山奥の夢の秘湯に湧いた熱き源泉 - 奥鬼怒温泉郷 加仁湯

奥鬼怒温泉郷 加仁湯
奥鬼怒温泉郷。わかる人にはわかるだろう。秘湯という言葉がまさにぴったりあてはまる秘境の温泉地である。でも、わからない人にはわからない。「今度、奥鬼怒っていうところの温泉に行くんだ」と話しても「へえ、鬼怒川かあ」と返されてしまうのがオチだ(実際そんなやり取りが何度かあった)。

以前から行ってみたいと憧れながら、車なしの一人旅にはハードルが高いのもまた事実。実現する機会は一生ないんじゃないかと思っていた夢の奥鬼怒温泉郷を、梅雨入り直前のグループ旅行にて訪れることができた。記念すべき奥鬼怒の1湯目が本記事でレポートする「加仁湯」である。

奥鬼怒温泉郷・加仁湯へのアクセス

女夫渕駐車場までの長い道のり

まず奥鬼怒温泉郷はメジャーどころの鬼怒川温泉とは全然違うという点を押さえていただきたい。奥鬼怒は鬼怒川温泉よりはるか山奥にあって、加仁湯・八丁の湯・日光澤温泉・手白澤温泉の4湯からなり、いずれも現地までマイカーで行くことはできない(環境保全のため)。

日光東照宮のあたりから、さらに車で2時間(!)ほどの女夫渕駐車場というところまでが、マイカーで行ける限界だ。ちなみに女夫渕にも温泉施設があったものの、すでに廃業している。残念。

今回はメンバーに車を出してもらい、日光から霧降高原道路を通って観光スポット・大笹牧場を過ぎ、県道23号に入って鬼怒川を遡りつつ女夫渕駐車場を目指した。道路は1.5車線ほどの狭い幅で対向車が来るとすれ違いに苦労する。そんな道が10キロ以上も続くのだ。S字・ヘアピンカーブだらけだし、ドライバーは相当神経をすり減らしただろう。

送迎バスで山道を登る

女夫渕駐車場に着いて車を止める。たまたま余裕があったけど、ハイシーズンの休日なんかに来て駐車場が一杯だったらどうするのだろうか。一種の賭けだな、こりゃ。駐車場の脇には奥鬼怒の各温泉の説明板があった。
女夫渕駐車場 奥鬼怒温泉郷の説明板
ここから先は加仁湯もしくは八丁の湯に宿をとって送迎してもらうか、さもなくば遊歩道を1時間半ほど歩くしかない。加仁湯・八丁の湯への宿泊者以外は、日光澤・手白澤への宿泊者であれ、立ち寄り入浴者であれ、歩いて行くしかないのだ。キビシー!

我ら一行はこの日の宿泊先である八丁の湯の送迎マイクロバスに乗り込んだ。車は非舗装・急坂・急カーブと三拍子そろった山中の道をじりじりとしたペースで進み、30分ほどで八丁の湯に到着。あーやっと着いた。こいつはガチの秘湯ですわ…。

鬼怒川源流に沿って歩く

しかしまだ加仁湯じゃない。八丁の湯へのチェックインをすませた後で加仁湯への遠征を試みた。ちなみに八丁の湯のフロントで加仁湯の入浴券を100円引きで買える(800円→700円)。

八丁から加仁湯までは送迎バスの通った道を逆向きに歩いて10分とされる。我々の足だともうちょっと早かった。道に沿って鬼怒川の源流が並行しており、なかなかに秘境感漂う景色である。こんな感じ。奥に見えるのが加仁湯の建物。
鬼怒川越しに見る加仁湯

ある意味で熱い歓迎を受けた加仁湯の入浴体験

メインの第3露天風呂は熱め

加仁湯にたどり着くまでにずいぶん字数を費やしてしまった。それほどの秘湯だってこと。ただし当宿の施設自体はしっかりしている。山奥だからボロ宿ってわけではない。むしろ洗練感すらある。

入館してまずはメインと思われる第3露天風呂へ。脱衣所は男女に分かれているが、その先は共通の30名規模の岩風呂があるだけ。一応は中央にハーフ仕切りのようなものがあって男女別に区分けされたっぽい雰囲気はあるけど、目隠しはないし、相互に行き来するのも容易だ。つまりは混浴。

我々が行ったときは誰もおらず、途中で数名の若者(男)が来たけどすぐに出ていった。状況的には願ってもない独占状態なのだが、残念ながらお湯が熱め。あまり長くはいられなかった。

景観・泉質は文句なし

お湯の見た目は青みがかった白濁で、掲示された分析書に「含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(硫化水素型)、中性、低張性、高温泉」とあった通りの、いかにもな硫黄泉である。それが加水・加温・循環・消毒なしで源泉かけ流しにされているのだ。

