ぬる湯派あつ湯派どんとこいの硫黄泉 - 老神温泉 穴原湯 東秀館

老神温泉 東秀館
秋の群馬旅行の2日目もしくは3日目に立ち寄るメインの観光先として吹割の滝を据えていた。となれば2泊目は近くの老神温泉をおいて他にあるまい。名前をちょいちょい目にするけど行ったことなかったし。

いろいろ検討して決めたのが「穴原湯 東秀館」。自家源泉かけ流しでぬるめから熱めまで幅広く提供しているようだから、参加メンバーもどれか好みの湯船を見つけるだろう。それに客室が広めだし。今回一緒に行くクライアント(?)の皆さんにご満足いただくには、そこがわりと重要だったりする。

おかげさまで好評を博した。幹事としては“ああ良かった”って感じ。温泉目当ての自分個人としても、いいお湯に浸かれて満足だ。諸事情あってあまりたくさん入れなかったんだけどね。そのわりには爪痕を残すくらいにパワフルなお湯だった印象だ。

老神温泉「東秀館」へのアクセス

老神温泉へ行くには、大多数の人にとって「ひとまず沼田まで行く」ことになるはず。典型的には関越道・沼田ICを目指すんでしょう。ICを出たら国道120号を尾瀬・日光方面へ。順調なら20分くらいで温泉街に着く。ちなみに吹割の滝は国道をさらに5,6分先へ進んだところにある。

我々は前泊地の川原湯温泉・山木館をチェックアウトして八ッ場ダムを見学した後、月夜野びーどろパーク→吹割の滝を経由し、来た道を少し引き返すようにして老神温泉へアプローチした。

いささか寂れた雰囲気の温泉街を貫く道路は結構狭い。運転慣れしていないと相当に気を使う。団体さん向けの大きい旅館もあり、かつては(今も?)パックツアーや社員旅行のために仕立てた大型バスが乗り付けていたのではないかと想像するが、この道をよく入って来られたな。

しかも東秀館は一番奥まったところ、旅館の集まる中心部から橋を渡った川の対岸にあった。こちら側は穴原という地区になり、当館のサブタイトル「穴原湯」はそこから来ているのだろう。

なお、近所には東明館という似た名前の宿もあるから、お間違えなきよう。東明館は東京や埼玉で見かける外食チェーン・餃子の満州が運営するユニークな旅館。どういう経緯があったのかは知らん。東明館を横目に我々は東秀館へ。


メンバー一同を喜ばせた宿のスペック

なかなか結構な雰囲気の館内

中に入ると従業員の皆さんが並んでお出迎え。めったにない体験だからちょっと緊張した…わざわざすんません。ロビー付近は宿の規模相応で決して広くはないが、なかなかよく作り込まれている。
東秀館 ロビー
正面にはガラス越しに庭園が見える。池の水はぐるぐる回るように機械で流れが作られていた。
中庭の庭園
他にはフロント脇にちょっとしたお土産コーナーがある。自販機は「んー、見当たらないな」と、ないつもりでいたが、自分の目が節穴だっただけ。浴場や食事処へ通じる廊下にあるのを翌朝まで見落としていた。大ボケこいてしまった。

広くてゆったり空間の部屋

我々が案内されたのは2階の10畳+広縁+6畳和室。参加メンバーの嗜好を考慮して広めの部屋がある宿を探していたのでこうなった。狙い通りに「おー、広いじゃないか」と喜んでもらえたようだ。10畳側がこちら。
東秀館 2間客室 10畳部分
そして6畳側がこちら。これら2部屋は完全な二間続きではなくてL字型に接続した構造になっている。そしてドアや洗面所やトイレのあるスペース(ゆったりして広い)から一段高くなった小上がりの畳の間ぽくなっている。
東秀館 2間客室 6畳部分
こうしたつくりが少なからずリッチな気分にさせてくれる。決してピカピカに新しいわけではないが、相応に手入れはされており十分に快適。金庫あり、空の冷蔵庫あり。WiFiの存在は確認できず。窓の向こうは木がいっぱい。
窓の外
肉眼で下方を見ると、吹割の滝より続く片品川の流れがかすかに見える。また、就寝中にゴソゴソする物音と話し声で目を覚ますと、一部メンバーが「うわー、星がいっぱい見える、すごい」と窓から夜空を見上げていた記憶がある(自分はすぐまた眠りについてしまった)。

老神温泉では年に数回、星空観察会を開催しているようだ。その日を狙ってみるのもいいかもしれない。


予想以上によく効いた温泉

ユニークな脱衣所のデザイン

東秀館の大浴場は1階。ロビーから客室と反対方向の廊下を行く。曲がり角のところに「男湯 野天風呂」と書かれた扉があり、後で入りに行こうかと思いつつ結局行けなかった。今思えばちょっとだけでも体験してみるべきだったか。団体行動に合わせすぎた。

一般の浴場は男女の入れ替えがなく、男湯は手前側にある。大衆風呂って書いてあったような気が。男湯の前の廊下にウォーターサーバーと本棚が設置されている。館内全般にこじゃれた雰囲気を演出しつつも、こういうところには素朴な湯治宿らしさが現れていて、なぜだかうれしくなった。
男湯前の本棚
脱衣所で服をしまう先がカゴじゃなくて壁に丸く空いた穴。船室の丸窓というか、斜めドラムの洗濯機というか、とにかく変わった様式である。船室、じゃなかった泉質は、分析書によれば「アルカリ性単純温泉」。加水・加温・循環・消毒いずれもない源泉かけ流し。

