花の御寺見学の拠点に最適な湯宿 - 長谷寺温泉 湯元井谷屋

長谷寺温泉 湯元井谷屋
春先の温泉旅企画は2日目午後から「自分でもなにがしたいのかよくわからないシリーズ」の本領を発揮し始める。岡山からいきなり奈良へ移動したのである。結局なにがしたいのか? 自分でもよくわからない。気になった見どころや温泉地をつないだらこうなった。

奈良の観光目的は花の御寺と呼ばれる長谷寺。季節的に桜は早いし他の花もあまり咲いてないだろうけども。その長谷寺の近くに位置する温泉宿が井谷屋だ。つねに1人泊OKではなさそうだが、訪れた日は運良くOKの空室があったから迷わず予約。

玄関を見ただけでは予想できない規模を誇り、お風呂もその分広く、よく温まるお湯だった。さらにお寺の朝の勤行を見学できたのはいい経験。

長谷寺温泉 湯元井谷屋へのアクセス

岡山からの転進

旅の2日目。午前中に岡山の真庭市で郷緑温泉への立ち寄り入浴を果たし、岡山駅へ戻ってレンタカーを返して予定通りの新幹線に乗った。時間に余裕があるから駅まで下道オンリーで走る考えもあったけど、念のためにと高速を使ったのは正解だった。高速を出た後の岡山市街の渋滞により、タイムリミットまでの残り時間をモリモリ減らされる恐怖を味わったからである。

急に発生する右左折専用レーンや一方通行にも泣かされた。東京都心の道路かよ。レンタカー屋までの残り2kmが一向に詰まらなくてハラハラするわ~。高速使わなかったらアウトだった可能性がある。

駅と旅館の高低差に注意

で、岡山→新大阪→大阪→鶴橋と移動。大阪環状線内で流れた「2秒に1個売れているお菓子・みるく饅頭」のアナウンスが印象に残っている。へー、電車内で企業CM流すんだ。

鶴橋で近鉄大阪線急行に乗り換えて45分ほどで長谷寺駅に到着したときには夕方になっていた。駅前からもう参道が始まる雰囲気…でも実際は違ってた。
近鉄長谷寺駅前
疲れてたし小雨だったしで、宿へ電話して送迎をお願いした。ちなみに帰りは駅まで歩いたところ、時間的には15分そこらでも上り坂がきつい。大和川(初瀬川)に沿って形成された谷の中腹付近に鉄道の線路と駅があり、参道や旅館は谷底近くにあって、両者の高低差からくる傾斜が半端ない。

井谷屋前の道路が長谷寺参道となっており、歴史的情緒を感じさせる建物が並んでいる。
井谷屋前の道路

ハード面ソフト面とも良好な老舗旅館

予想以上に大規模な建物

当宿の主要な機能は冒頭写真の新館(別館)側にまとまっている。泊まったのもそちら。一方、道路の向かいには老舗の風格を放つ旧館(本館)がある。
井谷屋旧館(本館)
ではチェックイン。フロントの向かいにお土産コーナーがございます。
お土産コーナー
ロビーはこのような感じ。
ロビー
部屋まで案内されつつ、奥へ奥へとどんどん進む。お、おい、意外と広いぞ。正面玄関だけを見たらこんなに大規模だとは思わないだろう。最後に「階段+平坦な廊下」と「ゆるいスロープ」の二手に分岐するところで前者を進み、廊下に並ぶうちの1室に通された。分岐した平坦廊下とスロープはその先で次のように再び合流する。
廊下とスロープの合流点

広くて快適な部屋

おそらく一人専用の部屋がなくて複数人向けの部屋をあててくれたと思われ、4.5畳の前室+8畳+広縁和室という、もったいないくらいのスペックであった。ありがてえ。布団は夕食後に敷きに来てくれる方式。
井谷屋4.5+8畳客室
前室部分がこちら。右側に写ってるドアの向こうは洗面所+内風呂。トイレはふすま向こうの踏込横にある。一昔前の日本人の体格にあわせた個室にシャワートイレを導入した感じなので体の大きい人はちょっと窮屈かも。
前室部分
金庫あり、別途精算のビールや缶チューハイが入った冷蔵庫あり、奈良フリーWiFiを利用する無線LANあり。全般にとてもきれいにされており快適に過ごせる。窓の外はこのような感じ。白い煙が上がっているのは温泉じゃなくて調理場ですかね。知らんけど。
窓の外の景色
ハード面は以上の通りで、ソフト面については従業員の皆さんの着実丁寧な仕事ぶりに加え、話し方がうまいしホスピタリティを感じさせるものだった。さすがは長年にわたり多くの参拝客を受け入れてきた老舗である。


