夏の思ひ出:日本一のモグラ駅と湯宿温泉大滝屋旅館

湯宿温泉 大滝屋旅館
お盆で多くの人が休む頃に働き、かわりに時期をずらして休む方針を例年貫いていて今年も同様だった反面、お盆時期の1日だけ休みを取ってレジャーにあてた。本当にただの思いつきで、日本一のモグラ駅で知られるJR上越線の土合駅を見学するのが旅の趣旨である。そういうのは若いうちにやっておくべきで、いい年したおっさんがやるもんじゃない気もしたけど、ええーい、勢いでやっちまえ。

冷静に考えて東京圏から日帰りで達成可能な案件である。しかしそこをあえて温泉宿に泊まる行程にした。強行軍に身体が耐えきれないお年頃なのよ。繁忙期ゆえ空室探しは困難を極めたが、運良く湯宿温泉大滝屋旅館を予約できた。3年半ぶりの再訪となる。

日本一のモグラ駅を見学する

各駅停車の旅で土合へ

朝の高崎線に乗ったところから話は始まる。経費節減のためすべて普通列車でカバーし、高崎と水上で乗り継ぐ計画。水上を出ると次の湯檜曽駅手前で上下線が分かれて、下りはトンネル内に駅のホームが作られていた。あとは次の土合までずっとトンネルが続く。

はい、土合到着。仮に東京駅で高崎線に乗車したとすると、スムーズに乗り換えても3時間半といったところ。トンネル内のホームには多くの人(小学生くらいの子ども連れファミリーが多い)が待ち構えていて、列車が入線する様子をカシャカシャとカメラに収めていた。

喧騒の無人駅

土合は無人駅であり、また乗客以外の入場・見学がOKで駐車場もあるため、車で来て中を見学して帰っていくパターンが多いようだ。そうした人たちに交じって去っていく列車を見送った。はしゃぐ子どもたちの中でひとり佇むおっさんの心情を「大きいお友達」という語句を使って100字以内で述べよ。
土合駅を出発する下り列車
ホームは騒がしい感じで、寂しい・怖い・不気味なムードは全然ない…この時期特有かもしれんが。列車がいなくなると人々が三々五々戻り始める。
土合駅下り線ホーム
ホームはとても涼しい。地上の酷暑が嘘のようだ。洞窟と同じで一年を通して温度が安定しているんでしょう。それを利用したのか、かつて待合室だったらしきところがビールの熟成所になっていた。
ビールの熟成所

改札を出るまでに体力を消耗する

さて外へ出るか。地上の改札口まで462段の階段を登らなければならないのがモグラ駅と呼ばれるゆえん。
日本一のモグラ駅の立て札
見上げるとこんなの。
果てしない登り階段
途中でバテないように意識してゆっくりめに登って10分少々かかった。ゴールが近くなると窓のある通路を歩くようになり、窓から湯檜曾川が見えた。窓にスマホを押し付けて撮影。
湯檜曾川
外へ出たぞー!! 無人駅なので切符の精算はできない。もちろんSUICAも使えない。あらかじめ紙の切符を買っておくか、車内で車掌さんに精算してもらいましょう。外はくそ暑い。
土合駅舎

駅の中のカフェでビールを一杯

もともと駅員室だったらしき空間を覗いたらカフェになってるみたい(駅茶MOGURA)。入ってみよう。
駅茶MOGURA
中にはいくつかの椅子とテーブルがある。一人向けのカウンター風になっているところもある。自分は切符売り場の窓口を陣取ってクラフトビールで休憩。ホームで見かけた熟成所で作ってるやつでしょう。
駅茶MOGURAのクラフトビール
その後、上り列車で水上方面へ戻る。こちらのホームは地上にある。つまり上り下りのホームが462段を隔ててものすごく離れている。そんな珍しい構造を現地で体験したくて来ちゃったわけ。なぜそんな構造になったのかは自身で調べてみてね。
土合駅上り線ホーム

