3度目の八丁の湯へ行くことになった。我らぬる湯好きグループによる真夏の栃木遠征を計画した際、まだ当湯未体験のメンバーがいた。奥鬼怒の秘境感を体験してもらいたかったし、もしかしたら初回訪問時のようなぬる湯にまた出会えるかもしれないと思って八丁の湯を推奨した結果、すんなり合意に至って3泊目の宿に決まった。
自分はもうすっかり勝手がわかっているから…と思ったら、いろんなところが変わっていて勝手が違ってた。知る人ぞ知る秘湯宿から、お洒落寄りの雰囲気にシフトして幅広い客層向けにアピール、って感じかな。あとグローバル度が大幅増。今回のお湯は残念ながら熱かったし夏特有のアブもいて、じっくり長湯とはいかず。
奥鬼怒温泉郷のゲートウェイ・女夫渕駐車場
鬼怒川を遡って奥へ奥へとドライブ
旅の3日目、塩原元湯の大出館を10時近くに出発。八丁の湯へ行くには鬼怒川温泉駅起点の路線バスにせよ、マイカー・レンタカーにせよ、まず女夫渕駐車場にたどり着かなくてはならない。そこから先は一般車両の進入禁止なので。
駐車場からハイキングコース…登山道だと考えた方がいい…で徒歩90分、もしくは宿の送迎バスで30分(要事前予約)。送迎バスは時間が決まっていて、オンデマンドで呼んだら来るわけじゃないから、乗るべき便をしっかり決めて計画に組み込んでおこう。
我々が狙うのは12時発の送迎便。予定では11時半頃に女夫渕駐車場に着く目論見である。塩原地区を脱したら国道121号を南下。途中、道の駅湯西川で軽く休憩を取った後、五十里ダムの手前で県道23号へ右折。川治ダムを経由して西へ西へと進む。
このコース、3ヶ月前の一人旅のときにマイカーで走ったんだよな。ほとんど女夫渕と言ってもいいくらいの地点=国民宿舎渓山荘まで行ったら、日帰り入浴休業日でフラれちゃってすごすご引き返した思い出。今回は少々別な角度からのリベンジと言えなくもない。
県道はだんだん狭く・細かいカーブが多くなってくる。対向車が来ると気を使う。熟練ドライバーが運転してくれてるから安心だけど、川治ダム以降だけでも走る距離が30km以上あるから大変だ。
送迎バスに乗って未舗装林道を30分
11時45分くらいに女夫渕駐車場に着いた。満車までまだ余裕はあるけど思ったより埋まってる。奥鬼怒温泉郷は当湯を含めて4つの宿があるし、普通に登山しに来た人も駐車するからね。この橋から先は一般車両不可の林道だ。
橋の上から見た景色がこちら。流れているのは鬼怒川。
まず加仁湯(別の旅館)のマイクロバスが来て、客を乗せて出発していった。続いて12時を回った頃に八丁の湯のマイクロバスがやって来たので乗り込んだ。その少し前に路線バスが到着していたのを見るに、接続を考えたダイヤになっているようだね。
送迎バスは先ほどの橋を渡り、未舗装のつづら折りをガタガタ揺れながらゆっくり進む。とてもスピードを出せる路面状態じゃない。なるほど30分かかるわけだ。一方のハイキングコースは土砂崩れで通れないという未確認情報があり、送迎バスと同じ林道をてくてく歩くグループを少なからず見かけたのはそのせいかも。もし歩きで行くなら事前に確実な情報をチェックすべし。
外見は変わらずとも中身に変化あり
入館と受付の仕組みが変わっていた
さあ到着。敷地の前に小さな川が流れている。小さいだろ。ウソみたいだろ。鬼怒川なんだぜ、それで。
いきなり目立っているのがログハウス群だ。予約したプラン次第ではこちらに泊まることになる。素朴な山小屋でなく設備面はわりとしっかりしていた記憶がある。
さて、もともとは下の写真の本館玄関から出入りしていたのだが、今回は冒頭写真の場所=本館に隣接する棟の脇から入るように変わっていた。
玄関・脱衣所の出入口など、屋内外を行き来するところがレースのカーテン状のものでガードされているのは、夏の虫が入りこまないようにする蚊帳の役割でしょう。
主要な多機能ホールに生まれ変わったカフェ・バー
かつて畳+座卓のレストハウスだったところ…その後洋室化してカフェ・バーへ変身…に食堂&売店&フロント機能が加えられ、主要な役割を果たすホールになっていた。かつては畳といろりのある「まったり部屋」だったところが売店になっている。