3つの岩風呂からなる内湯

浴室に入るなり…むむ、匂うぞ、こいつは硫黄臭じゃないか。タマゴ系でもゴム系でも甘い系でもない、うまい言葉が見つからないアレなやつ。

で、洗い場は6名分。ここのシャワーの粘りがすごい。いったんお湯を出し始めると止まるまでの時間がすごく長い。壊してしまったのか・やばいと焦ったけど気長に待ってればそのうち止まるから心配無用。

内湯の浴槽は3つ。いずれも内湯でありながら岩風呂として作られているのが凝ってるな。洗い場の壁を背にして、向かって手前左にある4名サイズのやつにまず入ってみた。おっ、ぬるい。体温より少し上くらいの長湯可能な温度。ぬる湯派としては大変ありがたい。

激熱のやつもあるぞ

お湯の見た目はクリアな薄緑色。匂いとあわせて単純硫黄泉に近い特徴ではないかな。脳内を類似検索して記憶から引っ張り出してくると山口の湯野温泉を連想した。加えて源泉かけ流しならではの新鮮さも感じられる。ぬるめでじっくり浸かれるし、これはいいね。

しばらくしてから隣=手前右側の2名サイズの浴槽へ移動したら、とんでもなく熱かった。常識的なあつ湯であれば一応体験してみるべく短時間でも入ってみるんだけど、そんなレベルじゃない。足先を一瞬つけただけでギブアップ。足湯的に使うことすら不可能。いったい何℃あるの、これ? 速攻でパス。

残った一番奥の浴槽は常識的な適温だった。ぬるいのよりもこちらを好む人も多いだろう。2名サイズでも満員御礼になることはまずない。というか他のグループと一緒になること自体がほとんどなく、独占タイムが大半だった。

ぬる湯好きは大喜びの野天風呂

そして廊下で見たのと同じような「野天風呂」と書かれた扉から外へ出ると露天風呂。比較的広い庭の中に屋根付きの4名サイズの岩風呂がある感じだ。

露天風呂についてはチェックイン時に注意を受けていた。夜や朝方に猿が出ることがあるんだって。風呂のそばにある柿の木に登って柿の実を取る。時には柿を人間に投げつけてくることがあるらしい。さるかに合戦かよ。今回は遭遇しなかったけども。

では入ろう。ぬるい。内湯の気に入ったやつよりもさらにぬるい。体温と同じくらいで、足元はたまにヒヤッとした塊が流れてくる。ぬる湯派は大喜びのクオリティ。

いつもの調子なら露天風呂に30分以上浸かっていたに違いない。しかし老神温泉の夕刻はもう冬といっていい寒さになっていたし、他のメンバーの動向に目を配るためにも内湯へ戻って、一番ぬるい浴槽で粘ることにした。

湯力はあなどれず

以上が夕方の入浴。翌朝も似たようなパターン。本当は夕食後にも行くつもりだったが、「お酒を飲んだら危ないから入っちゃダメなんだよ」と強硬に主張するメンバーに押し切られて断念せざるを得ず。そりゃ正論だけども。温泉目当てで来たのにもったいねー。

しかしたった2回の入浴で、しかもやたら長湯したわけでもないのに、なんだかすごく効いた。ふだん意識されない疲れのたまってるであろう箇所がじんじんと筋肉痛みたいになったり、かゆみが出たりした。1泊だと悪い箇所のあぶり出しのみだけど長逗留すれば解消できるはず。単純温泉という言葉からマイルドかと思えば、むしろ逆で力強いお湯であった。


お食事は秋の味覚を存分に

夕食は見た目以上にボリュームたっぷり

東秀館の食事は朝夕とも宴会場で。大浴場の廊下をさらに奥へ行ったところにある。宴会場を仕切りで完全に分けて個室を作ってあった。テーブル席ではなくてお膳にあぐら。

夕食は18時半を提案され、その通りにした。スターティングメンバーがこれ。前泊宿に続いて紅鱒の飯寿司が出てきた。
東秀館の夕食
手前の紙が乗ってるのは、半分に切った柿をくりぬいて器にした柿の白和え。木の蓋の鍋は豚肉と野菜とうどん。おきりこみうどんと呼ぶべきなのかどうかはよくわからない。陶器の鍋は温野菜的なやつ。

写真を見ただけの印象なら今でも「余裕をもって完食できそうだ」と判断する。でも実際はそうじゃなかった。やはり鍋物が2点あるのは大きい。ビールでお腹も膨れるし。序盤に大ぶりの柿を半個食べるわけだしね。

しかも途中でサイズ大きめの天ぷらが出てきた。舞茸ほか見逃せない面々とくれば相手をせねばなるまい。嬉しい悲鳴をあげつつ完食したものの余裕はなかった。せっかくの栗ご飯を3,4口のみでストップしなければならなかったのが心残り。

早め早めに朝食を

朝食は7時半を提案され、その通りにした。前夜と同じ場所でオースドックスな白飯の和定食。
東秀館の朝食
鍋の味噌汁をすくっていたら、なんだかカチャカチャする。しじみだった。ここでしじみ汁に出あうとは意外だな。梅干しは甘い系。

早めの朝食、かつチェックアウト直前に温泉に入ることをしない面々だったから、そのまま早めに出立。駐車場から車を出そうとすると、フロントガラスは雪のように厚い霜がびっしり。えっ、もうそうなっちゃうの?…南関東平野部と同じ感覚でいたらいけませんね。

 * * *

後日あらためて調べると一人では泊まれないようだ。今回がちょうどバッチリはまった機会だったのかもしれない。となると、2回しか入浴しなかったことや、野天風呂のひとつをスルーしたことが悔やまれる。もっと堪能しておけばよかったな。

ところで早めにチェックアウトして時間に余裕があったことで、帰りは沼田に戻るんじゃなくて、丸沼高原から金精峠を経て奥日光を回るルートになった。こうして日光や尾瀬が射程圏に入るロケーションなのもいいですね。