国道352号の新潟・魚沼市~福島・檜枝岐村区間の途中にある枝折峠は滝雲(雲海)の絶景で知られる。峠付近や県境前後がかなりの酷道らしいので自力で行く勇気はない。
そんな枝折峠の(新潟側から見て)手前の場所に駒の湯山荘という湯宿がある。越後駒ヶ岳の登山口があるから登山客が利用するほか、源泉ドバドバかけ流しぬる湯を目当てに温泉ファンもたくさん訪れるようだ。以前から関心はあったものの、交通手段の問題やネットで気軽に予約できないこともあって二の足を踏んでいた。
だがいつまでもそれじゃいけない。ある日思い切って電話予約し、自分で車を運転して行った。…見事な源泉ドバドバかけ流し、アワアワ&タマゴ臭のぬる湯だった。
駒の湯山荘への道
国道352号未知の区間へ…
大湯温泉の先の見返り橋というところまでは栃尾又温泉へ行くルートと同じ。運行時間がネックだけどバス便もある。見返り橋に来たら栃尾又温泉への分岐に入らずR352を直進する。直進ルートにバス便はなく、冬季に閉鎖されることからも推し量れるように、山の中の難路である。グーグルマップで道路の線形を見るだけでびびってしまう。
※国道が冬季閉鎖されるのにあわせて、当館も冬季は休業になる。
幸い、駒の湯山荘までのR352区間はまあまあなんとかなる。世間で酷道と評しているのはそこを過ぎてからでしょうね。途中でR352を外れて当館への分岐道に入ると、いよいよ道幅が狭くなる…ぽつぽつと待避所があるから落ち着いて対処すれば詰むことはないと思うけど。今は日帰り入浴を受け付けていないから対向車に遭遇する確率も低いはず。
月夜の駒が美しい(らしい)ロケーション
で、小さな橋を渡ったらまもなくゴール。お疲れさまでした。駐車スペースにそれほど余裕はない。白線で示された区画の形状も斜めに傾いてややイレギュラー。ほかの車が並んでる隙間へ突っ込むことになった場合、初心者ドライバーはいささか苦労するかも。当時は両隣に車がいない区画があったので、幸運に感謝しながらそこに止めた。
周囲は森林が広がるばかりで当館以外の施設はない。秘湯の一軒宿ってやつだ。到着時は雲がかかって眺望はいまいちよくわからず。翌朝になったら見通しが良くなって、宿の背後に越後駒ヶ岳の雄姿がはっきり現れた。カッコいいですね。
宿で聞いた話だと、十五夜の月が駒ヶ岳の真上に来て照らす光景は、それはそれは見事だそうだ。せっかく満月が出たのに寝てて見逃しちゃったよ。もったいねー。
秘境に佇むランプの宿
ハード面も運営面も「山荘」
ではチェックイン。こちらがロビーとか談話室に相当する場所。
マンガが多少置いてあります。また自販機がわりに別途精算のビールなどを入れた小さな冷蔵庫もあった。
山荘という名前の通り、基本は家族経営的な山荘です。たくさんのスタッフを抱えたホテルや旅館ではないので、そこのところは理解したうえで利用されたい。
部屋まで案内される間に女将さんに説明された内容で一番記憶に残っているのがカメムシ。ただでさえ出やすい季節なのに異常に発生して対処に苦労されているようだった。自分はあちこちで慣れているからカメムシを見たからといって騒ぎ立てることはないが、たしかに多かった。1匹1匹の個体も大きめ。館内・部屋内に絶対入れさせないよう、各ドア・窓は開け放さず、きっちり閉めておきましょう。
佐梨川と越後駒ヶ岳を眺める部屋
冒頭写真の建物を本館と呼ぶと、客室は奥の別棟…白い建物…にあるみたい。※本館で客室を運用しているのかについては不明。
案内された部屋は別棟2階の7.5畳和室。布団は最初から敷いてあった。