広いお風呂で実現した独占チャンス

重曹系の冷鉱泉

井谷屋のお風呂は2階。例の廊下とスロープが再合流する地点から始まる階段を上る。
2階大浴場への階段
ちなみに階段を上らないで裏側に回ると娯楽スペースらしき空間がある。温泉卓球もできそうですな。
娯楽スペース
夕方~夜の時点では2階の手前が男湯で奥が女湯。翌朝には男女が入れ替わっていた。浴場前のスペースにマッサージチェアや無料の貴重品ロッカーあり。日本温泉協会の泉質説明パネルと手書き・活字混じりの分析書も掲示されている。前者によれば「ナトリウム・カルシウム-炭酸水素冷鉱泉」で加水なし、加温・循環・消毒あり。後者によれば「ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉、低張性、アルカリ性、冷鉱泉」だ。測定時期が違うんだろう。

たくさんのお客さんを収容できる大きな風呂

まず夕方時点の男湯について。脱衣所へ入ってすぐのところにも分析書が貼られてて「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、弱アルカリ性、低温泉」になっていた。予想外に大規模な旅館ゆえ、脱衣所や浴室も相応に広い。「定員30名のところ感染症予防のため18名までとさせていただきます」の張り紙があったし。

浴室にカランは12台。あとは大きな内湯浴槽がドーン。本来の定員30名にふさわしい、詰めればそれくらいいけそうなサイズだった。奥行きが十分すぎるほど長いので、もし2人が向かい合わせになったからといって窮屈な感じは全然しない。おかげて隣との間を詰めずにすき間だらけで並べていっても20名くらいは余裕。

洋風ぽい雰囲気もある

お湯の見た目は無色透明。浸かってみると適温だった。キリキリ攻めてくるレベルの熱さではないこと、および当時は真冬に戻ったかのように寒い日だったことから、わりとじっくり入ることができた。湯の花はたまに漂ってる気がしなくもないくらい。泡付きは確認できず。匂いの中に塩素臭はとくに意識されない。尖った癖がないから誰でも安心して入れます的なお湯だ。湯口は大きくて投入量も多い。

内装は純和風じゃなくて白を基調とした洋風味がある。ローマ風呂と呼ぶと大げさになるが、どちらかといえばそっち系に近い。窓なんかも床から天井までのスパンがあって浴室内に開放感と明るさを与えている。窓の外は参道に並ぶ家屋群。窓に付いた曇りと水滴で見えにくいかわり、逆に外からこちらがはっきり見られてしまうこともないだろう。

たまたまこの日だけだったのか、この広い浴室に他客は1~2名、独占状態の時間も多かった。ほぼ貸し切りみたいなノリで利用させてもらっちゃって、すいませんね。

もう一方の浴室はひと回り小さいサイズ

翌朝は長谷寺の勤行を見学した後に宿へ戻って朝ご飯をいただいてからお風呂へ。男女が入れ替わっており、奥の側が男湯だった。基本的には前日の体験と同様で、全般のサイズがひと回り小さくなっている。こちらは「定員20名を感染症予防のため12名まで」の張り紙。

カランは8台だったかと。浴槽も詰めて20名・余裕込みで12名という、まさに張り紙通りなサイズ。勤行では冷え込んだ朝の風が冷たくて寒かったのなんの。とくに手の指が凍傷になるかと思った(大げさ)。適温の湯ですっかり生き返ったぜ。

この泉質と浴感は「美肌の湯」の系統になるのだろう。そういえば湯あがりの肌はしっとりすべすべになったような。


お食事への期待もばっちり

夕食は倭かも鍋とともに

井谷屋の食事は朝夕とも部屋出し。今どきは部屋食なんていったらプレミアムなサービスだからね、なんだか贅沢な気分だ。夕食のスターティングメンバーがこちら。
井谷屋の夕食
おー、なんとなく雅な感じが。海なし県とはいえ思ったよりも魚が使われている。鍋物のお肉は鴨肉だそうだ。それも奈良ブランド合鴨「倭かも」だって。井谷屋の名物鍋だとか。中に隠れてるつみれまでもが鴨肉だから徹底している。固くないのに歯ごたえがあり、脂くどくない味わいがおじさん向きで良い。

料理がボリュームありそうな予感がしたので、酒量を(アルコール量ではなく腹にたまる水分量を)抑えるためビールでなく日本酒にした。銘柄も知らぬままに談山300mlを注文したが、後になって飲み比べセットがあったのに気づいた…そっちで良かったかもな。やがて茶碗蒸しと天ぷらが追加された。
井谷屋の夕食その2
うわあ、やっぱりボリューミーだった。しかし結果的にお腹パンパンで苦しくなったものの、食事中は一心に料理を口に運んでいて、気がついたらなくなってた感じ。そうなるまでの所要時間もいつもより短めだった。それだけ自分の口に合っていたのだろう。胃の限界により締めのご飯はちょっとしか入らずというお決まりのムーブでごちそうさま。

