今回は秋に来てみたよ。いい湯、いい宿、夢の船山温泉

船山温泉
山梨県南部町のちょっとハイソないい宿といえば船山温泉。夢の船山温泉と勝手に呼んでいるが、ハード面・ソフト面・周囲の環境面すべてが好印象なんでね。自分基準だと気軽に行けないお値段という意味でも夢なのだ。

とか言いながら3度目の訪問を果たすことになった。定宿を持たない派の自分にしてみたら同じところへ3回はずいぶん多い方だ。まあ夢の宿なんでいいでしょう。

今回は過去2回とは別のメンバー構成で行った。傍から見れば、船山温泉を陰に陽に伝道して興味を持ってもらったところで機を逃さず計画を立ち上げて連れて行った、と解釈されてもおかしくない流れ。でもみんな満足していたようだし、きっかけは何だっていいじゃないの。

どんどん行きやすくなる船山温泉

高速ICが近い秘湯

船山温泉への車でのアクセスは年を追うごとに便利になっている。いまや新東名に接続する中部横断道が南部ICまで延伸され、ほぼ高速のみでアプローチできるようになった。2021年夏には中央道双葉JCT経由でも南部ICまで行けるようになる。

南部ICからは10分。ちょっと南下したら船山川に沿って遡る。なるべく片側1車線の道路を走るようにするため、少し進んだら川の対岸へ渡ってしばらく進んだらまた渡るという行き方が看板によって案内されている。それでもラスト数百メートルはすれ違い困難な幅しかない。

赤レンガの柱が目を引く船山橋が夢の世界への入口だ。橋を渡れば敷地内。当館から奥は民家はおろか人が常駐するような施設は何もないと思われる。車道も少し先で途切れるようだ。秘湯の雰囲気は十分で、少なくとも喧騒とは無縁の環境だ。

人気の焼きそば店があるよ

実際の我々は同じ南部町の佐野川温泉に立ち寄ってからやって来た。途中でJR身延線・内船駅前の役所(?)か文化会館(?)の向かいにある「こばやし焼きそば店」で昼食。ジャンルとしては富士宮焼きそばだそうな。

1玉だと少なめなので1.5玉とか2玉を注文するのが普通っぽい。このあと旅館で夕食をたらふくいただくから1玉にしておいた。たしかに多くはないが腹八分目でちょうどいい感じ。味はとても良し。どんどんお客が入るし、5人分持ち帰りみたいな注文もしばしば。人気店ですな。

こうして口の中に焼きそばの風味を残しながら3度目の船山温泉へ到着した。


変わらぬ夢のお宿

ハイグレードな館内と庭

過去2回は春本番の季節。桜とミツマタの花が咲き誇り、桃源郷のようだと表現した。今回は紅葉には全然早い秋の入口。彼岸花が目立ってたな。車が近づいた時点で駐車場まで出迎えに来てくれる心遣いはさすが。

入館するとおしゃれなロビーが待っている。この日はテーブルの上に地域特産の雨畑硯が販売展示されていた。値札の数字は自分の生活感ではとても追いつかないレベルなんで本来の客層の皆さんにおまかせします。「ご自由にご鑑賞ください」と置いてある雑誌類の中に「ゆるキャン△」もありましたぜ、山梨だけに。
船山温泉のロビー
ロビー・フロント・お土産コーナー・食事処個室・大浴場を貫く廊下がこちら。館内の通路はすべて畳敷きだから裸足で歩ける。優雅に庭を眺めながらくつろげるソファーがあり、近くにはコーヒー他のフリードリンクコーナーも。グレード感がやばい。
庭を鑑賞できるソファー
庭はこんな感じで池には鯉が泳いでいる。夜間はライトアップされるし、どこまでも手が込んでいる。
船山温泉の庭
船山温泉のマスコット(?)・熊さんがこちら。永遠の3~4歳。体格はそれほど大きくはないが歯と爪が鋭い。この種族と飛び道具なしで戦ったら勝てる見込みはない。
熊さん

おなじみの落ち着く部屋

案内された客室は2階の若干エコノミーな12畳和室。窓の外が駐車場なので景観面で割り引きという扱いなんだろう。おかげで毎回この部屋に落ち着いてしまう。とはいえマッサージチェアがあるだけで十分豪華ですわ。なお最初から布団を敷いてあった。
駐車場側客室
すっきりした扉付き収納棚風の中にテレビ・空の冷蔵庫・金庫・ポットなどが格納されているのがなんともスタイリッシュ。
スタイリッシュな備品収納
もちろん洗面台あり、照明が自動でオンオフするシャワートイレあり、携帯の電波状況は3年前の初訪問時に比べてだいぶ良くなったしWiFiもある。何の不都合もなく快適にのんびり過ごせる。作務衣が結構ブカブカ気味だったくらいかな(そういう方向けに別途浴衣を用意してある)。

ところで部屋の話から逸れるが、当館は静かな湯宿を目指して、7名以上の団体・小学生以下のお子様・日帰り入浴・はっちゃけ宴会をお断りしているから、本当に落ち着いた雰囲気だ。自分の嗜好には大変マッチしてる。こいつはありがてえ。


景観にすぐれた硫黄泉の風呂

貸切風呂はご自由に

ここから温泉の話。浴場は1階奥にあり、我々の部屋からだとまず2階の奥まで行って階段を下りる。階段の前には給茶コーナーがあった。ここに各サイズの浴衣や別種の枕も置いてある。
給茶コーナー
で、1階奥まで来ると4つの風呂が並んでいる…静山の湯(大浴場)・渓流の湯(大浴場)・清水(貸切内湯)・二人静(貸切露天)。貸切風呂は予約不要で、空いていれば自由に入って内鍵をかけて利用する方式。ちらっと観察したところでは、清水はカランが1つに3名規模の内湯。ガラス越しに外の景色は見える。二人静はカランが1つに2名規模の丸い露天風呂。

