春先の西日本遠征の初日は岡山北部、とくに真庭市をうろうろする計画だった。したがって宿泊先は湯原温泉郷が最適となる。一人で気軽に泊まれそうな宿を探した結果、足(たる)温泉いづみ家がちょうど良さそうだった。一風変わった温泉名に興味を惹かれたのも理由のひとつ。戦国時代に樽詰めにした湯を戦地へ送ったという故事に由来するとのこと。
当宿について詳しく調べてみると館内に浴場を持たず、近くの足温泉館という日帰り施設へ通う方式だとわかった。外湯文化を残す湯治場風情の宿というイメージを抱いて訪れたところ、たしかに静養目的でのんびり過ごすのに向いた宿だった。浴場じたいはモダンできれいだから万人向きの安心感がある。
足温泉いづみ家へのアクセス
雨の岡山へ
湯原温泉郷全体の玄関口がJR姫新線・中国勝山駅になるかと思う。当駅から真庭市コミュニティバス「まにわくん」湯原温泉/蒜山高原行きで約20分、足温泉前下車でOK。バスの運行本数には注意。
個人的な体験を話すと、まず新幹線で岡山へ。乗車前に朝食の駅弁を買うことにし、SNSでやけに推されていた記憶を頼りに「えんがわ押し寿司」を選んでみた。脂の乗りがすごいね。朝から贅沢しちゃった。
西へ行くほど天気は下り坂となり岡山では雨が降り出していた。天気予報でわかっていたことだからと割り切って、駅前でレンタカーを借りていざ出発。現存12天守コンプリートの野望を達成するため高梁市で備中松山城を見学した後、さらに北上して真庭市へ入ったのである。
高速のICから近い足温泉
まず有名な真賀温泉の幕湯を体験した後に足温泉へ向かった。両者は車で2~3分の距離だからすぐ着いちゃった。湯原温泉郷の各温泉地は入口や導入路の前に、黒地に白い字で目立つように温泉名を書いた看板が立っているからわかりやすい。
足温泉についてはこの看板のところで車1台分の幅狭い橋を渡ると目の前がいづみ家だった。駐車スペースは3~4台分用意されている。
なお、岡山駅/岡山空港から足温泉へ時間優先で直行するなら、高速道路を使って湯原ICまで走るのがベスト。湯原ICを出たら国道313号を5分ほど南下すると着く。その意味で車ならアクセスしやすい。
ホタルが見られる川沿いの旅館
いろいろな小物が飾られてる
ではチェックイン。女将さんからお風呂についての説明を聞く。渡された宿泊証(首から下げる社員証みたいなやつ)を足温泉館の受付に提示すると、宿泊中であれば何度でも無料で利用できる由。足温泉館は夜21時まで(受付は20時半まで)なのはともかく朝は10時から、つまり確実にチェックアウト後になるので、朝風呂を所望するなら近隣の真賀温泉へどうぞとのこと。希望すれば回数券をくれるらしい。
1階の奥にロビー風のソファ+テーブル一式があった。ほとんど使われてない雰囲気ではあったが。
館内にはいろいろな小物が置かれていて、たとえばぬいぐるみの列とか。
一番目を引いたのが醤油の容器。なぜ気になってしまったのかは自分でもよくわからん。
のんびりゆっくりできそうな部屋
泊まった部屋は2階の7.5畳+広縁和室。入室後すぐに女将さんが自分の体格にあったサイズの浴衣を持ってきてくれた。ありがた山の寒がらす。
布団は最初から敷いてあった。トイレは共同で2階男子トイレは小×2・シャワートイレの個室×1からなる。洗面台は室内の入ってすぐあたりに設置されてる。金庫あり、冷蔵庫は廊下に共同用あり、WiFiなし。ウェルカムお菓子はわらび餅だった。全般に管理状態は良好で居住性に不都合なし。
窓からの景色は下のような感じ。前述の看板と橋、そして旭川が見える。6月にはホタルが見られるそうだ。
お風呂は近隣の足温泉館へどうぞ
いづみ家から徒歩1分
わらび餅を食べてお茶を飲んで一息ついてから浴衣姿で足温泉館へ行ってみた。玄関で下駄もしくはクロックス風サンダルを履いて外へ出たら右手に進む。徒歩1分くらいの途中にこのような碑が立っていた。たるの湯跡だって。
道中にはいづみ家と同様の外湯方式と思われる小規模旅館が数軒並んでいた。いづみ家を含めて3軒が営業中の模様。そのうちネットの旅行サイトで予約できるのはいづみ家だけじゃないかなあ。とかいってる間に足温泉館に到着。
受付に宿泊証を提示&預けて中へ入る。いづみ家のご主人と女将さんがここの受付業務の当番になることもあるみたいだな。夕方はご主人が、夜に行ったときは女将さんに受付してもらったので。館内は近年リニューアルしたようなモダンなつくりであった。湯あがり休憩コーナーがこちら。畳の間も別途あります。
ベーシックな適温の湯