最初に注意しておこう。窓を開けるべからず。カメムシが入るから絶対に開けるなよ。ということでガラス越しに撮影した、窓から見える外の景色がこちら。正面は木ばかりで面白くないので下向きのアングルで佐梨川が入るようにしてみた。
翌日には見上げれば駒ヶ岳が見える天候になっていた。
トイレ・洗面所は共同。2階トイレは男女共用でシャワートイレの個室×2。1階トイレも男女共用で男性用小とシャワートイレ個室。本館側には男女別のトイレがある。部屋内に金庫、冷蔵庫、WiFiなし。携帯のアンテナも立たないので電話・ネットはできない前提でどうぞ。※宿の電話番号は衛星電話である。
そもそも電気を自由に使えない。自家発電でやりくりしてる宿ゆえ、客が私物のために電気を使うのはNGでしょう。部屋内のコンセントは一般人が持ってる形状のプラグだと挿さらない。夜の明かりは自家発電でまかなえる弱めの電灯と、灯油を使う本物のランプの二刀流。
明るさは2つ合わせても一般家庭の常夜灯+α程度だ。まさに「ランプの宿」なのである。デジタルデトックスをするつもりでどうぞ。テレビもないよ。
良質の温泉を楽しめるたくさんのお風呂
河岸近くまで下りていく川沿い露天風呂
駒の湯山荘のお風呂は7つもある。※男性が入れるのは混浴運用されている5つ。残り2つは女性専用。
- 川沿い露天風呂(混浴)
- 露天風呂(混浴)
- 内湯A(女性)
- 内湯B(女性)
- 内湯C(混浴)
- 貸切上(混浴)
- 貸切下(混浴)
お湯の大まかな特徴はどこも同様だった。各所に張り出されている分析書によれば「単純温泉、低張性、アルカリ性、低温泉」のPH8.6、泉温32.5℃。これを加水・加温・循環・消毒なしの源泉100%かけ流しで提供しているらしい。
まずチェックイン直後に行ったのが川沿い露天風呂。いったん地下フロア(?)の内湯群へ向かう感じで進み、途中から屋外へ離脱して坂を下ると、眼下に川と露天風呂が現れる。湯船の隣に見えるコンクリ小屋が脱衣所だ。洗い場はない。
先客は男性1名でちょうど出るところだったからタイミング良し。3~4名サイズの源泉槽へ、巨大ひもかわうどんみたいな平たく青いホースから源泉がドバドバと注入されている。隣には2名サイズの加温槽あり。加温槽といっても水の蛇口と熱い湯の蛇口を自分でひねってお湯を溜める方式。
爽快なアワアワぬる湯とワイルドな眺望
加温槽に溜めた湯はだんだん冷めてくるし、早朝にはすっかり冷たくなっていることも多々ある。そうしたら中の湯をかき出して熱湯を足す。女将さんのアドバイスによれば「源泉を冷たく感じるなら、熱い湯に体が真っ赤になるまで浸かって、その後に源泉槽に入る。それを繰り返すと体が慣れて冷たく感じなくなる。最低1時間入浴を目指してほしい」とのこと。加温槽を熱々にするのがポイントみたい。
まあワタクシはぬる湯派ですから、と調子こいていきなり源泉槽へ。まさに32℃って感じで爽快なり。お湯の見た目は無色透明、湯の花は多少あるも目立たず、匂いを嗅ぐと硫黄を連想させるタマゴ臭。なにより泡付きが強くて、炭酸泉のように全身が泡粒だらけになる。こりゃすごい。ぬる湯としては理想的なスペックだ。
露天風呂の醍醐味は十分。川が目前に迫り、対岸の木々は近く、右奥の方角は峡谷風に見える。野趣あふれるとはこのことか。お湯のクオリティといい、佐梨川が本気を出してきやがった。
独泉は喜ばしいけれど、次第に心細くなってきた…熊が出たらどうしよう。しかし貴重な機会を簡単に捨てるわけにはいかない。気を紛らせつつ、十分に長湯して満足してから、加温槽にちょっと入って出た。ここに時計はなく、出た後にスマホで時間を確認したら1時間浴していたと判明した次第。