我々は結局貸切風呂を利用しなかった。大浴場がいつでも空いていてほぼ独占状態、いわば大きな貸切風呂みたいなものだったからである。

寝ころびが最高な静山の湯

チェックインから夕食の時間までは静山の湯が男湯になる。脱衣所ですら畳敷きで、洒落た洗面台とあわせてイカした感じ。フェイスタオルとバスタオルが山と積んであって毎度手ぶらで来ればいいようになっている。温泉は分析書によると「単純硫黄冷鉱泉、低張性、弱アルカリ性、冷鉱泉」。循環と加温あり。

さあ勝手知ったる浴室へ。カランは5つ。内湯の浴槽は、客層にふさわしく余裕を持ってゆったり入ってもらう前提で、4名規模としておく。中は「深い+浅い寝ころび湯+超浅い寝ころび湯+深い」の4区画に大きく分かれる。

お湯は無色透明で、慣れるまでちょっと熱めに感じる適温。今回は過去2回と比べて硫黄香が強くはっきり出ていた。タマゴ臭になる手前の甘く感じる段階のやつ。こりゃあ結構。熱いと長く楽しめないから寝ころび湯の区画で横になったら非常に心地良い。いやーたまらん…いつしか眠りに落ちていた。

露天風呂はたまたまぬるくてラッキー

露天風呂の方は2名規模。お仲間同士ならなんとか3名まで。川に面しており、すぐ近くに落差の大きな砂防堰堤があるおかげで一種の滝見風呂になっている。うまく設計された趣向だ。

ラッキーなことに夕方の時点でとてもぬるかった。35,6℃かなあ。加温が追いついてないだけだとしても、ぬるいの好きだから嬉しい誤算といえる。次第に加温が追いついて常識的な温度に近づいていったから、本当に最初のうちだけの幸運だった。硫黄が香るぬる湯タイムを楽しませてもらった。

渓流の湯も同様のクオリティ

夕食後からチェックアウトまでは渓流の湯が男湯になる。大まかなところは静山の湯と同じ。浴室のカランは4つで内湯浴槽はやっぱり「深い+浅い寝ころび湯+超浅い寝ころび湯+深い」の4区画に分かれている。お湯は静山の内湯より熱く感じた。

こちらの露天風呂は静山のやつよりもひと回り大きくて3名でもまあまあいける。お湯は安定して39℃くらいを保っていた。入りやすくて結構なり。砂防堰堤は少し遠くなるけど滝が落ちる川の雰囲気は変わらない。夜に来ると、周辺の景色のあちこちがライトアップされて幻想的な印象が強く残る。この演出にはいつも感心する。

なお、露天風呂に入っていた人が出ると、湯口からの投入量が一気に増える。どこかにセンサーでも付いているのかな。


県産の食材を生かした食事

個室でいただく質・量とも大満足の夕食

船山温泉の食事は朝夕とも1階の個室で。普通の旅館は客室に「萩の間」などと名前がついているが、ここでは食事処の個室に名前がついている。夕食時間は18時固定で案内された名前の個室へ行くと、スターティングメンバーが待っていた。
船山温泉の夕食
おしゃれな感じで並べられた前菜。鍋の中身は撮り忘れたけど滋養豊かな猪鍋。きのこがたくさん入っていて濃い味噌ベースでうまかった。お刺身は岩魚と茜鱒。小皿に乗った茜鱒はそのままいけるし、ちょっと塩をつけてもよい。もう片方の岩魚は芦川産本わさびをすりおろして醤油でいくか、レモン汁でいくか。※このへんはごっちゃになってるかもしれない。
岩魚と茜鱒のお造り
途中で岩魚の塩焼きと手打ちそばが出てくる。そばにもわさびを添えて、うーんいい感じ。ふだんの食生活との格差がすごいことになってる。
手打ちそば
過去の記憶によれば、この段階でお腹いっぱいになって締めの釜飯はまともに食べられない流れ。食べきれなかった釜飯は「夜食に」と、おにぎりにして部屋まで届けてくれたっけな。だが今回は締めの栗ご飯を含めてきっちり完食した。ついにやったぜ。

では夜食はどうなるかといえば、新たに白飯でおにぎりを作って持たせてくれたのである。おにぎりを携えて部屋へ戻ったらいきなり胃袋にズーンときて、うわあやっぱりお腹苦しい~。という顛末で結局おにぎりを食べたのは翌日だった。

朝食も豪華に

朝食も同じ個室で8時固定。鍋が2つあって一方が味噌汁、もう一方が豆乳を温めて作る豆腐だった。この豆腐の風味が濃厚でもっともっとと食べたくなる。
船山温泉の朝食
焼き魚は山女魚の一夜干し。茶碗蒸しに見えるのは温泉玉子。そしてジュース・牛乳とご飯はバイキングといったらいいのか、部屋の外にお好みで取りに行く。ご飯は普通の白飯と茶粥とそば粥がある。コーヒーマシンも同じ並びにある。

これだけいただければもう十分すぎる。この後は昼食抜きで行動したけどまったく問題なかった。

 * * *

当館の長所がもうひとつあった。13時チェックインの翌11時チェックアウト、つまり22時間ステイが可能な点だ。ここまでやるところはなかなかない。他の施策や演出を含めて“静かにのんびり過ごしてほしい”という意気込みが伝わってくる。

今回はガツガツ動き回らないで温泉宿でひたすらゆっくりしようという意図があったから、まさに願ったり叶ったり。温泉にもいっぱい入ったし、言うことなし。深い満足感とともに夢の船山温泉を後にした。