うまい飯と熱いお湯と湯治場風情 - 角間温泉 福島屋旅館

角間温泉 福島屋旅館
湯田中渋温泉郷といえばどうしても湯田中温泉と渋温泉のツートップが有名だが、実際は9~10の温泉地からなる総称である。角間温泉はその中のひとつ。※上田にも同じ名前の角間温泉があるけど、本記事のは山ノ内町の角間温泉。

リゾートチックな大規模ホテルなどはなく、旅の華やいだ空気感とも無縁。逆に静かな山間の集落といった雰囲気で、人により好みがはっきり分かれるだろう。自分には好物だ。

お世話になった福島屋旅館はおひとりさまOKで(たぶん角間はOKの宿が多い)、食事の評判が良いので泊まってみた。山菜を中心とした品々は派手さはなくても味付けが絶妙で確かにうまい。そしてお風呂はかなりのあつ湯。自分はぬる湯派なんだけど、でもなんだか印象に残る魅力があった。

角間温泉「福島屋旅館」へのアクセス

湯田中駅から結構歩く

まず車で行く場合。スキーなんかで志賀高原へ行く人にはおなじみのパターン。東京方面からだと上信越道・信州中野ICから一般道を少し北上して国道292号に入る。この国道にはICという概念があり、佐野角間ICで下りる。あとは国道から付かず離れずの県道356号を進むと角間温泉の近くまで行ける。

今回は鉄道一人旅なので長野電鉄・湯田中駅からの歩き。駅前の楓の湯に立ち寄り入浴した後、角間温泉を目指した。夜間瀬川→角間川沿いの最短コースを取れば30~40分で着くところ、あえて湯田中~渋の温泉街を見物しながらぶらぶら歩いたので、結果的に1時間を軽くオーバーした。初見ゆえ少し道に迷ったのもある。

渋温泉街中間点の和合橋を渡って横湯川対岸へ。橋の上から湯田中駅の方向を見ると、まだまだ雪の残る山がくっきり。方角と形状から高妻山・黒姫山のようだ。
和合橋から湯田中駅方面を望む

渋い雰囲気の静かな温泉地

恥ずかしながらこのあたりから道がわからなくなってきた。スマホの地図アプリを頼りに行きつ戻りつ、なんとか角間川に取り付いて橋を渡った。頭上高くには国道292号が通っている。ここから最後の関門・上り坂が待っている。道を間違えて引き返す羽目になるとダメージでかいから慎重に地図を確認しつつ登っていった。

ようやく角間温泉に到着。いきなり目に映る越後屋旅館・ようだや旅館の建物が渋すぎる。渋温泉以上に渋い。こういう宿にも泊まってみたいですね。これらと道を挟んだ向かいに福島屋旅館がある。
角間温泉(越後屋旅館・ようだや旅館)
ご当地にあるのは他に数軒の旅館と共同湯と民家が少々。土産・飲食といった観光客目当てのレジャー要素は見当たらない。そぞろ歩く人は皆無、走る車もめったにない。ただただ静かな温泉地であった。こういうの好きな人はハマるに違いない。


大湯が目の前というナイスな部屋

ではチェックイン。案内されたのは1階の10畳+広縁のトイレ付き和室(トイレなしの選択肢もある)。古くささは一切なく管理状態は良好で、広さの面でも一人旅には十分すぎるくらいだ。こりゃーいいや。布団は最初から敷いてあった。
福島屋旅館の10畳和室
シャワートイレと洗面台は新しい感じで大変快適。金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiフリースポットあり。当時は暖を取るにはエアコンで十分だった。窓の外は角間温泉のメイン通り。
窓の外に見える大湯
共同湯の大湯が目の前にバーン、その奥にようだや。わざと斜めのアングルで撮ったけど、真正面を向くと右手の越後屋も視界に入る。いやあなんとも渋い光景。あまりに絵になるので日が暮れるまでは外が見える状態にして借景した。互いに覗きあってるみたいだから、と気になる方は、当然ながら障子やカーテンで遮ることもできる。

館内に自販機はなく、風呂あがりのビールをお願いすると大瓶と一緒に持ってきてくれたのが、シャキシャキした漬け物(大根?)。これがピリ辛でやたらうまい。ビールのつまみに最適、というか、こいつだけでご飯何杯もいけそうな優れものだ。夕食本番への期待が一気に膨らんだ。

いつもは座椅子でスマホを見て過ごすことが多いのだが、今回はパターンを変えてみようと、布団にもぐり込んでみたり、ソファーに腰掛けて渋い景色をチラチラ見たり。ながらでやることはスマホじゃなく読書なんだけど、むしろいつも以上にダラダラ感があって相当リラックスできた。


まさにガチンコ。気合の入る“あつ湯”

これは…聞きしに勝る熱さ

大浴場は地階にある。階段を下りて廊下を奥まで進むと…おー、昔懐かしの温泉卓球ってやつだ。
大浴場前の卓球コーナー
この卓球コーナーに続いて男湯女湯の入口がある。時間による男女の入れ替えはない。入れ替える意味もあるまい。壁に貼られた分析書には「ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。

大浴場とはいえ宿の規模相応でそんなに広くないし露天風呂もなく内湯のみ。湯治系としては順当なところだろう。洗い場は3名分。浴槽は3名、頑張れば4名いけるサイズで、見るからに源泉かけ流し。浴槽の縁からは無色透明のお湯があふれ出て、時おり排水口に吸い込まれるゴボボという音を立てている。

湯口とは別に加水するための蛇口と湯もみ棒が置いてあった。相当熱いんだろうな。緊張しながら浴槽のお湯を桶ですくい取ってかけ湯をする…アッチーーー!!!…いやこれまじ熱いって。やけどするほどとはいわぬがかなりのあつ湯。

