ぬる湯の魂を守り続ける、昭和レトロな宿 - 川治温泉 登隆館

川治温泉 登隆館
有名な鬼怒川温泉の10km北に川治温泉があり、過去に一度泊まりで訪れていた。ご当地キャラが「かわじい」というおじいさん。共同浴場「薬師の湯」が好みのぬる湯でとても気に入ったのだった。

その川治温泉に気になる旅館があった…登隆館だ。ネットでたまに温泉通が名前を挙げているのと、どうやらぬる湯が特徴らしいことで行ってみたくなったのだ。※ぬるいのが正義じゃない人もいるし、スペック面で諸々割り切るべき点はあるので、一般人の口コミ評価は二分されている。

一人旅なら自分さえ納得できていれば良し、ということで行ってみた。正統派の無色透明ぬる湯がとてもいい。1時間級の入浴を何度もやっちゃいましたよ。

川治温泉 登隆館へのアクセス

川治温泉の中心部

登隆館の最寄り駅は野岩鉄道・川治湯元駅。東京方面からだと東武鬼怒川線と直通運転している。駅を出てすぐに温泉街でなく、登隆館までは15分歩く。鬼怒川温泉駅から路線バスを使う場合は登隆館前で下車すれば目の前だ。場所的には「川治ふれあい公園」「かわじいふるさとの駅」の隣で、温泉街の中心部。テレビ取材も来るコロッケで有名なお肉屋さんが近いよ。

自分はマイカーで。遠征1泊目が塩原の明賀屋本店、そこから川俣地区へのドライブ込みで四季の湯に立ち寄り入浴し、2泊目の登隆館を目指す。しかしチェックイン可能な15時までまだまだ余裕がある。あといくつか観光スポットへ寄り道しよう。

川治ダムと五十里ダムを見学

川治といえば川治ダム。何度も来てますけどまあいいでしょう。
川治ダム
相変わらずのスケール感と迫力。まだ桜が残っているのもポイント高いね。昔、湯西川ダックツアーに参加したら、川治ダムのキャットウォークを歩く体験させてもらったんだった。懐かしい。

うーん、まだ時間ありますね。じゃあ五十里ダムにも行ってみるか。こちらも何度か来ている。
五十里ダム
この日は激しく放水中だった。天候は安定していて雨はむしろ少ない頃だったので、山が雪解けの時期だったからじゃないかと思われる。川治温泉から近くてセットで観光しやすいのはこの両ダムかな。
放水中の五十里ダム
こうして登隆館に着いたのは15時をちょっと過ぎた頃。ぬる湯にたんまり入れますな。入館前に隣のふれあい公園にいるかわじいに挨拶しておこう。かつて薬師の湯へ行った際にも挨拶したな。
かわじい
おぬしまた来たのか、ふぉっふぉっふぉ、って笑ってる。


昭和のあの頃を思い起こさせる旅館

外観から予想される以上の規模だった

ではチェックイン。フロント付近にありがちなお土産コーナーは見当たらなかったかと。ロビーにはキッズコーナーあり。
ロビー
生ビールを提供してそうに見えるが、実際にそういう雰囲気ではなかった。のちに湯あがりの缶ビールを求めて自販機を探すも見つからず、フロントで尋ねると、瓶ビールならある(所望すれば部屋まで持ってきてくれる)とのこと。

館内はわりと入り組んでて昭和チックなムードが色濃く残っている。平成後期や令和のスマートなデザインではない。良き温泉を求めての旅であれば気にするポイントじゃないから大丈夫。
館内の様子

設備面のスペックは各自で判断してね

案内された部屋は、フロントからいったん0.5階分ほど下って、また同じくらい上ってからの2階の広縁付き和室。絨毯が敷いてあってはっきりしないが10畳分の広さと思われる。布団は最初から敷いてあった。
登隆館の客室
室内に洗面台あり。トイレあり、ただし和式。一応チェックイン時に2階奥の共同トイレは洋式ですと説明があった。試しに確認すると、男子トイレは小用がない1名分の個室にシャワーなし洋式トイレが設置されていた。こうした水回りの雰囲気に加え、部屋の鍵が内側のドアノブ中央のボタンをポチッと押す式だったり、なんだか昭和時代のアパートを思い出させる。このへんが一般人の評価が二分されるところなのかな。知らんけど。

