3泊4日の福島・栃木旅のラスト1泊は那須八湯のひとつである大丸温泉に。ただし大将格の大丸温泉旅館は予算の都合でちょっと手が届かず、どうしたもんかと思っていたら近隣に「旅館ニューおおたか」があるのを知った。大丸温泉を引いて源泉かけ流しでやってるみたいだし、お手頃な一人泊OKのプランが出ているし、穴場なんじゃないか。
那須ロープウェイ山麓駅の手前にあり、標高1300mという結構な高地。当時は雲が厚かったけど晴れていたら下界の展望がすばらしいんだろうなと思うロケーションだった。温泉は単純泉といいつつ意外と複雑な感じで奥が深い。そして食事がお値段以上のクオリティ。牛ステーキはもちろんだけど、野菜がすこぶるうまい。
旅館ニューおおたかへのアクセス
那須高原の最奥部を目指して登る
鉄道利用だと東北新幹線の那須塩原駅、または在来線なら黒磯駅で、那須ロープウェイ方面の路線バスに乗る。黒磯駅西口からで1時間弱。那須湯本温泉止まりの便はNGだぞ。
自分はどうしたかというと、微温湯温泉→甲子温泉大黒屋→那須塩原駅前温泉と湯めぐりして、今日の昼にやりたいことはやり切った。あとはニューおおたかへ行くだけだ。山登りドライブといってもバスが通る観光道路だし、くねくねカーブの坂が続くとしても、やたら狭い険道ってことはあるまい。
かつて訪れた那須湯本温泉を通り過ぎたら、カーブと傾斜がいっそうきつくなった。路面状態も荒れ気味に。でも泣きが入るほどではない、想定の範囲だ大丈夫。途中に吊り橋とか展望所とかいろいろあるようだったけど、今日はもうスルーして旅館に直行します。明日余裕があれば寄ってみよう。
車は県営大丸駐車場に止めましょう
休暇村那須を過ぎてまもなく大きな駐車場に着いた。曜日と時間の関係からか、車が全然止まってなくてガラッガラ。下界を望む展望台があったので行ってみると…
雲しか見えねー。まあこれはこれで見事な雲海ってことでいいか。ちなみに翌朝雲が取れてうっすら見えるようになった景色がこちらでございます。まだかなり霞んでいるけれど。
さて、事前の調査により当館には専用駐車場がなく、近くの県営大丸駐車場に止めるという情報を入手していた。このだだっ広い駐車場がそうだろうと判断して車を置き、目前のニューおおたかへ歩き出そうとした矢先、妙な違和感を覚えて念のため地図アプリで確認すると、ここは「大丸園地駐車場」という名前らしかった。
求める大丸駐車場はここなのかい、ここじゃないのかい、どっちなんだい(なかやまきんに君)。真相は脇道に入ったところにもっとコンパクトな駐車場があって、そっちが正解だった。早とちり、お恥ずかしい。
コンパクトで落ち着いた雰囲気の旅館
さり気なく自動化テクノロジー導入ずみ
旅館ニューおおたかは県営大丸駐車場の真正面(冒頭写真は駐車場入口から撮影した)。階段を上がって敷地内に入りましょう。雲が取れれば屋根の向こうにロープウェイ山頂駅が見える。
ではチェックイン。気合の入ったキラキラのリゾートホテルというよりは、気軽で地に足のついた雰囲気。個人的には落ち着くし好きですけどね。ロビーはこんな感じ。
奥に見えるのは食堂だ。左に見切れているのがビールを含めたドリンクの自販機。風呂あがりにここで350ml缶ビールを買って飲んだ。客室は2階に集まっており、廊下やトイレの明かりは人感センサーで自動点灯する。廊下奥の本棚に近づいたらパッと点灯した。
うまくいけば下界の展望が気持ち良さそうな部屋
今宵の部屋は8畳+広縁和室。座卓の座布団がぺったんこの正反対の膨らみタイプだった。布団は最初から敷いてあった。
もともと夏でも涼しい高地のためエアコンは付いてない。金庫あり、冷蔵庫なし、WiFiあり。ハード面はぴかぴかに新しくもないが、古くてくたびれているでもなく、管理状態に問題ないので居住性は良好なり。トイレ・洗面所は共同。男子トイレは小×2+シャワートイレ個室1。
大丸駐車場を向いた部屋だったから窓の外の景色はこうなる。雲海が消えた翌朝の状態でこれ。
夏の晴れた日に避暑で来たら気持ちがいいのかなと思ってみたりする。
奥深さを感じさせるお湯を源泉かけ流しで
複雑な色みがある温泉
旅館ニューおおたかの大浴場は1階通路の奥。脱衣所や浴室は旅館の規模相応の広さ。脱衣所には棚だけがあって、服をしまうかごは通路の途中に積んである。掲示されている分析書を読んだら「単純温泉、中性、低張性、高温泉」とあった。分析書の申請者が大丸温泉旅館になっていて源泉名は相の湯だから大丸温泉を引いているのだろう。源泉かけ流しで提供してくれているようだ。
浴室の洗い場は2名分。奥には岩風呂風に作られた3~4名規模の内湯浴槽がある。オーバーフローしたお湯が床に流れ出している様はとても頼もしい。湯船を覗き込むと、ただの無色透明ではなく、青緑と呼ぶべき複雑な色みを呈した半濁りだった。青みの強いはまぐり汁を連想させるというか。
