山梨県早川町に古くからある温泉が西山温泉だ。開湯は飛鳥時代と伝わり、1300年以上の歴史を持つ。早川町へ行く計画を立てた際、どうしても西山温泉を体験してみたくなった。話題性の面でいうと、慶雲館という旅館は世界最古の旅館としてギネス認定されているらしく、気になる存在だ。
しかし慶雲館は日帰り入浴に対応していないし、一人で泊まるには遥か雲の上の高級旅館すぎてアウト。ほかの候補=湯島の湯と蓬莱館からいろいろ調べて蓬莱館に決めた。いささかディープな匂いも感じつつ、だからこそ隠れた名湯の可能性に期待が持てる。
予感は的中。好みのストライクゾーンど真ん中のナイスなぬる湯。予定を大きくオーバーして長湯しちゃった。
西山温泉蓬莱館へのアクセス
途中で寄りたい新倉の糸魚川-静岡構造線
旅の2日目朝、ヘルシー美里をチェックアウト。ここから西山温泉まで車だったらそう遠くない。途中の観光スポットへ寄り道しながら行くのもいいだろう。実際の時系列では西山温泉の後だったのだが、先に寄ったという仮の設定で以下に2つ紹介。
県道37号南アルプス公園線を北上すると新倉地区で何本かのトンネルが連続して現れる。どうやらそのあたりをリニア新幹線が通るようだ。北上する立場からみて2本目のトンネル入口直前の脇道へ左折すると、新倉の糸魚川-静岡構造線なるスポットの未舗装駐車場になっている。
本番の見学地点は奥へ続く道を徒歩で行く(リニア工事車両以外の一般車両は進入不可)。いきなり湧水が出てますね。
100mも歩けば橋が出てきて、渡った先にそれっぽい碑が立ってて、そこが見学地点。糸魚川-静岡構造線の断層露頭が見えるとのこと。断層を指し示す矢印標識が立っている。
…正直よくわからん。左側と右側で山肌の雰囲気が異なるのはわかるが、どこが断層なのかは指摘できません。周囲は人っ子ひとりおらず、不気味に静かで、熊が出没する想像ばっかり膨らんでしまい、怖くなってすぐ車に戻った。
うわっ…湯島の大杉太すぎ…?
さらに北上すると湯島の大杉がある。神社への階段を上る途中に異常な太さの杉が立っていた。あれかー。
写真だと実感が湧かないかもしれない。まじでやばいくらいに太いのよ。周囲の杉の木と比較してみてほしい。樹齢1200年とのことだから西山温泉に準ずる古さだ。
道幅の狭い一部区間に注意しながらさらに北上すると、下のような蓬莱館の駐車場が現れたので止めさせてもらった。
写真右奥の階段は蓬莱館の建物へ続いている。階段脇の奥に車が何台も止まってるけど、あそこは慶雲館の駐車場だから間違えないように注意。
すばらしいぬる湯を独占!
歴史ある建物の中に大浴場
では入館…の前に、せっかくだから早川と慶雲館を撮影しておくか。
よし、じゃあ階段を上って蓬莱館へ。
フロントは誰もいない。御用の方はこちらで呼び出してくださいと書いてある電話の受話器と取ると呼び鈴が鳴って、まもなくご主人登場。うちの温泉はぬるいですと説明され、心の中でガッツポーズしながら大丈夫ですと答えて1000円をお支払い。ちなみにロビーはこんな感じ。
大浴場まで付き添って案内してくれた。いったん裏から出て別棟に入る。かなり年季の入った建物で鄙びた雰囲気が満載だ。「明治初期の建物でして…」とのこと。ええっ?! そりゃすごい。
森の動物たちもびっくりだ。
2つのぬる湯浴槽が並ぶ
大浴場に到着。男湯に続いて女湯の入口があるけど、脱衣所の向こう側は同じ浴室につながっている。つまり混浴なのだ。当時は一人の男性客がちょうど出てくるところで、これから独泉状態が始まるタイミングだった。やりぃ。
脱衣所の壁には分析書が何枚も貼ってある。適当にまとめると「ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉、低張性、アルカリ性、温泉」のPH9.1、泉温34℃。湯使いは不明なれど、弱い加温以外は加水・循環・消毒なしの源泉かけ流しのような気がする。
浴室にカランは…どうだっけ、4台程度かな。あとは主役というべき内湯浴槽が2つ並んでいた。どちらも8名入れそうなサイズ。外見上は両者とも無色透明のお湯で違いはない。軽く手を突っ込んでみた結果、右が比較的温かいから加温槽と呼び、左の方がクールだったから(たぶん加温してないと予想して)非加温槽と呼ぶことにしよう。客観的には両方ともぬる湯である。
絶妙な不感温度がたまらない加温槽
まず加温槽へ。典型的な湯口はなくて壁から生えたパイプが浴槽の底付近まで引き込まれ、おそらく加温した源泉を流し込んでいるものと思われる。まさに体温レベルの不感温度だからたまりません。心地よすぎてコックリコックリ居眠りしそうになってしまう。せっかく源泉温度が低いのを意地になって41~42℃まで加温する施設が少なくない中、この姿勢はありがたい。真冬もこれでいい。
お湯の匂いに○○臭とラベリングするようなはっきりした特徴は感知しなかった。まあなんだかわかんないけど、いかにもな温泉臭です。泡付きは見られず。ネット上にはオレンジ色の湯の花という口コミが散見されるが、当時見た限りはオレンジではなく、白っぽい粒と、かつお節を細かく粉砕したような茶色系の粒が漂っていた。
加温槽だけでも十分すぎる。無限に入っていられる。もうこれだけでいいやっていうスペック。しかし実際そんなもったいないことをするわけない。隣の非加温槽も体験してみるか。そちらは湯口から2本の筋に分かれて源泉が投入され、コップが置かれて飲泉可能であることを示している…飲んでみたらどちらの筋も同じ温度で同じ味、変な後味はなくて飲みやすい。
夏は最高にクールな非加温槽
非加温槽は中に仕切りがあって湯口側に2名区画、窓側に6名区画となるよう仕切られている。お湯はかなり自由に行き来しているので温度に違いはない。とりあえず6名区画で過ごしてみた。
うむ、クールですな。35℃を下回る体感だけど30℃よりは高い。冷たさに抵抗しながら少しずつ身体を沈める必要はなくてザブンと入れる。夏には最高の爽快感だし、冬でもこれくらいの温度はべつにありじゃないですかね(ぬる湯派のコメント)。温度以外の面でもただの沸かし湯とは違った浴感で、お肌の状態も全然違うよ。
大きな窓から外を見やれば周辺の深い緑と青い空が目に入る。本来なら「ああ、もう夏も終わるのだなあ、秋にバトンタッチかー」と感慨を覚えるべき時期。しかし令和の夏はまだまだ元気いっぱい。夏はこれからだぜ・もっと暑くしてやんよ、みたいな空気を醸し出してやがる。こっちは最強の盾(ぬる湯)で身を守るのみだ。
加温槽も非加温槽もどちらもすばらしい。両者を何度か往復して、そろそろ1時間経ったかな? いやまだ50分くらいかな? と感じたところであがった。スマホの時計を確認すると、なんと90分も経過していた!…ナイスなぬる湯に時を忘れてしまったようだ。しかし蓬莱館の名前を忘れることはないだろう。










