古くて新しい、焦げ臭泉のハイクラス旅館 - 川原湯温泉 山木館

川原湯温泉 山木館
群馬の八ッ場ダムがいまや観光スポットとして整備されているらしい、しかもその近くには良さげな温泉があると聞いた、行ってみたい、との要望を受けた。情報源はテレビ番組のようだ。八ッ場ダムなら自分はすでに2回行ってるんすけど。しかもまた晩秋に…まあいいでしょう。

近くの良さげな温泉とは川原湯温泉のことである。もともとはV字谷の中に形成された古くからの温泉街であったが、ダム建設にともなって惜しまれつつダム湖の中に没し、現在は何軒かの旅館が高台に移転して再出発している。

その中で今回お世話になったのは「山木館」。はっきし言って身の丈を越えたハイクラス旅館。なのを承知で参加者一同にご満足いただけるよう頑張ってみました。結果はばっちり大好評。思い切って選んだかいがあった。

川原湯温泉「山木館」へのアクセス

川原湯温泉まで、東京方面から車だと関越道を渋川伊香保ICまで利用することになる。そこから一瞬だけ国道17号の後に県道35号へ。グーグルマップによれば一部区間は上信自動車道なるバイパスがあるようなのだが、走った記憶がない。カーナビの地図が最新じゃなくて見落としてしまったのだろう。

原町のあたりで国道145号にスイッチしてなおも西進、JR岩島駅あるいは道の駅あがつま峡といったあたりで県道375号に入るとまもなく吾妻峡トンネル。この全長1769mのトンネルは3年前に初めて川原湯温泉を訪れた際に徒歩で通り抜けた思い出あり。

トンネルを抜けるとそこは川原湯温泉。新しく宅地造成されたような区画の中にいくつかの建物がポンポンと立っている。道沿いに当館の看板が出ているから迷うことはないだろう。

鉄道利用の場合はJR吾妻線・川原湯温泉駅が最寄り。元の駅舎と前後の線路はダムの底に沈んでいて、新たに線路を付け替えて駅も移転した。この駅から川原湯温泉トンネルを通り抜けて温泉街まで、徒歩15分はみておかないといけない。山木館は駅から遠い側にあるから20分かな。途中には共同浴場・王湯がある。


思わず声が上がるハイソな館内

洒落たスペースがいっぱいある

駐車場から道路を挟んだ向かいに本館がある。屋敷の門構えからしてなんかすごそう。
山木館の門
敷地に入るといきなり水車が。「水車の宿」というサブタイトルを冠しているくらいだからね。撮影にいそしむばかりでなく現物をもっとじっくり観察しておけばよかった。
水車
外観から受ける印象と同じく、中も古民家風といえばいいのか、移転リニューアルという言葉から単純に想像したのでは及ばないほどの歴史と風格を感じさせる。こちらはロビーのお土産コーナー。
お土産コーナー
おおっ、と思わせたのが暖炉のあるラウンジ・山法師。なんともスタイリッシュですな。紅茶やコーヒーのフリードリンクがあり、入浴の後でひと休みすると優雅この上なし。実際に1回やってみた我らであった。
ラウンジ 山法師
敷地や建物全体の大きさに比べて全8室というから、すいぶん贅沢な空間の使い方だ。たとえば図書室。湯治系の宿で読書スペースを設けているところは稀有ではないが、当館の書斎・侘助は気合の入り方が半端ない。なんじゃこりゃあ。
書斎 侘助
こういう感じの書庫は映画やドラマの中でしか見たことがないぞ。

ダム湖の景色が広がる豪華な部屋

滞在したお部屋は2階の二間続きの客室。入るなり「おー」「すごい」の声が上がる。メインの12畳はこちら。もうコタツが用意されていたし、壁際のヒーターもじわじわと熱を発していた。
山木館 二間客室
もう一方は6畳だけど、奥に囲炉裏の小部屋がある。カッコ良すぎ。広めの部屋でちょっと贅沢気分、などという事前の期待をはるかに超えた造作だった。
囲炉裏の小部屋
自動点灯のシャワートイレと2名分の洗面台あり。これらは部屋の玄関とともに別途広く取られた空間に設けられている。あと金庫あり、空の冷蔵庫あり。WiFiあり。

外の景色がまたすばらしい。八ッ場ダム湖(あがつま湖)が目の前にドーン。ダムそのものは見えないが、湖を渡る八ッ場大橋がわりと近い。夜には橋が街路灯によってライトアップされた風になって、少しばかりロマンチックが止まらない。
窓から見える八ッ場ダム湖
肉眼だと湖にもっと広がりがあって目立つ。今はとても見晴らしが良いけど、目の前の整地された区画がどうなるんだろう。いつか別の建物ができてしまうんだとしたら、この景色が見えるうちに来ておいて良かった。


焦げ臭のする温泉で優雅な湯浴み

「石庭の湯」の内湯はやや熱め

山木館の大浴場は1階にある。夕方の時点では向かって右側の「石庭の湯」が男湯、左側の「木洩れ日の湯」が女湯だった。そこでまずは前者へ。

脱衣所には貴重品ロッカーがある。掲示された分析書には「含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、低張性、中性、高温泉」とあった。加水あり(加温も?)、循環・消毒なし。そして「黒・黄色の浮遊物は湯の花です」との説明書きも。ようし、こいつは本物だ、期待できるぞ。

浴室に入るとモワッと温泉らしい匂いがしてきた。軽めの焦げ臭だ。たしか王湯もこんな感じだったな。中には5名分の洗い場と、8名~頑張れば10名規模の内湯浴槽がある。一部が浅くなっており、寝湯ができるように縦に割った竹の枕を置いてあった。

