青緑色の酸性泉を楽しめる渋い秘湯宿 - ニセコ五色温泉旅館

ニセコ五色温泉旅館
スキー場のイメージが強い北海道ニセコにもいくつかの温泉地がある。中でも「ニセコ五色温泉旅館」は、ご当地に多いリゾートホテル群とは一線を画す、湯治系の秘湯宿といえる。温泉目当ての旅行者なら一度は当湯を体験してみたくなるに違いない。

コロナ緊急事態宣言明けの最初の旅行が北海道で、いろいろ紆余曲折を経てニセコ付近で1泊することとなり、おかげで当館に泊まる機会に恵まれた。

渋い外観とは裏腹に館内は改装されて小ぎれいな印象。浴場も同様で、何の不便も感じることなく成分豊富な酸性泉を堪能できる。この泉質と秘湯感を求めてやって来るファンは多いと思われ、当時はまだそれほどでもなかったが、こんなご時世でなく例年通りなら日帰り客とあわせて結構な盛況ぶりなんじゃないかと想像した。

ニセコ五色温泉旅館へのアクセス

道内をニセコまで移動するコースはいっぱいあるので割愛。それぞれの事情にあわせてどうぞ。当館はニセコ連峰を形成するイワオヌプリとニセコアンヌプリの間を通る県道58号沿いにあるから、最終的にはこの道をニセコ・蘭越側から北上するか、倶知安側から南下することになる。

我々は羊蹄山目当ての周遊を終えて倶知安側から入り、翌日は蘭越側へ抜けたのだが、はっきりいって蘭越ルートの方がずっと走りやすい。倶知安ルートは道が狭いし見通しも悪い。運転に自信がないならおすすめしません。

宿周辺は対向車がいても十分すれ違える道幅はあるし見通しも良いからご安心を。近くには五色温泉観光案内所がある。車を置いて地獄谷を見て回れるみたい(我々は行かなかった)。

なお、「帰りはどうすんだ?」を抜きにすれば、共和町神仙沼自然休養林レストハウス~神仙沼~大谷地湿原~大沼~イワオヌプリ分岐~五色温泉、の沼めぐり登山コースを踏破して当館へ至ることも不可能ではない。所要時間4時間40分だそうな。熊に注意。


地獄谷の目の前にある本館

湯治向け山の宿の雰囲気全開

駐車場の目の前にある本館の建物とは別に、左の脇の方に源泉池みたいなやつと小さめの建物がちらっと見えた。近くへ行ってみると、池には緑色のお湯が溜まっていた。なんとなく草津湯畑のお湯を連想させる。
源泉の池と別館
池の向こうにある建物は五色温泉旅館の別館だった。要自炊・アメニティなし・各種サービス省略のかわりにお安く泊まれるガチの湯治棟といったところか。自分の経験値だとちょっと敷居が高いかな。

さて本館の方に入ると日帰り利用の時間が張り紙してあった。夏期は朝9時から夜20時まで。結構長くやっている。そのせいなのかどうか、見てると日帰り客がひっきりなしにやって来る…少なくとも繁忙期には確実にそうなるであろうと思わせる…ような印象がある。

ロビー前の券売機に英語で「ここの温泉はfreeではありません。チケットを買って下さい」と注意書きしてあった。ソフトウェアの世界でいうところのパブリックドメインソフトならぬパブリックドメインスパだと勝手に思い込んじゃうのかな。

建物の外観は渋いが中は結構新しくて洗練された感じ。
ニセコ五色温泉旅館のロビー付近

普通に快適な部屋

客室は2階にあり、通された部屋は7.5畳+板の間の和室。本州が梅雨の時期にまだヒーターが出してある! しかもその晩、短時間とはいえ肌寒くなってヒーターを使ったのだ。さすがは北海道の標高750メートル。
ニセコ五色温泉旅館の客室
シャワー付きではないトイレ・洗面台あり。金庫あり。空の冷蔵庫あり。自分の感覚だといい意味で普通というか、べつに不自由なく快適に過ごせた。部屋の冊子には「街の喧騒を離れて当地ならではの不便を楽しんで下さい」的な謙遜が書いてあるけどね。そういえばWiFiは使えなかったな。携帯は普通に通じる。

ベランダに出ると地獄谷が見渡せる。写真右の方に前述の五色温泉観光案内所から通じる遊歩道が見えますな。
ベランダから見える景色
当日は客室がわりと埋まってたと思われるも、夜は非常に静かで、隣の部屋からテレビの音が~話し声が~のようなことはなかった。おかげで超久しぶりにめっちゃぐっすり眠った。書き忘れそうになったが布団敷きはセルフでお願いします。


青緑色の酸性硫黄泉

野趣とモダンが同居する、からまつの湯

五色温泉旅館のお風呂は1階通路をずーっと奥へ進んだところにある。ビールの自販機も浴場前にあるから、ちょっと買いに行くのがなかなかに遠い。それはおいといて、お風呂は男女別の「大浴場」と男女別の「からまつの湯」が隣り合って並んでいる。

