「男はつらいよ」第8~15作を見ました

車寅次郎
ここ4ヶ月間というもの、家で見る映画といえばほとんど「男はつらいよ」シリーズだけという状態が続いている。今までずっとノーマークの作品だったので、1作目から順番に見始めて、週1作いかないくらいの遅いペースでようやく15作目まで来た。

全作をコンプリートしたわけじゃないから、シリーズ全体を俯瞰した上でどうのこうの言うことはできないが、本記事の対象とする作品群はいよいよ脂が乗ってきた時期にあたるのではないかという気がする。

この話題で記事を埋めるのは本ブログのテーマからしてどうなのと思いつつ、「寅次郎相合い傘」の秀作ぶりに後押しされて文章を書き始めてしまった次第である。

男はつらいよにハマった人たち

寅さん映画を見始めた経緯と1~7作目までに関するコメントはすでに書いているから、ここでは8~15作目について取り上げることにする。

ところでいきなり脱線するが、最近テレビで「新婚さんいらっしゃい」を見た(注:毎週チェックしているわけじゃありません、適当にチャンネルを変えてたら引っかかったのだ)。そのとき出ていた旦那さんが寅さん大好きで、当シリーズを毎晩のように家で鑑賞してますと話していた。

全作終わったらまた最初から、という具合に、本人は若い頃からもう数え切れないくらいループしており、奥さんも結婚後に付き合わされてすでに数周しちゃってるとか。そもそもデートに連れてく場所が柴又とか寅さん記念館だったって、おい。

いやはや空恐ろしい魔力を持った作品である。


8~15作目までの特徴

おいちゃんの交代

8~15作目までの間においちゃん役が2度交代している。初代おいちゃんは調子に乗ったり抜けたところがあったりのドタバタ系。第8作がラストとなった。2代目は飄々としたところのあるマイペース系。最初の頃の作品に町医者役で出ていたはずだから見事な転身。登場期間は短く9~13作目まで。

3代目は常識人ぽい。あんまりギャグを言わない。頭が痛いとか、横になるとか、枕を取ってくれと言わない健康体だからか、第14作以降最後までつとめ上げたようだ。

おばちゃんの方はずっと交代なしだが、やたらと泣くキャラにだんだん変わってきてると思う。

夢のシーンが定番化

オープニングが必ず、居眠り中の寅さんがみる夢のシーンで始まるようになった。ほとんどは時代劇風の設定だがギャングものや海賊ものもあった。

大筋は決まっている。さくらと博(の演じる貧しい民)が悪者にひどい目にあわされているところへ、寅さん扮する正義の味方が現れてピンチを救う。そのヒーローは昔別れたきりの兄だと気づくさくら(の演じる貧しい民)。感動の再会。おしまい。

正義の味方といってもお尋ね者だったり海賊だったりのアウトローだ。寅さんの正義観やヒロイズムが夢に投影されているのだろう。

逆パターンで攻めてくる

寅さんは毎度フラれるばかりじゃない。マドンナから気に入られるという逆パターンがちょいちょい発生するようになった。二人はくっついていつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、シリーズ完…って、そうは問屋がおろさない。

そういう時に限って、寅さんが逃げてしまったり、真剣に話を受け止めず冗談にして終わらせてしまったりするのだ。かくしてシリーズは続く。

マドンナ再登場

過去のマドンナが再びマドンナとして登場するパターンがある。別の男性と結婚していたのが諸般の事情でひとりに戻っている時に寅さんと再会するという流れ。再登場したって寅さんには縁がないんだけどね。かくしてシリーズは続く。

同じマドンナを起用した続編を用意することにより、独立した一話完結の単なる集合体にはない奥行きをシリーズ全体に与えていると思う。

寅さんマイルド化

寅さんのキャラがマイルドになりつつある。最初の頃は荒くれ者のような側面を持っていた気がするし、テキ屋のブラックぶりを見せるシーンもあった。そういえば、さくらを張り倒したこともあるし、飲み仲間をとらやに連れ込んだあげく、さくらにお酌させて歌まで歌わそうとしたこともあったな。あれは酷い。

でもそういう面はだんだん見せなくなった。決して“いい人”になったわけじゃないが。あと、おばちゃんが「寅さん」と呼んでたのが14作目から「寅ちゃん」に変化したため、可愛げが増した印象を与える。


各作品を軽くご紹介

簡単なコメントとともに。

No.8:男はつらいよ 寅次郎恋歌
マドンナは未亡人で喫茶店ロークを経営。初の逆パターンを発動した。しかし寅さんはそれに応えることなく姿を消してしまったのだが、ロークは相変わらず柴又にあり続けるわけで、その後の寅さんは柴又へ戻るたび、どんな顔して店の前を通っていたのだろうか。

No.9:男はつらいよ 柴又慕情
マドンナはOLの歌子さん。というか吉永小百合。恋の相手としては明らかに無理筋なので安心してフラれっぷりを鑑賞できる。このあたりから悩めるマドンナをとらやに招いて宴を催すシークエンスが定番化する。「今日はこのへんでお開きということで」。

No.10:男はつらいよ 寅次郎夢枕
マドンナは幼馴染のシングルマザーのお千代さん。美容院経営。2回目の逆パターン発動。しかもかなり乗り気っぽかったので大チャンスであった。東大勤務で変人の物理学者が横から惚れてなければ…。東大の講義に乱入する寅さんは周囲とギャップがあっておもしろい。

No.11:男はつらいよ 寅次郎忘れな草
マドンナはドサ回りの歌手・リリー。出会うべくして出会った感じの網走のシーンが良い。柴又で再会した後、逆パターンを発動しかけたが、けっきょく毒蝮三太夫とくっついちゃったリリー。本筋と並行して寅さんが北海道の牧場で働く話もおもしろい。全然戦力になってないし。

No.12:男はつらいよ 私の寅さん
マドンナは昔の同級生の妹で画家。いつもの寅さんはフラれたと悟ると、速攻で旅に出て消えるのだが、この回はマドンナを訪ねていって会話をして始末をつけたのが珍しい。前半にとらやの面々が九州旅行。少なくとも別府温泉と杖立温泉に行ってるはず。いいなあ、行きたい。

No.13:男はつらいよ 寅次郎恋やつれ
マドンナは再びの歌子さん。というか吉永小百合。寅さんは人生の立て直しを後方支援する役回りだった。でも最後の花火のシーンは恋要素が垣間見えて切ない。サイドストーリーの温泉津温泉の絹代さんもいい味出してる。温泉津温泉行きたい。駅弁のカニ弁当+お茶が3人分で1290円。

No.14:男はつらいよ 寅次郎子守唄
マドンナは看護師。全般に抑えのきいた淡白な回(それはそれで悪くない)。淡々とマドンナに接近して淡々とフラれる寅さん。その後、旅に出る際のタコ社長とのやり取りが珍しくしっとり風味。序盤と最後の唐津・呼子のシーンが濃い味付け。あと冒頭の訪問先が磯部温泉だった。行きたい。

No.15:男はつらいよ 寅次郎相合い傘
マドンナは毒蝮と別れたリリー。本作はテンポよく疾走感があって大変よろしい。忘れな草のリリーはやさぐれ感と不安定感を醸していたが、本作では艶っぽさが出て、より魅力的に描かれている。せっかく逆パターン発動したのだが…。前半の寅・リリー・パパのロードムービーもすばらしかった。また有名なメロン騒動の回でもある。しかしリリーと腕組みして嬉しそうに柴又を徘徊してた寅さん、ロークやお千代さんの美容院の前は避けた方がいい気がするぞ。

お時間あれば見ておくんなせえ。


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