岩木山麓に湧くアブラ臭の湯 - 百沢温泉郷 アソベの森いわき荘

百沢温泉郷 アソベの森いわき荘
青森旅行の4日目は十和田から弘前へ移動して弘前城などを見学した。ここまで来たら今宵の宿を岩木山近くの温泉から探すのが良かろう、ということで選んだのが百沢温泉「アソベの森いわき荘」。森で遊べってことなのか…アソベとはアイヌ語で火を噴く山=岩木山のことを指すらしい。

もともとは(今も?)国民宿舎だった宿。まあそんなことは知らなくてもいい。外観も中身もモダンで綺麗で洒落ている。部屋は岩木山の見える側ではなかったけど、広い窓から雄大な景色が見えて豊かな気分になった。

温泉も本格的だ。アブラ香るにごり湯を源泉かけ流し。内湯も露天も広めだからそんなに混雑しない。気持ちよく入浴することができて満足だ。

百沢温泉郷「アソベの森いわき荘」への道

弘前城を見学し終えた我ら一行。なんだかんだで結構歩き回って、前日の奥入瀬ウォーキングの疲労と合わせ技で足が痛い。早く温泉に入らなければ。

弘前城から当宿までは車で約20分。ただどこを通ったのか覚えていない。県道3号だったかもしれないし、アップルロードという名前の道路だったかもしれない。ひとつ言えるのは、途中に岩木山がきれいに見える駐車帯があったこと。雲に隠れていない頂上から裾の広がりまでを一望できたのはこの旅行でほぼ唯一の機会だった。
岩木山
岩木山を眺めていたら松村和子のヒット曲が否応なく脳内リフレインして止まらなくなった。お岩木山で見送ったあの娘は茜空に誓った恋を東京暮らしで忘れちゃうんだよな。カムバ~ック。

さて、百沢地区に入ると温泉の看板が現れ始める。(株)百沢温泉という日帰りの施設はネットでときどき紹介記事を見かけるな。きっと玄人好みのする湯質なんだろう。我々は時間の都合と「ぬる湯でないならそこまで追い求めんでも」というノリだったので行かず。

で、いわき荘の標識が目に入ったので駐車場に止めたら、そこは第3駐車場で玄関まで遠かった。他に止めてる車がいないから変だとは思ったが。標識より1本手前で曲がれば第1・第2駐車で玄関まで近かったことが後に判明。車を置き直した。


「ちょっといい雰囲気」を味わえる宿

モダンで余裕あるつくり

館内はモダンで洒落た雰囲気。ロビーはこのような感じ。奥に朝夕の食事会場となるレストランがある。
いわき荘のロビー
すぐそばにお土産コーナーもある。フード系の割合は平均的なお土産売り場より少なめで民芸品・工芸品の割合が多め。この中ではなくて外に出たところになるが、ビールを含むドリンクの自販機もある。大浴場へ行く際に通りかかるから見つけるのは難しくない。
お土産コーナー
あと湯あがり休憩所が囲炉裏風になってますな。こういった演出はあるし全般にゆったりしたつくりなので、なんとなくリッチな気分にさせられる。
湯あがり休憩所

窓から見える景色が良い部屋

割り当てられた部屋は新館4階。廊下は幅広く、手すりもあってバリアフリーを徹底しているようだ。実際に車椅子の方が利用しているところを見かけた。
新館の廊下
我々の部屋は10畳+αの和室だった。部屋の灯りをつける前、かつ障子を閉めたまま撮影したから暗ぼったいけど、実際はもちろんもっと明るくできる。
いわき荘 新館客室
障子を開けると広い窓の向こうからいい感じの景色が飛び込んできた。開放感もあっていいね。
外の景色
岩木山と反対の方角とはいえ大変結構な眺めだ。季節と天気がちょうどいい具合にはまってくれた。

設備面はシャワートイレ・洗面台あり。金庫は個人単位で保管できる貴重品ロッカータイプ。冷蔵庫にはウェルカムドリンクとしてりんごジュースが入っていた。WiFiあり。全般に新しくて清潔感があり、誰を連れてきてもたいがい満足してもらえるはず。

津軽三味線の生演奏を聴く機会あり

この日は夜8時半から津軽三味線の生演奏があると聞いて行ってみた。会場は2階の小ホール。並べられた椅子はすでにかなり埋まっていた。適当に空きを見つけてもぐり込む。

そもそも津軽三味線には日頃縁がないし、演奏をまともに聞いたこともない。なんの背景知識もない興味本位である。どんな音なんだろう。

演奏の合間にちょっとした解説があった。バチで叩くように鳴らすとか。そして実際の演奏ではバチバチと弾ける音がすごい。テンポと力強さがありますな。じょんがら節を含めて何曲かやって終了。何の接点もなかった世界だけに新鮮な体験であった。


非凡な温泉でゆったりくつろぐ

かけ湯ですら侮れないクオリティ

いわき荘には本館ヒバ風呂という浴場もあるのだが、当時は「ご利用になれません」で閉鎖中。メンテナンス日か、設備トラブルか、あるいは改装中か。なので利用したのは新館1階の大浴場のみ。時間による男湯女湯の入れ替えはない。

脱衣所は鍵付きロッカー式。奥のガラス窓の先に大きそうな露天風呂と、お湯が枯れた小さめの露天風呂跡のようなものも見える。後者はかつての旧露天風呂だろうか。壁の木板に手書きした泉質表示には「ナトリウム・マグネシウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、中性、高温泉」とあった。別の正式版ぽい紙の分析書だと泉質名にカルシウムが加わる。