金庫あり、ただし昔の100円投入式で、今はコイン要らずに改造されてる可能性もあったが、まあいいやと使わなかったので詳細は不明。空の冷蔵庫あり、WiFiあり。昭和レトロで年季が入ってるといっても管理状態に不都合はない。季節柄カメムシが発生しているため窓を開けないでくださいと言われていたから、ガラスにスマホを押し付けて外の景色を撮影してみた。
窓から見える男鹿川
鬼怒川に合流する直前の男鹿川と対岸のホテルが見える。


ぬる湯派には天国に等しい大浴場

自噴する天然温泉を控えめな加温のみで提供

チェックイン時にお風呂について説明を受けていた。まず、うちの温泉はぬるいですよと。むしろぬる湯を求めて来ましたと応じると、「お客さんも“そっち側”なんですね」というサインを送るように笑みを浮かべ、饒舌になって説明が続いた。17時までは37℃くらい、17時を過ぎると加温を強めて40℃くらいにする。19時から21時までは男湯と女湯が入れ替わる。強め加温は23時で終わり、その後も入浴は可能。翌朝は7時から9時までが強め加温タイム。

了解しました。とにかく17時までに一度ぬる湯を堪能しておこうとチェックイン直後に1階の大浴場へ。手前が女湯で奥が男湯だった。男女の区別はのれんでなく電灯板で表示される。

脱衣所はよくある棚+かごの並び。掲示されている分析書には「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」と書かれていた。PH8.09、湧出温度34.5℃。加温のみで加水・循環・消毒なしの源泉をかけ流しにしている。あと川治温泉はポンプ汲み上げしない自噴の天然温泉ですと説明されている。

大きな浴槽にドバドバ投入される源泉

広い浴室内に洗い場は3名分。人がどんどんやって来る感じではなく独占チャンスも多かったから、洗い場が埋まることはなかった。ちなみに当時の運営体制をみるに、1日の受け入れ人数を抑えているおかげでお風呂が空いてた気もするけど、ネットには旅行社が出している合宿向けプランが散見され、決めつけは禁物。

あとは内湯浴槽がひとつのみだが、これがでかい。収容規模30名は下らないだろう。一方の端付近には噴水のようにお湯を吐き出す大きな湯口が設置されている。風呂の大きさに負けないくらい投入量も多い。オーバーフローしたお湯が吸い込まれる排湯口は、大量のお湯をギリギリのところでさばいていて、時おりゴゴゴッとかドカーンという衝撃音を立てる。

お湯は無色透明で湯の花や泡付きは意識されず。おそらく微硫黄香の温泉臭がするんじゃないかと思うんだけど、この時点で謎の花粉症的症状により鼻が使い物にならなくなっていたため、自信はありません。

絶妙のぬる湯が最高である

そして期待通りにぬるい。キリッと熱かったりぬくぬくする温度でないのはもちろん、ブルブル震える冷たさに耐えるほどの低温でもない。極論すれば空気のように存在を意識させない絶妙な温度。一般人の評価はおいといて、ぬる湯派からすればちょうどいい塩梅だ。何も考えずただボーッと浸かり続けることができる。これ最高。

おかげで連続1時間級の入浴が可能だ。夕方それやったし、翌朝起床後とチェックアウト前にもやった。長湯してると心地よさでウトウト眠りそうになることもある。まさに天国ですな。

天井は高く、浴室の奥の床から天井まで張られた窓ガラスによって室内の明るさが確保され、窓の一部にはツタが絡まっていたりする。湯口は噴水風だし、円柱の柱が立っていたりと、ちょっとローマ風呂ぽい雰囲気がなくもない。

温度について補足すると夕方17時前と早朝は37℃級にぬるかった。朝食後の8時20分頃に行ったら「ああ加温されてるな」とわかるくらいに温まってて…しかし十分ぬるくて熱くはない…9時が近づいてきたらぬるくなった。

男子は夜のみ体験できるもう一方の浴場

19時から21時は男女が入れ替わるから夕食後に行ってみた。入れ替え後の男湯は洗い場が3名分、浴槽は6名規模だった。

17時以後は強め加温タイムだからそのつもりで臨んだけれど、思ったよりも熱い。40℃より熱いんじゃないかなあ。決してあつ湯ではないし適温の中でもやさしい温度には違いない、にしても、明らかに長湯は難しい。夕方のぬる湯体験との比較により、温かさが誇張されて脳内に伝わったのだろうか。

結局20分程度で出ることになった。入れ替わった方の女湯も同じような温度なのかな。だとすると、女性視点では広いお風呂をぬる湯として入ることはできないわけで、残念なことだろう。…あくまで左記はぬる湯派の見解であり、逆にぬくぬくする普通の温泉をイメージして来たのであれば、ちょうどいいといえる。


