何もないから価値がある:霊泉寺温泉「松屋旅館」再び

霊泉寺温泉 松屋旅館
何もない。このキーワードがぴったり当てはまるのが上田市(旧丸子町)・丸子温泉郷の一角を占める霊泉寺温泉だ。行けばわかるが本当に何もないんですって。

それは良い意味であって褒め言葉である。おかげで3年近く前に霊泉寺温泉の松屋旅館に泊まった時の印象がいまだに強く残っていた。

そんな折にあの2019年台風19号。氾濫する千曲川や上田電鉄の落ちた鉄橋の映像がニュースで流れるのを見て、「霊泉寺温泉は大丈夫だろうか」と気になって行ってみた。単に再訪したかったというのもあるけど。

霊泉寺温泉「松屋旅館」へのアクセス

上田駅からバス、さらに徒歩か送迎

霊泉寺温泉の最寄り駅は北陸新幹線も停まる上田。ここから鹿教湯温泉行きのバスに乗って宮沢で下車する。丸子経由のバスなら約1時間、平井寺経由なら約30分。本数は少ないので注意。

自分は高速バスで別所温泉まで行き、あいそめの湯に立ち寄り入浴したり、お寺めぐりをしたりして、上田電鉄下之郷駅前から平井寺経由のバスに乗った。

懐かしの宮沢停留所に降り立つ。おお、ついに再び来たぜ。目の前には3年前と同じく霊泉寺温泉の壊れた看板が立っていた。あー、やっぱり直ってないか。
宮沢バス停前の看板
バス停から当温泉までは1.5km・徒歩20分程度は離れている。看板の案内によれば、近くに設置された電話から各旅館に電話すれば迎えに来てもらえるらしい。この時はバスを降りたらすでに旅館のご主人が待っていた。どのバス便で着くかを予約時に伝えてあったからかな。

台風19号の被害について

こうしてスムーズに松屋旅館へ到着。なお台風19号の様子について尋ねたところ、温泉地じたいは前を流れる霊泉寺川が溢れそうだったけどなんとか耐えた。もう少し下流だと溢れたところもあったとか。また2日あまり停電が続いたらしい。

台風から1ヶ月以上が過ぎ、上田市街・別所温泉・霊泉寺温泉ともに平静さを取り戻したかのようにも見えたが、車窓から見たあの千曲川の鉄橋は落ちたままだし、ここ霊泉寺温泉も広場だったはずのところが崩れた土砂の一時置き場になっていて、そこかしこに爪痕は残っていた。

ひとまず松屋旅館の建物は変わらず健在だったのでホッとした。


相変わらずレトロ感いっぱいの部屋

今回は6畳部屋で

ではチェックイン。レトロな冊子型の宿帳に記名して部屋へ案内してもらう。前回が4.5畳の部屋だったのは年末の繁忙期でそこしか空いてなかったから。今回は広い選択肢から選べたので奮発して6畳の部屋を予約した。
松屋旅館 6畳客室
前回の体験談の記事と比較すると、まんま同じつくりで6畳に広げた感じですな。布団が最初から敷いてあり、板の間部分にテレビ・空の冷蔵庫・ファンヒーター・タオルハンガー。

あと金庫はある。晩秋といえどもまだコタツは必要ない。頭上のエアコンだけで十分に暖かくできた。

霊泉寺温泉まで来て賑やかに過ごしちゃいけません

壁紙をはじめ室内全般くたびれてきているのと、備え付けのティッシュがなくて要持参なのと、タオルがリユース品(持ち帰っちゃだめよ)なのと、内鍵方式のため部屋を空ける際に外から鍵をかけられないので、そこは承知の上でお願いしやす。個人的には全然気にしない。

何もない霊泉寺温泉にWiFiなどいらぬ。テザリングでカバーしよう。自分のスマホのアンテナは十分に立った。窓の外は当館の駐車場と共同浴場。季節的に紅葉がきれいであった。そういえばカメムシ大発生でもおかしくない時期のはずなのに、部屋では1匹も見なかったな。
窓からの眺め
しかし本当に静かだ。夜、帳場に人の気配がなくなった後なんて時が止まったかのように、シーーーーーーーーーンとしてる。霊泉寺温泉には音すらもないのだ。ここに来たらテレビ番組やスマホの動画を見たりしないで、あえて静寂を味わってみたいところ。


記憶していたよりもずっと強力だった温泉

昔のホテルっぽい一角にある大浴場

客室のある一角はレトロ感たっぷりの昭和な木造建築だった。田舎の民家っぽい雰囲気もいくらか混じっている。
松屋旅館 廊下
大浴場はここから半フロア上っていく。するとちょっと雰囲気が変わって、昭和なホテルっぽさが出てくる。宴会場なんてのもあるし、昔はもっと客数の多い、ホテル的な運営だったのかな。
大浴場のある建物へ続く階段
大浴場はもう1フロアだけ階段を上るとトイレ、男湯、女湯の並びでドアがある。さらに「↑屋上」という張り紙もあるが、屋上には出られません(たぶん)。

