ふらりと行きたくなる良好ぬる湯宿 - 湯村温泉郷 杖温泉 弘法湯

湯村温泉郷 杖温泉 弘法湯
真夏の甲府でたいそう結構な温泉宿に出会ってしまった。その名を湯村温泉「弘法湯」。杖の湯なるサブタイトルを冠しており、弘法大師の開湯伝説に発する古くからの銭湯・杖の湯に連なる歴史を持つらしい。

新しくてオシャレなホテルではない。逆に年季の入ったレトロ感たっぷりの旅館だが、気取らずゆっくり過ごしたい人にはちょうどいい。なにより良質のぬる湯が湯船から贅沢にあふれ出すお風呂は大変印象的だ。何度でも入りたくなってしまう。

食べ過ぎ飲み過ぎで苦しくなってしまったこと(これは自業自得)を除けば、いい思い出しかない。甲府駅からそう遠くない便利な場所だし、いいですね。

湯村温泉郷「弘法湯」へのアクセス

弘法湯のある湯村温泉郷はJR甲府駅の西北に位置する。3km以上あるから歩いていくのは無謀、とくに夏場は。駅南口の4番のりばから出るバスに乗ろう。行き先はさまざまだけど、多くの路線が湯村温泉入口というバス停を通るから、1時間に4本程度は期待できそうだ。

甲府駅から約10分で湯村温泉入口に着くはず。バス停の目の前は常磐ホテルという大規模ホテルで、目指す弘法湯はバス通りから北へ伸びる小路を行く。バス停近くで見かけた温泉街案内図を頭に入れ、スマホのナビで確認しつつ進んでいった。

温泉病院やいくつかの大きなホテルを過ぎるとY字路があるから右へ。ここからは市街地というより鄙びた温泉街の雰囲気が強くなる。道は細くても行き交う車は多い。
湯村温泉通り
途中には湯村山城跡への遊歩道や湯谷神社なんかもあるのだが、寄り道を考えられるような気温じゃない。熱中症になる前に部屋で涼む、それ以外の発想が一切出てこない過酷な状況だったからやむを得ない。季節が違えばうろちょろしたかもしれない。

バス停から10分ほどで「杖温泉 弘法湯」の看板が現れた。道を挟んで2つの建物からなるようだね。


レトロな風情を味わえる部屋

ではチェックイン。帳場から出てきたのは人当たりの良さそうな女将さん。この時点で当たりセンサーがびびっと反応した。いいんじゃないですか、もしかして。

こちらですと2階へ案内された。館内は全般にレトロな雰囲気で、階段や廊下は木の床がきしむ、とまでいうと大げさになるが、そうだとしても不思議はないくらい。しかし全然ネガティブな印象はなく、かえって非日常を味わえて良い。

こちらが客室でございます。ひとりで10畳+広縁を占拠しちゃってすいませんね。室内は古びたところはなくて管理も行き届いており快適そのもの。
弘法湯 客室
シャワートイレ・洗面所あり。金庫なし。別途精算のビール大瓶が入った冷蔵庫あり。この冷蔵庫はかなり昭和チックで、夜寝る時やけにブーンといううなりがするなあ・エアコンの室外機かなと思ったら、冷蔵庫の音だった。あとWiFiあり。

窓の外は湯川の水路をはさんでお向かいの旅館の白壁が見えてなかなかの風情。エアコンで部屋を涼しくしてあれば優雅な気分で眺めていられる。結構なり。
部屋から見える景色

大変結構なぬる湯を贅沢に提供

あふれ出るお湯の量がすごい貸切風呂

弘法湯の宿泊客は2箇所のお風呂を利用できる。ひとつは泊まった部屋と同じ棟の中2階にある貸切風呂。もうひとつは別棟の1階にある大浴場だ。24時間利用可。

最初に貸切風呂へ行ってみた。予約などは不要で空いていれば自由に利用できる方式。扉にかかった札を「空いてます」から「利用中」へひっくり返して、中に入ったら鍵をかける。扉のそばに分析書が貼ってあって「ナトリウム-塩化物泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」とあった。

浴室に入ってびっくり。なんじゃこりゃあ。2名サイズの浴槽に対して広めに確保された洗い場の床は、浴槽からあふれたお湯で完全に浸水していた。深さ数ミリ、いや1センチ近くあったかな、床全面がお湯に覆われていた。

これトド寝ができるんじゃないの?…日帰り温泉なんかによくある寝ころび湯スタイルが自由自在じゃん…いやまあしませんでしたけど。なんちゅう贅沢な源泉かけ流しだ。ちなみに浴室は全然レトロじゃなく新しめでカランは2台あり。

いくらでも浸かっていられる極上ぬる湯

お湯の見た目は無色透明。浸かってみると体温と同じくらいの不感温度。熱さも冷たさも感じない、極上のぬる湯だ。そいつが湯口からたくさん投入されて床にたくさんあふれ出していた。うーん、すばらしい。お湯の中に湯の花は見当たらないが微細な気泡が漂い、しばらく浸かっていると自分の体に付着してくるようだ。