湯宿温泉への移動と温泉街ぶら散歩

水上で乗り換えて2つ先の後閑で下車。バスの待ち時間を利用して駅近くのコンビニ横のたこ焼き屋さんでたこ焼きを買い、駅の待合室で食べた。お店の話題がSNSに投稿されてたのをふと見かけて覚えていたんでね。味付けはマヨ・醤油・ソースから選べる。生地厚め・しっかりめで小麦の甘さあり。6個入り350円。
後閑駅近くで買ったたこ焼き
続いて猿ヶ京行きのバスに乗り、湯宿温泉“下”停留所で下車。本当は湯宿温泉“上”が最も宿に近いけど、ちょっと温泉街を歩いてみようかと。
湯宿温泉 湯けむりの塔
国道17号から1本入った石畳の道。
湯宿温泉 石畳の道
こちらはSNSで精力的に情報発信されている金田屋旅館さんですね。
金田屋旅館
前回来た時は雪を被っていた薬師如来広場。
薬師如来広場
急に車の通れない狭い小路となった。手前の建物は共同浴場の窪湯。現在は入れないという情報あり。
窪湯前の小路
少し先には共同浴場・小滝の湯。こちらも入れないかもしれない。要確認。
小滝の湯
右折を指示する大滝屋旅館の古い看板に従うと、狭いところへ誘い込まれて歩きにくいと前回学習していたから、スルーしてちょっと先の正門から堂々と入っていった。そうそう、こういう建物でしたね。
大滝屋旅館

居住性ばっちりなモダン湯治風の大滝屋旅館

前置きが長くなった。当館は2度目だし、前回から変わっているところも特にないので、簡潔にいきますか。玄関入ってすぐフロント。その奥にロビー。当館は接骨院の顔も持っているようだ。あとスキー用具やスキーの本をたくさん置いている。
ロビー
ところどころにレトロな置物が見られる以外は、床・壁・扉などを見るとわかるように全体的にリニューアル感のあるモダンなつくりで明るい雰囲気。渋好みとか鄙び趣味じゃなくても安心して泊まれますな。
館内廊下
案内された部屋は1階の8畳和室。前回と同じ部屋だ。一人泊は基本ここなのかもしれぬ。布団は最初から敷いてあった。
大滝屋旅館 8畳客室
広い個室のシャワートイレ+洗面台あり、金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり(ただしプチプチ切れやすい)。もちろんエアコンもあるから夏冬安心ね。あとタオル掛けが大きくて使いやすい。塩飴が置いてあったのは熱中症予防かしら。

ハード面はしっかりしていて新しめだから快適。なおかつ懐かしい和風温泉宿の雰囲気を残しており、プチ湯治気分で来るとうまくハマってくれるでしょう。窓から見える景色がこちら。蔵造りの建物に注目したアングルで撮影。
窓から見える景色

2種類の源泉を堪能せよ

おそろしくパワフルなお湯を体験できる小浴場

大滝屋旅館のお風呂は1階に小浴場・中浴場の2箇所。それぞれ小=女湯・中=男湯ののれんがかかっているけど、当時の説明では男女の区別はなく、空いていればどちらも自由に貸し切りで入ってかまわないとのことだった。※必ずいつもそうだと断言できないので訪問時の説明をよく聞いて従うべし。

チェックイン直後は中浴場が使用中だったため小浴場へトライ。廊下にスリッパを置き、引き戸を閉めて脱衣所・浴室の電気を点灯して使用中であることをアピールする。分析書や湯使いの記述は見当たらず(後に中浴場で確認できた)。

浴室のカランは2台、木製の浴槽は2名サイズ。湯口から注がれるお湯は無色透明。湯の花や泡付きはなく、なんだか焦げたような匂いを感じる。思い出を当たるとこちらは結構なあつ湯だったような…その通りでした。ピリッとくる熱さが真夏には余計にキますねー。温度面だけではない温泉そのものの攻めてくる感じがガッツンガッツン襲ってくる。こいつはすげえや。

ぬる湯派も一目置かざるを得ない湯質

チェックイン時の説明では「湯宿温泉共通の源泉」、後に中浴場の分析書で見たところでは「窪湯源泉」に相当するお湯。前回の記憶でもお湯のパワー・効き目が強いという印象だったが、健在でなにより。

無理に勝負を挑んでも返り討ちにあうのは必定。短時間で十分に効くので下手に長湯する必要はない。サクッと入ってサクッと出るのが吉。たくさん入りたければ回数で稼ぎましょう。

