もう何年も前のことになるが、よく一緒に温泉旅行するメンバーが単独で山口県を旅行した際、「一の俣温泉がとてもヌルヌルするお湯だった」と言っていたのがずっと頭に残っていた。ちょうど今回の遠征で2泊目を山口県西部にすると都合が良かったので、一の俣温泉を体験してみることにした。
幸いにも「一の俣温泉観光ホテル」におひとり様OKのプランがあったし、旅行予約サイトの割引サービスを駆使すれば予算的にもどうにか収まりそうだった。よし決めた。
…うおお、なんじゃこりゃあ、たしかにヌルヌルするぞ。強いアルカリ性によるものかもしれない。それ以外は癖のない万人向きのお湯だった。ハード面・食事面は手堅い運営で良し。
一の俣温泉観光ホテルへのアクセス
長門市から向かう場合の注意点
鉄道利用ならJR山陽本線小月駅から旅館が運行している無料シャトルバスを利用するのが最も無難(要予約)。自力で行こうとすると山陰本線滝部駅からの路線バスとなり、運行ダイヤのことや一部運休区間があったりして、苦労しそう。※運休区間は2025年9月下旬に復旧。
ここでぜひとも書き記しておかねばならないことがある。俵山温泉から一の俣温泉へのドライブは、グーグルマップにせよカーナビにせよ、「県道38号(美祢油谷線)を北上→国道491号を南下」の最短ルートを提示してくるはず。しかしそれは罠だ。
伝説の酷道を体験する羽目に
R491に入るとすぐに急カーブだらけのくねくね道が始まる。地図で見てもすぐわかるレベル。まあでも大丈夫でしょう、国道だし…それこそが罠だ。
とんでもない。超絶とんでもない酷道だった。車1台通るのがやっとの幅しかない。待避所らしきスペースがところどころにないわけじゃないよ、たしかにゼロではない、理屈の上ではね。ガードレールはあります、形の上ではね。
路面は舗装されるも荒れていて、落ちた葉や枝が十分に片付けられていないため、それらが積もってさらに道幅を狭くしている。大木から垂れ下がった枝がフロントガラスにぶつかりそうだし、急カーブの連続で見通しは非常に悪い。そんな道を5~6km走らなければならないのだ。よく無事にクリアしたなあ。※対向車とのすれ違いを一度体験するというおまけ付き。
気になって後で調べたら、酷道マニアの間では有名な道だった。なんだよ~。早く言ってよ~。長門湯本方面から向かうなら、県道34号(豊田湖)→国道435号を通る南回りがはるかに楽でおすすめ。小月方面から北上する場合も、単純にR491を進むと貴飯峠という別の酷道区間を通る羽目になるから、県道34号を使うべきだ。
適度な規模感で設備面はオッケー
山口といえばふく
ではチェックイン。フロント前にお土産用のお酒コーナーあり。ふくのひれ酒だそうです。飲んでみたいけど結局買わずですいません。
ロビーとメインの売店がこちら。写真の撮影位置の背後くらいにコーヒーマシンが設置してあり、200円で各種コーヒーをいただける。※宿泊者は少なくとも朝食後であれば無料でいただける。
それほど大規模なホテルではなく、適度にコンパクトにまとまっている。古かったり経年してくたびれているような雰囲気は感じられない。
山口といえば鶏卵せんべい
案内された部屋は3階の9畳+広縁がわりの掘りごたつスペースからなる和室。布団は夕食中に敷いてくれる方式。
シャワートイレ・洗面台あり。金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。館内全般と同様に古さを感じさせる要素はなくて快適だった。ウェルカムお菓子は鶏卵せんべいという山口のおやつでうまかった。窓の外はこんな景色になっちょります。
もっと下に目を向けると一の俣川が見える。話は変わって、館内にビールの自販機はない。ルームサービスを利用するほか、フロントで350ml缶ビールを部屋付けで買うこともできる。
肌触りが記憶に残る一の俣温泉
強アルカリの硫黄泉
一の俣観光ホテルの大浴場は地下1階。エレベーターで下りていくと、次のような休憩処の前を通る。貸切風呂の入口もあったなあ。
すぐに日帰り客用のエントランスに合流して浴場入口が現れる。男湯と女湯は日替わりで入れ替わる。脱衣所にロッカーがあったかどうかなどの詳細ははっきり覚えてない。自分は普通の棚+かごを使ったはず。分析書をチェックすると「アルカリ性単純硫黄温泉」と書かれていた。源泉名は一の俣4号泉。
アルカリ性の温泉は珍しくないが、PH10.0にはちょっとびっくり。2桁の数字を示すところはなかなかないぞ。温度面では28.6℃の源泉を40.5℃に加温して提供しているようだ。あと加水なし、循環あり、消毒あり。
浴室はホテルの規模に見合った空間。平時なら嫌気が差すほど混雑ぎっしりになることはないだろう。新しさ・きれいさの面は水準級でとくに問題なし。洗い場は8名分。馬油のシャンプー・コンディショナーが置かれていた。
最大の特徴はやはりヌルヌル
