梅雨入り直前のグループ旅行で栃木県の奥鬼怒温泉郷を訪れた。奥鬼怒といえば気軽に行くことなどあり得ない、深い山中のザ・秘湯である。自分にははるか縁遠い存在。このたび数奇な運命(大げさ?)で巡ってきたチャンスに飛びついたおかげで行けたようなものだ。
宿泊先は「八丁の湯」。昔ながらの本館と和洋折衷的なログハウスからなる新感覚の旅館だ。秘湯らしさを堪能できるような演出が随所にあって楽しめるし、なにより自然に囲まれながら好みのぬるいお湯に長くつかっていられたのが最強だった。
(2019.6追記)1年後の同じ時期に再訪したところ、決して熱くはないがぬるいとも言えない適温のお湯だった。温度は日々のコンディション次第なのかもしれない。ぬる湯を求めて行くならそのつもりで検討してください。
また行きたいな~とつぶやく言葉をおじさんは聞き逃さなかった。奥鬼怒に憧れのある自分にとっては大チャンス到来。「いつやるか、今でしょ」と焚き付けて、早々に現実の計画に落とし込んだうえに車を出してもらうところまで、トントン拍子に話を進めてしまった。我ながら前のめりですな。
女夫渕駐車場というところに着いたら車を置く。そこから先はマイカーの乗り入れが規制されている。駐車場から八丁の湯までは遊歩道を90分歩くか、宿の送迎車…要事前予約で9:30・10:30・12:00・15:00・16:00の便がある…に乗るしかない。
我々が駐車場に着くと、すでに送迎のマイクロバスが待っていたので乗り込んだ。
あとは未舗装の山道を30分ほどかけてゴトゴト登っていくと八丁の湯に到着する。資材を運んで旅館を建てること自体がとてつもない難事業に思えるし、日々の食材・消耗品の仕入れやゴミ出しに下界まで行くだけでもえらく苦労しそうな立地だ。
なお鉄道利用の場合は東武鉄道・鬼怒川温泉駅から女夫渕駐車場までの路線バスがある。便数は少ないし所要時間は1時間35分。こりゃ大変だ。
旅館の前は鬼怒川の源流。もちろん他にお店だの民家だのがあるはずもなく、ただひたすら緑に囲まれている。徒歩10分のところに加仁湯という別の旅館はあるが、それにしても山の中の一軒宿には違いない。
正面玄関のある本館は昔ながらの風情ある木造建築。雰囲気にそぐわない三角コーンが置かれているのは植えたばかりのクローバー養生のためだという。なるほど了解。いよいよ来たぜと高まる期待とともにチェックイン。
布団の取り扱いは自分でやる方式。WiFiは本館のみでログハウスまではカバーされていない。携帯のアンテナも万全ではなく、通信会社や機種によっては圏外になってしまう。さすがはザ・秘湯。
窓の外にいい感じのバルコニーが作られており、ここで夕涼みなんかすると絵になるかもね。ちなみに室内禁煙なのでタバコを吸うならバルコニーへ出ることになる。
あと夜に廊下を歩いていたら窓にすごく大きい蛾がとまっていた。透き通るような白と姿形が大変美しく、月夜が似合いそうな感じで、しばし見とれてしまった。ネットで調べたところオオミズアオだったかも。都会でもたまに見られるらしいけど、奥鬼怒ならではの出会いだったと思いたい。
脱衣所の先が露天エリアで、しかしここにある3種類の浴槽はすべて混浴だ。男性専用の露天風呂というのはない。女性向けには専用露天風呂が別途あるし、混浴エリアは21時から22時まで女性専用時間帯となる。だから混浴状態になることなんてそうそうないだろうと気にせず突撃。
一番手前にある10名規模の露天風呂が雪見の湯。カラン付きの洗い場ではないが、湯船の脇に石鹸・シャンプーと桶と木の椅子が置いてある。お湯は透明で他の2箇所に比べると熱め。ぬるいのが好きなのでここはスルーした。
3~4名規模の石造りの浴槽には無色透明の源泉が打たせ湯のようにかけ流しされ、あふれたお湯は滝と一緒になって川へと落ちていく。温度はぬるめ寄りの適温。掲示されてた分析書には「単純温泉、中性、低張性、高温泉」とあったけど、結構しっかりした硫黄感があるし、湯の花が豊富でバッチリ本格派の温泉を楽しめる。
この日は入浴しに来る客とほとんどかち合わなくて、いつも独占に近い最高のコンディションだった。その中でも石楠花の湯だけは時おりパラパラと人の出入りがあった。そりゃみんなここを狙うよね。
