誰しも健康でありたいと願うもの。そんな人類普遍の価値観を表す名前の旅館が山梨県にあった。ヘルシー美里…健康と美の里、この名前は強い。しかも場所が早川町→早川さん→サザエさん→長寿番組→長生き。こんなところにも隠されたサインが(陰謀論)。
廃校になった中学校の校舎を再利用した温泉旅館で、以前からなんとなく気になってたし、好みのぬる湯もあるという情報を得て、異常な夏の暑さにまいってたから助けを求めて行ってみた。※実際は水風呂並みに冷たかった。
熱すぎない適温槽と冷たい源泉槽からなり、メリハリのある温冷交互浴を楽しめる。とくに源泉槽は主張の強いタマゴ臭&しっとりした感触が特徴でトライする価値あり。
ヘルシー美里へのアクセス
秘境感と工事現場感が交錯する早川
公共交通機関の場合、JR身延線の身延駅や下部温泉駅から早川町乗合バスで45~65分のヘルシー美里停留所を利用できる。このバスは1日5便。ちゃんと接続を調べて行けば大丈夫そうですね。
バスにせよマイカー・レンタカーにせよ、町内の主要な道路は早川に並走する県道37号=南アルプス公園線のみといってよい。自分はマイカーを運転して富士川町の赤石温泉に立ち寄ってからヘルシー美里を目指したのだが、南アルプスの懐にどんどん引き寄せられるような県道を走る展開にロマンを禁じ得ない。
とはいえ秘境感あふれるワイルドな景色ばかりでなく、道路沿いや河原に土木業の拠点が急に広がっていたり(砂利の採取?)、工事現場がポツポツ現れたりする。リニア新幹線工事と関係しているのだろうか。行き交うダンプやトラックの数も多くて、広いとは言えない道幅でのすれ違いは結構神経を使った。
なので自然豊かな秘境感と工事関連のガチャガチャした感じが入り交じって印象の振れ幅が大きい。車窓に映る早川についても、見事な渓谷美かと思えばほとんど水のない石だらけ・工事の手が入った河原に変化したりと、その姿をくるくる変えるのである。
どう見ても元学校です
県道37号に入ってから20km・30分ほど走ると当宿の看板が現れるので右折。車1台分の狭い脇道の数十メートル先から敷地に入る。その境界には学校の門だった形跡が残っている。敷地内はまさに校舎+校庭って感じ。
旧体育館+遠くに見える山+雲がいかにも夏の風情たっぷり。
車は校舎、もとい旅館の前に止めればいいみたい。みんなそうしてたから真似した。
我、ヘルシー美里に体験入学す
校舎そのまんまの旅館
ではチェックイン。ヘルシー美里へようこそ。ああ、こりゃ学校だわ。
キッズコーナーを兼ねたロビーとフロント付近がこちら。自然環境の説明や体験イベントの紹介が多い。さりげなくビール含む飲料の冷蔵ケースもありんす。
こちらは温泉むすめ…じゃなくてモノノケのムスメ。早川町を舞台にしたマンガらしい。
廊下には動植物の切り絵がぺたぺた貼ってある。夏休みの自由研究風の発表ポスターも見られた。早川町のいいところは自然が豊かなところ・問題点は人口減少とのこと。人口が1000人を割ってるってのは衝撃的な数字。
あとは音楽室・図書室・理科室みたいなのもあったけど、客室かもしれないし、入っていいのかわからないから突撃せず。
部屋に入れば1年生
案内された部屋は1階の10畳和室。布団はセルフでお願いします。部屋番号を10X号室だとすると、当宿では1年X組という呼び方をしていた。2階の部屋だと2年X組になるのか?!
