険しい峠に湧く、やさしい足元湧出泉 - 甲子温泉 旅館大黒屋

甲子温泉 旅館大黒屋
福島県西郷村を東西に貫く国道289号甲子道路。甲子峠を越えて白河市と下郷町を結んでおり、大内宿からの帰りに通ったことがある。この甲子道路の沿線に、足元湧出のぬる湯で知られる甲子温泉・旅館大黒屋があることは以前から知っていて、いずれ行ってみたいものだと思っていた。ただし一人泊はハードルが高いっぽい。

ならば日帰りで利用させてもらうのはどうだろう。今回の旅行で福島市から栃木県那須町へ移動する計画になってる日があったので、ちょうどいい機会かもしれない。

想像していたよりは温かいお湯だったが、ぬるめでマイルドでとてもリラックスできる温泉だった。広い岩風呂と木造浴室の雰囲気と周囲の秘湯感あふれる環境もいい。

甲子温泉「旅館大黒屋」へのアクセス

新白河駅からの足が課題

宿泊するなら新幹線も停まるJR新白河駅までの送迎サービスがある(要予約)。でも日帰り客は対象外。駅から路線バスで新甲子までは行けるようだが、そこからの4~5kmを徒歩でカバーしなければならない。大変だ。現実は自分のように車でアクセスする人が大半でしょう。

旅の3日目に微温湯温泉・旅館二階堂をチェックアウトして、福島西ICから東北道を南下。今日は雨だから屋外で観光する気はさらさらない。日帰り入浴を1~2箇所体験したら次の宿に入るだけで十分だ。強いて観光らしいことといえば、安達太良SAで見かけたこいつ。
安達太良SA(上り)のウルトラセブン
ウルトラセブンだ!! 自販機と連動して声が出たり光ったりするらしい。福島の観光は結局ここと前日のへたれガンダムの2箇所のみであった。あと棚倉城跡もあったか。

廃道マニアが喜ぶトンネル群の先に

雨だ雨だと思ってたら白河へ近づくにつれて晴れ間がのぞいてきた。あっそうなの?…まあいいや、予定通り湯めぐりに集中しよう。白河ICで下りてごにょごにょ走って甲子道路へ合流。甲子道路は高規格で整備された走りやすい道なので助かる。

現地が近づくと「きびたきトンネル」が現れる。廃トンネルに関係した逸話があるようですな。詳しくは「山さ行がねが」のサイトを参照のこと。

きびたきトンネルの次の安心坂トンネルを出たらすぐ、本当に出口すぐで左折しなければならないから見落とし注意。左折後はやや狭い急坂を下る。冬は4WDスタッドレスでないと無理なんて言われているね。坂下でちょっと鋭角なV字を曲がると大黒屋だ。駐車スペースはそこそこ収容力あり。よほどの繁忙期ピークにあたらなければ満車で泣きを見ることはなさそう。


甲子温泉を代表する大岩風呂を体験してみた

突如現れた峡谷の絶景

大黒屋は日本秘湯を守る会の会員宿だけど、ガチレトロな微温湯温泉と比べるとモダン秘湯という趣き。こちらがお土産コーナーでございます。
お土産コーナー
フロントで受付をすませ(800円)、きれいな庭の見えるロビーを横目に左手の廊下を進む。
ロビー
途中に日帰り客も利用できる食堂があった。メイン目的の大岩風呂とは別に、恵比寿の湯という内湯が13時から入れるようになるため、大岩風呂→13時まで食堂でランチ休憩→内湯のコースも可能ではあったが、いろいろ考えて大岩風呂だけを体験することにした。

廊下の奥でサンダルに履き替える。お使いくださいと壁にかかった厚手の防寒コートや床に並んだ長靴が自然環境の厳しさを物語っている。しばらく階段を下って、いったん屋外へ出ると、いきなり峡谷を見下ろす絶景が展開していた。廊下の途中ですでに写真撮影禁止マークが貼ってあったから撮影はしていない。ぜひ自身の目で確認されたし。

鳥居が設けられてる大岩風呂

峡谷にかかる橋を渡った先に櫻の湯(女性専用)と大岩風呂(混浴)がある。では大岩風呂へ。入ってすぐのところに分析書が張り出されており、「単純温泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」とのこと。もちろん源泉かけ流し。

独立した脱衣室はなく、浴室の一端が板で仕切られ、そこに棚を作って脱衣コーナーとしている。男女別に分かれてもいない。女性の参戦は厳しそうだな(なので女性専用時間帯が設けられているようだ)。当然ながらおっさんしかいません。

…ワイガヤ感があるし、やけに人が多くないか? と思ったら団体さんが出ていくところだった。自分が入湯する時点では4~5人体制になってた。やがて一人抜け二人抜け、途中から独占状態になったのはラッキー。

わりと大きな木造の湯小屋に洗い場はなく、広い岩風呂が大半を占める。浴槽の縁に沿って30名、中央部分まできっちり詰めていけば百人風呂を称することも可能な大きさ。面白いことに壁の一部から岩がせり出していて鳥居が設けられている。子宝岩って書いてあるし。一種の祠のようなものかな。その岩の下部が湯口になっていた。近くの壁には由緒を書いたらしき木版があるけど崩し字が読めない。

マイルドなお湯に包まれる深〜いお風呂

さて観察はこれくらいにして、いざ入湯。ぬるいね。ただし体温前後だろうと想像していたよりは高い温度に感じた。40℃近くありそうな。お湯は曇りなき無色透明ながらも、不思議な深みを感じさせる。確かに浴槽は立ち湯ができるほど深いけども、そういう意味じゃなくてね。

そう、浴槽は深いので、縁のすぐ内側に腰掛けて半身浴的な体勢になれるステップが付いている。そのステップを離れて中央寄りへ進むと立ち湯になる。

湯の花とか泡付きには気づかなかった。当時は花粉症的な症状で鼻がバカになっちゃってたため、匂いはなんとも言えないけど、単純温泉にありがちな温泉臭であろうことは間違いない。お湯に尖った主張・刺激は一切なく、マイルドでやさしく包まれる感触がたまりませんな。

ゆっくりのんびり入らせてもらう

足元湧出と聞いているので、湯口からの投入とは別に、底に敷き詰められた玉砂利の間から源泉が湧き出しているものと思われる。ただし他所の足元湧出泉で見られたようなプクプクと立ち上るあぶくは見られなかった。また、底には玉砂利だけでなく川床にあるような平たい岩の部分もあり(中心部にある大きな岩が子宝石らしい)、わりと起伏があるからつまづき注意。

せっかく独占状態になったから、しばらくぼーっと浸かってました。やさしいお湯を照らすランプの明かりもまたやさしい。静かな環境を保ってゆっくり入るのなら、すごくいいな。今回はラッキーだったな。

湯あがり後は、なんと、小腹が空いていた。食の細い自分にはかなり珍しい。いつも旅行中は昼抜きでちょうどいいんだけどね。新陳代謝だか血行促進だか副交感神経云々だか知らんが、温泉効果で生命力が活性化したってことでしょう。こいつは本物だぜ。甲子温泉いとおかし。