このぬるさがたまらん。長湯をするにはもってこいである。滝の高さの半分くらいの位置にあるから、滝を見上げたり下を覗き込んだり、はたまた全体を俯瞰しながらじっくりとつかることができる。
しかも3種の中では最も人が来ない様子だった。独占でぬるくて滝見ができるという最強の露天風呂だ。夕方・夜・翌朝2回それぞれ1時間以上入っていたんじゃないだろうか。指先がとんでもなくふやけてしまった。
行った季節は新緑から次のステージへ移る時期だったけど、露天エリアを取り囲む木々は見事な紅葉を予感させる。これ、秋は究極の絶景になっちゃうんじゃないの? やばすぎるアメイジングの予感。みんな狙って来るだろうから激混みかもしれないけど。
長方形の浴槽が中で仕切られ、片方は2名規模で熱めのお湯、もう片方は3名規模でぬるめのお湯になっている。当然ながらぬるい方を堪能させてもらいました。どうしても露天に目が行くので内湯は地味な扱いだけど、お湯はやはり結構なもの。
夕食はこれ。途中で湯葉グラタンが追加された。
お刺身は“やしおマス”という川魚らしい。普通に醤油につけて食べるほか、しゃぶしゃぶしてポン酢でいただくことも可。しゃぶしゃぶするとマス系の味がより際立つようだった。うまいね。
そしてメインは猪鍋。こういうところに来たら牛とかよりも猪や鹿の方がやっぱり気分が盛り上がるね。濃いめの味噌で煮込んで食べると、さほど癖が強いということもなく、固くもなく、おいしい肉であった。野菜はおかわりができる。
途中からお腹いっぱいになっちゃって締めのご飯は1杯しかいただけなかった。残念。
中では温泉蒸しが印象的だった。口に含むと硫黄香が鼻の奥に上ってくる。本当に温泉の匂いがするぅ。量がおとなしめだったおかげで、ご飯をおかわりすることができた。朝としては十分だ。
最後に、八丁の湯にいたワンちゃん。かなり人馴れしているようで見知らぬ客がいても吠えるでもなく寄ってくるでもなくマイペースでうろうろしている。写真を撮ろうとしたらプイッと向こうへ行ってしまった。
いやあ、八丁の湯はなるほど非の打ち所のない、秘湯らしい秘湯だった。雰囲気だけでなく温泉そのものもかなりいい。今回はログハウスだったが本館の部屋も鄙び感がいい味出してそうだ。いやあ隙がないね。
行きにくいのが難点だが、それゆえに俗っぽくならずにクオリティを保つことができているともいえる。いやいやいや今回は本当に脱帽です。
宿泊先は「八丁の湯」。昔ながらの本館と和洋折衷的なログハウスからなる新感覚の旅館だ。秘湯らしさを堪能できるような演出が随所にあって楽しめるし、なにより自然に囲まれながら好みのぬるいお湯に長くつかっていられたのが最強だった。
(2019.6追記)1年後の同じ時期に再訪したところ、決して熱くはないがぬるいとも言えない適温のお湯だった。温度は日々のコンディション次第なのかもしれない。ぬる湯を求めて行くならそのつもりで検討してください。
奥鬼怒温泉郷・八丁の湯へのアクセス
チャンスにしがみついて実現した旅
今回の「ザ・秘湯をめぐる旅」には、ある参加メンバーの過去体験が大きく関係している。当人によれば、ずっと昔にいくつかの秘湯を巡ったことがあり、それらがあまりにすばらしくて、いまだに自身の“温泉トップ3”を争うほどで忘れられないのだそうだ。その中に八丁の湯が含まれる。また行きたいな~とつぶやく言葉をおじさんは聞き逃さなかった。奥鬼怒に憧れのある自分にとっては大チャンス到来。「いつやるか、今でしょ」と焚き付けて、早々に現実の計画に落とし込んだうえに車を出してもらうところまで、トントン拍子に話を進めてしまった。我ながら前のめりですな。
マイカーでは行けない秘湯
東京方面から車で行く場合、宇都宮~日光~霧降高原~川俣~女夫渕というルートが一般的なようだ。日光から先はカーブ続きの山道で2時間かかるし、最後の10キロほどは対向車とのすれ違いが難儀なほどの狭い幅だった。こりゃ大変だ。女夫渕駐車場というところに着いたら車を置く。そこから先はマイカーの乗り入れが規制されている。駐車場から八丁の湯までは遊歩道を90分歩くか、宿の送迎車…要事前予約で9:30・10:30・12:00・15:00・16:00の便がある…に乗るしかない。
