おもしろきかな、にゅるにゅる硫黄泉 - 羽根沢温泉 加登屋旅館

羽根沢温泉 加登屋旅館
山形県庄内地域への遠征という名目で庄内空港に着いたのに、なぜか最上川を遡るように内陸方向へ車を走らせるおじさん。もはや庄内エリアを外れてしまった。何を考えているのかこの男…多少強引な「寄り道」をしてでも行ってみたい温泉があったのだ。

羽根沢温泉。鮭川村の小さな温泉地である。ネットでその存在を知って、口コミや体験談を読むと、かなり良質かつ個性的な温泉だということがわかった。自分もぜひ体験してみたい…わりと以前から機会をうかがっていたのだ。

宿泊したのは加登屋旅館。お湯が熱い羽根沢温泉の中では比較的ぬるい方だという情報を見かけたのでね。念願叶って特徴的な温泉を体験し、お食事面では山菜をたっぷりいただきました。

羽根沢温泉・加登屋旅館へのアクセス

普通は新庄が玄関口になる

東京方面から羽根沢温泉へ行こうとすると、まず思いつくのは山形新幹線で新庄まで行くルートだ。新庄駅から羽根沢温泉まで村営のバスが運行されている。ただし土日祝や年末年始が運休だから旅行者向きではない。加登屋旅館では新庄までの送迎をしてくれるみたいだからそっちを頼るか。

新庄周辺だと大蔵村の肘折温泉の方が名前を知られているかもしれない。こちらは以前訪れてみて、とてもよい温泉地だと思った。肘折温泉と羽根沢温泉を組み合わせると非常にうらやましい旅行プランができあがる。

それはそれとして、今回は庄内遠征プランに対して多少強引に羽根沢温泉を組み入れることにした。そうでもしないと、いつまでたっても夢は夢のままで終わってしまいそうだったからね。やるなら今しかねえ。

一般人が車で行ける最奥部

庄内空港からレンタカーで長沼温泉ぽっぽの湯→最上川舟下りを経て鮭川村へ入った。舟下りでは船頭さんに今夜の宿泊先を訊かれて羽根沢温泉と答えたら、「何もない山の中だ」「共同浴場に猿が入ってくるらしい」「熊は出ないと思うが夜にタヌキは間違いなく出る」などと教えられた。オラわくわくすっぞ。

国道47号→県道58号→県道315号を通っていったが、特に狭隘だとか曲がりくねった道ではない。運転面で大きな苦労もなく羽根沢温泉に着いた。ここから先の道路は普通の車が入るような幅・路面じゃないから、ある意味では最奥地といえる。

当館の前に多目的ぽい広めの駐車場があったから、そこに車を止めた。なんと場内に飲泉所あり。飲んでみたらタマゴ臭が強かった。硫黄泉ってことか。
羽根沢温泉の飲泉所
また、駐車場に隣接して集会所あり。脇には共同浴場の札が見える。ここに猿が出るのかな。
羽根沢地区集会所と共同浴場

昭和レトロだが快適な部屋

ではチェックイン。建物じたいは年季が入っているように思われるものの、別に気になるようなところはない。ロビーはこんな感じ。囲炉裏風テーブルの向こうは鯉の泳ぐ水槽になっていた。
加登屋旅館のロビー
案内された部屋は2階の10畳+広縁和室。レトロ感はあれど管理状態に問題なく居住性ばっちり。布団は夕食中に敷いてくれるクラシック方式。
加登屋旅館 10畳客室
トイレは共同(男子用は小×2+シャワートイレの個室)。洗面台は部屋に付いてる。金庫なし、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。ウエルカムお菓子の味噌まんじゅうがうまい。窓からはお隣の松葉荘の敷地や自分が車を置いた多目的駐車場が見える。
窓から見える景色
夜になったらタヌキを探しに屋外へ…なんて行動は取らず、おとなしく部屋にいたが、外から聞こえるカエルの合唱がすごかった。周辺の環境からすればまあ不思議はない。ちなみに部屋にガムテープが備え付けてあるのはカメムシ退治用だと思う。当時はまったくカメムシいなかった。


念願の羽根沢温泉を体験する

八角形を意識させられる浴室と浴槽

加登屋旅館の大浴場は1階フロント前にある。右が男湯で左が女湯。どちらもつくりが一緒だから男女入れ替えなし。分析書には「含硫黄-ナトリウム-塩化物炭酸水素塩泉」とあった。加水なし、寒い時期のみ加温、循環なし、消毒あり。

浴室には2名の先客がいた。一般の平均的観光客には見えず、羽根沢の湯を求めてやって来た温泉通らしき眼光を放っていた。言葉を交わさなくてもわかる。みなさんお好きですなあ。と、勝手に脳内でキャラ設定してしまったよ。