しっかりタマゴ臭はするし、豊富な湯の花、広い岩風呂に山奥の景色、眼下には川、向こうに目をやれば流れ落ちる滝、うーん、なんとも素晴らしい。雪の季節に来ても最高だろうね。そういう雪景色のポスターも貼ってあるし。

それだけに熱めだったのが惜しい。もうちょっとぬるくて長湯ができれば…。源泉かけ流しの痛し痒しなところだ。ある程度つかったところで終了。

第3露天風呂に洗い場はない。他の露天風呂も同様で、洗い場を求めるなら内湯へ行くしかないようだ。今回は時間的な都合で内湯をパスして露天風呂だけに的を絞った。

泉質の違いよりも温度差がとてつもないロマンの湯

次に行ったのがロマンの湯と名付けられたミニ露天風呂。ここには一人用の大きさの石の浴槽が4つ並んでいる。それぞれは囲いで仕切られているから完全なる個室だ。そしてやっぱり混浴。個室タイプとはいえ通路から簡単に覗き込めるし、女性はちょっと勇気がいるね。

4つの浴槽には別々の源泉が注がれているってのがすごい。泉質名でいえば2つは第3露天風呂と同じ表記で、あとの1つがそこに「含硫黄」がないもの、残り1つが「炭酸水素塩泉」がないものだった。

向かって一番左の個室は白濁のお湯でぬるかった。ここはいいね。最高。

その隣は透明に近い。含硫黄がない泉質のやつがこれだろうか。入ろうとしたらとてつもなく熱い。熱めじゃなくてガチの激熱。床にあふれたお湯の通り道に足を乗せただけで飛び上がるほどだった。足の裏がいつまでもヒリヒリして、軽いやけどを負ったかのようだった。よって入れず。

その隣は白濁。これも激熱で入れず。

自己判断で加水せよ

右端の個室の浴槽には水道の蛇口から伸びるホースを突っ込んであり、水をドバドバ入れている様子。そのせいか見た目は半透明で温水プールのようなぬるさ。それがまた気持ち良い。ここは最高。

そのすぐ隣には謎の木桶浴槽も設置され、熱い透明なお湯がなみなみと満たされていた。我慢すれば入れなくはないが相当に熱い。水のホースを木桶の方に付け替えて少し冷ましてから入った。それでも熱い。

ロマンの湯は「熱かったら自分でホースを入れて調整しろ」という趣旨なんだなと解釈して、真ん中2つの激熱浴槽にホースを付け替えてどうにかしようとしたものの、おそらく源泉の投入量がすごくて(それ自体は結構なんだが)、なかなか温度が下がらない。この2つは結局最後まで入れる温度にはならなかった。

個室+滝をより近くで見られるロケーションとして素晴らしいポテンシャルを秘めたロマンの湯。両端の個室が最高だっただけに、中央2つもどうにかして入りたかったなあ。

こちらも熱いぞ、第2露天風呂

さて続いては第2露天風呂。ロマンの湯の手前の扉からサンダルに履き替えて行く。ここも脱衣所が男女別になっているだけの混浴。

浴槽は2種類あって、手前側にあるのは3名規模のサイズで透明なお湯。入ってみたら…うーむ、熱い。熱すぎて全身つかれないぞ。速攻で出ました。

あとは奥側の浴槽に望みを賭ける。サイズは6名規模といったところか。第3露天に似た青白系の濁り湯だ。すでに2名の先客が湯尻にいたため、我々は湯口に近いところを陣取ったら…熱い。常識の範疇ではあるが熱い。もう一息なんとかならんか。

やがて先客が立ち去ったのを見て湯尻へ移動。おお、ここらはまあまあだぞ。ふう、ようやっと落ち着いて入れたぜ。そのとき、ロマンの湯の方角から「あちっ!!」という叫び声が飛んできた。うんうん、そうだろうよ。みんなが通ってきた道だ。その激熱を心に刻みたまえ。


ぬるめのコンディションを夢見て、またいつか

第1露天は女性専用だから我々は入れない。最後に再びロマンの湯へ向かい、両端の最高の湯をちょっとばかり楽しんだ後、真ん中2つの温度を「やっぱりだめだね」と確認して加仁湯体験は終了。

秘湯らしい景観は最高。温度を抜きにすれば泉質も最高。だからロマンの湯の両端がぬるくて最高なのと第2露天の湯尻が適温でそれに次ぐ。他は熱いという印象が勝っちゃったなあ。

とくにメインの第3露天は、客観的に判断すればやや熱めの適温だから、本当はトータルで好印象を残すはずだったけど、あの激熱の記憶に引きずられて印象面で一緒くたにされちゃったのが気の毒といえば気の毒だ。

ただ本物の源泉かけ流しはどうしても、その時々のコンディションに左右される。違う日に行けば、また違った面を見せてくれるだろう。この秘湯中の秘湯を再び訪れるなんて気やすく言うことはできないが、最小限の希望だけは持ちつつ、熱き加仁湯を後にした。

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