内湯浴槽はその3割ほどが浅く作られている。まずそっちに入ってあぐらをかく姿勢になり、へそ下までが湯に浸かるようにしてみた。うーん、熱い。いきなり全身ざぶんと浸からなくて正解だったな。熱くて身体がびっくりしちゃうよ。
熱めの内湯は効き目が強い
慣れてくれば大丈夫。ウンウン唸りながら・熱さに耐えながら入るほどの激熱ではない。普通の深さの方へ移動して普通の姿勢になってみた。あ゛ー効゛く゛う゛ー。さすがはまぐり汁、単に熱いからというだけではない、じわじわと浸透してくるような効き目を感じる。
はっきりこれとわかるような湯の花は見られず。泡付きも基本ないが、たまに家庭の一番風呂的な小さな気泡に気づくことはある。匂いにはちょっとだけ金気臭を感知した。※旅行中はまるで花粉症のように鼻がおかしくなっていたから話半分でお願いします。
長湯で粘るのは難しいタイプだが、ガツンと来る系の領域までは踏み込んでいないから、超短期決戦の湯というわけでもなく、複雑な奥の深さをしっかりと堪能できる。
眺望を楽しみつつ、ぼーっと過ごすのに向いてる露天風呂
脇の戸を抜けると露天風呂に出る。10名規模の岩風呂の周囲に草木が配された野天感のある環境になっている。しかも外に向けては多少の木々が立つほかは目隠しの塀などなく、眺望の良さが確保されたつくり。
露天風呂の温度はぬるめ。その気になれば長湯も可能なぬるさであり、個人的にはぬる湯派なので露天風呂に多くの時間を割くことになった。ぬるくなっていても奥深いお湯の特徴が消え失せてはいない。あーこりゃたまらんね。
露天風呂に使われている岩の表面は細かい凹凸や突起に覆われ、岩の上に腰かけて休憩しようとすると、お尻がチクチクします。気になったのはそれくらいかな。
他の客との兼ね合いになると思うけど、泉質や環境をみるに、おそらくおいしい空気を吸って静かにぼーっと温泉を楽しむのに向いているんじゃないかと思う。今回は夕方・夜・朝起床後の3回入っていずれも独占だったから、なおさらそう思うのかもしれない。
良い意味での驚きがある食事
夕食の野菜と牛ステーキが超うまい
旅館ニューおおたかの食事は朝夕とも1階食堂で。夕食は18時、朝食は7時半で固定。この旅で3泊した旅館すべてがこのパターンだったな。まあ自分のベストチョイスの時間帯に合致するから何ら問題ない。夕食のスターティングメンバーがこちら。
まず目に付くのがきれいに盛り付けられた野菜たち。白味噌(?)とともにいただく野菜が絶品なのよ。これだけでも来た甲斐があったと言いたいクオリティ。うわぁーやっべぇー。どれくらいうまいかって、迷わず行けよ、行けばわかるさ。
と強調したせいで影に隠れたかに見える牛ステーキも普通に主役を張れるレベルでうまい。お手頃宿でこれほどの料理に出会えるとは脱帽です。ちなみに蓋をされてるのは豚しゃぶ的な鍋だった気がする。
地酒セットとともにご満悦
まだあるぞ。サッと出てきたトマトのジュレは「冷たいうちにどうぞ」と促されていただいたところ、適度な酸味と涼感が口の中で広がる珠玉の小品であった。
お酒は地酒セットを注文した。銘柄を3つ選べるがよくわからんのでおまかせでお願いしたら、大那・東照・九尾をおすすめされた。東照はにごり酒。九尾の大吟醸らしい繊細かつ華やかな芳香もいいし、大那のはっきりした主張のある味わいも好み。
そんなこんなで満足度の高い夕食だった。デザートまで残さず完食できて、胃が苦しくなることもない適度なボリュームなのもポイント高い。
朝食にもハイレベルな野菜群
前夜の体験から朝食はどうしても期待のハードルを上げて臨んでしまうわけだが、こちらもなかなかでしたよ。
サラダは野菜のレベルの高さを証明するかのような出来ばえ。他であまり見ない特徴としてはトマト風味のスープ…ミネストローネってやつですかね。これまたうまい。何気に湯葉もあるよ。
左下の皿は冷静に見ればタケノコなんだが、なぜか「バナナのアレンジ物」に見えてしまい、デザートと思って最後まで温存しちゃった。お恥ずかしい。ちなみに蓋をされているのはハムエッグです。
ふと思ったのが、夕食も朝食もお皿とか器のチョイスがいいね。ちょっと洒落た気分がにじみ出ている。そこにスマートな感じの盛り付けがなされ、山の宿だからと素朴一辺倒で終わらせていない。やりますな。
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大丸温泉を体験できるお手頃宿だからと泊まってみた旅館ニューおおたか。お値段以上の満足度だった。湯質はいいし、個人の好みとはいえぬるめの露天風呂がいかにも頼もしい。そして食事は素材と味付けと見せ方がうまい。しかも地酒との相性バッチリ。なんだかとっても得した気分になっちゃった。大きな丸をあげたい。