八角形の大きな浴室を真ん中で仕切って男女に分けている形。カランは3台。浴槽は八角形の外周に沿って設けられており(男女つながっている)、仕切りによって八角形の3辺分が男湯に割り当てられているといった感じだ。わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ~。2名が向かい合わせになれる奥行きはなくて、一列横並びで10名くらい入れそう。

ややぬるめの硫黄泉

湯口は装飾のないシンプルな管、そこからシンプルに投入されるお湯と、シンプルに床面にオーバーフローしていくお湯、床面の2箇所に開いた穴へシンプルに吸い込まれていくお湯、なんていうか潔い。

お湯の見た目は無色透明に近いながらも微濁りを含むように見える。浸かってみるとややぬるめの適温。速攻でのぼせてしまったり、ひーふー言いながら入るような熱さではない。湯の花は少しだけあり。泡付きなし。匂いは強いタマゴ臭やアブラ臭を勝手に想像していたんだけど意外と弱かった。ただし無臭とはいえない。硫黄泉的な要素ははっきりと感じる。

ヌルヌル感が特にすごい

最も印象的だったのはヌルっとした感触だ。かなりハイレベルなニュルニュル湯である。肌にまとわりつく感じがすごい。ついつい両手をこすり合わせて感触を楽しんでしまう。おまけに入浴後しばらくしたら手の平が卵白でコーティングしたかのようにテカテカになっていた。なんじゃこりゃあ。

これはなかなか面白いお湯だ。本格温泉としてのクオリティに間違いはないし、熱すぎないからしっかり堪能できる。ええじゃないか、ええじゃないか。

夕方1回・夜1回・翌朝は朝食前に短時間×2回入った。ラストでチェックアウト前の1回を狙っていたら浴室の掃除が始まってしまった、ような様子に見えてあきらめた。思い込みで決めつけずにトライしてみれば良かったかなあ。それくらい何度でも入りたくなる温泉だ。


食事の一品一品がうまい

夕食は馬刺しとたっぷりの山菜

加登屋旅館の食事は朝夕とも別室で。かつての客室を個室の食事部屋として使っている模様。時間が来ると部屋に声がかかり、こちらへどうぞと誘導される。夕食のステーティングメンバー+直後に運ばれて来た天ぷらなどがこちら。
加登屋旅館の夕食
ボリューミーですな。馬刺しは評判の一品らしく、確かにうまい(凡庸な感想ですまぬ)。他のもうまかったし、全般によくできていると思った。山菜がいっぱい使われているのもおじさん的には好ましい。凌ぎのそばもきのこたっぷり、天ぷらと組み合わせればそれだけで立派な一品になる。

生ビールの炭酸効果か、あっという間に腹が膨れた。これはちょっと完食できないかも、と弱気になりながらも、残さずいただきました。しかし締めのご飯は1~2口しか入らず。せっかくのうまい米なのに、あーもったいねー。なお味噌汁にも山菜が入っていた。

派手さはなく地味だけど滋味深さで勝負っていう感じの夕食であった。いいじゃないですか。

朝食も山菜がいっぱい

朝食も同じ個室で。起床後すでに2回風呂に入って胃腸を整えてある。さあ来い。
加登屋旅館の朝食
こちらも山菜がありますね。他に特筆すべきは味噌汁の具が姫竹あるいは根曲がり竹だった。命がけで熊を避けながら取ってくるやつ(想像)。それがお椀を埋め尽くすほどたくさん入っていた。なんちゅう贅沢や。

ご飯は1.5杯程度いただくことができて、前夜の敵討ちといっては変だけど、精神的にも満足した。食後にコーヒーが出てきたりはしないけど、1階ロビーに「コーヒーいかがですか? スタッフにお声がけください(確か100円)」みたいな張り紙がある。

 * * *

うむ、なるほど、これが羽根沢温泉か。個性があってとにかく面白いお湯だし、効能や湯質を追求する玄人さんにも満足してもらえそうなクオリティ。いつまでも夢のままモヤモヤしてるだけで終わらせず、多少強引にでも訪れてみて正解だ。すっかりテカテカになった手を見ながら満足感に浸るのであった。


おまけ:鮭川村のトトロの木(小杉の大杉)

羽根沢温泉へ向かう道中に「トトロの木」「小杉の大杉」といった標識が目についた。気になったのでチェックアウト後に立ち寄ってみた。鮭川村の観光スポットとして結構有名だったのね。

温泉から最短ルートで行く道は車1台分の幅しかない。対向車はまず来ないとはいえ、祈るような気持ちで走り抜けた。ゴール手前の狭い橋もなかなかのスリル。

カーナビの誘導終点は駐車場になっていて、そこから歩いて行く。あたり一帯は人っ子一人歩いてない。猿とか猪とか出ないだろうな。熊はまじでやめて。
小杉の大杉へ通じる小道
はい、こちらが小杉の大杉です。別名トトロの木と呼ばれる理由は、見ればわかるな。
小杉の大杉
こうして鮭川村を後にし、遠征プランの建前通りに庄内地域へと戻っていった。