雨の隠れ宿で一人、しっぽり温泉 - 4度目の栃尾又温泉 宝巌堂

栃尾又温泉 宝巖堂
自分は定宿を持たない派である。宿に限らず温泉地まで概念を広げてもいい。少なくとも今は、お気に入りの決まった場所をぐるぐるローテーションするよりは、あちこち体験してみたいと思っている。

ただし例外的にごく少数の、なぜか何度も訪れてしまう温泉地や旅館が存在する。その一つが栃尾又温泉であり宝巌堂だった。温泉にハマるきっかけとなった最初の旅先だから、一種の刷り込み効果だと言われればそうかもしれない。

あー、もう細けえことはいいんだよ。とにかく2019年の晩秋も2泊しました、まる。

栃尾又温泉「宝巌堂」へのアクセス

なぜかいつも雨の小出

どうしよう。奥湯沢の貝掛温泉と同様に訪問4回目(記事としては3つ目)ともなると、新規性のある情報提供というのはなかなか難しく、どうしても過去と似通った体験談になってしまう。

そこで重複だの冗長だの悩みだすと何も書けなくなるので、開き直ってやりたいようにやらせてもらいます。

旅の2日目、長野県上田から新潟県浦佐へ転進したおじさんは浦佐温泉「てじまや」に立ち寄り入浴した後、上越線で小出駅までやって来た。天候は雨。小出に着くといつも雨。小出には雨の思い出しかない。

バス便の時刻が変わってた

ここから栃尾又温泉行きのバスに乗る。以前は14時チェックインにちょうどいい便があったのに、なくなってしまった。午後イチのバス便に乗ると13時チェックインとなる。それには間に合わないとすると次は16時チェックイン向けの便。なんてこったい。

約30分で終点の栃尾又温泉に着いた。台風19号の被害が気になっていたのだが大きな爪痕は見当たらず、ひと安心。のちに聞いた話だと当地はまあまあ大丈夫で、小出の街の方の魚野川まわりは被災したところもあったようだ。

周辺の紅葉は今まで来たうちでは一番いい具合。はるか崖下を流れるのは温泉湧き出す佐梨川。
紅葉の佐梨川

少しずつ進化を遂げている館内

生まれ変わった休憩室

ではチェックイン。昨年までの思い出通り、どこも変わってないな。と思ったらフロント横の本や飲み物が置かれた湯あがり休憩室が第2食事処になっていた。
第2食事処(旧休憩室)
では休憩室はどこへ?…2階の一部屋が改造されて休憩室に変身。以前よりもゆったりしたつくり、かつ大きく取られた窓のおかげで明るい開放感がある。廊下をはじめ共有スペースの床材に桐が使われているのがいいやね。
新休憩室
客室はどこも画一的ではなく、逆にそれぞれ大きく個性が違い、予約時に好みの部屋を希望できる。毎回違う部屋を試してみる常連さんもいそう。なのに自分はいつも同じ部屋を取ってしまうのは、なぜなんだぜ。
宝巖堂 8畳和室
おひとりさま優先の8畳和室。別途で広めの水回りスペースがついている。シャワートイレ・洗面台・ドライヤー完備。電気ポットがあり、お茶だけでなくドリップバッグコーヒーなんかも用意されている。

上の写真を見ての通り、こたつがもう出ていた。加えて強力なファンヒーターもある。夏向けにはエアコンもある。冷蔵庫や金庫はない。貴重品は封筒袋に入れて預かってもらう方式。

まったりするには最高の環境

ウェルカムお菓子のせんべいとクッキーは翌日のお昼ご飯にするから大事に取っておく。
ウェルカムお菓子
Wi-Fiは1年前と同じくちと重い。ばりばり通信したければテザリングの方が良いだろう。それもおそらくキャリア・機種次第だが。

外の景色はこんな感じ。季節的にカメムシ・てんとう虫が多いため窓は開けられない。閉め切ってもてんとう虫は結構入ってくるけどね。大半は動かずぐったりしているから備え付けのガムテープで捕獲しよう。ときどきカメ公が混じっているのが油断ならない。
窓からの景色
相変わらず一人でまったり過ごすには最適な環境だ。いやー、馴染むわー。


これがついつい行ってしまう栃尾又温泉だ

外湯文化風の3浴場

過去記事の繰り返しになるが、栃尾又温泉では3軒ある旅館(宝巌堂・自在館・神風館)が共用する形で「したの湯」「うえの湯」「おくの湯」という3箇所の浴場を利用する。外湯文化の湯治場みたいなイメージと言えばいいのかな。

宿泊者専用で日帰り入浴は受け付けてなかったはずだが、最近は自在館にて日帰り利用可との情報もチラホラ見かける。平日昼のみとか要予約とかの制限はあるっぽいから、少なくとも飛び込みで行くのはやめた方がいい。

