満男編に突入「男はつらいよ」第38~43作について

柴又 帝釈天参道
寅さんシリーズの鑑賞に手を染めてから1年余り、全作コンプリートのゴールがいよいよ見えてきた。マラソンだと37キロ地点といったところ。こちらはレースじゃないんで、ラストスパートなんて意識せず、淡々とペースを守って完走を目指したい。

思い返すと、最初のうちは「まだまだ先は長いなー」「全然終りが見えない」と、あまりのボリューム感にめまいを覚えるほどだったが、こうなってみると「もうすぐ終わりかー」と、ちょっとさみしくもあるね。

出演者の高齢化の事情や世代交代を感じさせるストーリー・演出が余計にそう感じさせるのかもしれない。

38~43作目までの特徴

満男が主役の座に

第38~43作の間に起きたことでまず一番にあげるべきは満男編が始まったことだろう(42作目から)。寅さんの甥っ子の満男が高校を卒業し、後は任せろとばかりに主役の座へ躍り出るのだ。

寅さん本人は後期の作品でよく見られるようにアシスト役・コーチ役にまわる。しかし満男編以前と以後では意味合いが違う。

満男編以前はアシストする寅さんにスポットが当たっており、人助けに奮闘する寅さんのお話であった。以後はスポットが当たるのは満男であって、助けを得ながら奮闘する満男のお話になっている。

菩薩になった寅さん

終りが近いという先入観を持って見るせいか、寅さんの存在感もだいぶ変化した気がする。満男編を境に、劇中においてさえも実在の人物から象徴的な存在へと、ステージを変えてしまったような印象を受ける。

スクリーンの中で動き回るのが車寅次郎という劇中人物でなく、「ぼくらの『寅さん』がもしこのお話の世界にいたらこういう言動を取るだろう」という心の中を投影させた描写として見ても、なんとなく成立してしまうように思えるのである。メタ存在というか。

するとにわかに、寅さんが見守り地蔵のオーラをまとい始める。寅さん=優しく寄り添ってくれる・指針を与えてくれる・名言の宝庫、みたいなイメージが世間にあるとすれば、こうしたポジションから生じたのではないか。前期作品なんかだと結構ひどいことする荒くれ者ですけどね(それもまた魅力ではあるのだが)。

設定にも変化が

小ネタをまとめていこう。さっそうとレギュラー陣に加わって華やかさを添えていたあけみ、パッタリ出なくなりました。まるでそもそも存在してなかったかの如し。好きなキャラだったんだけどね。

さくら一家の自宅(のロケ地)が変わった。しかも短期間に2度変わった。角地かどうかや隣家との位置関係や家のデザインからすぐにわかった。いろいろ事情があったんだろう。いずれも川の土手のすぐそばで似た風景を保っている。おかげで設定上は引っ越したことにせずにすんでいる。

寅さんの帰郷先である柴又の団子屋「とらや」が「くるまや」に変わった。いろいろ事情があったんだろう。しかも三平くんという京都弁の若者を雇い入れた。ほかに職人さんも抱えているみたいだし、くるまやさん、繁盛してはりますな。

寅さんと温泉

寅さんが訪れた温泉地。まず和歌山の和歌の浦で旅館めぐり。温泉にも入っただろう。続いて奈良の吉野の旅館に泊まっていたから、吉野温泉に入ったはず。宮城の栗原では助けた男に温泉を勧めて一緒に旅館に泊まったが、何温泉だかは不明。

満男編に入ってからはおじいさんの集団に拉致されて佐賀の古湯温泉へ。そして大分の天ヶ瀬温泉では満男の入浴シーンも。バイク乗りの三橋おじさんがだまっちゃいないよ。しかし九州か、いいなあ、行きたい。


各作品を軽く紹介

簡単なコメントとともに。

No.38:男はつらいよ 知床慕情
マドンナは獣医の娘。親の反対を押し切って結婚し故郷を出ていったものの、知床へ出戻り。寅さんや地元のゆかいな仲間と交流するうちに元気を取り戻していく。しかし父親である獣医と居酒屋の女将さんとのロマンスからなるサイドストーリーの方が骨太である。知床の詩的な風景とあわせて大人のファンタジー的な要素が濃く、カタルシスを覚える結末がいい。離農やら環境問題やら厳しい現実も描かれてはいるけどね。

No.39:男はつらいよ 寅次郎物語
マドンナは化粧品売り場のスタッフ。寅さんの知り合いの同業者が亡くなり、幼い息子がとらやを頼って郡山から出て来た。この子の生き別れの母を探すため、わずかな手がかりをもとに寅さんと和歌山へ向かうのだが…。途中で泊まった旅館にマドンナが同宿していた。ここからラストの失恋に向かっていろいろ話が展開するかと思えば、はっきりした恋愛要素もなくあっさりバイバイ。最もマドンナぽくない回。

No.40:男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日
マドンナは未亡人のお医者さん。医療とはどうあるべきかについて、そして仕事と子育ての両立について悩んでいるところを、脳天気な寅さんと知り合って心が解きほぐされていく。知り合うきっかけとなったおばあさんの身の上が哀愁漂う。サラダ記念日とは昭和末期のベストセラー歌集のタイトルであり、本作でもマドンナの姪の詠む短歌が随所に挿入される。忘れてならないのは、大学の講義に寅さんが潜り込み、なんと20作目に出てきた「ワット君」の話を持ち出すのである。予想外の伏線回収に思わず唸った。長崎県平戸のはずの出身地が宮城県になってたけどな。

No.41:男はつらいよ 寅次郎心の旅路
マドンナは日本を脱出してウィーンで働く現地ツアーガイド。寅さんもついに飛行機に乗ってヨーロッパへ行ってしまうのだ。寅さんと語り合ううちに日本が恋しくなってくるマドンナ。さて帰るのか、残るのか…。シリーズ中にたまにあるタイアップ企画の系列に分類してよさそうな作品。ラストで日本に帰った寅さんが輸入物と称して売るそばで、ポンシュウが「ヨーロッパ、ヨーロッパ!」と連呼するのが耳に残る。

No.42:男はつらいよ ぼくの伯父さん
満男編スタート。マドンナは満男の高校時代の後輩・泉。いまは母親と名古屋に住んでいる。そんな泉のことが気になって仕方がない満男。さすがは寅さんを継ぐ男、泉を追ってバイクにまたがり名古屋へ、そして佐賀へ。ちなみに盗んだバイクじゃありません。途中で中年ライダー・三橋おじさんとすったもんだがあったりと苦労の末、泉に会うことができた。たまたま佐賀に来ていた寅さんとも合流。最後は軽いノリでI love you。最後の最後がシリーズ終了フラグを立てるような流れで焦った。

No.43:男はつらいよ 寅次郎の休日
マドンナは引き続き泉。わけあって離れて暮らすパパにどうしても会いたくて東京へ出てきた。しかし父親はすでに東京を引き払って大分・日田へ移り住んでいた。あきらめきれず博多行きの新幹線に乗る泉。見送るつもりが発車間際、衝動的に飛び乗る満男。青春ですな。寅さんと泉のママも2人の後を追う。ラストで寅さんがCD(昔は神田の書店から流れてきた本だったな)を売るそばで、ポンシュウが「シーデー、シーデー!」と連呼するのが耳に残る。

お時間あれば見ておくんなせえ。


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