なお、最も気をつけるべきはゲリラ豪雨的な大雨。急に鉄砲水が来たりするし、大雨の翌朝に川沿い露天風呂が土砂に埋まってた、なんてことも実際にあったそうだ。ザーッと強く降ってきたらすみやかにあがってくださいとの由。
ドバドバかけ流しを最も体感できる露天風呂
いったん部屋に戻って休憩してから今度は(川沿いでない)露天風呂へ。本館玄関でサンダルに履き替えて隣の建物へ移動する。
女性用の脱衣所からだと露天風呂に加えて併設の内湯Aも利用できるらしい。いずれにせよ露天風呂は男女の脱衣所から合流して混浴となる。行ってみたら誰もおらず独泉。やったぜ。1名分の洗い場と、8~10名収容できそうな真四角の源泉槽と、2名サイズの加温槽。湯船から男性用脱衣所が丸見えで、そこに時計がかかっている。
お湯の特徴は川沿い露天と同様。日が落ちてきたせいか爽快感よりもゾクゾクする寒気が強まっていた。しかしまだ加温槽に頼らずともいける。
源泉槽中央に噴水のような湯口があり、源泉が40cmほどの高さまで噴き上がっていた。ドバドバ感がすごいね。ドバドバ噴き上がってドバドバ流れ出ていく勢いがあまりに強すぎて、体に泡が付く前に次々と流れ去ってしまうらしく、泡付きは弱いようだ。
目隠しの囲いにより眺望がひらけているわけではないが開放感は十分。夜には星見もできそうだ。
男性にとっては唯一の、内湯らしい内湯
“最低1時間”の指南を破って30分で露天風呂を出たのは、人気が予想される貸切風呂をゲットするには何度もトライする必要があると考えたから…露天風呂の直後に貸切風呂をチェックしてみたら、やっぱり使用中だった。残念。
そこで代わりと言ってはなんだが内湯Cを利用した。誰もいなくて独泉。洗い場は1名分。源泉槽は4名サイズで岩風呂風に石が組まれている。派手さはなくとも湯口からの投入量は結構多い。その隣に同じく岩風呂的な1~2名サイズの加温槽。
なんだか露天風呂以上に冷たく感じるな。実際に計測したら同じ温度を示すような気はするけど、ゾクッとくる体感がより強まっている。ぬる湯派を標榜しておきながらこんなことではいかんなあ。とはいえ主義主張に殉ずる根性はない。思い切り加温槽との交互浴に頼らせてもらいました。
その加温槽の温度もぬくぬく程度。熱々ではなかった。なぜなら面倒くさがって熱湯を足さなかったからだ(冷めた湯を排出して熱湯を足すべきなのをサボって残り湯にそのまま浸かった)。このへんをちゃんと指南通りにすべきだったかもなあ。
早朝の貸切風呂で震える(不覚)
以上は夕食前のこと。夕食後は貸切風呂をとにかく体験したいのが優先事項。就寝前の時間帯は混み合うと予想し、深夜を狙うことにして仮眠を取ったら、二度寝への欲求が勝って「予定より1時間早起きして早朝狙いでいいや」と日和ってしまい、翌朝5時からの入浴となった。
貸切風呂は上下に2つ。予約や追加料金は不要で、空いていれば早い者勝ちで利用可(1時間を目安に次の方に譲ってくださいと注意書きあり)。朝5時に行ったら幸いにも上側が空いていた。扉の札を「入浴中」に裏返して中に入り鍵をかける。
室内の半分が時計のある脱衣所+休憩スペース、残り半分に5名サイズの岩風呂風源泉槽と2名サイズの加温槽。内湯か露天かといえば、屋根はあっても露天になるだろう。
この時も加温槽の残り湯排出と熱湯追加をサボってしまい、冷たく感じる源泉槽に震えながら浸かることになった。当館のロケーションともなれば令和のしつこい残暑もさすがに及ばす、朝晩はそれなりに冷え込む。きっちり1時間入浴したのに、ぬる湯派なら満足すべきなのに、なぜか敗北感が…「これしきで寒気を感じてひるむなんて」という、いらんプライドだな。初心にかえって出直しや(謎)!