日替わりで「うえ+したの湯」/「おくの湯」の男女がスイッチする。着いた当日は男湯=おくだった。

ひたすらに自分と向き合う温泉

入浴体験の詳しい描写は過去の栃尾又温泉訪問記を参考にされたい。とにかく特筆すべきは、大変結構な「単純弱放射能温泉、弱アルカリ性、低張性、低温泉」のぬる湯を源泉かけ流しにしていること。体温よりほんのわずかに低いくらいの温度だからいくらでも長湯できる。デフォルトで1時間といっても過言ではなく、もっと長く粘る客も数知れず。

自分も2泊する間に1時間浴を何セットもやった。2時間浴も1回やったし、90分浴もやった。全然無理してないし、ここはそういうところだからと流されたのでなく、自分がやりたくてやっている。

そしてここ重要。浴場内の静けさが格段に徹底している。大声で騒がないのは共同浴場の一般的なマナーだとしても、周囲の迷惑にならない程度の声で会話するのはどこでも普通に見られる。自分も他の温泉地へグループで行けば若干言葉を交わす。

栃尾又温泉ではまったくそんなことがない。「こちらは初めてですか?」から始まる見知らぬ者同士の会話なんていう、人情・ふれあい的な切り口で称揚されがちな光景さえもない。

誰もがただ静かに温泉に浸かりたいのだ。目を閉じた瞑想状態の客も多い。大きなアクションをしたり声を出すと明らかに周囲から浮いてしまう環境で、長時間入浴するからずっと同じ顔ぶれが互いに近くにいながらも、ひたすら黙ってお湯と自分の世界に浸りきっている。いやーすごいわ。

合う合わないが極端に分かれる

ここから精神世界の話につなげたいわけではないので、念のため。各自の頭の中はわからない。中には悩みや欲望がドロドロ渦巻いてる人がいるかもしれない。それでも外見上は無我の境地へ至ろうとする者たちが並ぶ禅道場のようだ。

したがって「温泉だヤッホーイ!」とハイな気分で盛り上がりたいタイプの人は向いてない。よそへ行った方がいい。「あ゛ー、効くゥー、ふぃー」に続いて鼻歌が出ちゃう人も向いてない。

あと体操やら派手なアクションやら、「こいつが俺のジャスティス!」ばりの譲れないルーティーンを持ってる人も向いてない。ていうか自分ちの風呂でいいだろ。そして仲間内で語らいたい人が一番向いてない。新橋のガード下へ行こうね。

滞在中にそういう向いてない系に出くわしたのは実質ゼロに等しかった。わりと常に誰かがいるレベルで人の絶えない浴場で、これほどの徹底ぶりは珍しくも貴重である。


今年も湯治プランでウハウハの食事

日本酒とともに味わいたい

今年も湯治プランにしたので、食事はお膳が部屋まで運ばれる。食べ終わったら廊下に出しておくと回収される。※湯治プランは2泊以上限定、布団の上げ下ろしはセルフでお願いします。

1泊目の夕食がこれ。お酒はなかなか地域外に出回らないという緑川の純米。
宝巖堂 夕食その1
お酒の銘柄の札と料理のお品書きが付いてくるようになったね。典型的な旅館の会席風10品ドーン!を見慣れていると地味に感じるかもしれないが、そういうところで勝負してないのがむしろ良い。

ふだんの生活圏で見かけない食材や調理法もあり、食器も凝ってるし、日常の家庭料理ともまた違って旅情をも十分に味わえる。

翌朝がこれ。さわやかな朝の空気にぴったり。
宝巖堂 朝食その1

もっと胃袋がでかければ、と悔やまれる

2泊目の夕食のお供には、これまた地域限定の八海山・魚沼で候。限定ものに弱いおじさん。しかし上には上がいるもので、霞しぼり緑川という銘柄は年に一度(たとえば3月2日だけ)しか出荷されないんだって。勿体なさすぎて手が出ません。
宝巖堂 夕食その2
毎度のことながらどれもこれもうまい。通常プランについてだと思うが食事内容に対する世間の口コミ評価はおしなべて高い。湯治プランもメニューは違えど変わらぬクオリティなのだろう。

魚沼だけに当然お米もうまい。残念なことに、このところすっかり食が細ってしまい、胃のチャクラを開いても以前ほどたくさん入らなくなった。せめて一口ずつゆっくり噛みしめて味わうことにする。

そして最後の朝。あー、もう終わりかー、あっという間だなー、と思いながら食べるのがいつものパターン。サザエさん症候群的な。
宝巖堂 朝食その2

雨が似合う温泉

宝巌堂について3記事目。もう書くことがないと思ったら結構あったわ。気のせいかもだけど、風呂・寝る・読書・ネット・飲む・ボーッとする、何をするにしろ、その時やりたいように好きにできる空気感に満ちているのがいい。他所よりもその感が強い。

最初に到着したときは雨だった。次の日は晴れて、帰るときにはまた雨。なんでか雨が多いんだよな。記憶の中に浮かび上がる栃尾又温泉はいつも雨とともにある。
雨の栃尾又温泉
そうして今日もまた雨の中で静かに湯治客を待っているに違いない。