ほぼ東日本に限られた温泉めぐりが続いていたが、ここにきて西の温泉にも目を向け始めたおじさん。前回の大分県遠征の余韻冷めやらぬ内に、次なる狙いを岐阜県と定めた。久しぶりの一人旅である。
職場の休暇枠にもう余裕がないため平日にのんびりとはいかない。暦の上では激混みでも文句は言えない日程での決行だ。宿の予約競争に出遅れつつも、どうにか下呂温泉に空室を見つけて確保し、ひと安心したところで日中に立ち寄る温泉を探した。
…うん、良さげなところがあるじゃない。下島温泉「巌立峡 ひめしゃがの湯」がそれだ。濃い成分・炭酸泉というキーワードが興味をそそる。いいお湯と出あえるかもしれないぞ、との直感は正しかった。しかも予習不足で臨んだことが驚きの発見につながったのは嬉しい誤算。
職場の休暇枠にもう余裕がないため平日にのんびりとはいかない。暦の上では激混みでも文句は言えない日程での決行だ。宿の予約競争に出遅れつつも、どうにか下呂温泉に空室を見つけて確保し、ひと安心したところで日中に立ち寄る温泉を探した。
…うん、良さげなところがあるじゃない。下島温泉「巌立峡 ひめしゃがの湯」がそれだ。濃い成分・炭酸泉というキーワードが興味をそそる。いいお湯と出あえるかもしれないぞ、との直感は正しかった。しかも予習不足で臨んだことが驚きの発見につながったのは嬉しい誤算。
(2023.2追記)一時休館とのこと。再開見込みは未定。コロちゃん自粛ムードやらで色々厳しかったのだろうか。いいお湯だったんだけどな。
また、45分ほど走ったところでJR飛騨小坂駅前の停留所を通るから、飛騨小坂までは列車で行く手もある。ただし接続の良し悪しや特急が停車するかはよくよく確認されたい。自分の場合は接続が良くなくて下呂駅からバスにした。
飛騨小坂から先は御嶽海、じゃなかった、御嶽山の匂いがいよいよ濃くなる中を、小坂川に沿って山深くへ入っていく。
下島温泉口なる停留所を過ぎたら、まもなく「ひめしゃがの湯」停留所に着く。ここで下車。
飲んでみた。含鉄といえどもエグみや苦味はそれほどでもない。かすかに炭酸感はあるものの明瞭にパチパチ弾けるほどではない。一瞬シュワッときたかな、と思ったらさっと抜けていく。
売店内の受付で650円を払い、奥にある男湯の暖簾をくぐる。建物全体と同様に浴場も全然鄙びてはいない。ハード面で客を選ぶようなアクの強さはなく一定の安心感はある。壁の分析書には飲泉場とちょっと違う「含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、中性、冷鉱泉」の文字が書かれてあった。
洗い場は10名分。今日の客入りでもまだ余裕がある。体を洗った後、真っ先に目についた手前の源泉風呂へ入ってみたら…冷たっ! 何も考えずに足を差し入れて冷たさにびっくりした。冷静に考えれば冷鉱泉の源泉なんだから冷たくて当たり前なのだ。
源泉風呂は明るい黄土色に少しだけ緑を混ぜたような色合いの濁り湯。深めの浴槽は濁りで底が見えない。ふたり入ればいっぱいになるサイズで、実際は誰かひとりが入ると他の客は遠慮する、という譲り合いの雰囲気でひとりずつ浸かっていた。
炭酸泉といっても体中に泡が付くようなことはない。加温で炭酸ガスが飛んでしまったから、だけではなさそう。源泉風呂を含む他の浴槽でも泡付きなしは同様だった。
金気臭と土気臭が混じり合ったような匂いがはっきりと感じられ、成分の濃さをアピールしてくる。すぐに体がポカポカ温まる点を含めて下諏訪の町外れにあった毒沢鉱泉を連想させる特徴。
見た目のインパクトがさらにもう一つ。浴槽の縁には析出物がこびりつき、千枚田のような模様を成長させつつあった。析出物の堆積は床の一部にも広がり始めている。さらに運営年数を重ねていけば「析出物が絶景の温泉」としても語られるようになるんじゃないだろうか。
浴室にはこの他に2名規模の泡風呂(真水の沸かし湯)とサウナとハーブスチームバスがある。
右手が主役級の源泉風呂。内湯の源泉風呂と似た明るい黄土色のお湯のため浴槽の底は見えない。湯口からはボボボボッと勢いよく源泉が噴き出しており、金気臭に混じって時折ふわっと微かな硫黄香が漂ってくるのだった。
やはり加温なしのため冷たい。最初は「だめだこりゃ」と退散したくなるが、我慢して少しずつ体を沈めていくと、あら不思議、数秒後には冷たさを感じなくなる。平気を通り越してむしろ気持ちいいのには驚いた。