12時半に到着してチェックイン受付の14時までここで待つことになった。WiFi利用可なのでスマホでネットサーフィンしたりして過ごす。一部の客はランチを注文して食べていた。14時になったらチェックイン手続きして本館へ移動。
本館との間にはこのようなシャレオツ空間あり。
その隣は足湯コーナー。
本館玄関付近の、かつてフロントだった場所はロビー風に生まれ変わっていた。
今回は本館に泊まる
過去2回はログハウスに泊まったが、今回は本館2階の8畳+広縁和室。布団はセルフでお願いします。
トイレと洗面所は共同。2階の男子トイレは小×2・洋式個室×2。洗面所は6名分あったかと。金庫なし、冷蔵庫なし、WiFiはフロントで実施した設定のままでいけた。※過去に泊まったログハウスではWiFiつながらず、ネットやるには現在のフロントの場所まで出張っていたが、今もそうなのか・改善されたのかは不明。
秘湯宿といっても古びたまま放置されたようなところはいささかもなく居住性はオッケー。「人をダメにするクッション」があるからさらに加点。エアコンがないため令和の夏はどうなのかと思ったけど、熱がこもる感じはあっても扇風機でしのげるくらいだった。あと、さすが山の中だけあって巨大なカマドウマが出現、なんとか追い立てて外へ退出願いました。
窓の外は向かいのログハウスと繁茂する緑。虫が入ってこないように窓を閉めたままガラスにスマホを押し付けて撮影。
飲料については本館を出てすぐのところにソフトドリンクおよび缶ビールの自販機あり。
以前から運用が変わり、使い勝手が向上したお風呂
今回は相対的にぬるめ適温だった雪見の湯
以前は女性専用だった浴場に男性タイムが設けられ、男女とも3つの浴場に入れるようになった…(1)3つの浴槽からなる混浴露天風呂、(2)サワガニの湯=男女入れ替え制の露天風呂、(3)男女別の内湯。男性目線だと21時~22時は(1)(2)とも女性専用タイムとなり、利用できるのが(3)のみとなることに留意したい。
チェックイン後まず(1)に行ってみた。当湯の主役だからね。脱衣所に貴重品ロッカーがあったような、なかったような…あいまいですまんす。分析書をチェックすると「単純温泉、中性、低張性、高温泉」と書かれていた。泉温は51℃台でPH7.7程度だったかと。湯使いは100%源泉かけ流しと思っていい。
脱衣所を出てすぐ目につくのが6名サイズの雪見の湯。お湯が熱い記憶があったのだけど、今回に限っては相対的に最もぬるく感じた浴槽のひとつだった。とはいえ適温であってぬる湯ではない。見た目は無色透明で白っぽい糸のような湯の花が舞っており、匂いを嗅げばほんのり硫黄を感じさせる。お湯の特徴そのものはすばらしい。真夏だけにもうちょっとぬるければ最高だったろう。
秘湯の醍醐味を味わえる滝見の湯と石楠花の湯は熱い
そこから石段を若干下ると滝見の湯がある。広くて20名入れそうな岩風呂だ。しかも名前の通りに滝を眺めながら浸かることができる。ばっちり決まってるロケーションは文句なしだ。問題は…個人の好みといえばそれまでだが…お湯が熱い。
初めての訪問時はぬるくて最高だった。2回目は適温だった。そして今回、真夏であることを差し引いても熱い。滝見を堪能する前に熱さでのぼせてしまう。加えて、ぶんぶんぶん~♪ アブが飛ぶ~♪…こりゃたまらん、短時間で撤退せざるを得なかった。夜に来たらアブは出なくてもやはりあつ湯のために短時間勝負となってしまった。
残る石楠花の湯は石段を上った奥に待つ特別観瀑台とでも呼ぶべき存在。先ほどの滝の落ち口付近を間近に見ることができるのだ。誰もが体験してみたくなる風呂で、4名サイズの浴槽はタイミングを間違うとかなり混み合う。様子を見つつ、うまく立ち回ろう。夜に来れば滝のライトアップが幻想的。お湯はやっぱり熱いです。
これら3つの露天風呂に洗い場なし。また21時~22時は女性専用タイムとなる。
男性タイムが設けられたサワガニの湯と洗い場のある内湯
