じりじりくる熱気と並外れた力強いお湯 - 三朝温泉 ちくま旅館

三朝温泉 ちくま旅館
鳥取県中部の三朝温泉。知名度は全国区だと思う。だって自分が前から知ってたくらいだから。世界屈指のラジウム泉との触れ込みに興味はあった。熱いのが特徴みたいで、自分の好みとは正反対だけど、それでもいっぺん体験してみたいという好奇心の方が勝った。

さすが温泉にブランド力があるため、高級旅館・老舗旅館を筆頭にとても手が届かない相場だし、おひとりさまNGも多い。反面、湯治・長期滞在客向けの素泊まり宿もあるにはある。うーむ、二極化しているなあ、中間的なところはないかな…そうして探して見つけたのが「ちくま旅館」。

小さな内湯のみだが、源泉の特徴をしっかりと味わえるし、いつでも貸し切りで利用できる。旅館の雰囲気としては、みんなでワイワイじゃなくて、1~2人でゆっくり落ち着きたい方におすすめしたい。

三朝温泉「ちくま旅館」へのアクセス

一般には倉吉経由、今回は佐谷峠越え

三朝温泉へのとりあえずシンプルなルートとしては、鳥取中部の中核都市・倉吉から国道179号を南下することが考えられる。鉄道旅の場合もJR山陰本線・倉吉駅からバスに乗るのが一般的だろう。ただしバス便の本数や列車との接続を考えると、どうしても機動力に欠ける。今回は限られた時間でいろんなところへ立ち寄ってみたかったのでレンタカーを借りた。

鳥取空港→鳥取砂丘→白兎海岸→宝喜温泉館を経由して三朝温泉へ向かうことになり、倉吉を通らず最短に見える県道21号の佐谷峠越えルートを選択。途中に佐谷峠の展望所があったのでちょっと休憩。
佐谷峠展望所から見た景色
自分はペーパードライバーに近いので運転大丈夫かなと若干不安もあったが、ほぼ全線片道1車線が確保されており、くねくねカーブや峠を越えた後の下り坂のスピード制御もまあ何とかこなせる範囲。

三徳山三佛寺投入堂をチラ見

峠を越えてしばらく進むと、絶壁に張り付くように立つことで有名な三徳山三佛寺投入堂がある。現地まで行くには本格登山並みの険しい山道を登るらしい。危ないので単独行は禁止されている。一人旅やライト層は駐車場から徒歩数分の遥拝所から遠望しましょう。あそこが投入堂か。
投入堂を遥拝する
何がなんだかわかるまい。拡大してみよう。
投入堂を遥拝する・拡大
遥拝所からは10分程度で三朝温泉街に着く。運転に精一杯でじっくり見られなかったが、旅館大橋とか威厳ある建物の老舗旅館はさすがですな。宝くじが当たったら泊まってみたい。こうして情緒ある温泉街をいよいよ通り抜けそうになった場所にちくま旅館があった。

当館敷地内の駐車スペースは限られている。車で行く場合は事前に連絡欲しいとのこと。状況次第で向かいの駐車場など別の場所を使うように誘導される場合もある。


アットホーム感のある宿

ではチェックイン。外観からわかる通り、少人数向けのこぢんまりした宿である。いい意味で素朴かつアットホームな雰囲気が感じられる。洒落たBGMが流れる小さなロビーの書棚には名探偵コナンの単行本がずらり。鳥取といえば鬼太郎かコナンだからね。
名探偵コナンが並ぶロビー
通された部屋はロビーそばの6畳和室。中にベッドが置かれている。一人用としては狭いこともなく十分だ。旅館によくある観音開きのクローゼットがないかわり、ベッド脇の衣桁を使える。室内の管理状態は良好。とくに不都合はなかった。
ちくま旅館 6畳客室
洗面所とトイレは共同。冷蔵庫も部屋の外に共同のがある。自販機はないから部屋で飲みたい人はあらかじめ買っておいて冷蔵庫へどうぞ。金庫なし。WiFiあり。ウエルカムお菓子って普通は大勢に配るお土産の個包装だったりするけど、ここのはなかなか凝っている和菓子。やりますな。
ウエルカム和菓子
窓の外に見えるのは、玄関先の駐車スペースを覆い隠すように整えられた植栽。基本的には障子を閉めたままにした状態で過ごすことになる。部屋が違えば方角も違うので、見える風景もまた違うかもしれないが、遠くまで見渡せるということはないと思う。
窓からの眺め

著名なラジウム泉を体験

すごい熱気に包まれる中浴室

ちくま旅館のお風呂は1階奥に2箇所。どちらも貸し切り方式。予約などは不要で空いていれば自由に使ってよい。最初は一番奥の突き当たりの風呂へ行ってみた。扉の前の札を「使用中」にして中から鍵をかける。廊下か脱衣所のどこかに分析書があったはず。「含弱放射能-ナトリウム-塩化物温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」だったかな。加水・加温・循環・消毒なしの源泉かけ流し。さすが。

