時間よ止まれ! 出るのが惜しい極上ぬる湯 - 郷緑温泉 郷緑館

郷緑温泉 郷緑館
岡山の湯原温泉郷を湯めぐりするなら欠かせないのが郷緑温泉だ。源泉100%かけ流しというだけでなく、貴重な足元湧出泉、しかも好みのぬる湯とくれば行かない選択肢はない。しかし4年前の岡山遠征では1泊2日の限られた日程で美作三湯(湯郷・奥津・狭義の湯原温泉)を優先したために残念ながらパスせざるを得なかった。

今度こそはと意気込んで初日の目標達成を図るも失敗するなど、予想外の展開に翻弄されながらも、結果的には無事に入浴を果たした。30分の時間制限はあるもののパーフェクトなぬる湯を貸切で利用できるのは大変すばらしい。もちろんぬるいから長湯が可能で、30分なんてあっという間である。時間よ止まれと祈りたくなる温泉だ。

郷緑温泉 郷緑館へのアクセス

基本は車で行くことになる

郷緑温泉に車なしで向かうのはなかなか厳しそうだ。真庭市コミュニティバス「まにわくん」上福田・湯原ルート、湯原・美甘ルート、二川地域ルートなどが郷緑温泉前停留所を通るようだが、いずれも鉄道駅を通らないし、運行本数も非常に少ない。曜日が限定されていたりもする。

JR姫新線・中国勝山駅から湯原温泉へ向かう「まにわくん」蒜山・久世ルートが禾津(いなつ)=米子道湯原ICやJA岡山湯原支店のあたりを通るから、そこで降りて徒歩30分というのが落とし所になるようだ。

今回は岡山駅からレンタカー。旅の初日に備中松山城を見学し、その後に郷緑温泉へ行ってみた。週末だったけど駐車場は空っぽ。先着順に1組ずつ30分貸し切りで使わせるので、先客がいると30分待つ可能性もあることを思えばラッキーだ。いくらか見上げるような高い位置に建物がある。
高い位置に立つ郷緑館
登っていく石段には雪が残っていた。春先だとまだ若干の雪リスクがありそうな地域だな。今この瞬間は降ってるわけじゃないから、まあ良し。
石段の残雪

最初のトライは失敗に終わる

冒頭写真の通りのレトロ感漂うどっしりした建物の前に立つ。玄関前にはすっぽんの像があった。ここはすっぽん料理でも知られ、宿泊するとすっぽん料理が出てきたとのことだが、今は宿泊やってる気配がない。日帰り専門になったのかな。

ガラガラっと戸を開けて中へ入ると電気がついてなくて暗かった。こんにちは、お願いしまーす、と声を掛けるも反応なし。営業日かつ営業時間内であることは事前に調査ずみ。うーん、おかしいな…何度呼びかけても反応がない…まさか臨時休業? いやいやいや。

しかし勝手に上がり込むわけにもいかず、すごすごと退散したのであった。かわりに翌日に行くつもりだった真賀温泉へ立ち寄って、そのまま足温泉いづみ家へ投宿となった。


郷緑温泉で夢のような30分が待っていた

あきらめたらそこで試合終了ですよ

翌朝、いづみ家をチェックアウトして開店の10時ちょうどに着くよう郷緑温泉へ向かった。これは一種の賭けでもあった。もし一番乗りを別の客に取られたら、貸し切り運用だから30分待ちが確定する。この30分を待つだけのスケジュールの余裕がなかった(机上の計算では問題ないはずだが、ゆとりを持って早め早めに行動したかったので)。2番手以降になったらあきらめるしかない。

現地に到着したら…駐車場は空っぽ。やった、一番乗りだ。勇んで中へ。前日よりも声を張り上げ気味に呼びかけたら気づいてもらえた。良かった~。あきらめたらそこで試合終了ですよを地で行くところだったぜ。出てきたご主人はご高齢の様子だったので、声が届きにくいと思われる。

ということなので、各位におかれましては電気がついてなくても呼びかけに反応がなくても、営業時間内であれば粘り強くコールしてみよう。臨時休業なのでは?などと疑念に負けて引き返すのはもったいない。気づいてもらった後は電気が点灯され、剥製いっぱいの空間が目の前にはっきりと浮かび上がってきた。
郷緑館のロビー

岩の谷間から湧き上がる温泉

ご主人に500円を支払い、30分以内ですよ・35℃でぬるいですよと説明を受けてから、玄関すぐ左手のお風呂場へ進む。脱衣所にあるのはロッカーじゃなくて木の棚。貸し切り方式なら問題ないでしょう。掲示されている分析書によれば「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、温泉」で源泉温度34.2℃だったかと。メイン浴槽は加水・加温・循環・消毒すべてなし、上がり湯用の加温浴槽は加温・循環・オゾン消毒あり。

浴室の洗い場は2名分。ポンプ式ボトルのシャンプーやボディソープはなくて固形石鹸が1個だけ置いてある。浴室に入ってすぐ目の前にあるのが2名サイズの加温浴槽。上がり湯として最後の1分間くらい入った。

その左側に主役のメイン浴槽があった。5名サイズで四角い形をしているところまでは普通だが、底が天然の(?)岩になっている。印象としては2つの岩が中央のラインでぶつかって海溝のような切れ込んだ谷間を形成している。この谷間から源泉が湧き出ているようだ。谷間の上部にあたる湯面にぷくぷくとあぶくが浮かんでは消える様子が見えるのだ。

泡付き上等のぬる湯

お湯は無色透明だけど青っぽい色味を呈しているようにも見える。張り切って入湯したら予想以上の深さと岩の傾斜でコケそうになっちゃった。まあ落ち着けよ。

白っぽい微粒子が漂ってるなと思ったら、湯の花じゃなくてどうやら泡のようだった。じゃあ泡付きがあるってことか、と腕などをよくよく観察すると、一瞬では気づきにくい非常に細かい泡が付着していた。やがて時間とともに見てすぐわかるレベルの泡粒に成長していき、最終的にはかなりの明確な泡付きとなる。すばらしい。

お湯の匂いを嗅いでみると微硫黄香が感じられた。前日の真賀温泉と比べてしまうと弱めとはいえニュルッとした感触もしっかりある。秀でた特徴をいっぱい持ってるな。すごいじゃん。

極上のお湯であっという間に時間が過ぎる

35℃よりは若干高い温度の印象を受けたが体温に近い不感温度帯のぬる湯には違いない。個人的な好みのストライクゾーンど真ん中だ。最高じゃん。もちろん途中で湯船を出てクールダウンする必要などいささかもなく、制限時間近くまでずっと入りっぱなしだった。

足元湧出の醍醐味を味わうべく、あぶくが浮かんでくる場所に身を置いてみたり。それがどうした?って話だが、貸し切りだからこそ気兼ねなくこういう自己満足のアクションを実行できてしまう。※誰も見てないからなにをしてもいいわけじゃない、あくまで常識の範囲内でどうぞ。

極上のぬる湯で30分はあっという間。可能なら1時間オーバーでも浸かっていたいのに。時間よ止まれ!…矢沢でもガンダムでも承太郎でもないから無理でした。最大級に惜しみつつ、最後に加温浴槽へ。アチチではない適温。湯の個性が弱まっているとはいえニュル感など多少は残っている。

浴室を出て服を着て玄関に戻ったらちょうど30分くらい。目いっぱい堪能しちゃったな。いやー大変にいい湯だった。どうもありがとうございました…奥に引っ込んでるご主人に聞こえたかは不明だがお礼を述べて出ていった。