ぬるいのに長く入るのが好きなので、夏はいうまでもなく、冬もこのくらいの温度でいい。ただどこかに「冬は加温します」と書かれていたような気がする。+1℃とか、ちょっと温める程度にしてほしいな。個人の感想です。

すっかりいい気分になって温泉を堪能した。ぬる湯だと1時間は平気で粘ったりするが、ここは館内唯一の貸切風呂だ。ここをお目当てにしてる客は少なくないだろう。ひとりであまり長時間占有するのはいかがなものか、と自制心が働いたので30分で出た。自己都合全開なら1時間いられるレベルの良いお風呂だった。

泡付き強めの大浴場

お次は大浴場の男湯へ。道路をはさんだ隣の棟へ渡り廊下を移動してから1階へ下りる。こちらは少々レトロ感あり。でも全然古くさくはない。地元の常連さんがそこそこ集ってるんじゃないかと思ったら誰もいませんでした。やったぜ独占。

浴室内にカランは4台。内湯ながら浴槽の奥に石を配してあって岩風呂ぽい雰囲気に仕立ててある。4名サイズの浴槽には石の間から湧き出す体で十分な量の源泉が投入され、貸切風呂ほどの床全面ではないにせよ、それなりにオーバーフローしていた。

こちらも同じくらいの温度で大変結構なお点前ですな。泡付きは貸切風呂よりも強いように思われる。あーこりゃたまらん。温度もそうだし、お湯そのものがやわらかくてやさしい感触だから、浸かっていて大変リラックスできる。極楽状態。

こうして貸切風呂にはチェックイン直後と翌早朝、大浴場には夕食前とチェックアウト前に入った。どちらも風呂あがりに体がやたらとぽかぽかする。良質のぬる湯によく見られる特徴だ。なお夕食後・寝る前に入らなかった事情はこのあとすぐ。


いろいろな意味で思い出深い食事

可能なら夕食は馬刺し付きコースを

夕方の風呂あがり。喉が渇いたなー、買い出しは面倒だし冷蔵庫のビールでも飲むか、でももうすぐ夕食だしなー、でもビールをキューッとやりたいなー、飲んじゃえ。と大瓶1本空けたのが作戦ミスだったという点をふまえて。

弘法湯の食事は朝夕とも部屋食。夕食のスターティングメンバーがこちら。食前酒が赤ワイン。最初に運ばれた料理を少し食べ始めたところ、天ぷらなどが追加されてこうなった。
弘法湯の夕食
スタンダートプランを予約していたので、馬刺しが付いてきたのはたぶんサービスしてくれたんじゃないかと思う。馬刺しはふだん食べないから旅情が増すね。ありがてえ。奇をてらった料理はなくても、温泉旅館らしい風情を楽しめる品々で良し。

風呂に行きたきゃ飲みすぎ注意

食事のお供に日本酒やワインを注文できるが、暑気払い的にビールを飲むことにした。つまり冷蔵庫の大瓶をもう1本。ふだん飲み会で生ビール中ジョッキをおかわりしたりするんだからいけるでしょ…己を過信した男の哀れな末路はすぐそこに迫っていた。

夕食の量は十分だ。決して少なくはない一方、食が細い自覚ある自分でも余裕で完食できる見立てだった。しかしビールでお腹がふくれたのが最大の誤算。締めのご飯を盛大に残し、へろへろになってどうにかゴールって感じ。

食事後にまた貸切風呂を楽しもうと思ったのに、膨満感で動けなくなったのである。結局夜の部の温泉はあきらめざるを得なかった。ちくしょー。ああそういえば半年前に熊本の旅館でも同じような展開にハマったっけな…だめだこいつ、まったく進歩してない。

ちょうどいい量の朝食

翌朝は体調ばっちり。しっかり貸切風呂に入って朝食に備える。おー来た来た。朝はこれくらいでちょうどいいのよ。
弘法湯の朝食
玉子焼きがでかい。そして小梅の大サービス。味噌汁は鍋で温めていただく。このあとチェックアウトまでの間にまた風呂へ行くつもりだから、用心してお米は少なめに。水やお茶も胃が膨れるほどがぶ飲みしない。前夜のことがすっかりトラウマになってるな。

おかげさまで万全の体制で貸切風呂へ行ったところ、利用中だったから大浴場へ行ってラスト杖温泉を堪能した。

 * * *

弘法湯いいですね。正直なんとなくで湯村温泉へ行こうと決めたんだけど、我ながらナイスな直感だった。東京方面からだと、やたらと気合を入れなくても、ふと疲れた時にふらっと行きやすい立地なのもいい。リフレッシュ基地として覚えておきたい好宿だ。