ぬる湯の多い山梨は東京圏から行きやすいこともあって遠征先に選ばれやすい。しかし増富ラジウム温泉はまだ訪れたことがなかった。特に一人旅だと夕食付きで泊めてもらえるところが一見なさそうなんだよね。
とんぼ返り前提で日帰り温泉施設「増富の湯」に…と考えたこともあるが、あそこまで行くならヒット&アウェイはもったいない気がするし、増富の湯は老朽化による当面休業に入ってしまった。うーん。
と、そこから思わぬ大逆転。増富ラジウム温泉へ行こうという機運が仲間内で急きょ高まり、計画がまとまったのである。グループで行くなら宿選びに難はない。不老閣はクオリティ高い源泉と、我らも納得の良好ぬる湯。また来たいと思わせる実力派だ。
増富ラジウム温泉「不老閣」へのアクセス
韮崎からバス便あり
増富ラジウム温泉は山梨北部の瑞牆山エリアに位置する。山に親しんでる人にはおなじみかもしれないけど、自分には正直ピンとこない地域だ。甲府の北は昇仙峡、もっと北はボヤーっとしてイメージが湧かないのだ。だからこそ行ってみたかったというのもある。
公共交通機関ユーザーには、JR中央本線・韮崎駅からバスが出ている。1時間半~2時間に1本くらいな感じだ。そういえば韮崎旭温泉へ行った時に韮崎駅前でバス停を見かけたな。ゆえに決して到達が難しいわけではない。古くからの湯治場だから一定の旅客需要があるんでしょう。
車で行くなら増富ラジウムライン経由
我ら一行はメンバーの愛車を駆って旅の2日目に訪れた。朝、甲斐小泉のペンションうぉっちんぐを出発し、尾白川渓谷→野辺山天文台を見学して、あとは一路増富へ。14時チェックイン可能だから早めに着いて長くお風呂を楽しもうという魂胆だ。
野辺山から国道141号を南下して須玉町の適当なところで増富ラジウムラインにスイッチ。増富ラジウムラインは一部に道幅の狭い区間やくねくねカーブはあるものの、終始酷な道路ではない。大丈夫でしょう。
途中にみずがき湖ビジターセンターがあった。みずがき湖は塩川ダムによってできたダム湖である。駐車場に車を止めて湖を見ようとしたら、駐車場から奥は立入禁止らしく入れなさそうだった。これだとあんまり湖面が見えないのよね。
まあいいや。不老閣のチェックインにちょうどいい時間が近くなってきたし、さくっと出発。だんだん山深い雰囲気になってきつつも、増富温泉街に来たら少し開けた様子になった。といっても素朴で静かな里だが。
昔なつかしい雰囲気が残る旅館
いろいろな展示が見られる「ぎゃらりー」
車を玄関付近のガレージ内に置いた(車のキーはフロントに預ける)。ほかに第2駐車場が近所にあるようだね。ではチェックイン。館内はモダン系というよりは昔なつかし系。こちらがお土産コーナーでございます。柱で隠れた向こう側にロビー的な一角がある。
「ぎゃらりー」と書かれた奥の部屋はレトロというか、昔からのものを含めて雑多なものが置かれている。
そのひとつが「アトムの湯」の湯の華。アトムの湯とは後述の天然岩風呂にあった湯船で、ラスボス級の湯質を誇っていたらしい。現在はかぶり湯としての利用に限定されている。
一般的な和風スタイルの部屋
案内された部屋は3階の8畳+広縁和室。一般的な和風旅館のスタイルで、特にとまどうところはない。布団は最初から敷いてあった。
部屋内に洗面台あり。トイレは共同で、3階の男子トイレは小×3・シャワートイレの個室×2・和式の個室1。共同の洗面所もある。そして金庫あり、空の冷蔵庫あり、WiFiあり。WiFiについては、SSIDとパスワードは確かに合っているのに、うまくつながるメンバーと認証失敗でつながらないメンバーがいた。自分はつながらない側だったからキャリア通信でカバーした。
窓からの景色がこちら。赤い橋の奥に不老閣第2駐車場。
いったん外へ出て、この赤い橋の上から本谷川下流方向を写したのがこちら。
本谷川はみずがき湖から塩川となって釜無川へ合流、やがて富士川となって駿河湾へ注ぐ。河川の長い長い旅からすると増富は序盤ですな。
ぬる湯としても秀逸な増富ラジウム温泉
入浴法について事前レクチャーあり