こりゃええわー。まだ秋になりきっていない陽気のおかげか、体がゾクゾクしてくることもなく、いくらでも浸かっていられそうだ。どうしよう、意表を突く好感触のおかげで出るきっかけがつかめないんですけど。
ふと湯面を見るとカマキリが溺れていたので外へ逃がしてやった。これで我がカルマ値を下げられたかな。カマキリはしばらく動かなかったが、やがて我に返ると、自らの武器であるカマをペロペロと舐め始めた。含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉の源泉だから舐めすぎると腹下すぞ。
露天風呂で冷たさに慣れたので内湯の源泉風呂に再挑戦してみた。こちらも不思議な気持ちよさを体験できる。そしてやはりメイン浴槽との冷温交互浴がやめられない止まらない。
気がつけば入館してから1時間近くが経過していた。あと1時間で下呂駅まで帰る最終便のバスが来る。当初は1時間を入浴にあてて、あと1時間を近く(片道徒歩20分)の観光スポット・巌立峡の見学にあてるつもりだった。
つまりもう風呂からあがるべき時間。しかし冷温交互浴をまだまだ楽しみたい。濃ゆい温泉の割には立ちくらみすることもなく、本当にあと何セットでも続けられそう。どうしよう。
いや…もういいや。巌立峡はパス。温泉を追求しよう。ここまで来て巌立峡を見ないなんてもったいない、という執着を捨て去った瞬間だ。これでまた一歩、解脱に近づいた。
あとはバスの時間までレストランにてビールでひとり乾杯。今回はいつにもまして満足度高い。当たりだったわ~。
そういえば、入浴の終盤は序盤に比べて人口密度が倍くらいになっていた。お年寄りばかりでなく若い客の姿も目立つ。やっぱり人気あるね。これからもこの個性的な湯を守り、析出物の千枚田を絶景レベルまで育ててほしいものである。
ひめしゃがの湯へのアクセス
下呂から御嶽山方面へ
ひめしゃがの湯は下呂温泉から鹿山行きのバスで約1時間。本数は少ないので要注意。そんなに遠いのイヤーンな人は、途中に「しみずの湯」なる日帰り温泉もあるので、検討してみてはどうか。それでも片道30分だけど。また、45分ほど走ったところでJR飛騨小坂駅前の停留所を通るから、飛騨小坂までは列車で行く手もある。ただし接続の良し悪しや特急が停車するかはよくよく確認されたい。自分の場合は接続が良くなくて下呂駅からバスにした。
飛騨小坂から先は御嶽海、じゃなかった、御嶽山の匂いがいよいよ濃くなる中を、小坂川に沿って山深くへ入っていく。
下島温泉口なる停留所を過ぎたら、まもなく「ひめしゃがの湯」停留所に着く。ここで下車。
入口に飲泉場あり
建物はちょっとユニークな形をしており、1階が土台で2階にメインの木造平屋が乗っかってる感じ。入口の脇には炭酸泉の飲泉場がある。説明板によれば泉質は「含鉄(II)-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、中性、冷鉱泉」。使用位置で22℃。管にこびりついた赤い塊がすごい。飲んでみた。含鉄といえどもエグみや苦味はそれほどでもない。かすかに炭酸感はあるものの明瞭にパチパチ弾けるほどではない。一瞬シュワッときたかな、と思ったらさっと抜けていく。
個性の強い良泉
2階にある大浴場
では入ろう。入館したらすぐに階段またはエレベータで2階へ。まずは売店コーナーがお出迎え。初見はレイアウトにちょっと戸惑うが、入ってすぐ左側に注目すれば迷わない。レストランへ行く人はスリッパに履き替える、入浴する人は下足箱ロッカーに靴を入れる。売店内の受付で650円を払い、奥にある男湯の暖簾をくぐる。建物全体と同様に浴場も全然鄙びてはいない。ハード面で客を選ぶようなアクの強さはなく一定の安心感はある。壁の分析書には飲泉場とちょっと違う「含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、中性、冷鉱泉」の文字が書かれてあった。
冷たい内湯源泉風呂
浴室内には7~8名の先客がいた。行楽日和であることを差し引いても、いつ行こうが独占状態になることはまずあり得ない、来客の絶えない人気施設だと直感した。パンチの強そうな濁り湯だからでしょう。洗い場は10名分。今日の客入りでもまだ余裕がある。体を洗った後、真っ先に目についた手前の源泉風呂へ入ってみたら…冷たっ! 何も考えずに足を差し入れて冷たさにびっくりした。冷静に考えれば冷鉱泉の源泉なんだから冷たくて当たり前なのだ。