我々が駐車場に着くと、すでに送迎のマイクロバスが待っていたので乗り込んだ。
あとは未舗装の山道を30分ほどかけてゴトゴト登っていくと八丁の湯に到着する。資材を運んで旅館を建てること自体がとてつもない難事業に思えるし、日々の食材・消耗品の仕入れやゴミ出しに下界まで行くだけでもえらく苦労しそうな立地だ。
なお鉄道利用の場合は東武鉄道・鬼怒川温泉駅から女夫渕駐車場までの路線バスがある。便数は少ないし所要時間は1時間35分。こりゃ大変だ。
秘湯でありながらよく整った部屋
別荘のようなログハウス棟と風情ある本館
八丁の湯に近づくとまず目に入るのがログハウス群。温泉旅館というよりは別荘のような雰囲気だ。我々が予約した部屋はこのうちの1棟になる。旅館の前は鬼怒川の源流。もちろん他にお店だの民家だのがあるはずもなく、ただひたすら緑に囲まれている。徒歩10分のところに加仁湯という別の旅館はあるが、それにしても山の中の一軒宿には違いない。
正面玄関のある本館は昔ながらの風情ある木造建築。雰囲気にそぐわない三角コーンが置かれているのは植えたばかりのクローバー養生のためだという。なるほど了解。いよいよ来たぜと高まる期待とともにチェックイン。
おしゃれ感のあるログハウス
案内された部屋は一番奥といってもいいくらいの場所にあるログハウスの1室(本館から屋内廊下でつながっている)。木の床+ベッドではなく畳敷きなのが珍しい。広さは10畳でトイレ・洗面所付き。簡素な山小屋みたいなのとは全然違う。快適で新しいし、おしゃれな雰囲気もある。布団の取り扱いは自分でやる方式。WiFiは本館のみでログハウスまではカバーされていない。携帯のアンテナも万全ではなく、通信会社や機種によっては圏外になってしまう。さすがはザ・秘湯。
窓の外にいい感じのバルコニーが作られており、ここで夕涼みなんかすると絵になるかもね。ちなみに室内禁煙なのでタバコを吸うならバルコニーへ出ることになる。
山の宿らしい訪問客
マイナスに取られるのは本意でないのだが、一応書いておくと、山の宿だからカメムシの出没くらいは覚悟していたところ、実際にはカメムシじゃなくてカマドウマが数匹出た。まあ全然大したことはない。あと夜に廊下を歩いていたら窓にすごく大きい蛾がとまっていた。透き通るような白と姿形が大変美しく、月夜が似合いそうな感じで、しばし見とれてしまった。ネットで調べたところオオミズアオだったかも。都会でもたまに見られるらしいけど、奥鬼怒ならではの出会いだったと思いたい。
あまりにも出来が良すぎる、満足度高いお風呂
やや熱めの露天風呂:雪見の湯
八丁の湯のお風呂はすばらしいの一言。かのメンバーが絶賛しただけのことはある。フロント前を過ぎて渡り廊下から男性用の脱衣所へ行ける。廊下からすでに露天風呂の一つが丸見えなのはご愛嬌。脱衣所の先が露天エリアで、しかしここにある3種類の浴槽はすべて混浴だ。男性専用の露天風呂というのはない。女性向けには専用露天風呂が別途あるし、混浴エリアは21時から22時まで女性専用時間帯となる。だから混浴状態になることなんてそうそうないだろうと気にせず突撃。
一番手前にある10名規模の露天風呂が雪見の湯。カラン付きの洗い場ではないが、湯船の脇に石鹸・シャンプーと桶と木の椅子が置いてある。お湯は透明で他の2箇所に比べると熱め。ぬるいのが好きなのでここはスルーした。
滝を間近に見る絶景露天風呂:石楠花の湯
一番人気と思われるのが石段を上がったところにある石楠花の湯。自然の滝をすぐ間近に見られる絶好のロケーションだ。滝の高さの8分目くらいの位置だから、滝の落ち口が近いし、下を覗き込めばスリルを感じる高さ。絶景なり。3~4名規模の石造りの浴槽には無色透明の源泉が打たせ湯のようにかけ流しされ、あふれたお湯は滝と一緒になって川へと落ちていく。温度はぬるめ寄りの適温。掲示されてた分析書には「単純温泉、中性、低張性、高温泉」とあったけど、結構しっかりした硫黄感があるし、湯の花が豊富でバッチリ本格派の温泉を楽しめる。