まあよくわからんので最初は「からまつの湯」へ入った。申し訳ない、脱衣所の様子はさっぱり記憶にありません。分析書はどこに貼ってあったか、とにかく「酸性・含硫黄-マグネシウム・ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型)、酸性、低張性、高温泉」だった。酸性は珍しいし、マグネシウムが前面に出ているのも希少じゃないか。

内湯には5名分の洗い場。4名サイズの浴槽に微濁りの源泉がかけ流しになっている。浸かってみるとやや熱め。含硫黄の硫化水素型にありがちな腐卵臭はしない。あとは…いかん、ステイホーム中にすっかり観察力が鈍ったみたいで、描写すべきビジョンが出てこない。からまつの湯だけに木造りの鄙び感がよく出ていたと書きたいところだが…。

続いて露天風呂へ。10名サイズの浴槽はモダンな感じがした。明るい空の下で見るとお湯がクリアな青緑色をしているのがわかった。白濁ではない。浴槽の底や側壁にも青緑色の析出物がこびりついている。そして湯の中に細かい湯の花がたくさん漂う。浸かってみると内湯よりも熱い。

景観は丘というか土手というか、土の山が眼前に迫っているため、ドーンと広がる風景ではないが山の雰囲気はそれなりに感じ取れる。熱めなので長くいられないのが惜しい。

適温と熱めが並ぶ大浴場の内湯

しばしの休憩を挟んで次は大浴場へ。こちらはからまつの湯よりもさらに広い。洗い場はたしか8名分あったと思う。内湯には手前にサブ浴槽、奥にメイン浴槽がある。サブは3名サイズで当館では一番熱い湯。相当なあつ湯好きでない限り、最後にちょっと上がり湯的に入るくらいの使い方になるんじゃないかな。

メインの方はソーシャルディスタンスを無視して向かい合わせに詰めていけば10名いけるサイズ。当時は余裕を持ってゆったり入れた。熱さはまあまあの適温。強い酸性の温泉は過去に新玉川・蔵王・草津・塚原を体験したけど、ここのお湯はピリピリ来ることがなく、わりと肌になじむ感じ。出た後は美肌を謳うアルカリ温泉とはまた違ったツルスベ感になる。

存在感はさすがの主役・大浴場露天風呂

それじゃあ、おそらく主役を張ると思われる大浴場の露天風呂へ移動しますよ…おっ、広い。20名、いやもっといけるかもしれん。青緑色が鮮やかに映えるなー。他よりも濁りはやや強いか。

一番手前に湯口があって、その近くははっきり熱い。湯口狙い合戦は起きないであろう。広いから奥の湯尻へ移動するにしたがってぬるくなっていく。自分は熱いのが苦手なのでほとんど一番奥に張り付いていた。まわりは木の塀に囲まれ、塀から突き出すように頭をのぞかせた山(イワオヌプリ?)が見える。結構なり。

夕食後と早朝とチェックアウト前にも大浴場へ行った。朝は濁りが弱まってたかわりに、なんとなくお湯が新鮮な感じがした。夕方のお湯が決して鈍ってたというわけではないが相対比較で。日帰りの受け入れが終わり、宿泊客もほとんど入らなくなってから長い時間、無人のかけ流し状態だったのが良かったのでは。


温泉目当ての客にとっては上々の食事

ビールに合う、ちょうどいい塩梅の夕食

五色温泉旅館の食事は朝夕とも1階の食事処で。部屋ごとに決まったテーブル席が割り当てられる。夕食は18時開始で固定。スターティングメンバーはこちら。
ニセコ五色温泉旅館の夕食
山の中だけどちゃんと刺身が出てきます。量も多すぎずでちょうどいい。ビールが北海道限定サッポロクラシックだとつい張り切って飲んでしまうから、料理でお腹が膨れすぎると困るんでね。中でもビールのつまみとしてはフキ(?)のツナ和えが一番良かった。相性抜群。この歳にして新たな発見をした。

他に料理が運ばれてきたかどうかは記憶が定かでない。締めのご飯の後に、もしかしたら追分メロンが出てきたかもしれない。ちょっと記憶が怪しい。

朝は定番風に

朝食は7時半開始で固定。オーソドックスな鮭の和定食。朝はそんなに食べないから、これくらいでいい。玉子は温泉玉子だったような気が。これまた記憶が怪しい。でも生じゃなかったと思うな。
ニセコ五色温泉旅館の朝食
ステイホーム中に「面倒くさい→食事はテキトー」で少食側へ寄っていってしまったせいか、ますます量を食べられなくなったようで、せっかくのお米をひと口ふた口しか食べていない。あーもったいない。

そして食後のコーヒーはなかったはず。なぜならチェックアウト後にコンビニ(北海道といえばセイコーマート)へ寄った時、ホットコーヒーを買うかどうか迷った記憶がはっきりとあるからだ。結局買わなかったことも覚えているという。いらんところに記憶力を使ってしまった。

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秘湯系・湯治系・山の宿系が好みなら五色温泉旅館はバッチリはまるだろう。泉質と露天の雰囲気は申し分ない。9時にチェックアウトする際、計ったように駐車場に車を止めて入館してきた客が何組かいた。開館を待ちわびた日帰り客だろうか。

それを見て、ああやっぱりこんなご時世じゃなければ大盛況なんだな、と思った次第。