内湯の浴室に入るとヒバらしき木の香りがしてきた。洗い場は14名分。かけ湯は源泉35℃という札がかかっている通り、ぬるい。しかし源泉とは贅沢だなあ。自分はぬる湯が好きだし、このかけ湯を集めた浴槽に入ってみたいわ。

内湯はヒバ香とアブラ臭の競演

内湯は大きい浴槽がひとつ。縁に沿ってぐるっと1周分で15、いや20名並ぶことができるんじゃないかと思える。中央に湯口があり相応に十分な量のお湯が投入されていた。お湯の色はミルク少なめの緑茶オレみたいな緑白濁。浴槽の底は見えない。

浸かってみると熱め寄りの適温だった。長湯はできない一方ですぐにのぼせる感じでもなく短期決戦専用の温泉とは言い切れない。熱いのがよほど苦手な人じゃなければいいお湯なんじゃないですかね。

湯の花や泡付きは見られず。匂いを嗅ぐといわゆるアブラ臭を感知した。なんとも言えぬ特徴があって慣れると癖になるやつ。ヒバの匂いに負けないアピールをしてくる。お湯の色と匂いで非日常的な「温泉に来た」感をかなり満足させてくれる。

窓を大きく取ってあるおかげで景色がよく見えて明るく、天井が高いこともあって内湯ながらに開放感があった。結構結構。

露天風呂は好みの湯加減の場所を狙おう

露天風呂へ行ってみよう。ちょっとした通路を歩いていった先に屋根付きの岩風呂が現れた。脱衣所から見えてたやつだ。雪だるまを崩したようなやや複雑な形状でトータル15名くらい入れそうなサイズ。こちらも緑色に濁ったお湯で満たされていた。

手前の雪だるまの胴体側を陣取ってみた。内湯よりはぬるくてまあまあいい具合の適温だった。アブラ臭は快調に主張してくる。リラックス効果は高いと思う。疲れが一気に取れるぜ。

男湯に関しては眺望あり。目隠しの囲いを神経質にめぐらすようなことをしていないのだ。高台からの大パノラマとかそういうのではないけど、ちょっと向こうに紅葉の林なんかが見える程度に視界は開けている。ごくまれに通行人や車が道路を通過していくことがあっても、べつにこっちは裸で仁王立ちしてるわけじゃないし気にしない。

奥の雪だるまの頭側へ移動したところ熱かったためすぐに戻った。湯口が近いからだろう。奥から手前にかけて熱め~ぬるめ適温まで温度差があるから好みに応じた場所を探して陣取るのがおすすめ。じわじわと効いてくるようなお湯は、内湯のところにも書いた通り、非凡なお風呂に入ったというスペシャル感を盛り上げるのに一役買っている。夕方・夜・朝2回行った中でやたら混雑する場面がなかったのも好感。


青森の味を存分にどうぞ

夕食で体験した“嶽キミ”の衝撃

いわき荘の食事は朝夕とも1階のレストラン。夕食は部屋に応じて決まったテーブル席へ案内された。津軽かかやま料理と題するメニューのスターティングメンバーがこれ。
いわき荘の夕食
おお、見た目からすでに洒落てますな。本マグロのお造りや前菜のサザエ・合鴨も良かったが、印象に強く残ったのが茶碗蒸しに見える嶽キミ豆腐。嶽キミとは岩木山麓の嶽地区で栽培されているブランドとうもろこしだって。これがすんごい甘い。なんじゃこりゃあ。ふだんは絶対口にしないレベルのとうもろこし。一生に一度の体験だったかもしれん。

もちろんそれらは序章にすぎず、途中で主力の秋鮭もろみ焼きやホタテ鶏味噌焼きやローストビーフが追加された。いやもう十分すぎるくらい。
いわき荘の夕食その2
そして締めにはかやくご飯。漬物類をビュッフェスタイルで取りに行くのがユニークだった。デザートのりんごはビュッフェのテーブルに1個1個が山積みにされていて、自分でカッターを使って割って食べる。1個まるごとは食べ切れないなあと思って見送ってしまったのは残念。でもメンバーから2切れ分けてもらえた。青森りんごうめえ。

いろいろ楽しめる朝食ビュッフェ

朝食は完全なるビュッフェ方式。お米中心もパン中心も組み立て自由。自分は津軽そばがあったから取ってみた。その分お米は控えめに。
いわき荘の朝食
自分の胃の容量からすると適正なボリュームだろう。多めなくらいかもしれない。鶏の唐揚げに見えるのは青森のソウルフードといわれるイカメンチ。1個食べるともう1個欲しくなる系でやばい。お酒のつまみにしたくなってしまう。

デザートにフルーツやプチケーキはあるしコーヒー・紅茶で締めることもできる。よろしいですな。

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ハード面でも食事面でも温泉面でも豊かな気分になれるいわき荘。青森であり岩木山の麓であるというロケーションを意識させられる演出によって、自分のような者は旅情をかき立てられる。
紅葉の中のいわき荘
宿の規模からしてカップルやファミリー向けのコンセプトと思われるが、おひとりさま向けのシングル部屋もあるようだ。温泉一人旅の宿泊先としても十分候補になり得るだろう。