最上川源流を望む奥州三高湯の宿 - 白布温泉 中屋別館不動閣

白布温泉 中屋別館不動閣
秋の米沢遠征の動機として、もともと行ってみたかった温泉地があった。奥州三高湯の一角をなす白布温泉である。奥州三高湯=奥州の標高が高めの場所にある3つの名湯ってことかな。そのまんまやんけ、ってツッコミは無しでお願いします。

ちなみに残りふたつは蔵王温泉と高湯温泉。そっちはすでに体験ずみだったので、白布をクリアして奥州三高湯をコンプリートしなければならないと、ずっと思ってた。俺は俺の野望を全うする。心を燃やせ。

白布温泉で一人泊可能なプランがさくっと見つかる旅館となると限られる。まあだいたいは中屋別館不動閣の一択ってことになるだろう。渓流を見下ろす露天風呂と、ものすごーく長ーいオリンピック風呂が特徴だ。

白布温泉「中屋別館不動閣」へのアクセス

秘境的なムードの県境越え

東京方面から米沢までは山形新幹線に乗るだけだから簡単だ。強いてコメントするなら、いつも思うのだが福島~米沢間の秘境ムードが何とも味わい深い。並走する道路や人家がほとんど目に入らないせいだろうか。

(この段落に出てくる駅名は在来線のみ停車:)とくに庭坂駅を過ぎてから、えっちらおっちらと山登りが始まるのが新幹線らしくなくて逆に好きだなあ。そこから板谷駅~峠駅~大沢駅の先くらいまで、車窓は木と草ばっかり。あとは木立の向こうに川の存在を感じ取るくらい。ごくまれに道路の気配あり。駅は駅でスノーシェッドに覆われていてJR北海道みたい。

このエリアでは姥湯温泉滑川温泉に車で行ったことがある。やっぱり人家のまったくない山の中の超狭隘な林道を何キロも走ったんだよなー。いまだに人生No.1の過酷な道である。自分だったらとても運転できない。熟練ドライバーがいてくれて助かった。

米沢駅からバスで40分

というような思い出が蘇る県境越えをして米沢駅に到着。いったん南陽市の赤湯温泉・湯こっとへ入浴しに行ってから再び米沢駅へ戻り、白布温泉湯元駅前行きのバスに乗った。この湯元駅とは天元台ロープウェイの山麓駅を指す。白布温泉の先に天元台高原・スキー場があるのだ。

白布温泉までの道路はところどころで1.5車線レベルの狭さになったりしつつ、福島県側の裏磐梯・猪苗代へ通じるルートになってるせいか、対向車がそこそこ多い。自分がマイカーやレンタカーを運転する立場だったら相応に泣きが入っていただろう。

バスに乗車すること40分で白布温泉待合所の停留所に着いた。バス停のすぐ近くに当館の勝手口的な門があってそこから敷地内へ入れる。車で来た場合に通る広い正門はまた別にある。


レトロ感漂う川沿いの宿

渓谷館・不動閣・黎明館

当宿は3つの棟からなる。冒頭写真に示す渓谷館、大正時代の建築で宿名にもなっている不動閣、大浴場の上に作られた黎明館。下の写真は不動閣だ。現在は玄関から直接出入りすることはできない。
不動閣
敷地には「虹鱒と岩魚がいます」と書かれた小さな池があった。
虹鱒と岩魚がいる池
また、おそらく温泉をチョロチョロと流しているところもあった。飲泉所か、それとも手湯か、演出の一種か。単に水を貯めているのではないと思うが。よくわからなかったので見るだけよー。
おそらく温泉
では渓谷館へ入ってチェックイン。とってもノスタルジックな雰囲気の待合室で宿帳記入して手続きの完了を待つ。お茶も入れてくれて一息つけた。
待合室
待合室とは別にロビーもある。囲碁の本因坊戦が当宿で行われたときの写真など、いろいろ由緒ありそうなものが展示されていた。喫茶室を併設していてコーヒー300円と案内があるけどつねに無人で、実質閉鎖なのか、それともスタッフさんを探して声をかければ対応してもらえるのかは判断できず。
ロビー
あとお土産コーナーもあります。
お土産コーナー

