むき出しの自然が迫る、秘湯を超えた秘湯 - 姥湯温泉 桝形屋

姥湯温泉 桝形屋
梅雨入り間近ながらも好天に恵まれた「ザ・秘湯の旅」の2日目に泊まったのが山形県米沢市の山中に佇む姥湯温泉・桝形屋。噂に聞いていた通り、ここは本当にすごいところだった。

これは最上級の褒め言葉と受け取ってほしいのだが、ロケーションがあまりに規格外れで“まともじゃない”。単なる山奥だと思っちゃいけない。むき出しの自然が見せる迫力たっぷりの姿は誰もが圧倒されるに違いない。

酸性硫黄泉のお風呂も相当なレベルであり、このお湯であのロケーションに作られた露天風呂ってのは、かなり得がたい体験といえよう。

姥湯温泉・桝形屋へのアクセス

秘湯から秘湯へのドライブ

姥湯温泉・桝形屋は吾妻連峰の北側にある一軒宿で福島との県境も近い。地図で調べたら、前年に訪れた旅館玉子湯がある福島の高湯温泉から山を挟んで真西だった。道がないから直に行き来することはできないが。

今回は車で移動するグループ旅行であり、我々は前泊地の奥鬼怒温泉郷・八丁の湯から塩原を経由して西那須野塩原ICで東北道に入った。脈絡のない旅程に見えるかもしれないが、我らにとっては大いに意味のある「ザ・秘湯めぐり」コースだ。

福島飯坂ICで東北道を下りて滑川温泉というところまでの道のりは別の記事で語ることにしたい。おそろしく酷な道だった。あんなの泣いちゃうよってくらい。自分が運転するのは絶対に無理。熟練ドライバーにすべてを託して進む。

超高難度の道を行く

ドライバーともども神経をすり減らしながら滑川温泉を通過。ここでようやく「苦難の道」の6合目といったところ。姥湯温泉はさらに数キロの奥地にあり、しかも道はいっそうやばくなる。

狭い・崖やばい・急カーブ・急勾配…未舗装を除くあらゆる苦難のてんこ盛りに開いた口がふさがらない。途中には切り返しを指南する標識が立つヘアピンカーブもあった(実際は大きく回って切り返しなしですんだ)。もはや秘湯という言葉すら生ぬるい。

余談だが道中はところどころに「滑川温泉私有地」の看板が立っていた。この辺り一帯もしくは山全体を滑川温泉が所有しているってことかな。すげー。

なお、鉄道利用の場合は宿に相談してJR奥羽本線の峠駅まで送迎してもらえる。ただしこの路線を走る山形新幹線は峠駅に停まらない。ごくわずか運行される各駅停車に乗るしかない。スケジュールを組むのが結構大変だと思う。


呆気にとられる秘境の中の旅館

宿へのアプローチがとんでもない景色

宿の手前200メートルくらいのところに駐車場がある。付近の山肌の様子がまたすごいんですわ。出だしから口あんぐり。
姥湯温泉 駐車場前の光景

それから吊り橋を渡る。
姥湯温泉前の吊り橋
やがて見えてくる旅館の建物。背後には黄白色の岩がむき出しになった山が間近に迫っていた。川には大きな岩がごろごろしており、そんじょそこらの“自然”にはない、荒々しい勢いを感じさせる。

宿の居住性はGood、ただしネット不可

呆気に取られながらチェックイン。とてつもない秘境のわりに居住環境への妥協はなく、館内は新しめで居心地が良い。案内された7.5畳の和室も同様であった。洗面所とシャワートイレあり。金庫あり。冷蔵庫なし。
姥湯温泉の部屋
窓の外には先ほど見てきた川。上流側に目をやると、これまたどーんと迫りくる山&岩。この迫力ある景色は露天風呂でもっと接近して見ることができる。
姥湯温泉 窓からの眺め
なお部屋の中というか姥湯温泉全体で携帯の電波は入らなかった。WiFiもない。なので久しぶりにネット断ちの一夜をすごした。せっかく規格外の秘境へ来たのだから、この状況を楽しみたい。べつにネットできなくてもいいんじゃないの。


こりゃすごい! 度肝を抜かれるお風呂

小ぶりで熱めの内湯

姥湯温泉の風呂は男女別の内湯、女性用露天風呂、混浴露天風呂×2という構成になっている。泉質は分析書によれば「酸性-含硫黄-鉄(II)-単純温泉、低張性、酸性、高温泉」になる。実際に入った順番通りではないが、まず内湯から紹介しよう。

露天風呂に洗い場はないので体を洗うなら内湯へ行くべし。浴室にはカランが一つだけ。ほかにシャワーのない蛇口が1名分あるけどシャンプーや石鹸は置いてない。

4名規模の檜風呂には(姥湯温泉にしては)珍しく透明なお湯がかけ流しされていた。露天風呂で見られた湯の花もない。入ってみると熱め。お湯をすくって鼻を近づけると相応の硫黄感はあった。

個人的にぬるめが好きなのと、なんだかんだで露天風呂に気持ちがいってしまい、内湯は体を洗いに寄った程度となってしまった。でも浴感は決して悪くない。

ぬるめがうれしいメイン露天風呂

次に一番奥にある大きい方の混浴露天風呂。姥湯温泉の主役といえるのがここだ。「人気沸騰、いつも人だらけ」でもおかしくなさそうだけど、平日かつ日帰り入浴の終わった時間だったおかげか、他の客とはほとんど出会わず。万歳~。