以前は女性専用だった(2)=サワガニの湯が夜22時~翌朝10時まで男性専用に開放されたから22時すぎに行ってみた。10名いけそうな広さでお湯は適温。奥の方に陣取れば滝がちらちら見える。翌朝来たときも含めてアブの攻撃なし。
サワガニの湯にも洗い場はない。また、こちらの脱衣所から滝見の湯へ直接出ることができる。そっちへ出てしまえば雪見の湯や石楠花の湯へも通じているから、両浴場にアクセスできる利便性は結構いいかもね。
洗い場を使いたければ(3)=本館内にある内湯へどうぞ。そんなに広くないので夕方や他浴場の女性専用タイムが重なる21時台は混み合うかもしれない。洗い場は3名分。浴槽は3名サイズが2つ並んでいて片方があつ湯、もう片方が適温だった。この適温側が(相対比較でいうと)今回の当館で最も熱くなくて入りやすい温度だった印象。
眺望や雰囲気の面は他の露天風呂に譲るも、単純にゆっくりじっくり浸かる目的には最も適していそう。混み合ってるとそんなのんびり構えてられないのは難しいところだが。
洒落た感じにリニューアルされていたお食事
いろいろあって夕食は長丁場に
八丁の湯の食事場所は2箇所に分かれている。本館1階の食事処とフロントのあったホールだ。我々は後者のホールだった。宿の手配をしてくれたメンバーの話だと、ワンプレート料理の夕食プランを予約したそうで、同様の客がホールに集められたのだと思う。しかし数日前に連絡があり、通常プランと同じ内容に統一する方針へ変わったと聞いた(内容面はアップグレードになる)。
案内されたテーブルに着席してしばらく待つと、木の板に乗せられた第1陣が運ばれてきた。
前菜には鹿肉の胡麻和えが含まれている。ジビエが出るとは、さすが山の宿。ディップ野菜はお土産としても売っている「はちべえ」なる特製味噌に付けてどうぞ。刺身はマスの系統でしょう。以前よりも華やかさが増した内容になった気がするな。
この後もイワナ塩焼き・湯波を含む煮物・鯉や原木シイタケの天ぷら、加えてステーキ肉が追加されてオールスター大運動会状態。こりゃすごい…うっかり写真を撮り忘れたのが痛恨なくらい。ただし方針変更後のオペレーションがまだこなれていなかったみたいで、第2陣・第3陣が出てくるまでにかなり間が空いた。
飲み物はQRコードをスマホで読み込んでアプリから注文する方式だったこともあり、ビールは滞りなく届いたけど、第1陣を完食してから第2陣が来るまで手持ち無沙汰の時間帯ができてしまった。第2陣から第3陣の間も同様。食事が終わったのは2時間半後だった。オペレーションの練度が高まればもっとスムーズになるかな。
朝食時に目撃したプロの技
朝も同じ場所で。この時はスムーズに事が運んだ。最初の時点でほとんどの品がテーブルに並んでいたし。重箱風のふたを開けると4つの小鉢。
焼魚のかわりに蒸し物の中に白菜と一緒に鮭が入っていた。固形燃料で温める鍋は豚汁だ。自分のだけ木の落し蓋が鍋本体にがっちりはまっちゃって…たまにあるある…ひねったりして外そうとするが、まったく取れる気配がない。熱くて触れない鍋をしっかり押さえつけることもできず難儀していると、すかさずスタッフの方がお玉みたいなやつで鋭くポコーンと蓋を叩き、あれほど頑なに動かなかった蓋があっさり外れて飛び跳ねた。
などとプロの技を鑑賞しつつ朝食は普通に30分程度で完了。朝食が終わる頃に、帰りの送迎は何時の便を希望するかを訊かれる。ラストに長湯して粘るようなぬる湯じゃないし、高速のUターンラッシュを避けて早めに帰ることを優先して9時の便にしましょうかね。
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温度の好みは人によるからおいておくと、奥鬼怒の秘湯のイメージにぴったり合った滝見の露天風呂は一見の価値あり。源泉かけ流しのクオリティも良い。アブに対するヘイトが強い方は真夏を避けた方がいいかもしれない。昔ながらの素朴な風情というよりは、もう少しモダンでグローバルな雰囲気に舵を切りつつあるというイメージで臨まれたし。
