ビリビリくる激熱の湯にチャレンジ

大丈夫かなあ。入れるのかなあ。おそるおそる足を浴槽に突っ込んでみた。つま先でさえ一瞬も浸けていられないほどの熱泉というわけではなく、膝下までは入りました。いったん出てから湯もみをし、今度は腰まで浸かった。すねにビリビリと電気ショック風の刺激を感じるほどの熱さ。

どうする、加水するか?…いや、もう少しチャレンジしてみよう。ゆっくりゆっくり肩まで沈めていった。ふう、どうにかなるもんですな。

全身浸かって数秒たつと、不思議なことに足と腕にビリビリきていた刺激がスゥーッと消えた。熱いやばい早く出ないと、という焦りも消え失せ、しばらくこうしていてもいいかなと前向きな気分になるのだった。なんなんですかね。ツンデレの温泉?

もちろん熱さを感じるし、ウンウン唸りたくなるし、現実的に長時間入りっぱなしはできない。それでも、いったん浴槽の外に出て一息入れてからまた浸かる、というのを何度か繰り返して、30分近く滞在することになった。5分で出ましたとはならなかった。

アトピーに効く温泉

熱さを錯覚したのかもしれないが温泉が効いてくる感じは確かにあった。…冬の間に右手の人差し指と中指に違和感が出て曲げにくくなり、両指の中ほどに赤い斑点が発生していた。おそらくドアに指を挟んだときの内出血。さもなくば、しもやけ・あかぎれをこじらせたか。

それが久しぶりの温泉旅行第1弾(ひとつ前の山梨旅行)で違和感がなくなって軽やかに曲がるようになり、今回の第2弾で赤斑点がほとんど消えてくれた。すばらしい。世間の一般評価でも角間温泉はアトピーに効くといわれている。

ちなみに湯口の脇に枡が置いてあるのを見ると飲泉できるようだ。このご時世なので、温度に注意しながら手のひらに源泉をためて一口すすってみたら、苦味はなくてわりと飲める。

貸切風呂は普通の熱さらしい

当湯は短時間を回数多く入るのが向いている。風呂あがりには肌がゆでダコのように赤くなっていることだろう。全身非常によく温まるので、部屋に戻ってもエアコンを温度高めにガンガンかける必要はなかったくらい。文字通りホットな温泉だ。

なお、ネットで調べた範囲だと1階にある貸切風呂は極端な熱さではないらしい。また、宿泊者なら利用できる大湯もまあまあの温度っぽいから、これらにチャレンジしてみる手もある。大浴場で加水蛇口を使ってもいいけど。

そういや貸切風呂って自由に使ってよかったのか、別料金とか予約とか必要だったのか、よくわかんないままだった。結局ずっと大浴場へ行ってたな。大湯へも行かず。大浴場のツンデレ湯で満足してたので。


楽しみにせざるを得ないレベルの食事

夕食の味付けがうますぎる

福島屋旅館の食事は朝夕とも部屋食。おじさんも過去の失敗から学んでいたから、風呂あがりにビール大瓶を1本飲んだ上で夕食にもう1本飲むことはしない。お腹が膨れすぎて苦しくなっちゃうからね。冷酒をちびちびやることにしました。お料理はこのような感じ。
福島屋旅館の夕食
時季とタイミングの運に恵まれればジビエ料理が出てくるそうだけど、今回は残念ながら無し。蓋付きの鍋は確か牛肉を使った料理。ホイルの中身はお魚。それでもふだん口にしない山菜や馬肉があって頼もしい限り。

そばを揚げてキノコのあんかけにしてあったり、ひとくち海鮮丼的なやつには通常のイクラと並んでニジマスの卵のイクラが入ってたり。へー。初めて見たかも。

素材のみならず味付けや手の加え方がお見事で感心しきり。お酒が進む進む。グルメ評論家のような言葉を並べるセンスは持ち合わせてないが、さすが食事がうまいと評判になるだけのことはあった。春本番の山菜群とか秋のキノコとか、旬にはまるとどんなレベルまでいっちゃうのか、想像するだけでもおそろしい。

量の面でも多い方だと思う。締めのご飯は何かの混ぜご飯になっていて(すいません詳細は忘れました)、超うまかったのをはっきり覚えてるのに、お腹いっぱいでだいぶ残してしまったのは痛恨の極み。

朝も大変よろしい感じ

朝食は7時半と8時から選べて8時にした。菜ものを中心としたキャスティング。だが、それがいい。
福島屋旅館の朝食
蓋付きの鍋の中はベーコンエッグかその近親系だったはず。前夜の満腹感がまだ解消しきれていなかったこともあり、ご飯をおそるおそる少量ずつよそいながら食べていった。腹持ちはかなり良い。この日は家に帰る日だったのだが、移動途中で昼食をとる必要などまったくなかった。

朝早めに起きて風呂に入り、こうした朝食をゆっくりいただくと、労力や時間の最小化に徹するいつもの朝とは比べ物にならない贅沢な時間だと実感する。これだから温泉旅はやめられませんな。さて、チェックアウト前に最後の入浴だ。

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ぬる湯派の自分が泊まっても当たりだと思える良宿だった。これは想像だけれども、料理についてはパターン化されてなくて、その時に合うものを最もおいしくなるようにアレンジして出してくれているような気がする。季節を変えてまた来てみたいものだ。

角間温泉の雰囲気も良い。他の旅館や大湯を含めてまだまだ深堀りしがいがありそうだ。そんなことを考えつつ、帰りは角間川を見ながら最短コースを湯田中駅まで歩いた。