古くからの湯治場であり、稀有な泉質のため、自己流で雑な入浴をしてしまうのは温泉体験としてもったいない。チェックイン時に女将さんから入浴方法についてのレクチャーがある。
沸かし湯浴槽と温泉浴槽があるので、しっかり身体を洗い、まず適温の沸かし湯へ数分入って全身の毛穴を開かせる。それからぬるい温泉浴槽へ。濃厚な湯なので長く粘ってはいけない。5分とか10分とかそれくらいだった気が。
浴室によってはもっとぬるい浴槽やサウナ室もあるが、そこはお好みで。基本は、沸かし湯数分→温泉5~10分を繰り返し、最後に沸かし湯で締める、とのこと。濃厚な湯なので1回の入浴を1時間以内にする。入浴後はしっかり休憩をとって次の入浴まで間隔を空ける。1泊滞在中に普通は3回、多くて4回まで、だそうです。かなり効き目が強そうだなあ。
指南通りの入浴法を実践すべく長寿の湯へ
大浴場は地下1階にある。夕方から夜にかけては長寿の湯と呼ばれる方が男湯で、不老の湯と呼ばれる方が女湯だった。翌朝になると男女が入れ替わる。
チェックイン直後に1回目のトライ。一般の観光客はもとより、登山客・湯治ガチ勢・温泉マニアがこぞって押しかける可能性も考えられ、いささか戦々恐々の面持ちで臨んだところ、確かに人口密度は高めだったが極端な芋洗いの場面には遭遇せずにすんだ。
脱衣所の分析書をチェックすると、泉質は2種類あるみたい。「ナトリウム-塩化物泉、高張性、中性、低温泉」と「含弱放射能-ナトリウム-塩化物冷鉱泉、低張性、弱酸性、冷鉱泉」だ。両者の使い分けは入浴体験してみればなんとなく推察できる。もちろんどちらも源泉かけ流しでしょう。
浴室内にカランは4台。うち1台はお湯の出が悪くて使い物にならなかった。身体を洗った後は指南通りにまず沸かし湯浴槽へ。3名までが適正で4人目が来るとやや窮屈になるサイズ。お湯についてはコメント不要でしょう。投入方式の関係で予想外に気泡が付くのが印象に残ったくらいかな。
10分で区切るのが惜しいくらいの極上ぬる湯
続いて温泉浴槽へ。こいつが長寿の湯と名付けられている湯船だ。4名までが適正で5人目が来るとやや窮屈になるサイズ。お湯は黄色味の強い黄土色で、金色といってもいいくらいだ。強い濁りのため浴槽の底はまったく見えない。
浸かってみると明らかに体温より低い。30℃台前半でしょう。分析書で低温泉と書いてあった方じゃないかな。好みの温度帯であると同時に、狂ったような夏の暑さにおいては大変に心地良い。濁りもあって湯の花とか泡付きはよくわからず。匂いは結構強い金気臭がする。
自分がぬる湯派であることを差し引いても、浴感はとても素晴らしいと思った。いやーたまりせんなー。1時間でも平気で入り続けられるやつだが、指南に従って10分程度で切り上げるようにしていた。
入浴法を守るという意味のほか、当時の人口密度的に、長寿の湯をずっと独占してるとマナー違反になってしまう雰囲気だったこともある。みなさん適度に出入りしながら譲りあって利用していた。パリオリンピックを超える平和の祭典でしたよ。
冷たい源泉の個性がより強調された湯窪の湯
もうひとつ、湯窪の湯と名付けられた源泉浴槽もあった。こちらは後述の天然岩風呂と同じ源泉(20℃)を館内に引いて25℃で提供している由。分析書で冷鉱泉と書いてあった方だろう。ラジウム泉効果を最大限重視する向きにはこちらがいいのかも。湯船は2名が限界のサイズ。
お湯の見た目は長寿の湯に似ている。25℃だからもちろん冷たいが、不思議とすぐに慣れるし、ゾクゾクきたりブルブルっと震えるようなことがない。お湯から出るとむしろ身体がぽかぽかしてくる(これは長寿の湯も同じ)。なんだかすごいぞ。
長寿の湯または湯窪の湯⇔沸かし湯の温冷交互浴を続けること1時間、体調的にはまだまだいけそうだったが、指南に従って出ることにした。早めチェックインしたから夕食までにもう1回トライする時間はあった。しかし1日3~4回ペースで間隔を空けろとのことだからなあ…あとは部屋でだらだらして、夕食後に1回トライ。その時はわりと空いていた。
ラジウム吸引室を備える不老の湯