トイレは共同。近くの男子トイレはもう記憶が怪しいけど小×3・シャワーなし洋式の個室×3程度は備わっていたはず。洗面所も共同で、いかにも学校のアレっぽい。部屋には金庫あり、冷蔵庫なし、WiFiあり。エアコンはもちろんのこと、浴衣もタオルもある。バスタオルはない。
室内はもう学校って感じではなくて普通の旅館だ。管理は行き届いていて不都合はない。1階の並びの各部屋は校庭側を向いており、窓の外はこんな景色。満室の日なんかは砂利部分に車が並んでいることもあるだろう。
ヘルシー美里のヘルシーな温泉
坂の上の大浴場
ヘルシー美里の大浴場は本館に隣接する高台にある。まず1階裏口を出て専用のサンダルに履き替える。そうしてこのような渡り廊下風のゆるい坂を上る。
渡り廊下の途中で本館方向を撮影した風景がこちら。撮影後はスマホを部屋に戻したので風呂場にスマホを持ち込んではいない、念のため。
浴場棟の右が男湯で左が女湯。時間による男女の入れ替えはなかった。脱衣所は一般的な棚+かご。分析書をチェックすると「含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩冷鉱泉、低張性、アルカリ性、冷鉱泉」だった。PH9.6、泉温19.6℃。加水とか循環とかの情報は不明。
塩作りにも使われる温泉
浴室に入るといきなりプ~ンと強めのタマゴ臭が襲いかかってきた。おおー、やるじゃん。仮に消毒ありの湯使いだとしても、この調子なら絶対に塩素臭を感じないお湯で間違いない。洗い場のカランは6台。ほかには内湯が2つというつくり。
左手のメイン浴槽は水色系のタイルが明るい印象を与える。全員が足を伸ばすことができなくなるのと引き換えに向かい合わせを許容すれば6名入れるサイズ。お湯は無色透明に微妙な濁りを加えたように見える。浸かってみると熱すぎない適温で、思ったより長く入れる。
湯の花や泡付きはとくに目立たない。匂いを嗅いでみると、やっぱり塩素臭はしないかわりにタマゴ臭もそんなにしない。無臭に近かった。お湯を触った手で頬を撫でる癖があることと、なにかの拍子に跳ねたお湯が顔に届く場面も少なからずあると思われ、微量のお湯が口の中に侵入してくることがある。その際に意図せず温泉の味を認識することになるわけだが、ここのは明確に塩辛かった。
滞在中になにかの資料で「ヘルシー美里の温泉水を使った塩作りに取り組んでいる」というような話題を見かけた記憶がある。うん、塩が取れるだろうね。
源泉の個性が強く残る冷たいサブ浴槽
右手のサブ浴槽は黒系のタイルがダークな印象を与えるため黒湯のようにも見えてしまうが、メインと同じ微濁り無色透明でしょう。小さめの2名サイズ。おそろしいことに「源泉温度19.8℃」という札が取り付けられている。ぬる湯どころか水風呂級じゃねーか。
まあいいか、熱中症になりそうな暑さだったし、と覚悟を決めてゆっくり浸かっていく…サウナーじゃないし水風呂慣れしていないので一気にザブンは無理。どうにか肩まで浸かってしまえば、動かずじっとしている限りは冷たさの刺激を抑えられる。
不思議なほどしっとり感のある冷泉だ。わずかな時間で怖いくらいに指先がしわしわになる。匂いを嗅ぐと強いタマゴ臭を通り越して、キツい腐卵臭に達する直前でぎりぎり踏みとどまっているレベルのやばいやつだった。そのくせ妙に気になって何度も嗅いでしまう中毒性がある。浴室で最初に感じた匂いの元はこっちだな。なかなかの逸材を見つけたり。
メインとサブを行き来すればメリハリのある温冷交互浴となり、温泉の気持ちよさが倍増する。しっとり感が定着して肌の様子もいい具合になってくるし。夕方は急な仕事が追いかけてきちゃって、その対応で1回しか入れず、夜は酒が入ったし1回、朝は7時から入浴可能で朝食前に1回、で合計3回。もっと入ればよかったかな。
お食事は給食室で
茂倉うりをいただける夕食
ヘルシー美里の食事は朝夕とも別棟にて。仮に給食室と呼ぼう。夕食時間は3つくらいの選択肢から選べる。希望した18時に行ってみると、給食室にも各種の紹介記事や展示があった。部屋番号に対応したテーブルに着席してしばらくすると、いろいろと運ばれてきてこうなった。
刺身をこんにゃくだけにしたのは潔い。酢味噌でどうぞ。刺身のツマが大根でなく細切りキャベツに見えたが、食べてみるとメロンの味がする! まさかメロンじゃないし、早川町の名産である茂倉うりというキュウリの可能性が高いね。第一印象がメロンのキュウリ、おそるべし。
鮎の塩焼きはでっぷりとして身が多い。ほんのり苦みがさわやかなタデ酢につけてどうぞ。個人的には中山間地域へ来たのだからこのような内容でいいし、量的にもちょうどよかった。あまり多すぎて胃が苦しくなると夜の風呂に差し支えるので。
締めのご飯はセルフでどうぞ。お供になる汁物は冷や汁だった。こいつにも茂倉うりが入っている。もう正体はわかっているからメロンだとは思いません。
最後はオレンジ&ぶどうで完食。ごちそうさまでした。
朝の給食とでも言おうか
朝食も3つくらいの選択肢から選べる。朝風呂が7時からということを計算して8時を希望。給食室の前夜と同じテーブルに着席するとこういった一式が運ばれてくる。ご飯とふりかけはセルフでお願いします。
焼き魚が鮭なんだったら、ふりかけを鮭じゃないやつにすればよかったかな。まあいいや、避けられない運命がふりかかってきたのだと思うことにしよう、鮭とふりかけだけに。全体にものすごく特別感のある品というわけではないが、朝はこういうのでいいんだよ。
旅行先で食べるお米はまずたいがい、ふだん食べているやつよりもうまい。調子に乗っておかわりしちゃいました。朝からヘルスィーをありがとう。
* * *
温泉を抜きにしても、小学生までのお子様連れファミリーであれば体験入学(宿泊)してみる価値あり。自然教室的なイベントをいろいろ催してるみたいよ。近くには南アルプス邑野鳥公園ってのもあるし。
温泉おじさんの観点では、秘湯ではないにせよ南アルプスロマンを感じるロケーションとあの個性的な冷泉がポイントになる。水風呂級に冷たいけど頑張って浸かってほしい。メイン浴槽も熱すぎないので夏向きでしょうね。夏休みに行く学校ですな。
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