日本三名泉のひとつである七栗の湯=三重県の榊原温泉へついにやって来た。せっかくだからご当地で宿泊してみたいが、庶民の一人旅だとなかなかにハードルが高い。ネットですぐに見つかる3軒…湯元榊原舘・旅館清少納言・神湯館はいずれも一人泊NGか、OKの日があっても閑散期に限られていたり、予算面で折り合いがつかなかったり。
仕方がない。日帰り入浴だけにして泊まりは津や四日市の温泉付きビジネスホテルにしようかな、とあきらめかけていたところ、電話予約のみの民宿「味楽」さんを見つけた。お財布にやさしいお値段で七栗の湯とおいしい料理をいただける。ありがたや~。トロトロのお湯を実質貸し切りで楽しむことができた。
榊原温泉 味楽へのアクセス
最寄り駅の位置関係に注意
いつもネットの予約サイトで宿を探すので、榊原温泉についても同様に探してみたところ、上述の通りなかなか厳しい状況であった。直前になればまだ埋まっていない空室を一人泊にも開放してくれるかなと期待したけど、そんなに甘くはない。
残念だがヒット&アウェイ作戦=「湯の庄」という日帰り施設で入浴したらビジネスホテルのある都市部へとんぼ返りするしかないか。と考えながら、なおも未練がましくいろいろ検索していたら、こちらのブログで味楽が紹介されていたのを見つけたのである。
渡りに船。さっそく電話をかけて予約した。ちなみにそのブログは温泉と旅館の網羅度がすごい。全国のあらゆる温泉をカバーしてるんじゃないかと思えるくらいだし、各々の情報が濃い。世の中にはすごい人がいるもんだ。
当宿で送迎サービスをやっていないので、鉄道旅なら自力でなんとかすべし。近鉄の榊原温泉口駅は全然近くないから注意。7km以上離れているしバス便もないよ。近鉄の久居駅であれば榊原車庫行きのバスが出ていて、30分あまり乗車した先の榊原停留所が最寄りだ。そこからは非常に近い。
自分はといえば、行きは湯の庄へ立ち寄り入浴するために最寄りから3つ手前の湯元榊原館前で下車した。帰りも「時間に余裕があるしバスの運賃が一区間分安くなるから」という理由で湯元榊原館前まで歩いてから乗った(せこい…)。
10分の散歩でできる観光
停留所3つ分を歩くのに約10分。その区間で見つけたのが林性寺停留所近くにあった誓願寺のお堂。由緒はよくわかりません。
また、神湯館の近くには湯治場の東門跡なる木戸が立っていた。昔は湯治場への出入りが自由でなく関所のような取り調べがあったらしい。
さらに進むと射山神社が現れる。縁結びにご利益があるみたいね。
宮乃湯という温泉湧出をイメージさせる小さい池があったけど枯れていた。
神社の向かいには長命水なる湧水が。この水に浸した榊を伊勢神宮へお供えしていたとのこと。へー。
そして味楽に到着。看板は旅館棟に隣接する小料理屋(?)の方に付いていた。
ちなみに味楽を過ぎてなおも進むと榊原川と橋がある。今は廃業跡となった国民宿舎紫峰閣が川沿いに立ち、なにやら秘境感を漂わせていた。
古文の素養があるとなお楽しめるかもしれない民宿
ではチェックイン。気はやさしくて力持ちな雰囲気のご主人が応対してくれた。民宿にも一般家庭に近いものからほぼ旅館といえるものまでいろいろあるが、規模も雰囲気もその中間といったところではないかと思う。説明を受けながら2階まで案内された。ちなみにこちらが2階廊下の様子。
通された部屋は2階の10畳和室。布団は夕食中に敷いてくれる方式。部屋の鍵は内側ドアノブのボタンをポチって押すやつ。
トイレは共同。2階男女共用(?)トイレは男子目線で小×2とシャワーなし洋式個室×1。洗面所は上の写真の通り、2階に共同のが3名分あるし、1階には2名分あった。金庫なし、冷蔵庫なし(共同のがあるかは不明)、WiFiなし。浴衣と中くらいのタオルがあって、いわゆるバスタオルはない。個人的には不都合ありません。
窓の外はこのような感じ。こんもりとした森、あるいは山の中のような印象を受けるかもしれないが、このアングルがそう見えるだけであって、実際はもっと平地だし開けた雰囲気だ。とんびのピーヒョロロがずっと聞こえてたからのどかな里には違いない。
部屋の中の掛け軸だけでなく、館内のあちこちに詩歌の一節が飾られている。残念ながらその分野の素養がないし、くずし字が読めないため「ほほう、この一節は有名な例のアレか」という体験はできなかった。下の歌から「さす竹の」「うま酒」をどうにか読み取って後日ネットで調べると良寛の作でした。
七栗の湯を独占状態で堪能できる
小ぶりのお風呂を貸し切り方式で
味楽のお風呂は1階にある。男女の別はなくて1室を貸し切り方式で使う。予約などは不要で空いていれば自由に入ってよい。脱いだスリッパが廊下に残っているかどうかで利用中かどうかはわかる。脱衣所内に入ったら戸を閉めて内鍵をかける。