浴室はさほど大きなものではない。カラン2台のうちひとつはシャワーなし。窓を閉めてあったせいかモワーッとくる熱気がすごかった。気体のラドンを吸入することで効能を得ようとする温泉だと思えば納得の熱気。それにしてもすげーわ。

浴槽は3名サイズで丸っこい木材の縁が特徴。よくあるパターンの、ドボドボとお湯を流し続ける湯口は見られない。でも溜め置き湯って感じじゃないんで、浴槽内のどこかから直接源泉を入れてるのかも。よくわからん。

やっぱり熱いパワフルなお湯

壁から2本の蛇口が生えている。一方が熱い源泉・他方が水ではないかと思うが、下手に触らないようにしていたので確認はしていない。源泉が出てくると思われる方の蛇口にだけ白い析出物がびっしりとこびりついていた。

お湯は無色透明の中にも微妙な濁りがあるように見える。浸かってみたらやっぱり熱かった。効くわー。強力な熱気と相まってかなり攻めてくる。そんなに長く入ってられないが、少し我慢して浸かっていた方が体にいいぞと頭の中にお告げがあったから従ってみた。出る時にクラっとめまいがするから注意。

お湯の匂いを嗅いでみたら、塩化物泉でしばしば感じる甘い感じの香りがあった。熱いけどなかなか結構な温泉だ。短時間で回数を多くする方針で入りに来よう。

おひとりさまにちょうどいいサイズの小浴室

別のタイミングで手前にあるもう一方の風呂へ行った。こちらは入浴中の札がなくて扉の鍵を閉めるかどうかによる。最初の風呂場より脱衣所も浴室もひと回り小さくて一人用のサイズ。そのかわり全体的に新しめの印象を受けた。

カランは1台でシャワーが付いてない。浴槽はまあ1名サイズでしょう。こちらのお湯は微かな濁りさえもない無色透明。光の当たり具合とかで感じ方が変わるのかもしれない。そしてややぬるめだった。やった! 熱いよりはぬるい方を好むのでちょうどよかった。

ただし温度に関して決めつけはいけない。翌朝また入りに来たら今度はやたらと熱かったのである。湯もみしないと入れないくらいだった。肌はゆでダコのように真っ赤になるし、出た後ずっと汗がダラダラと引かないし、大変だった。

壁から蛇口が2本生えているのは奥の風呂場と同じなので、ぬるかったときは先客が蛇口から盛大に加水した影響が残っていた可能性がある。加えて源泉そのままを入れているから、自然の気まぐれで温度の上下動が大きいんだろう。

まあいいや。熱気とともにラドンをたっぷり吸い込んで、いろいろと効き目あったんじゃない。


お得感たっぷりの食事

夕食は予想外のカニ

ちくま旅館の食事は朝夕ともフロント隣の食堂で。夕食は18時か18時半かを選べる。すでに配膳されているテーブル席につくと、待っていたスターティングメンバーがこれ。
ちくま旅館の夕食
おや、カニがあるぞ。季節的にもう終わってるんじゃないかと思ってたら、まだ獲れる時期だそうな。カニみそもある。鳥取だからといはいえ、このお値段でカニを出すのはかなり頑張っているのでは。

鍋は牛肉のしゃぶしゃぶ。カニとのツートップは本当にお得ですな。さらに追加で茶碗蒸しともう1品出てきたような気がするが…もう忘れてしまうとは情けない。とにかく量の面でも十分だ。あっさり完食しちゃうかもと侮っていたら、終わってみれば1時間経ってたからね。

締めのご飯の米がまたうまい。牛肉と合わせるための柚子胡椒をわざと残しておいて、ご飯の上に乗せて食べてみたら、これが大当たり。我ながらよくやった。カニに始まって柚子胡椒ご飯に終わるコースに大満足。※デザートもちゃんとあります。

朝風呂と朝食の相性良し

朝食は7時半か8時かを選べる。早朝から熱い湯に入って胃腸はばっちり目覚めている。朝は食欲がない方だけど、この日はいつもより快調だった。
ちくま旅館の朝食
典型的な旅館の朝食という感じで結構。ちょっぴり塩のきいた焼き魚が気に入った(カレイの系統? 魚の種類はよく知らんので適当)。うまい米との相性は抜群。ええでええで。

ごちそうさまでした。さて、最後に熱い温泉で締めるとするか。

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三朝温泉といえば株湯をはじめとする共同浴場、熱気浴施設「すーはー温泉」、歴史の重みを感じさせる老舗旅館、風情ある温泉街など役者揃い。本当はもっとじっくり滞在して街をぶらぶらしたり湯めぐりしたりして楽しむべきなんだろう。夕方旅館に入って翌朝すぐ出発はもったいない。

それでもちくま旅館なら三朝温泉の特徴をしっかり体験できたし、夜はカエルの合掌がすごかったし、たった一晩でも旅情を味わうには申し分ない。もちろんプチ湯治的に余裕ある日程で滞在するのがベストだ。願わくばいつかそうしてみたいものである。