30名規模か、いや、もうよくわからなくなるほどの広い岩風呂は、底がうっすら見える半透明の青白いお湯で満たされていた(翌朝入ったときは濁りが強くなっていて底が見えなかった)。少し高くなっている岩の間からジョボジョボと源泉が惜しげもなく投入されている。

入ってみると適温~ややぬるめなのが好みでグッド。白い湯の花が大量に舞い、タマゴ臭が鼻をつくところは、いかにもな白濁硫黄泉だ。酸性だけどピリッと来る感じはしない。ほどよい温度で長く入っていられる。こりゃええわ。

大迫力の絶景がすぐそこに

お湯も素晴らしいが露天風呂から見える絶景も特筆ものである。視界には川と山のみ。当旅館と川辺にちょろっと見えるコンクリート以外の人工物は何もない。

山といっても遠くに見えるパノラマビューではない。目の前に迫りくる距離感がすごい。しかも木が生えている部分は極少で、大半は黄白色や赤褐色の岩盤があらわになっている。まるで岩風呂の続きであるかのようだ。

この独特の雰囲気は現地へ行かねばわかるまい。少なくとも大自然という表現はマッチしない。秘境・最果て・荒涼・地獄谷…どれも間違いではないがニュアンスを伝えきれない。(露天風呂を撮影するわけにはいかないから仮の話で)もし写真や動画を撮って見せたとしても、生で見るのと同じ印象を与えることは難しいだろう。

満天の星! 夜の絶景もお見事

山の迫力が昼の絶景なら、夜の絶景は星空だ。夜の女性専用時間帯が終わった後に大露天風呂へ行き、空を見上げたら…満天の星星星星☆☆☆☆☆☆☆~。足元を照らす光源を隠すように手をかざす姿勢をとる必要はあるが、まあたくさん見えること。

星座を言い当てられるほどの天文知識はなくても十分にファンタスティックで感動的だった。天気さえ良ければ、もし酒を飲んですっかりダラけてしまったとしても、どうにか酔いを覚まして夜の露天風呂へ行くべし。

広い岩風呂を独占して酸性硫黄泉につかりながら何十分も星を見ているなんて、とんでもない贅沢をしてしまったんじゃないか。こういうのを自分へのご褒美っていうんだっけ。

さりげない鉄の香り

あとは駆け足で紹介。混浴露天風呂の小さい方は、20名規模である以外は大きい方とほぼ一緒。川が見える位置から少し遠ざかってしまうけど、お湯を楽しむのが目的なら問題ない。大きい方以上に独占のチャンスありそう。

続いて女性用露天風呂。夜18時~20時は混浴露天風呂が女性専用となり、かわりに女性用露天風呂が混浴扱いとなるので、この時間帯を狙って行ってみた。幸い誰もいなくて我々の独占状態。規模は小さめといえども15名サイズ。お湯はやや熱めだった。

露天風呂からあがってバスタオルで体を拭いていると、ふと金属臭がしてきた。温泉成分の鉄がここで主張してくるとはね。最後の最後にお土産もらって得した気分になった。


食べごたえある姥湯温泉の食事

牛肉と鯉が“デカうま”な夕食

姥湯温泉の食事は朝夕とも1階の大広間で。夕食が17時半、朝食は7時15分だった。前日の八丁の湯といい、秘湯は食事の時間が早めですな。

夕食は結構豪華だ。根曲がり竹に山菜系に、分厚い牛肉を焼く鍋もある。これが米沢牛だといいな。うん、そうだ、そうだそうだそうに違いない。ともかく厚みがあって食べごたえたっぷり、肉汁たっぷりでうまい。
姥湯温泉の夕食
そして鯉のうま煮。で、でかい。これだけでお腹いっぱいになりそう。自分は鯉は苦手じゃないし甘露煮の味付けも好きな方なのでありがたい。しばらくすると鯉の洗いとそばが出てきた。いいねえ。
姥湯温泉の夕食 鯉の洗いとそば
秘湯ムードを楽しみに来ているから、こういう山里っぽい献立は歓迎だ。そして予想通りにおかずだけでお腹いっぱいになった。ご飯はちょっとしか腹に入らず残念。山形の米はうまいんだけどね。

コーヒーサービス付きの朝食

朝は素朴な和定食。苦手な納豆以外は完食した。タマゴはもちろん温泉玉子。空腹度は高くなかったけど、ご飯のお供がいっぱいあったのでご飯は2杯。朝から超満腹だ。
姥湯温泉の朝食
朝食中に「玄関脇の休憩室に無料のコーヒーサービスがあります」との案内があった。行ってみるとすでに先客でごった返している。あえて人混みに突入してまでは、ってことで撤退。チェックアウト時に休憩室の写真だけ撮らせてもらいました。
姥湯温泉 休憩室のコーヒーサービス

まさしく山ごもりしに行くような秘湯

姥湯温泉桝形屋。すごいところじゃないの、ここ。そういう評判を知ってて来たわけだから、普通は期待値のハードルが上がっちゃうんだけど、ここは上がった期待値を軽々と超えていた。

感想をひとことで言えば、とにかく“まともじゃない”。もちろん称賛のニュアンスだ。
姥湯温泉の周辺
宿へたどり着くまでにすごく苦労する分、1泊であっさり帰ってしまうのはもったいない気がする。とはいえここは本当に何もない山の中。携帯の電波も入らない。あえて「何もしない」ことに価値を見出だせる人向けの、秘湯中の秘湯だ。ネットにつながっていないと落ち着かない人はネット断食する覚悟で臨まれたい。