源泉風呂は明るい黄土色に少しだけ緑を混ぜたような色合いの濁り湯。深めの浴槽は濁りで底が見えない。ふたり入ればいっぱいになるサイズで、実際は誰かひとりが入ると他の客は遠慮する、という譲り合いの雰囲気でひとりずつ浸かっていた。
析出物が目を引く内湯メイン浴槽
温かい湯を求めて、ひとまず内湯のメイン浴槽へ移動。10名以上いけそうなサイズの浴槽には源泉風呂よりも暗めの赤茶色のお湯が満たされていた。やはり底が見えないため隠れた段差に注意。加温によりやや熱めである。炭酸泉といっても体中に泡が付くようなことはない。加温で炭酸ガスが飛んでしまったから、だけではなさそう。源泉風呂を含む他の浴槽でも泡付きなしは同様だった。
金気臭と土気臭が混じり合ったような匂いがはっきりと感じられ、成分の濃さをアピールしてくる。すぐに体がポカポカ温まる点を含めて下諏訪の町外れにあった毒沢鉱泉を連想させる特徴。
見た目のインパクトがさらにもう一つ。浴槽の縁には析出物がこびりつき、千枚田のような模様を成長させつつあった。析出物の堆積は床の一部にも広がり始めている。さらに運営年数を重ねていけば「析出物が絶景の温泉」としても語られるようになるんじゃないだろうか。
浴室にはこの他に2名規模の泡風呂(真水の沸かし湯)とサウナとハーブスチームバスがある。
冷たい源泉露天風呂の魔力
奥の扉から露天エリアへ出てみると岩風呂がふたつ並んでいた。左手には6名規模の透明な沸かし湯。箸休め的に入ってみると適温だった。濃ゆい成分に湯あたりしそうな時にどうぞ。右手が主役級の源泉風呂。内湯の源泉風呂と似た明るい黄土色のお湯のため浴槽の底は見えない。湯口からはボボボボッと勢いよく源泉が噴き出しており、金気臭に混じって時折ふわっと微かな硫黄香が漂ってくるのだった。
やはり加温なしのため冷たい。最初は「だめだこりゃ」と退散したくなるが、我慢して少しずつ体を沈めていくと、あら不思議、数秒後には冷たさを感じなくなる。平気を通り越してむしろ気持ちいいのには驚いた。
こりゃええわー。まだ秋になりきっていない陽気のおかげか、体がゾクゾクしてくることもなく、いくらでも浸かっていられそうだ。どうしよう、意表を突く好感触のおかげで出るきっかけがつかめないんですけど。
ふと湯面を見るとカマキリが溺れていたので外へ逃がしてやった。これで我がカルマ値を下げられたかな。カマキリはしばらく動かなかったが、やがて我に返ると、自らの武器であるカマをペロペロと舐め始めた。含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉の源泉だから舐めすぎると腹下すぞ。
長時間いたくなる「当たり」の温泉
冷温交互浴がやみつき
そんなこんなで長居したが、このままタイムアップは避けたい。意を決して源泉露天風呂を上がり、冷温交互浴を狙って内湯メイン浴槽へ戻ると…キターーー! おほほほほほほ、こりゃすごい。やみつきになりそうな気持ちよさですな。露天風呂で冷たさに慣れたので内湯の源泉風呂に再挑戦してみた。こちらも不思議な気持ちよさを体験できる。そしてやはりメイン浴槽との冷温交互浴がやめられない止まらない。
気がつけば入館してから1時間近くが経過していた。あと1時間で下呂駅まで帰る最終便のバスが来る。当初は1時間を入浴にあてて、あと1時間を近く(片道徒歩20分)の観光スポット・巌立峡の見学にあてるつもりだった。
つまりもう風呂からあがるべき時間。しかし冷温交互浴をまだまだ楽しみたい。濃ゆい温泉の割には立ちくらみすることもなく、本当にあと何セットでも続けられそう。どうしよう。
いや…もういいや。巌立峡はパス。温泉を追求しよう。ここまで来て巌立峡を見ないなんてもったいない、という執着を捨て去った瞬間だ。これでまた一歩、解脱に近づいた。
スッキリした余韻と満足感
源泉風呂の快感にアリ地獄のように引きずり込まれ、結局1時間半ほど入浴していた。やさしいマイルド系でないのにこんなに粘ったのは初めてだ。我ながらびっくり。入浴後も、のぼせなし・立ちくらみなし・だるさなし・脱水感なしのスッキリした余韻。気に入った。あとはバスの時間までレストランにてビールでひとり乾杯。今回はいつにもまして満足度高い。当たりだったわ~。
そういえば、入浴の終盤は序盤に比べて人口密度が倍くらいになっていた。お年寄りばかりでなく若い客の姿も目立つ。やっぱり人気あるね。これからもこの個性的な湯を守り、析出物の千枚田を絶景レベルまで育ててほしいものである。