分析書が掲示されているところを見かけなかった。おそらく近隣の施設と同じ源泉だろうと想定するなら「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、低温泉」な31℃の源泉ということになる。湯使いは不明なれども加水はしてないだろうし、この後の体験から加温はしているに違いない。
では浴室へ。それほどの広さはなくカランは3台。四角じゃなくて手前の辺が曲線状になっている、長靴の断面のような形をした浴槽があった。小さい子連れの3人ファミリーなら入れそうだけど大人の3名だと窮屈そう。2名までってとこかな。
ぬるめ適温でトロトロ感あり
浸かってみたらぬるめの適温だった。40℃くらいか。熱さでのぼせてすぐに出たくなるような温度ではない。比較的ゆっくり入れると思う。お湯は無色透明で湯の花は見られず、泡付きもなし。ただし家庭の一番風呂的なあぶくが付くことはたまにある。匂いには若干の硫黄臭を感知した。いいじゃないですか。
トロトロした肌触りが印象的だ。このトロトロ感は湯の庄の源泉風呂よりも強いぞ。なかなかやってくれますな。いかにも美肌の湯って感じで湯あがり後のすべすべ状態を想像させる特徴だ。
壁から生えている水らしき蛇口とお湯らしき蛇口については、勝手にひねっていいのかどうか自信が持てないからいじらなかった。明確な湯口がないかわりにこの蛇口から温泉が出てくるんじゃないかと思っているけど、実際のところはわからない。
お湯張りはスピーディー
湯口に関してさらに補足すると、お湯が常時投入されてる感がなく溜め湯のようにも見える。たしかに夕方と夜の入浴時はそうだったが、朝は浴槽内の一部の横壁からジェットのような強い噴流が発生していたから、そこが湯口なのかもしれない。
※夕食時に翌朝の予定と朝食の希望時間を訊かれた際、朝食の後にお風呂に入るつもりだと答えたので、朝食中にジェット全開でお湯を張ってくれてたのかも。ありがた山でございます。
浴室は新しめできれい。館内全般がそうだけどね(新築ピカピカとは言っていない、念のため)。大浴場という広さはなくても一般家庭のお風呂場と違う雰囲気はあるので、日常の延長でない旅行気分は味わえると思う。
味楽だけに味わって楽しめるお食事
夕食はあったか〜いうどん鍋を中心に
味楽の食事は朝夕とも1階奥の食事用の客間にて。いくつかの客間があり、当時は他客と一緒にならない個室状態だった。夕食のスターティングメンバーがこちら。
ビールをちびちびやりながらのお供によさそう。エコノミーな民宿であることを思えばお値段以上の内容だ。分量も多すぎず少なすぎずで胃に収まってくれそう…うどん鍋の量次第で苦しくなるかもしれないけど。
この日は温かいうどんでちょうどよかった。近年の温暖化した春先なら「まるで初夏のような陽気」となってもおかしくないところ、逆に真冬の寒さに襲われていたからである。天ぷらも口にした時点でほんのりと温かく、おいしくいただいた。
煮魚以外を完食した時点で腹八分目。さああとは魚をおかずにご飯をいただくのみ。味噌汁は出なかったような気がする。うどんの汁が旨味たっぷりのスープだから十分でしょう。実際にやめられない・止まらないで汁を全部すすってしまった。ご飯は1.5杯くらい。食べ終わってみればお腹が少々苦しくなっていた。
ノーマルな感じが逆にありがたい朝ごはん
朝はその後ラスト入浴することを計算に入れて7時半にしてもらった。夕食とは別の間に案内され、卓上に用意されていたのがこちら。
日本の朝ごはんって感じですな。実際のところ我が日常の朝食は全然このような献立ではないので(手間がかからないパンにしてしまう)、むしろ非日常的であり貴重な機会だ。卵焼きがでかくてうまい。胃がいつもより元気だったからご飯をおかわりしちゃいました。
食事用の客間にも詩歌が額に入って飾られていた。なんて書いてあるんだろう。※朝ではなく夕食時の部屋にあったやつかもしれない。
こっちはなんとなく読めるぞ。
「ゆは 七栗のゆ ありまの湯 玉つくりの湯 枕草子」じゃないか。日本三名泉を称える枕草子の一節だ。読んだことないけどきっとそうだ。
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味楽がなければ榊原温泉で宿泊するという野望をあきらめていたところだから、まさに救世主。予算面の悩みが抑えられるだけでなく、お風呂を貸切状態で使えて、加温しすぎていないトロトロのお湯なのがよい。お食事も十分な内容。一人旅にとってはミラクル味楽様だ。