勤行見学の後の朝ごはんがうまい

朝起きたらまず長谷寺の勤行を見学しに行った。出発前に「戻ったらお風呂が先ですか、それともご飯にしますか」と新婚さんみたいなことを訊かれた。ご飯を先にしてもらったところ、部屋に戻ってきたら布団が片付けられてて卓上には料理が並んでいた。気が利くぜ。お米と味噌汁もすぐに運ばれてこの通り。
井谷屋の朝食
左のお椀は茶粥。寒い中を帰ってきた身にはホッとする一品ですな。鍋で温めるやつは湯豆腐でしたね。あとは奈良だけに奈良漬とか。

勤行の際に唱えられてた般若心経のリズムがずっと頭に残ってて、ぎゃーてーぎゃーてーを脳内エンドレス再生しながらの朝食となった。色即是空、飯即是食ぅー!

 * * *

ぱっとひらめいて決めた井谷屋だったが、なかなかのお湯だったし、料理も口に合うものだったし、ハード面でもサービス面でも満足したし、長谷寺見学の拠点というアドバンテージに留まらない好宿ではないかと思う。たまたま一人泊で予約が取れたのは幸運だった。


おまけ:長谷寺の見学

長い登廊の先に

井谷屋到着は夕方だし雨も降ってたから長谷寺へは行かず翌日にすべてを賭けた。朝の勤行を見学できるとのことで、これは見逃せないと参加を決意。6時半にフロントに集合して車で門前まで送ってもらう(帰りは歩き)。朝はほとんど人がいなくて撮影チャンスだ。
長谷寺 仁王門
本堂までの長い階段からなる登廊。圧倒されると同時に身が引き締まるね。
登廊
途中まで登ってきて下を見たところ。境内は結構広い。
登廊途中から俯瞰する
おお、あれが本堂かな。
登廊途中から見上げる
本堂に着きました。本堂内は撮影禁止。
長谷寺 本堂

勤行見学と本尊の特別拝観

勤行見学は500円。本尊大観音尊像の特別拝観もやっていて1000円。勤行の方は冬季は6時半から受け付けていて実際の始まりが7時。大きくて威厳のある十一面観音菩薩様の前で僧侶のみなさんがお経を唱えるわけだが、まるで合唱のようでもあり、ドンドコドンドコの太鼓に思わず揺さぶられてしまう。その後は各方面への遥拝。

非常に迫力があるし心が洗われますなー。特別拝観の内容にも圧倒された。これは見るべき。御本尊の観世音菩薩像のお御足に触れるという貴重な体験もできる。

時期的に見頃の花は多くなかった。もう少し後だと見事な桜が見られるんだろう。
桜はまだ早い

長谷寺へ再び参る

井谷屋をチェックアウトした後にも長谷寺へ。勤行見学の際に購入したチケットで再入場できる(特別拝観は1回きり限定)。やはり10時以降だと客が多く集まり始める。

朝と違うルートを歩いてみたら藤原定家の塚・藤原俊成の碑が並んでいた。
藤原定家の塚・藤原俊成の碑
源氏物語で詠まれた二本(ふたもと)の杉もあった。二本の杉が根本でくっついてる。
二本の杉
こちらは能満院にいたワンちゃん。そっとしといてあげてね。
能満院のワンちゃん
本堂を別のアングルから。
長谷寺 本堂
こちらは五重塔。見どころがたくさんあるなあ。
五重塔

本坊大講堂の特別拝観も見逃せない

奥の院には豊臣秀長公供養塔があるそうなのだけど、どこがそうなのかわからずじまい。本坊まで下りてきたら本坊大講堂特別拝観をやっていた。500円。ここまで来たら見るしかない。
本坊大講堂
撮影不可の2枚の襖絵がおそろしく精妙なり。また、掛けられない掛け軸と称される大画軸のレプリカは撮影可。ほかに長谷寺縁起絵巻など。
大画軸
次の目的地へ向かわねばならず、乗る電車が決まっていたこともあって、さくさく見ていくスタイルになったにしても1時間かかった。見学所要時間は多めに見積もっておく方がいいでしょう。
長谷寺境内
長谷寺から近鉄の駅までは徒歩20分、いやもっと余裕をみておきたい。先述したように上り坂がきついことも計算に入れておくべきだ。