まぎれもない源泉かけ流し

この日の泊り客は自分だけだったんじゃないか。大浴場にいつ行っても誰もいなかった。100%完全なる独占状態であった。いやっほう。照明は入る時に自分でつけて、オフにして出ましょう。

脱衣所の分析書には「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」とあった。加水・循環・消毒なし、冬場に少し加温するかどうかくらいの、源泉100%のかけ流しだ。いやっほう。

浴室に入るなり温泉らしい匂いがモワッとしてきた。旅館の規模相応の広さでカランは2つ。四角いタイル張り浴槽は6名サイズ。湯口からわりと多めに源泉が投入されている。入った分だけ浴槽の縁からオーバーフローしたお湯が床の上に流れを作っていた。

めっちゃ効く温泉に湯あたり寸前

浸かってみるとぬるめの適温。40℃くらい? しかし湯口の上に置かれた魚型の温度計を突っ込んでみると37~38℃を示した…うーむ、体感だともう少し高い気がするなあ。

たしかに世間的には霊泉寺温泉はぬる湯ということになっているし、前回の印象はもっとぬるかった。なんだかよくわからん。

もしかしてお湯の力強さのせいか。無色透明で柔らかい感触のお湯は、しかし作用が控えめであることと等価ではない。匂いを嗅ぐと石膏泉の特徴がかなりきつく匂うし、何かすごく効いてくる感じがする。ぬるくて柔らかいお湯のはずなのに、なぜか長く浸かっていられないのだ。

そういえば前回も浸かり放しってわけじゃなく休み休みで粘った気がする。ぬる湯だからとの思い込みから、印象をねじ曲げて記憶していたようだ。今回は湯あたりしたかと思いくらい強烈に効いた。それを体感的な熱さとして知覚したのかもしれない。こいつは本物だぜ。

それでも何度も入ってしまう

なんだかんだで4~5回入りましたけどね。朝にはカメムシが2匹ほど浴室に入り込んでいるのを見た。熱気がこもっているから外の寒気から避難してきたんだろう。そうら、もっと温まるがいい。と、たんまりお湯をぶつけてあげました。

なお、男湯と女湯はすりガラスで仕切られている。べつに見えやしないし混浴的な雰囲気も全然ないけど、あらかじめご承知おきください。


十分すぎるほどに十分なお食事

鯉とキノコづくしの夕食

松屋旅館は朝夕とも部屋食になる。お膳で運ばれてくる一度出しだ。夕食は17時半頃だった。鯉とキノコがたっぷり。
松屋旅館の夕食
まず目を引くのが酢味噌でいただく鯉の洗い。これだけでもキターーー!っていう気分になる。しかも味噌汁が鯉こくの粕汁仕立てときたもんだ。

そして2つの小鉢がキノコ。茶碗蒸しの中にも大量のキノコ。その他の品を含めて見た目以上に量が多くてオーバーキルされちゃう。もうやめて、おじさんの胃の空き容量はとっくにゼロよ。

イチジクだかザクロだかアケビだか、そっちの系統を漬けたようなデザートで締めて終了。こういう土地へ来て牛すきだの刺身だのを求める人もいないだろう。コスパ云々なんて話を持ち出さなくても十分に満足のいく内容であった。

朝食はおとなしめに

朝食は希望を訊かれて8時にしてもらった。前夜が食べすぎたので、おとなしめでちょうどいい。
松屋旅館の朝食
味噌汁は一般的な豆腐のやつ。ご飯は夕食同様にたんまり入っており、さすがに完食はできなかった。

お茶をよく飲む場合は、朝食のタイミングで茶葉や急須を新しいのに替えてくれるみたい。自分は全然飲まなかったため前回の記憶とあわせての推測になるが。


何もない、だがそれがいい

チェックアウト精算すると、夕食時のビールと暖房費込みで1万円でお釣りが来た。相変わらず半端ないお得感だ。しかも前回と同じくお米をお土産にいただいた。それから車でバス停まで送り届けてもらい、ラストの記念に霊泉寺川と内村川の合流地点を撮影。立て札によれば美ヶ原の方角とのこと。
霊泉寺川と内村川の合流地点
反対の方角は浅間山と書いてあったな。この時は見えず。すっきり晴れていれば見えるのかも。

こうして再訪を果たした霊泉寺温泉は、やっぱり何もなかった。だがそれがいい。商売は繁盛してもらわないと困るが、雰囲気はずっと変わらずにいてほしいものだ。そして旅の1週間後にはさっそく直筆のはがきが届いた。「春四月末にはタラの芽 コシ油の山菜が…」だって。そっちもいいよなあ。