部屋でいただく登隆館の食事

お値段以上にいろいろ揃ってる夕食

登隆館の食事は朝夕とも部屋食。夕食は18時固定だった気がする。ドアをノックされたら始まりの合図。まず座卓を端へ寄せて場所を作り、お膳に乗って運ばれてきたのがこちら。
登隆館の夕食
お値段を考えたら頑張ってるんじゃないか。お造りをねぎとろボールで割り切ったのは他とのバランスを考えると良い判断。鮎塩焼きは頭の一部と背骨以外バリバリ食べられた。焼き物は「豚肉をよく焼いてください」と言われたから念入りに焼いてやった。味はすでに付いている。

蓋をされた鍋の中身は…忘れた。根菜を中心とした味噌鍋だったかもしれない。お酒については、夕方の湯あがりビール中瓶の飲み残しを片付けた後で日本酒を注文。冷酒だと300mlばかりだったため1合弱の熱燗を選んだ。過度の酔いと満腹感でグテーッとなって夜の風呂をパスする事態は避けねばならぬ。

締めのご飯はお櫃に用意されている。いつもよりは多めにいただきました。食べ終わったらフロントに内線して下げに来てもらうか、お膳を部屋の外に出しておくと回収してくれる。

健康は朝のお粥から

朝食はいくつかの選択肢から選べて7時半を希望。前夜と同様にお膳で運ばれてきたのがこちら。
登隆館の朝食
普通の白飯とは別にお粥がある。まずはこれからいただきましょうか。昆布の佃煮や漬物を乗せるといい感じになる。白飯には焼き魚をあてればよい。個人的に納豆は必須のものでない位置づけなので、ねぎを湯豆腐の薬味として使わせてもらった。

食後の片付け作法は夕食と同じ。朝食開始が7時半だと8時頃には終わり、チェックアウトまでに1時間級の長湯をもう一発狙える。少し休憩してから行けば後半は強め加温タイムが終わってぬる湯に戻るからちょうどいいね。

 * * *

ネット時代の利点を活かし、オフラインの情報収集では知り得なかったかもしれない登隆館の存在を知ることができたのは大きい。おかげさまでぬる湯三昧を楽しませていただきました。いくつか割り切るべき点はあれど、お値段の面でもずいぶん助かった。現在は日帰り営業していないので、温泉にこだわる旅であればあるほど宿泊を検討してみたい旅館。

そういえば、川治ふれあい公園内に設けられた2箇所の足湯は登隆館からの引湯だそうだ。これひとつとっても川治温泉における登隆館の存在と湧出量の大きさがわかろうというものだ。


おまけ:帰りは温泉抜きの寄り道

栃木市・蔵の街へ

チェックアウト後はもう温泉を求めずに帰ります。ただし栃木県を抜けるまでは下道を走りながら、観光的な寄り道をしようかな。

ということで、やって来ました栃木市。中心部は蔵の街で知られるから、来訪者無料駐車場に止めて少しぶらぶらする。とちぎ山車会館の隣に典型的な蔵が並んでいた。古い建造物を市民ギャラリーとして活用しているようだ。
蔵の街市民ギャラリー
その裏手の家具屋さんもなかなか渋い。
蔵造りの家具屋さん
本当は各展示館や小江戸風情の遊覧船までカバーすべきだけど時間がない。さくっと散歩を終えたらコエド市場でお土産を買って出発。車で数分の岩下新生姜ミュージアムへ。
岩下新生姜ミュージアム
ここはなんだかすごいセンス。単なる工場見学とか直売所じゃないのよ。
岩下新生姜ミュージアムの館内
ファンシーでファンキーな内装と展示物が異世界を思わせる。おじさんには理解の範疇を超えていた。
解説不能なコーナー

マニアックな観光スポット・三県境

まだだ、まだ帰らんよ。埼玉県に入ってすぐ「道の駅かぞわたらせ」に駐車し、500mほど歩いて三県境へ。ネットでたまに話題になる、栃木・群馬・埼玉の県境が平地で交わる場所だ。
栃木・群馬・埼玉三県境
説明員のおじさまが常駐していて解説してくれた。昔ここを渡良瀬川が流れていたらしい。その時に決まった県境がその後の渡良瀬川の河道変更により平地化してこうなった。へー。周辺は現在田んぼや畑になっている。

近隣の渡良瀬遊水地はハート形をしていることで知られ、恋人の聖地的な扱いになっている。道の駅の展望台から見てみたけど、ハートかどうかよくわからなかった。
渡良瀬遊水地
はい、観光はここまで。よい子は暗くなる前にお家へ帰りましょう。