モダンと鄙びが融合した白猿伝説の湯宿 - 鉛温泉 藤三旅館

鉛温泉 藤三旅館
少しでも温泉に興味を持った者ならすぐに、ネット・テレビ・本などで名前を知ることになるだろう、それほどの存在感を放つのが花巻南温泉郷にある鉛温泉の一軒宿・藤三旅館である。ここに一人旅で泊まってきた。

梅雨入り直前に決行された3泊4日「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」の最後を飾る7湯目にあたる。立ったまま入る有名な白猿の湯のまろやかな浴感が印象的だ。

大御所の温泉を前にして初見ゆえにキョドってしまい、白猿の湯への入浴を遠慮気味にセーブしてしまったが、もっと欲張ってグイグイいけばよかったかもしれない。

鉛温泉・藤三旅館へのアクセス

花巻駅からバスを利用

この日は大沢温泉に立ち寄り入浴した後、路線バスでさらに山の奥へと進み、鉛温泉停留所で下車した。

一般には花巻駅や新花巻駅から1日3便ある無料送迎シャトルバスを利用するとよい。ただし一番早い便でも着くのは16時すぎだから、早めチェックインを狙いたい場合は花巻駅から新鉛温泉行きの路線バスをすすめたい。

バス停から終点の方向へ少し行ったところで右折して坂を下ればすぐ宿なのだが、初めてで勝手がわからず、一緒に下車した常連客か地元民と思われる方の後ろにくっついて、花巻駅方向へやや戻ってから草の生える道をくねくね下りる格好となった。

藤三旅館の3つの宿泊棟

変則的に進入した結果、まず現れたのが「心の刻 十三月」という超高級な別邸。庶民はお呼びでない。
鉛温泉 心の刻 十三月
その隣に湯治部の建物。ネットで得た「相当鄙びてる」という情報から脳内で勝手に思い描いていた姿よりはしっかりした外観だ(失礼)。
藤三旅館 湯治部
その隣に本日泊まる旅館部があった。歴史を感じさせるレトロな外観にぐっとくる。
藤三旅館 旅館部入口

藤三旅館の旅館部の部屋

新しくて高級感のある室内

チェックインして案内されたのは1階食事処の目の前。旅館部の中でも上位バージョンにあたる豪華トイレ・洗面区画を持つ8畳+広縁和室。

…一人旅にはもったいない? 湯治部に泊まってこそ本物だ?…ブルジョワとでも坊やとでもガルマ様とでも、なんとでも言うがいい。
藤三旅館 トイレ付き部屋
この部屋に鄙びた湯治宿の雰囲気はカケラもない。どこから見ても高級宿だ。我が身の丈に合ってないことは認めざるを得ない。一方で、鉛温泉に興味がありつつ、「だって湯治の上級者向けなんでしょう~?」と腰が引けるライトユーザーも絶対安心の、おすすめ物件なのは間違いない。

ド迫力の豊沢川を眺める

窓のすぐ外は豊沢川。雨で水量が多いのか普段からなのか、下をのぞくと建物ギリギリまで水が来ている。流れも速くて迫力ある。
藤三旅館 窓の外の豊沢川
ふと網戸を見ると一匹のカゲロウがとまっていた。間近で見るのは初めてかもしれない。しばらく経ってからまた見ると、なんか様子がヘンです・・・おいおい脱皮中じゃないか。

最も無防備になってしまう脱皮ショーを臆面もなく公衆の面前に露呈するとは、こやつなかなか根性がすわっている。最後に尻尾が引っかかってえらい苦労していた様子だったが、20分くらいかけて文字通り一皮むけた大人カゲロウは、自由な大空へとフライアウェイ。達者でなー。


豊沢川の景色を楽しめる3つの風呂

滝見のできる白糸の湯

藤三旅館には4つの浴場があるから、メインコンテンツである白猿の湯の利用時間帯を念頭に置いて入浴戦略を組み立てるとよい。白猿の湯は6時~7時・14時~15時・19時半~21時が女性専用タイムだ。それ以外は混浴。また金曜10時~14時は清掃のため入れない。

自分がまず行ってみたのは白糸の湯。ここは6時~15時が女湯、15時~翌6時が男湯になる。脱衣所も浴室も新しい感じで4名分の洗い場と十分大きな浴槽を備える。一面が全部ガラス張りで豊沢川の対岸に小さな白糸の滝が見えるという趣向。

このガラス窓を開けて半露天状態にすることもできるようだ。この日は雨で締め切りだったが。お湯はここを含めてどの風呂も無色透明のアルカリ性単純温泉。

みんな白猿狙いなのかわからないけど、白糸の湯は人がほとんど来ないから、ゆっくり滝見風呂ができる。ただしお湯は結構熱め。ぬる湯を好む自分にはちょっと厳しかった。

貸切風呂に使われる銀の湯

白糸の湯の隣には銀(しろがね)の湯がある。白糸の湯と男女の時間帯が逆になり、また15時~21時は貸切風呂になる。

自分は朝方に銀の湯を利用してみた。全般に白糸の湯をそのまま家族風呂の規模まで小さくした感じ。やっぱりお湯は熱いから自分にはちょっと厳しかった。

準主役・桂の湯はダイナミックな露天風呂

白糸・銀の湯と正反対の方向にあるのが桂の湯。男女別にそれぞれあっていつでも入れる。ポジション的には白猿に次ぐナンバー2か。でも普通の温泉宿なら十二分にメインを張れる実力だ。近藤勇に対する土方歳三みたいな(たとえがいまいち)。