では浸かってみよう。あちい。でもすぐに慣れた。寒い時期における適温と言っていいだろう。お湯の見た目は無色透明で、明るさの関係もあって湯の花の存在はよくわからなかった。そして匂いをかぐとやはり微妙に焦げ臭がする。

ぬるめで長く楽しめる露天風呂

続いて露天風呂へ。8名規模の岩風呂のまわりが庭園風になっている。露天エリア全体は塀に囲まれていてダム湖などが見えるわけではない。もし見えるような構造だったら、こっちも見られてえらいこっちゃ。

お湯の特徴は内湯と同じ。ただし適度にぬるめであった。自分はぬるいやつに長く入るのが好きなので露天風呂の方を気に入った。体に焦げ臭が染み付くまで入ってやるぜ…と意気込んでみたものの、団体行動の流れでそうは問屋がおろさなかった。

季節柄どうしても落ち葉がお湯の中に入ってくる。湯船の底に沈んだ落ち葉を踏みつけると滑りやすい。コケないように気をつけよう。

「木洩れ日の湯」は庭園が広め

夕食の間に男女入れ替わって木洩れ日の湯が男湯になる。ここは翌朝に行ってみた。基本的なつくりは石庭の湯と同じ。洗い場は5名分あって内湯浴槽は8名規模。やはり一部が浅い寝湯向けになっている。竹枕もあり。

温度管理なんかは石庭の湯と一緒だと思うんだけど、慣れのせいか熱さはいくらか穏やかになって入りやすく感じた。ちょっと寝湯でまったりしてみたり。このクラスの旅館になると浴室も木をうまく使った和モダンな雰囲気で気持ち良く入浴タイムを楽しめる。

露天風呂は6名規模のきっちり四角い石風呂。期待通りにぬるめだった。まわりの庭園はこっちの方が広いような気がする。

大浴場の隣にはマッサージチェア付きの湯あがり処がある。アイスも売っている。
湯あがり処
湯あがり処の向かいは展示室(?)。若山牧水・与謝野晶子・斎藤茂吉らの写真と作品が見られる。当館は1661年創業というおそろしく長い歴史を持つ老舗だから逗留した作家は多いだろう。「のらくろ」の作者もそのひとりらしい。
展示室

タイミングの妙でぬる湯を楽しめた「竹風の湯」

湯あがり処の隣には貸切風呂「竹風の湯」がある。宿泊客は無料・予約なしで利用可能。現地へ行って扉の前に「空いてます」札が立っていたら、ひっくり返して「貸切利用中」にして、中へ入って鍵をかける方式。時間制限は50分を目安に。

夕食後に単身乗り込んでみた。脱衣所に「熱かったら水を足して調整してください」的なことが書いてある。もしやアッチッチか。

ここは内湯のような半露天のような…開閉可能に見える全面ガラスを開け放つと縁側に続いて、その先は庭園だ。そういう構造の浴室内に1名分の洗い場と3名規模の浴槽がある。うち1名相当の部分は浅い寝湯コーナー。湯口は丸い石臼みたい。

熱さ覚悟で入ってみたらぬるかった。たぶんもともとじゃなくて先客が思い切り加水してくれたんじゃないかと思われる。手間が省けたぜ。この時は単身マイペースなので長めに粘らせてもらいました。あー満足。


どれも残したくない料理の数々

洒落てるし量も多い夕食

山木館の食事は朝夕とも個室食事処・又兵衛で。夕食のスターティングメンバーがこれ。食前酒は吾妻産梅しずく。山里料理と言いつつもなかなか洒落ている。
山木館の夕食
前菜の中の紅鱒飯寿司、お造りの上州地鶏タタキあたりは、あまり経験がなくて「へー」と思った品。手前の蓋物は豚角煮。これがやわらかくてうまい。火を入れる料理が2つあるのは上州牛鍋と季節野菜の酒蒸し。

いやあ結構ですな。順調に食べ進んでいったところ、突然満腹感が襲ってきた。最近こればっか…我ながらワンパターン展開だけどどうにもならん。自分でだし汁を注ぐお吸い物も、さつまいもご飯も、デザートのりんご菓子も、どれひとつ残したくはなかったのに、もう入らねー。

もったいないからとかじゃなく積極的な意味で本当に全部いただきたかったんだけどな。予想以上に早くギブアップしてしまった。誠に遺憾なり。山木館へお泊りの際はぜひ完食してかたきを討っていただきたい。

朝食でかたきを討つ

朝食はこちら。まだ前夜の分が消化しきれていない感じだし、品数がたくさんありそうに見える。大丈夫か。
山木館の朝食
大丈夫だった。火を入れる豆乳鍋を含めておいしくいただきました。きんぴらゴボウが甘味噌風味で結構いけた。あと栗ご飯はうれしいね。おかわりしたいレベルだったが、さすがにそこまで胃に余裕がなく。

食後はラウンジでコーヒーや紅茶を優雅にいただくとよいだろう。我々は朝風呂後にやってしまったのでそのまま部屋へ戻っていった。また飲んだっていいのに、妙なバランスを取ろうとする小市民的行動原理は我ながら意味不明だわ。

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いい宿を見つけてくれたと参加メンバーから大好評だった山木館。そのぶん財政面で頑張ってしまったが、あの満足感には代えられない。

自分以外のメンバーはコロナだ自粛だでなかなか思うようにお出かけできずにいたから、久しぶりの旅行なのでちょっと贅沢に、という理屈で山木館の長い歴史の一部に加わる機会を得た。そう考えると人生何が幸いするかわからない。と前向きな感じで締めさせていただきます。