の小さな建物も見える。桜はもう葉が出る段階まで進んでるな。
奴留湯温泉 第2駐車場前の薬師如来
国道を外れているため車通りは少なく、人通りもほとんどなく、静かでのどかな雰囲気だ。きっと鄙び感のあるローカル色の強い共同浴場なんだろうと想像しながら建物の正面に回り込んだ。


奴留湯温泉でぬる湯三昧

ローカル風情たっぷりの浴場

冒頭写真の通り、数段の階段を下りた中央に料金箱があった。おとな200円。料金を投入して左の男湯へと進む。下足箱と脱衣所の収容力はそれほど大きくないが、利用客層と建物の規模を考えれば妥当なところでしょう。脱衣所に分析書は見当たらず。コインロッカーもありません。

浴室にいた1名の先客がちょうど出るところで、つまりいきなり独泉タイムが始まろうとしていた。やったぜ。「こんにちは」と挨拶しながらすれ違った後の浴室には自分ひとり。浴室の戸が空いたままなんだけど、閉めるべきなのか/ローカルルール的な背景があるかもしれないから開けておくべきなのか判断つかず。触らぬ神に祟りなしでそっとしておいた。湯気が発散するような温度のお湯ではないから大丈夫でしょう。

洗い場は2名分。といっても水しか出ない蛇口に見える。もう1箇所、湯と書かれた蛇口があったかどうか(あてにならない記憶)。シャンプーや石鹸の類いはなかったかと。

浴槽の底に石がゴロゴロ

浴槽は2つ。手前のがメインで6名は余裕をもって入れそうだ…ただし後述する注意点あり。真四角に近いから、うまくすれば四辺に沿うように並んで8名までいけるんじゃないかと思う。

お湯は結構豪快にオーバーフローしており、洗い場のあたりにかけてじゃぶじゃぶの川のような状態になっていた(すべりやすくなってるので注意)。これなら循環は考えられないし、加水なし・加温なしはもちろんのこと、消毒もなしだろう。完全な源泉かけ流しに違いない。

お湯は無色透明の中にもやや青緑ぽい色みが感じられた。妙に美しさがある。そのクリアなお湯を通して浴槽の底に見えたのが、たくさんの石。バレーボールの2~3倍くらいな大きさの石が底にゴロゴロ転がっていた。なんじゃこりゃあ。

驚異的な大型&大量の湯の花

まあいい、入ってみよう…オー! ベリーベリーオンセン(戸崎@ドバイ)。体温前後のほどよいぬるさ。好みのストライクゾーンど真ん中に来たね。やさしく包まれるようなというか、絶妙な浮遊感というか、極楽気分で無限に入れるやつや。

ただし底に転がる石の影響で安定した姿勢を取り続けるのが意外と難しい。平らな面にベタッとお尻をつけるのと違ってバランスを取りにくいのだ。足を投げ出すにもいまいち収まりがつかない。浴槽奥の壁に背中を当てて体重をかける+中腰に近い姿勢によって背中と足の裏で体を支えるスタイルになっていった。

湯の花が非常に豊富だ。薄いガーゼを細かく刻んだような湯の花がたくさん漂っている。中には巨大化して色が濃くなり、まるでかき玉汁の中の卵のように見えるやつもあった。驚異的なレベル。そして壁のパネルに「硫黄泉38℃」と書かれているように明らかなタマゴ臭がする。ちなみにこのパネルには温泉名の由来も記されている。

豊富な泡付きがすばらしい

特徴はまだあるぞ。泡付きがすごい。肌にバンバン付着してくるぞ。ぬるくて泡の付く温泉を好むおじさんとしてはたまりませんな。※この旅で入った温泉にはそういう特徴のが多く、ハッピーゲージが振り切れっぱなしで大変だった。

さらには底の方からじわじわとお湯が浮上してくる感触がある…これってもしかして足元湧出泉?…よくよく見ると底のあちこちに穴が空いていて、そこから源泉を噴出させているようだった。足元湧出風の演出ぽいね。場所によっては結構強い噴流が感じられる。

30分を過ぎた頃に1名やって来て独泉は終わった。外では子供達が遊びに興じる声が響き始め、静けさと引き換えにどこかノスタルジックな気分が強くなってきた。しかし相変わらずのどかな雰囲気の中、じっとぬる湯に居座り続けたのだった。

…1時間近く経過したからそろそろ出るか。最後に奥の浴槽を体験しておこう。2名サイズで「上がり湯」と書かれているから加温してるんだろうな。最後の仕上げにちょうどいいや。と思って入ったら、ぬるかった。なんならメイン浴槽よりもぬるい。数分後に出たらブルブルと寒気がしてきた。しまった、上がらない湯だったか。奴留湯だけに締めまでぬるい。


おまけ:南小国町の夫婦滝

入浴後は南小国町を経由して大分県側へ戻りつつ、途中の黒川温泉手前にあった夫婦滝を見学。公共駐車場よりも滝に近い土産物店の駐車場を利用させてもらった。※お店でお土産を買わせていただきました。

なぜ夫婦滝かといえば、そこは小田川と田の原川が合流する地点なのだが、どちらも合流直前で滝を作っているためだ。なかなか珍しい光景だね。
夫婦滝
肉眼だともっと滝の高さがあるように見える。中央の岩の上に生える木からどういうわけか「マナの樹」というワードを連想した。2つの川は合流して杖立川となり、最終的には筑後川として有明海に注ぐ。

夫婦滝に続いて近くの秘境七滝にもチャレンジしようとしたところ、アプローチ道があまりに狭くて、Uターンできるうちにと速攻で引き返した。歩行者用の遊歩道に見えてきて怖くなっちゃった。時間も押してたし、まあいいか。