この中だけで温泉めぐりができる「明るい湯治場」 - 大沢温泉

大沢温泉 湯治部
岩手県・花巻南温泉郷を代表する温泉地の一つ、大沢温泉。個性派揃いの温泉をめぐる一人旅「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」の終盤をやさしい系のお湯で飾るべく、6湯目をここ大沢温泉に定めた。

時間の関係で大沢温泉内に数ある浴場のうち2箇所を日帰り入浴しただけだが、明るい湯治場と呼びたくなるような、静かな鄙び感の中にもなぜだか活力みなぎる雰囲気があった。

※花巻南温泉“郷”か“峡”か正式な表記がよくわかりませんでしたので、本記事では適当に混在しています。

大沢温泉へのアクセス

大沢温泉へはJR東北本線・花巻駅または東北新幹線・新花巻駅から花巻南温泉峡の無料送迎シャトルバスが出ている。

ただし宿泊客限定と思われ、運行時間も遅め。そこで花巻から新鉛温泉行きの路線バスに乗り、25分で大沢温泉バス停に到着。道路際にでかい看板があるので場所はすぐにわかった。
大沢温泉入口
坂を下っていくと、まず見えてくるのが低層の近代的な宿泊棟。松竹梅の松にあたる山水閣という旅館部だ。いつか泊まってみたいもんだと思いつつスルー。
大沢温泉 山水閣
坂を下りきったところに見える昔ながらの木造の館が湯治屋と名付けられた自炊部だ。松竹梅の梅にあたるが人気は高い。こちらの玄関を入ってすぐの帳場で日帰り入浴の受け付けをしてもらう(600円)。


大沢温泉内で「温泉めぐり」

大沢温泉の日帰り入浴時間帯

ここで大沢温泉の日帰り入浴システムについて整理しておく。あくまで当時の記憶にもとづくものであり、季節や清掃の都合などによっても変わり得ることに留意されたい。

日帰りで利用できるのは

山水閣:豊沢の湯(男女別半露天)
湯治屋:薬師の湯(男女別内湯)
湯治屋:かわべの湯(女性専用露天)
湯治屋:大沢の湯(混浴露天)
菊水舘:南部の湯(男女別半露天)

菊水舘とは、湯治屋背後を流れる豊沢川の向こう岸に位置する、松竹梅の竹にあたる茅葺屋根が印象的な旅館部である。また山水閣にあるもう一つの浴場・山水の湯は日帰り利用できない。

南部の湯は14時~が利用可。大沢の湯は20時~21時が女性専用タイムとなっている。

レトロ感たっぷり「薬師の湯」

自分が到着したのは13時すぎ。スケジュールの関係で滞在できるのは14時20分まで。そこで薬師の湯と大沢の湯へ行ってみることにした。

自炊部の部屋の障子が連なるくねくね曲がった廊下を進み薬師の湯へ。男湯の暖簾をくぐって下り階段の先に脱衣所があった。貼ってある分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。大きなガラス張りの向こうは浴室が丸見えとなっている。誰もいないようだ。

薬師の湯はそら豆のような形をしたタイル張りの浴槽が2つある。3~4名規模の小さい方がぬるくて、一回り大きい方が熱い。洗い場は2名分だったかな。

それほど広い浴室ではないが、下り階段の分だけ天井を高く取ってあり、脱衣所側の一面が大きなガラス張りなのとあわせて、実際よりも広く感じられる。全体に年季とレトロ感がにじみ出ているもののきれいに管理されている。

やさしい浴感がGood

ぬるい方に入ってみた。ガツンと来ないかわりにジワッと来るやさしい系のお湯。いやー、いいお湯。バス停から来る途中で雨に打たれたから余計にほっとする。いつまでも入っていたい感じだ。

ついでに熱い方も試す。やっぱり熱め。自分はぬるめが好みなので小さい方専門でいいや。一般にはお好みでどうぞ。

平日昼とはいえ薬師の湯を気分良く独占できたのは幸運だった。無色透明で強烈な特徴はないけど間違いなくいいお湯だ。次に大沢の湯へ行くため20分であがったが、普通はここでもっとゆっくりするべきだと思う。

豊沢川のすぐ隣「大沢の湯」

いったん着替えて廊下をさらに奥へと進み、食事処「やはぎ」を過ぎてさらに進み、つきあたりの扉を開けると、大沢の湯の露天エリアになっていた。こちらはさすがに5名ほどの先客がいた。

大沢の湯は、出入口付近の屋根付きの一角に脱衣所と露天浴槽の一部が食い込んでいる。浴槽の大半は屋根のない空の下にあり、露天気分と目の前を流れる豊沢川を見て楽しむには屋根なしエリアにいるべきだが、そこは菊水舘へ渡る橋からモロ丸見えなのだ(屋根付きエリアも“モロ”ではないが若干見える)。

実際、短時間滞在する間にも橋にはときおり人の往来が見られた。混浴というファクターを抜きにしても女性が明るいうちに大沢の湯へ入るには相当な勇気が必要だろう。この日は雨ということもあり、自分はずっと屋根付きエリアから動かなかった。

開放感の中でリラックス

ここは適温のリラックスできるいいお湯。特徴は薬師の湯と同じ。大きさは十分で5名くらいじゃ何ともない(浴槽全体に散らばっていれば。全員が屋根付きエリアに集まると手狭になっただろう)。

本当は景色でも眺めながらじっくりつかるべきだったが、悪魔のささやきにより10分かそこらであがることとなった。もっと入っときゃいいのに、ああもったいない。

そこまでさせた悪魔のささやきとは…「おっ、そろそろ14時か。南部の湯って14時~だよな。こりゃもう1湯体験できるんじゃないか?」…ささやきに負けた。


やはぎで一杯…なしよ!

思い込みは禁物

さらに脱衣所で服を着ていると第2のささやきが…「やっぱり14時20分までにもう1湯はリスキーだな。そういえば有名な食事処『やはぎ』を体験してみたかったんだよな。ビールでも飲みながら休憩するか」

ネットで調べると大沢温泉ファンの間で、やはぎ・やはぎと、やたら愛されている様子なので興味はあったのだ。おいら冴えてる~と心の中で鼻歌交じりに食事処やはぎへ向かうと、準備中の札がかかっていた。なにぃ?!

やはぎは終日営業しているわけではなく、昼の部が13時45分まで、夜の部が17時15分からだった。14時にやってるわけがない。完全な思い込みミスである。

明るい湯治場に元気をもらう

時刻は14時を少しまわったところ。いまさら下手に動くのはリスキーだ。仕方なく帳場横の休憩所で15分くらいぼーっと過ごしてから出ていった。こんなことなら大沢の湯にもっと入っていればよかったなあ。

大沢温泉は昔ながらの風情を色濃く残しつつも、ただ静かで鄙びてるだけじゃなく、なぜだか活力というか活気というか明るさに通じる印象を受けた。そのおかげか、いろいろとしくじったし空はどんより雨模様だけれど、なぜだか元気が戻ってきた。

花巻南温泉郷を代表する2大巨頭のうち、当地を“陽”、このあと訪れた鉛温泉を“陰”と表現するのはいささか強引な対比だろうか。

しかしまあ2箇所の湯に入っただけで「やはぎ」へも行かずでは、大沢温泉について偉そうなことは語れない。いつの日かリベンジを期したい。