最上川の源流を眺める部屋

渓谷館はフロントのあるメインのフロアが2階にあたる。案内された部屋も渓谷館2階で6畳+約2畳の和室。昭和チックというかレトロな和風旅館の趣だが管理状態は概ね良好で不都合はない。布団は最初から敷いてあった。
中屋別館 渓谷館の客室
室内にトイレなし。近くの共同男子トイレは小×2、個室はシャワーなし洋式1+和式1。洗面台は室内にある。金庫なし、水の容器の入った冷蔵庫あり。WiFiあり。エアコンや扇風機はなく、しかし当時はもう空気がひんやりしていて夜は寒いくらいだった。コンセントに余裕がないから携帯の充電はいろいろ工夫して頑張ろう。

すぐそばを川が流れており、窓から下方向に目を向けた際の景色がこちら。
大樽川
聞いた話によれば最上川の源流とのことだ。後日の調べによると最上川の支流である大樽川。この川のザーッという音がつねに聞こえてくる。川沿いの温泉旅館によくあるパターンですな。自分は川の音を気にしない、むしろ心地よい響きだと受け止めた。


心地よい硫黄泉を源泉かけ流し

素朴な雰囲気の露天風呂

当宿の大浴場は不動閣側にある。まず渓谷館と不動閣をつなぐ半フロア分くらいの階段を上ると格調高そうなロビーが現れる。
不動閣側のロビー
そのまま奥へ進むと、露天風呂とオリンピック風呂への分かれ道。最初に行ったのは露天風呂の方。通路の壁に泉質の説明があったんだっけな。「硫黄泉(含石膏硫化水素泉)」みたいな表記。加水あり、加温・循環・消毒なし。男湯は浴室と脱衣所が別室になってなくて簡単な仕切りがあるだけのつくりになってる。脱衣所にロッカーや棚はなく、床に4~5個のカゴが置かれている。

浴室に洗い場はない。ホースの付いた蛇口がひとつあるけど浴槽掃除用でしょう。自分は先に赤湯温泉で洗身洗髪したからヨシ! 丁寧にかけ湯をして突撃。

浴槽は向かい合わせになれるほどの奥行きがなくて横一列に5名が並べるくらいのサイズ。斜めに傾けた竹筒風の湯口を通じた源泉かけ流し。お湯はオーバーフローするかわりに湯船の端っこに生えているパイプから出ていくようになっていた。

川が見えてゆっくりリラックスできる温度がお気に入り

お湯は無色透明。蔵王や高湯と同様の白濁だと思い込んでいたから意表を突かれたわ。湯の中で灰色の綿っぽい湯の花が舞っている。茶色い欠片も舞っているけど枯れ葉か木くずの類じゃないかな、オリンピック風呂の方では見なかったので。そして泡付きはとくになし。

温度設定が絶妙だ。いわゆる“ぬる湯”に分類される温度ではないが、いい塩梅にぬるめなので比較的長く入っていられる。こいつはたまらんち。お湯の匂いを嗅ぐと硫黄泉らしい特徴を感知した。といっても露骨なタマゴ臭や焦げ臭ではない、甘い感じのする控えめなやつ。そして感覚的な「入湯中の気持ち良さ」がなかなか結構なレベルでたまらんち。

景色もなかなかのもので、客室と同じく見下ろすと川の流れが目に入る。しかも遮る木や葉っぱが少なくてかなり見やすい。対岸は人工物のない山だから、自然を感じる露天風呂を求める方にはちょうどマッチするのではないか。