長方形の内湯浴槽は横一列に並んで10名いけるサイズ。注がれるお湯は完全な無色透明。では浸かってみよう…うん、適温ですね。40.5℃と言われればまあそうかなと思う。お湯を観察すると湯の花や泡付きは確認できず。加えて無色透明だから見た目の特徴は強くない。
単純硫黄泉だから硫黄らしいタマゴ臭や甘い感じの匂いがするかなと思って嗅いでみたけど無臭だった。微弱な塩素臭がしなくもない程度。ただし夜や翌朝に浴室へ来たときには、ふっと焦げた匂いが漂ってきたような気がした。硫黄泉でそういう焦げ臭がするケースもあるのだ。ほんの一瞬だったけどね。あれは気のせいだったのか、それとも…。
最大の特徴はヌルヌルの感触だ。アルカリ性の温泉はヌルヌルするとも言われるから、PH10.0のなせるわざかもしれない。肌をさすったり両手をこすり合わせた時の感覚がおもしろくて何度もやってしまう。これはすごいですね。聞いてた話の通りだ。
しかしPH10.0の強アルカリともなれば、科学的に正しいかどうかはともかくとして、皮膚が溶かされるようなイメージを抱いてしまう。大丈夫なのかな。まあ実際は古い角質を除去してくれる効果がメインの美肌の湯なのであろう。
露天風呂ともう一方の浴場について
おっと、露天風呂もあったわ。露天エリアは1名用の打たせ湯と6~8名サイズの岩風呂からなる。お湯は内湯と同様。外気で冷めていればぬる湯派としてはありがたかったが、むしろ熱めだった。周囲は塀で囲われてて眺望はないものの開放感は十分。
翌朝起床後に行ってみたら男女が入れ替わっていた。前日の男湯を鏡に写したかのように、完全に左右対称に作ってあるんじゃないかと思ってしまうほど、両者に違いはない。お湯の特徴も温度もほとんど一緒だった。露天風呂がややぬるかったかなー、くらい。
なお、当館に宿泊すると、お隣の姉妹館=一の俣グランドホテルのお風呂を利用することもできる。フロントに申し出るとチケットをくれる。せっかくのチャンスだったが、精力的に湯めぐりしてきて気だるさを感じ始めていたこともあり(「だうーん現象」と個人的に呼んでいる)、体調トラブルなく無事に旅行をやり切ること優先で見送った。
満足のいく旅館飯
贅沢な内容・ちょうどいい量の夕食
一の俣観光ホテルの食事は朝夕とも1階の食事処で。いくつか選べる時間帯から18時を希望して夕食の席につくと、このような品々が並んでいた。
おおー、アワビがあるじゃないか。贅沢ぅー。火をつけてできあがった頃にちょうどいい大きさに切ってくれる。寄せ鍋もうまそうじゃない。ほかに茶碗蒸しが出てくるのは明らかとして、ざっと見た感じ、この量なら少食な自分でも対応できると確信して、中ジョッキを注文した。
お腹が苦しくならないから満足感だけが残ってちょうどいいですね。ほかのお客さんは高齢者中心だったので客層を考えてもベストでしょう。※暗に量が少ないと言いたいのではなく、文字通りちょうどいいと好意的に評価している、念のため。
と思ったら、酒が進む追加メニューあり
しかしそこへ新たな刺客が送り込まれた。アラカブ(カサゴ)の唐揚げだ。
でかくてうまいという悪魔のようなメニュー。パリパリ食感がたまりませんな。ビールが進んでしまい、余らせ気味だったビールがあっという間になくなった。最後にご飯とデザートで締めると予想以上にお腹いっぱいになった。
余談としては、割りばし袋の裏にホタルの歌が印刷してあった。この地域ではゲンジボタルが見られるらしい。時期になるとホタル舟の川下りが運航される木屋川まで夜の送迎サービスがある模様。
ベーシックな朝食とコーヒーサービス
朝も同じ場所で。いくつか選べる時間帯から7時半を希望して席につくと、このような品々が並んでいた。
朝は割りばし袋の裏にホタルの歌がなかったような…しかしわざわざ歌の有無で2種類の袋を作り分けるとは思えないから見落としただけかも。ご飯はお櫃から好きなだけよそえる。頑張っておかわりしたけどお櫃の半分も消費できなかった。弱い。
ベーシックな内容ではあるが、豆乳から作る豆腐は濃厚な味わいで結構でござんした。食後のコーヒーは抜かりなし。最初に紙コップを渡され、ロビーのコーヒーマシンをご利用くださいと説明される。マシンには料金200円と書いてあるけど実際は不要ですとのこと。ロビーで優雅にエスプレッソをいただいた。
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一の俣のヌルヌル温泉を体験するにはちょうどいい宿。設備・サービス・食事と全方位に手堅いから安心感がある。お隣の姉妹館=一の俣グランドホテルとの違いは正直わかってない。調べてみて自分に合いそうな方を選びましょう。
ホタルの時期は予約が取りにくいかもしれない。今回は1ヶ月ほど早かった。だからおひとり様でもOKだった可能性はある。最後に念を押すと、酷道マニア以外はくれぐれも国道491号の狭隘区間を避けるルートで向かわれたし。