朝は2回の入浴を目論んでいたのに、結局この1回で終わった。敗北感で意気消沈しちゃったみたいね。初心にかえって出直しや!
お食事はトークとともに
夕食には興味深くおいしい品が並ぶ
駒の湯山荘の食事は朝夕とも本館1階の食堂にて。夕食は18時・朝食は8時で固定。準備ができると館内放送で呼びかけがある。部屋番号に対応したテーブル席に並んでいたスターティングメンバーがこちら。
いろいろ珍しい品があった。まず食前酒はマタタビ酒。わりと爽やかで甘みもあった。猫のような酔い方はしませんね。中央のユッケみたいなやつは魚沼牛のたたきだそうだ。魚沼牛は初めて聞いた。酒のつまみとしてちょうどいい。※酒は八海山の常温にした。
さらに右上の半透明肉は鶏の生ハムって言ってたっけな。自分は家でも近所でも旅先でもお目にかかったことはない。たしかに鶏肉をハムにしたような味だ…気の利いたコメントできなくてすんません。
途中で岩魚塩焼きや藻塩でいただく天ぷら3種も追加される。熱い出来たてを食べられていいね。締めのご飯は魚沼コシヒカリと豚汁。デザートにみかん・笹団子と、隙のないラインナップ。かなりレベルの高い内容を提供してくれてると思う。
開始直後にはご主人のトークセッションがある。灯油ランプの説明、お風呂について、コシヒカリ不足で米の提供がピンチだった話、米のピンチを閉業ピンチと勘違いされたまま拡散しちゃった話など、ユーモアを交えてのトークで場が暖まったのだった。
日本一の納豆が出てくる朝食
朝も同じテーブル席で。夕食が良かったから期待しちゃうね。トークセッションもあるよ。
まず山ぶどうのジュースをどうぞ。なかなか濃厚で一気には飲み干せない。固形燃料で温める湯豆腐本体は豆乳に浸かっており、豆乳が固まって豆腐になるわけじゃないので、豆乳はスープとして飲むことになる。
あとは納豆かな。越後で最高の大豆を使い、納豆の全国大会で日本一を二度受賞した大力納豆ですって。小出に本店があるようだ。自分は関東人のくせに納豆を積極的に食べないのだが、この時はいただきました。
米はやっぱりうまいし、味噌汁は前夜と同じく大きな鍋で出されて、自分の手元でおかわり可能。朝からお腹いっぱいだ。
* * *
ドバドバのかけ流し・タマゴ臭・強い泡付き…ぬる湯としてのクオリティは高い。川沿い露天風呂ではワイルドな湯浴みも体験できる。やや活発な競争が予想されるとはいえ貸切風呂が2つ用意されているのも、1万数千円の価格帯と考えたら特筆もの。
食事面の満足度は高いし、ハード面が自然に親しむ山荘・ランプの宿であることをふまえて利用するなら、とてもいい思い出になるはず。ご主人のトークに対する客の反応からも、たくさんの熱心なファンに支えられてる宿という印象を受けた。
最後に、今回は川沿い露天を含めてアブ・ブヨが一切出なかったのがとても良い。湯温と外気温を侮った結果、想定外に寒気を感じて敗北感を植え付けられてしまったが、アブ・ブヨを避けて狙うなら秋めいてくるこの季節だよなあ…。