翌朝は7時から入浴可能。この設定だと朝イチは人が集まりやすい。男女入れ替わった浴場へ行くと、やっぱり混みあっていた。脱衣所の分析書は「ナトリウム-塩化物泉、高張性、中性、低温泉」の1種類だけみたい。
浴室のカランは4台で、こちらも1台は使い物にならないっぽい。前日と同じようなサイズの沸かし湯浴槽と、不老の湯と名付けられた低温泉浴槽が並ぶ。沸かし湯については割愛。不老の湯も基本的には長寿の湯と同様だ。書き忘れてたけど、長寿も不老も飲泉用のコップが湯口に置かれている。少量飲んでみたら金属の味と塩気だった。正直まずい。良薬は口に苦し。
やっぱり不老の湯⇔沸かし湯の温冷交互浴がたまりませんな。7時台とチェックアウト前の最終トライで2回楽しませてもらった。前日の男湯と合わせて1泊で合計4回。7時台を除いて各1時間ずつ、入浴法の制限時間一杯に利用した。やり切ったぜ。
なお、こちらの浴場には湯窪の湯に該当する源泉浴槽がない代わりに、ラジウム吸引と称したサウナ室がある。熱した石に源泉をふりかけることでラジウム泉の蒸気を発生させて吸入しようというわけ。サウナはあまり得意ではないので1回だけ試してみた。直接目に見える効果はわからないけどラジウム吸引できたと思う。
源泉をさらに堪能するなら天然岩風呂へ
天然岩風呂についてコメントしておこう(※我々は行かなかった)。屋外に出て山道を5分くらい登るらしい。そこに岩風呂があって20℃の源泉に入れるのだろうと思われる。
そこには前述のアトム風呂と、もうひとつ不老閣霊泉なるお風呂もあるようで、この2つが不老閣ラスボス級ぽいが、今はどちらも入浴できないようだ。アトム風呂はかぶり湯としてなら利用できるとのこと。
男女別の利用時間が決められており、ガチ勢は狙いすまして行くんでしょうね。我々は館内のお風呂で満足したし、ガチ勢大集合による芋洗いイメージが脳裏に浮かんでしまったこともあって、まあいいかとパスした。
お食事はふくろうだけが知っている
山里らしい夕食が枯れた年代に合ってる
不老閣の食事は朝夕とも食事処「ふくろう」にて。2.5階のようなフロアにある。
夕食は18時。行くと部屋ごとに決まったテーブル席へ通された。すでに卓上に並んでいたスターティングメンバーがこちら。
山里なので刺身とかじゃなくて上のような構成になる。一見すると量は控えめなようだが…確かに膨満感に苦しむことなく完食できたが…少ないとも思わなかった。そのへんは年齢・個人差あるとしても、まわりの客層を見ると、まあちょうどいいところなんじゃないかと。
我々おっさん層としては、こういった食材とビールで十分なのである。鍋の中身はもう記憶があやふや。食材や味付けはバーベキュー寄りの濃いものじゃなくてもっと淡白だった印象があるけど、具体的に何だっけ…思い出せん。陶板焼き系統だとは思うが。ぬるいラジウム泉ですっかり気が緩んじゃってたかな。
朝食はラジウム温泉ゆで卵をどうぞ
朝も同じテーブル席で。奇をてらわない和風スタイルだ。
焼き魚はホッケだと思われる。薬味が乗って、まるでそばつゆのように見える器の中には、納豆パックが入っていた。左上のを温泉玉子と思って割ると、実はゆで卵でした。ラジウム温泉で作ったやつ。殻が色づいているのは温泉作用かもしれない。殻が本体にくっついてて殻むきに少々難儀した。
ご飯は白米と十穀米から選べる(夕食も同様)。特に理由なく夕食は白米を、朝食は十穀米を頼んでみた。ひと通り完食して、さあ食後はラスト入浴1時間コースだ。
* * *
以前から興味のあった増富ラジウム温泉をついにクリアした。もともと期待値は高かったが、実際も期待に違わぬクオリティだった。同行メンバーも「この温泉は良い」「再訪あり」と評価していたし。自分の中でボヤーっとしてイメージの湧かなかった瑞牆山エリアに強力なランドマークが打ち込まれた。
入浴効果について欲を言えば健康面だけじゃなく、増富だけに金運が開けないかなあ、なんてね(令和ブラックマンデーの直撃で涙目になりながら)。
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