この日は入浴しに来る客とほとんどかち合わなくて、いつも独占に近い最高のコンディションだった。その中でも石楠花の湯だけは時おりパラパラと人の出入りがあった。そりゃみんなここを狙うよね。
ぬる湯がたまらないマイベスト露天風呂:滝見の湯
だがしかし個人的に最も気に入ったのが石段を下がった奥にある滝見の湯。20名くらいいけるんじゃないの、と思えるサイズの岩風呂に注がれるお湯は前記2つと変わらないものの、かなりぬるめに設定されている。このぬるさがたまらん。長湯をするにはもってこいである。滝の高さの半分くらいの位置にあるから、滝を見上げたり下を覗き込んだり、はたまた全体を俯瞰しながらじっくりとつかることができる。
しかも3種の中では最も人が来ない様子だった。独占でぬるくて滝見ができるという最強の露天風呂だ。夕方・夜・翌朝2回それぞれ1時間以上入っていたんじゃないだろうか。指先がとんでもなくふやけてしまった。
夜のライトアップもすばらしい
夜間についても記しておかねばなるまい。夜は滝がライトアップされ、昼とはまた違った幻想的な絶景を楽しめる。ここまでやってくれるとは…夜も絶対に露天風呂へ入りに来るべきである。行った季節は新緑から次のステージへ移る時期だったけど、露天エリアを取り囲む木々は見事な紅葉を予感させる。これ、秋は究極の絶景になっちゃうんじゃないの? やばすぎるアメイジングの予感。みんな狙って来るだろうから激混みかもしれないけど。
手堅い内湯もヨロシク
当宿にあるのは露天風呂だけではない。本館内に男女別の内湯もある。夕食後の誰もいない時に行ってみた。中にはカランが一つだけ。反対側に鏡が2つとお湯を張った木桶が置いてあるのは代替の洗い場だろうか。長方形の浴槽が中で仕切られ、片方は2名規模で熱めのお湯、もう片方は3名規模でぬるめのお湯になっている。当然ながらぬるい方を堪能させてもらいました。どうしても露天に目が行くので内湯は地味な扱いだけど、お湯はやはり結構なもの。
宿の雰囲気に合った食事
夕食の刺身をしゃぶしゃぶで
八丁の湯の食事は朝夕とも1階の食事処で。我々は夕食が17時半、朝食が7時だった。一般的な旅館よりも早い。別に不都合ないので即了承した。よって相談の余地があるのかどうかは不明。夕食はこれ。途中で湯葉グラタンが追加された。
お刺身は“やしおマス”という川魚らしい。普通に醤油につけて食べるほか、しゃぶしゃぶしてポン酢でいただくことも可。しゃぶしゃぶするとマス系の味がより際立つようだった。うまいね。
猪鍋キター!
土瓶蒸しの中には海老、しめじ、湯葉が入っている。旨味が出てますなー。そしてメインは猪鍋。こういうところに来たら牛とかよりも猪や鹿の方がやっぱり気分が盛り上がるね。濃いめの味噌で煮込んで食べると、さほど癖が強いということもなく、固くもなく、おいしい肉であった。野菜はおかわりができる。
途中からお腹いっぱいになっちゃって締めのご飯は1杯しかいただけなかった。残念。
温泉蒸しが印象深い朝食
朝食はこれ。鍋は豆乳鍋とのことだが、豆腐の味噌汁に近い。漬物のひとつは行者にんにくがよーく効いていた。中では温泉蒸しが印象的だった。口に含むと硫黄香が鼻の奥に上ってくる。本当に温泉の匂いがするぅ。量がおとなしめだったおかげで、ご飯をおかわりすることができた。朝としては十分だ。
期待のハードルを楽々超える八丁の湯に脱帽
チェックアウト前にレストハウスという場所へ行ってみた。大広間にテーブルが並んでいる。繁忙期にはここを食事処として使うこともあるそうだ。レストハウス内はWiFiがばっちり入るから、ここでスマホをいじったりしてみた。最後に、八丁の湯にいたワンちゃん。かなり人馴れしているようで見知らぬ客がいても吠えるでもなく寄ってくるでもなくマイペースでうろうろしている。写真を撮ろうとしたらプイッと向こうへ行ってしまった。
いやあ、八丁の湯はなるほど非の打ち所のない、秘湯らしい秘湯だった。雰囲気だけでなく温泉そのものもかなりいい。今回はログハウスだったが本館の部屋も鄙び感がいい味出してそうだ。いやあ隙がないね。
行きにくいのが難点だが、それゆえに俗っぽくならずにクオリティを保つことができているともいえる。いやいやいや今回は本当に脱帽です。