自分がぬる湯派なもんで、小浴場はこの一度きりだけだった。とはいえ客観的にみてハイレベルなお湯だと評価している。

中浴場でも体験できる窪湯源泉

夕食前に様子をチェックしたら中浴場が空いてたから行ってみた。ほかに寝る前と翌朝×2回行った。こちらの脱衣所には分析書風の説明が貼ってあって「大滝源泉、含炭酸土類泉(炭酸水素塩泉)、PH7、源泉温度47℃」と「窪湯源泉、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉、PH8、源泉温度59.1℃」の2つ。加水・加温・循環・消毒いずれもなし。すばらしい。

浴室のカランは3台。浴槽は左右に2つ。お湯の見た目は両方とも無色透明で区別がつかない。右側は実質1名サイズで熱い。小浴場と同じ窪湯源泉が使われているのだろう。上記のガッツンガッツンよりは入りやすい温度だが、それでも熱い。そして若干の薬品臭的な匂いがする…ただし次の大滝源泉の印象を引きずっている可能性あり。

ぬるめなのがありがたい大滝源泉

左側は2名~詰めて4名サイズ。マイルドな温度で入りやすい。こちらが大滝源泉だろう。40℃前後と思われ、ゆっくり長めに浸かることができる。特に真夏にはありがたい。ぬる湯派がなぜ湯宿温泉をチョイスできるかといえば、この大滝源泉の存在が大きい。

あーいいわあー。しかし窪湯源泉も無視はできない。たまに右側に浸かるとワンポイントのアクセントになり、また左側へ戻れば温度差によりぬるさが強調されて清涼感が増す。温冷交互浴をばっちり実行できてしまうのである。

湯あがり後はしばらくダラダラと汗が引かない。これはどっちの源泉が効いてるのかなー。やっぱり窪湯かなー。そして時間が経過して気がつけばお肌スベスベに。これは大滝かなー。

また、旅行前は自宅で寝ていても夜中に一度目が覚めると寝付けなくなり、朝日が昇って部屋が明るくなり始めると(5時前から)もう寝てられなくなる、で悩まされてたのが、この夜は長時間ぐっすり深く眠れた。これは両方のおかげかなー。


おきりこみうどんのシンプル夕食プラン

直前に予約可能な選択肢が素泊まりか/シンプルな夕食のみのプランだったから、後者の「おきりこみうどんの夕食」プランにした。準備ができると部屋に内線がかかってくる。そして次のような一式が部屋へ運び込まれてきた。
大滝屋旅館の夕食(おきりこみうどんプラン)
ビールは別途事前に頼んであった。おにぎりは副菜のようなもので日によって変わるとか。今日は梅干し入りのおにぎりですね。デザートのすいかまで付いてきて、シンプルプランを承知で来た身としては十分じゃないですかね。

うどんはひもかわうどんのような極太麺だった。豚肉・きのこ・野菜類が入っております。落し蓋をして固形燃料(2つ積んであるから火力強し)に着火してしばらく飲みながら待つ。燃え尽きるまで待つと麺がクタクタになるから適当に様子を見てどうぞ。
できあがった「おきりこみうどん」
途中まで食べてしまったが、上のような内容だ。部屋食、かつ食べ終わった食器はそのままにしておいていい…気になる方は廊下に出しておいてもいい…ってことでマイペースでやれる。ふふふ、たまにはこういうのもいいもんですな。おにぎりがあるから足りないということもないし。

シンプル夕食には釜飯のプランもあったし、通常であれば一般的な2食付きプランもある。その場合は2階の食事処に集まるようだ。

今回朝食はなかったから、他客が朝食中の頃合いを狙って朝2回目の男湯へトライした。朝は9時までお風呂を利用できる。

 * * *

自己満足にすぎないとはいえ土合駅を見学できてすっきりした。時期的にワイガヤ感が大きかったのは、寂寥感や一種の不気味な雰囲気を期待していた身としては予想外だったが、それでもすっきりした。身体が弱ってから行ってみたくなっても「あの階段無理」って理由であきらめなければならないからね。老後の後悔の種をひとつ取り除いた。

そんな思いつきの行程に大滝屋旅館の再訪がうまく噛み合ってくれたと思う。バス停からすぐというアクセス面、湯宿の中では珍しくぬるめの浴槽を備えていたこと、運良く繁忙期に一人泊OKでしかも面倒くさがりの自分に向いた夕食付きプランが残っていたこと。家に引きこもってモグラになってるよりはるかに有意義だった。