夕方は日帰り客がちょいちょいやって来るため3~4人が同居する形だった。夜や朝は誰もいなくて独占できた。この露天風呂はいい。自分好みだな。

長ーい長ーいオリンピック風呂

もうひとつのオリンピック風呂は上述の分かれ道で左の階段を上る。すると昭和の東京オリンピックの聖火リレー山形区間に使われた聖火台が展示されていた。だからオリンピック風呂なわけね。
聖火台の展示
こちらの脱衣所~浴室はいくらかモダンな感じ。脱衣所は一般的なつくりで棚にカゴが置かれている。正式風な分析書が貼ってあったから確認すると「含硫黄-カルシウム-硫酸塩泉(石膏硫化水素泉)、低張性、中性、高温泉」だった。

浴室への入口は自動ドアだ。入ると洗い場が8名分。なによりも目立つのが横に長ーい浴槽。なんじゃこの長さは…横一列に何人くらい並べるのか、見当もつかない。あえて見積もるなら20名? いやいや30名くらいかな。実際に満員になるまで並んだら圧巻の光景が展開するはず。

なんと滝見もできてしまう

窓越しの下方にやっぱり川。なおかつ、この長ーい浴槽の一番奥を陣取ると滝が見えます。まさかの白布大滝? いや白布大滝はもっと遠いだろう。冷静に考えると近くの沢が落ち込みながら合流してるんじゃないか。知らんけど。

浴槽の内側の壁にお湯を噴き出す仕掛けが一定間隔でついている(空気を噴き出さないからジェットバスではない)。それらが湯口がわりになっているようだな。無色透明・湯の花・匂いといった特徴は露天風呂と一緒。

夕方の時点のお湯はずいぶん熱めで、こりゃ短時間しか浸かってられないなと思って、実際早めに退散した。夜はパスして翌朝行ってみたらまあまあ適温でじっくり入りやすかった。


山形米沢へ来た感たっぷりの食事

夕食では米沢牛と鯉を楽しめる

中屋別館不動閣の食事は朝夕とも渓谷館1階の食事処あづまへ行く。部屋ごとに割り当てられた掘りごたつ式のテーブルに並んでいたスターティングメンバーがこちら。
中屋別館の夕食
米沢牛キターーー!! 狙い通り。行きの新幹線車内で食べる駅弁に「牛肉どまん中」を選ばずあえて海鮮系にしたのは、この瞬間の感激度を最大化するためさ。しかも鯉のあらいと唐揚げ(?)があるじゃないか。鯉に苦手意識はないし旅行の時しか口にする機会がないから歓迎だ。前菜のあけびの肉詰めは自分にとって珍しい味と食感。

おほほほ、うまい、うまいぞ。やがて茶碗蒸し・玉こんにゃく入り米沢牛すじ煮込みが追加され、しのぎに山菜うどんもあったりして、かなりお腹いっぱいになってきた。
中屋別館の夕食その2
これはまたしても締めのご飯にたどり着けないパターンか。お品書きには「山形のおいしいごはん」って書いてあるのにな。…はい、やっぱり力尽きました。ご飯は茶碗3分の1くらい残してしまった。

朝食の味噌汁がやたらうまい

朝食は7時・7時半・8時から選べる中で7時半にした。食事処あづまへ行くと、昨夜と同じ席に朝の品々が用意されていた。
中屋別館の朝食
奇をてらわない“普通が一番”な感じのラインナップ。鍋の中身は湯豆腐だ。昨夜の分は無事に消化ずみだから全力でいく態勢ばっちり。ご飯も残さずいただきました。おかわりはしなかったけど。なぜだか味噌汁の味と塩辛さが自分にちょうど合っていて、量も多くて幸せだった。

食べ終わってまだ8時すぎ。チェックアウト予定時刻までずいぶん余裕がある。フフフ、狙い通り。最後にたっぷり白布の湯に浸かってやるぜ。

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素朴な風情と歴史の重みと良質の温泉が見事に融合した中屋別館不動閣。奥州三高湯をコンプリートした達成感以上の満足感であった。温泉面では硫黄のアピールがある石膏泉という恵まれた泉質を源泉かけ流しで提供してくれるから言うことなし。しかも露天風呂は熱すぎないからゆっくり楽しめる。白布温泉に来てみて良かったと思える宿だ。