渋好み向き、3種の温度の超巨大風呂 - 船原温泉 湯治場ほたる

船原温泉 湯治場ほたる
伊豆市の真ん中に近いのどかな船原の里に「湯治場ほたる」がある。廃業したホテルを日帰り専用として再生させた施設だ。湯船が超広くて、熱いのと普通のとぬるいのと3種類あるそうなので、ぬるめを好む自分にもマッチしそうだとふんで立ち寄ることにした。

なんというか、“ライトでポップ”の対極にあるような館内。湯治場というフレーズを名前に入れたのは正解かもしれない。

湯船は本当に広かった。かなりのものである。しかも今までに入ったどの浴場とも似ていない、たとえようのない雰囲気だし、謎のオブジェもあるし、なんだか不思議な空間であった。

船原温泉「湯治場ほたる」へのアクセス

船原温泉は以前「山あいの宿うえだ」という旅館にお世話になったことがある。いつかまた行きたいと思わせるいい温泉宿だった。当時と同じメンバーで行った今回の伊豆温泉旅行にて、最終日の立ち寄り先として選んだのが湯治場ほたるだった。

我々は前泊した湯ヶ島温泉の旅館・白壁から船原へ移動したのだが、東京方面から車で向かう場合、船原はいまやアクセス便利なロケーションとなっている。新東名・長泉沼津IC→伊豆縦貫道・月ヶ瀬ICから国道136号を5分も走れば着いてしまう。

現地には目立つ看板が出ているし、迷うようなことはないはずだ。当時の駐車場はガラガラ、もしかして我々だけ?…それもそのはず、営業時間を調べもせず適当に向かったら到着したのがちょうど11時、そして後に調べたら当館は11時オープンだったのである。その日第1号の客だったに違いない。

ちなみに駐車場の背後には船原川が流れ、やや寂れた建物とともに高所恐怖の人には厳しそうな小さい橋が見える。観光客が渡れるかどうかはわからない。
駐車場の背後

超巨大風呂で味わう不思議感覚(人による)

当然ながらホテルっぽい館内

当館を現在運営しているのは静岡県に多くのホテルやレジャー施設を展開する時之栖グループ。この旅行の中日に立ち寄った伊豆温泉村・百笑の湯も時之栖だった。とくに意識してなかったけど結果的にご縁がありますな。

鍵付きの下足箱に靴をしまい、受付に鍵を預けつつ料金を払って腕輪を受け取る。料金は1時間券が800円で1日券が1500円。このへんは百笑の湯と同じようなシステム。いま湯治場ほたるのホームページを見たら「フェイスタオルを1枚無料貸出」って書いてあるぞ。なんだ、気がつかなくて持参したやつを使っちゃったよ。

受付から大浴場まではそこそこ歩かされる。スーパー銭湯だと思うと長距離だけど元ホテルだと思えば普通の話。我々の他に客の姿がないせいもあるが、途中の通路はシーンと静まり返り、照明も最小限に抑えられ、ハード面がもともとホテルの賑わいに合わせて作られた分だけ余計に遺構感が際立つ(失礼)。
湯治場ほたるの館内
脱衣所では腕輪の番号に対応したロッカーを使う。掲示された分析書には「ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。

唖然とするほど広い

浴室に入るとまず4名分の洗い場と水のかけ湯(かけ水?)しかない空間があった。狙いはよくわからないが、さらにもう一回浴室に入るような形で次の扉を開けると本当の浴室が現れた。

こちらには5名分の洗い場。そして目の前にドオオォォーンと巨大なひとかたまりの浴槽が待ちかまえている。でかい。100人来ても余裕で大丈夫なくらいの広さ。イナバの物置どころじゃないぞ。

この巨大浴槽が2箇所の仕切りによって3つの区画に分かれている。向かって左から高温風呂・中温風呂・低温風呂。ただし低温風呂には「水風呂」という札がかかっているのが気になる。ただの水じゃないよな。たぶん言い回しの問題で、実際は冷ました温泉なんだとは思うが。

高温風呂の大きな湯口からザバザバと大量の投入がある。ホームページによれば99℃の源泉を竹製冷却装置で温度を下げて源泉100%のまま提供しているようだ。やりますな。高温風呂のお湯は仕切りを越えた分だけが少しずつ中温風呂へ流れ込み、さらにまた中温風呂から低温風呂へ、仕切りを越えて少しずつ流れ込むようになっていた。

浴室全体の印象は「立体駐車場のワンフロア」。奥と右側は壁がなくて吹き抜けになっているから半露天といえなくもない。半露天が言い過ぎならクオーター露天。もしかすると元ホテル時代はここを露天風呂と称して、先ほどの洗い場だけの空間には内湯があったのかもしれない。想像ですが。

お地蔵様と入る低温風呂

まずはお目当ての低温風呂へ。ここだけで30人いけそうな広さ。お湯は無色透明で体温より低い。中温風呂との仕切り付近に陣取ると、流れ込んでくる適温のお湯と混じり合って微妙にぬくい感じになる。単に冷たいだけよりこちらの感じを好む人もいそうだ。

中央付近にはなぜかお地蔵様が4体、お湯に浸かった格好になっていた(そのうちの1体に「水風呂」の札がかかっている)。お地蔵様もぬるいのが好きなのね。加えてお地蔵様のいない台座が数箇所あった。ここに座ってくださいってことかな。

そうこうするうちに一人また一人と客がやって来て総勢7~8名になった。でも湯船のスペースはいささかも逼迫していない。ソーシャルディスタンスの倍以上の距離をとろうが全く余裕。人が少ないんじゃなくて広すぎるんじゃないかね。

夏季にはチャレンジングな高温風呂

変化を求めて中温風呂へ移動してみた。ここは適温。やっぱり中央に3体のお地蔵様がいた。屋外の空気と景色に触れられる奥の方には数名の客が陣取り、長湯のできる温度ではないから縁に腰掛けてじっとしていた。

中温はこれくらいにしよう、と話の種に高温風呂へ移動する。熱いー。激熱ではないが確実にあつ湯の部類。さすがのお地蔵様も高温風呂にはいなかった。客も誰ひとり行こうとしない。いかに湯口が近くてお湯が新鮮だとしても、訪れた残暑の時期にこの熱さはちょっと厳しいね。冬ならもっと利用されるだろう。

低温風呂へ戻ってしばらくすると、1時間券のタイムアップが迫ってきた。そろそろ出ようってことで終了。

 * * *

退館して車に乗り船原を離れつつ思い返すと、どこがどうとはっきり言えないけど、不思議な空間だったなあ。お地蔵様だけでこんなに気持ちに引っかかりはできないしなあ。…まあいいや、おいとこう。この謎は簡単には解明できないだろうからな、ホタルが光る謎のように。