桂の湯は洗い場付きの内湯と露天風呂からなる。広さは十分。人はそんなに多くなくて独り占めのチャンスも多々ある。適温~ぬるめのお湯がうれしい。

どちらかというとやはり露天風呂の方が楽しめる。眼下に流れる川を見ながら開放感たっぷりの岩風呂。いいですねえ。しかも単純泉だからと侮ってはいけない。お湯が触る部分の岩は茶褐色に変色していた。

浴感はまろやかでずっと入っていられる系。ここだけでもすっかり満足できるくらいのクオリティはさすが鉛温泉。


段違いのまろやかさ! 白猿の湯

やさしく包み込む不思議な感触

さあ、いよいよ主役・白猿の湯だ。場所は桂の湯の対面にある。夕方と夜に行ってみた印象では常に人の絶えない、想像以上の超人気スポットだった。

扉を開けると深ーい空間。底に有名な楕円形の浴槽が見える。深みの底へ階段を下りていくと脱衣所がある。簡素な洗い場が一応あるけど、まあないものと思って他のところで体を洗ったほうがいい。

夕方のときは先客が3名いた。もちろん男。大御所の温泉だからと意識しすぎたせいか、まわり全員が常連の上級者に見えて(入試会場でまわりが皆秀才に見えるアレ)、ちょっと卑屈なマインドになってしまった。

おずおずと湯船に入る。うおっ、なんじゃこりゃ、やわらけえ!…やわらかくて、まろやかで、ふんわり包み込む感じが他と比べても段違いにすごい。結構なぬるめだからというのもあるだろう。無色透明で見た目の特徴は薄いけど、浴感の印象は強い。

個性的な足元湧出の立ち湯

さらに白猿の湯は足元湧出泉。浴槽の真ん中あたりにボコボコっと下から吹き出してくる湯面の盛り上がりが見える。お湯の鮮度は折り紙付きだ。

さらに立って入るスタイルが面白い。深さはそれなりにあって、自分の場合だと肩口近くまでがお湯の中。小さいお子様は足が着かないだろう。

隣にはふた回り小さい浴槽がある。入ってみるとひときわぬるい(水風呂ではない)。特に説明がないから正体はよくわからず。

昭和のレトロ感あふれる浴室がまた雰囲気があっていい。さすが大御所。ずっと粘っていたかったが、みんなここを狙ってるんだろうし、新参者が占有しすぎるのもねって感じでさくっと切り上げた。なにやってんだか。

混浴は難しいね

まあ夜遅い時間にじっくり入ればいいさと22時頃に行ってみた。入口から湯船をチラっと見下ろすと先客2名の頭が並んでいた。すいてて良かったと脱衣所まで下りて服を脱ぎ始めたところ、背後に聞こえてくる会話の声が…なんと1名はご婦人じゃねーか。どうやら夜の隙を狙ってきた熟年夫婦っぽい。

しかしいま服を着て引き返すとあからさまで変に意識しすぎみたくなっちゃうよなあ。とりあえず冷静を装って我関せず風に、浴槽では互いに背を向けあうようにして安全・安心をアピールしつつの入浴。だがこの空気感は…どうみても自分がKYなお邪魔虫である。わかっちゃいるけど、でも速攻で出たらかえって当てこすりっぽいしなあ…困った。

5分あまりつかってどうにか格好がついたのでめでたく退出。お邪魔しました~ごゆっくり~。まあ白猿には二度入れたし不満はない。もちろん先客に何も含むところはない。自分が上からチラ見した時点でカップルと気づいて出直すべきだったのだ。それにしても温泉初級者に白猿の湯は難易度高けーっす…。


藤三旅館の和モダンな食事

自分へのご褒美で牛しゃぶを

旅館部の客は基本的に朝夕食とも1階の洒落た食事処でとる。夕食は素朴系というより和モダンと言いたくなる上品系。岩手の食材を多く取り入れている。

ちょっと奮発して岩手和牛A5ランクのしゃぶしゃぶコースにした。A5ですよA5。用紙サイズじゃありませんよ。微妙なあやで岩手和牛となっているが、もうひと押しで特定の地名がついたブランド牛になったのに違いない。石膏泉と呼んでも遜色ない単純温泉みたいな。
藤三旅館の夕食
しゃぶしゃぶしてゴマだれでいただく。うわー柔らかくてうめえ。他の料理とのバランスを考えると量も十分だ。ついカッとなって贅沢してしまったが後悔はしていない。

他の料理も洒落てて美味でお酒によく合う。ビールの後は調子に乗って若女将の特製梅酒に手を出した。ベースのお酒が横文字のかっこいい名前だったと思う。ダンディですな。梅がよく漬かってた。

はなまき朝ごはんプロジェクト

朝はおかずが2段のお重みたいな体裁でやってきた。鍋はベーコンとアスパラとチーズだったかな。アスパラガスは館内にポスターが掲示してあった「はなまき朝ごはんプロジェクト」に選ばれた、地元農家でとれたやつじゃないかと思われる。
藤三旅館の朝食
なお、食事処では朝夕とも重厚なBGMが流れていた。クラシック、じゃないな。映画音楽ぽいのとか、葉加瀬太郎ぽいのとか、NHKスペシャル映像の世紀ぽいのとか。食べながら脳内で大スペクタクルが展開しちゃうぜ。


熊ニモマケズ

チェックアウト後はバス停まで車で送ってもらった。バスが来るまでの間は車内で雑談になった。「昨日は道がわからなくて、反対方向の草の道を下りていったんですよ」と言うと、「へえ、大丈夫でしたか。このへん熊が出るんですよ」…ちょ、待ーてーよ。

今回はなぜだか熊出没を意識させられる旅であったが、ご丁寧に最終章まで熊で締めくくるとはね。バス到着まで雑談に付き合ってくれたのは、単身でバス待ちする間に万が一にも熊と遭遇しないようにと、気を遣っていただいたのかもしれない。ありがたやー。

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