男女入れ替えの有無は定かでないが、当時は向かって左が男湯だった。脱衣所には棚+かごが並ぶほか、貴重品をしまうための100円リターン式ロッカーもあったかと思う。分析書をチェックすると「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、単純温泉」とのこと。源泉温度は39℃台、浴槽のお湯はおそらく加温されているだろう。
浴室には6名分の洗い場。内湯浴槽は1つだけなれど、もとは2つあったんじゃないかと思わせる雰囲気だった。現在の湯船と接する位置に4名サイズ級の浴槽風タイル張りの箱が設置されてて、箱の上部は蓋で覆われているのだが、蓋の隙間から流れ出すお湯が現在の湯船に注ぎ込まれているのだ。湯口にしては妙に大掛かりなんだよな。
浴槽は比較的奥行きがあり、向かい合わせに2名×4組の形で8名までいけそうだ。お湯の見た目は無色透明の中にも微弱な白濁を呈し、うっすら青みがかって見える瞬間もある。浸かってみたら適温だった…いくらかぬるめ寄りでアチチではない。湯の花や泡付きは確認できず。湯使いは不明ながらも塩素臭はしない。近隣の真賀温泉ほどではないけどニュルッとした感触が若干あり。
露天風呂は非温泉かも
おや? 露天風呂もあるようだ。3名サイズの岩風呂で屋根はない。目隠しの格子の隙間から川の風景がチラッと見える。内湯に比べてお湯がやけに澄んでるなと思って入ったら、なんだか温泉らしさが全然ない…こいつは普通の沸かし湯じゃないか。とくに匂いが明らかに水道水ぽい。ネットにそういう情報が見当たらないから今日だけの措置なのかなあ。単に自分の勘違いならいいけど。
ということですぐに露天風呂を退散して内湯に集中した。まあ雨だったし、露天風呂の方が熱かったし(ぬる湯派だから熱いのは苦手)、どのみち内湯重視になっていただろう。夕食後に2回目入浴に来たときは露天風呂を完全にスルーして内湯だけで過ごした。
全般にリニューアル感が強めなので、昔ながらのレトロ感や湯治場風情というよりは、老若男女を問わない安心感をもって利用できる施設といえよう。お湯そのものも変に尖ってなくて万人向きだ。
食事は質・量とも十分に足りている
素朴な味わいの夕食をしみじみといただく
いづみ家の食事は朝夕とも1階フロント向かいの広間にて。この日は自分を含めて2組の客だったようで、行ってみると2つのテーブル席に料理が並べられており、お好きな方へお座りください方式だった。夕食のスターティングメンバーがこちら。
おーすばらしい。派手さや雅な作り込みはなくとも、もとよりそんな要素は求めてない。温泉でのんびり静養というノリにふさわしい、こういうのでいいんだよ。しかしお肉は牛豚鳥には見えんな。鹿肉じゃないか。そういうことにしておこう。
天ぷらはほんのり温かく、山菜ぽいのもあって良かった。川魚は甘露煮風と塩焼きで2尾出てきたのが珍しいかも。どちらも頭から背骨から尻尾まで全部食べられる。あと小鉢の青菜ごま和えも絶妙な甘さ、かつ、色と食感から刻んだ干し柿と思しきトッピング付きで侮れない。
ビールとあわせておかずだけでお腹いっぱいになったし、締めのご飯+デザートのいちごまで進んだ時点で相当な満腹感と満足感だった。
朝食の米がうまい(梅干しを忘れるべからず)
朝食がこちら。シンプルだが、それがいい。
豆腐は冷奴じゃなくてほんのり温かかった。味噌汁は一般に提供される量よりも多めに感じた。進行状況に合わせて量をセーブしながら飲まなくていいからありがたいね。
そして米がうまい。いつも同じこと書いてる気がするけど、本当だからしょうがない。旅先のお米はどうしてこんなにうまいのか。とくに昨今はお米の価格高騰により、食費を抑えるには質を下げなければならないからね。加えて外食依存度の高い身からすると、エコノミーな外食チェーンのご飯はツヤツヤ感がなくなって固くなってる気がするんだよな。
食後に出されたコーヒーを飲みながら重大なミスに気づいた。テーブルに置いてあった梅干しをいただくのを忘れてた。夕食のときから気になってて朝のおかずに試そうと思ってたのに~。口の中がコーヒー風味になってる段階で今さら梅干しには戻れない。悔しいのう。
* * *
温泉地としても旅館としても小規模だからこそ、一人旅や少人数で喧騒を離れてゆっくりするのに向いている。お風呂はいったん外へ出て歩かなければならないとはいえ、そんなに遠いわけでもなく、まあ許容範囲ではないだろうか。天気が良ければ、とくに桜やホタルの季節なら、かえってちょうどいい散歩になりそうだし。
湯原温泉郷の他の温泉も含めて広く湯めぐりするための拠点として利用するのもありかと。リーズナブルなお値段だし、食事内容はお値段以上だと思う。
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