都会の一角に突如現れた森の秘湯 - 縄文天然温泉 志楽の湯

縄文天然温泉 志楽の湯
川崎市にある「志楽の湯」は、各地に数多く作られた日帰り温泉施設とはいささかテイストが違う。スタイリッシュでもカジュアルでもなく、自然に囲まれた湯治宿の風情をあえて狙っているようだ。コンセプトは「縄文の森」だそうだ。

遠くまで旅行に出ずとも都会でこのような雰囲気の温泉に入れるのは面白い。下町の一角に突如として異色のスポットが現れるので意外性もある。雰囲気だけでなく温泉じたいもなかなかのものである。

駅から近いし駐車場も狭いわけじゃないし、行きにくいことはないはずだから、秘湯系・湯治系を好むなら一見の価値ありだ。

縄文天然温泉・志楽の湯へのアクセス

近場の日帰り温泉

近年は温泉旅行を張り切りすぎたせいか、なんだかだんだん、お出かけが月1回程度だと「活動が停滞している」と感じるようになってしまった。その程度はディープな温泉マニアからしたら全然甘っちょろいレベルなんだろうが、まあ自分は小市民なんで。

前回の小諸旅行から1ヶ月近くが経過した頃、やっぱりウズウズしてきた。しかしもう少し待てば大型企画2連発がドドーンと炸裂する予定。なので大きなことは考えず、週末に近場の日帰り温泉へ行ってみることにした。

久しぶりに神奈川県から探してみるか…最初は箱根とかも考えたけど(2019年台風19号の前です)、諸般の都合によりもっとずっと手軽にしたい。そうして見つけたのが志楽の湯であった。

混みあう南武線に乗って

志楽の湯の最寄り駅はJR南武線・矢向。この南武線ってのが曲者で、週末にしてはやけに混雑してた。通勤ラッシュのピークとまでは言わぬが情け容赦なく詰め込まれる。6両編成がネックになってるっぽい。

苦労の末着いた矢向の駅前は下町の商店街な感じ。すぐそばにある踏切を渡って反対側へ出てから駅前通りを外れていくと一転して住宅街になった。一軒家とマンション、古いのと新しいのが混在している。

とにもかくにも開発が進んだ都会の下町の一角である。そこへ突然、木がこんもり茂っている場所が見えてきた。遠くからだと、よく言えば計画緑地、正直言うと草木生え放題の空き地に見える。スマホのナビによればそろそろ志楽の湯があるはずなんだが、あの空き地の向こうにあるのかな。

実際はその空き地にみえる場所こそが志楽の湯だった。視力が弱いんで近くへ寄るまで気づかなかった。
志楽の湯 入口
駅から当湯まで徒歩10分はかからない。人によっては5分でカバーできる。


他にはない独特の雰囲気を醸す志楽の湯

山の秘湯に来ちゃった気分

敷地に入るとまず駐車場。台数はまだ多くない。芋洗いリスクを避けるために開店まもない時間に来たからな。よっしゃよっしゃ。続いて「そばレストラン志楽亭」。もはや住宅街の雰囲気じゃない。
そばレストラン志楽亭
一番奥に冒頭写真の本館。いったいどこの秘湯に来ちゃったの、って感じだ。本当にここで合っているのか? と一瞬入るのをためらってしまった。第1の扉を開けると真の扉が現れる。これがまた温泉旅館ぽい。
入館して下足箱→受付の流れは普通のパターン。休日料金は消費税上げ後で1170円。5歳未満のお子様は入館できません。

館内は素朴な湯治宿風情を演出しているものの本当に古びたり汚れているわけではない。清潔感を求める方も安心して利用できる。休憩処の前には「八ヶ岳縄文天然温泉 尖石の湯」の情報コーナーが。経営が同じなのかな。
尖石の湯の情報コーナー
八ヶ岳といえば前回旅行の最後に八千穂高原・白駒の池へ行ったけど、尖石の湯があるのはそっち側じゃなくて茅野側・蓼科寄りみたいね。

縄文道で足つぼ効果

と、雰囲気を堪能してから男湯へ。途中の廊下に貼ってあった分析書には「ナトリウム-塩化物泉、高張性、弱アルカリ性、低温泉」とあった。のちに浴室内で見かける掲示板だと低温泉のところが温泉になってた。

脱衣所のスペースはそれほど余裕がない。混雑してくると窮屈に感じるかもしれない。ロッカーはあとで100円戻ってくるタイプ。

浴室内の床は、なんか凹凸が付けられている。足つぼ効果を狙って縄で模様を付けた「縄文道」とのこと。洗い場は32名分。よほど人が集中しない限り埋まることはないだろう。

広い内湯になぜか御柱

最初に現れる水風呂と味噌樽風呂はパスして奥にある内湯のメイン「御柱蔵石風呂」へ。正方形状でやたら広い。浴槽の縁に沿って20名は余裕でいけるし、中央部を活用すれば30名でもいける。

湯船の中に諏訪の御柱風に木がどーんと立っているところがあって、その近くに湯口がある。浸かってみるとややぬるめの適温。冬ならちょうどいい塩梅かもね。初秋でもある程度の時間は浸かっていられる。

当時は午前だったからか演出なのか、薄暗い感じの照明だったため、お湯に色がついているのか透明なのかは判断できなかった。泡付きとか湯の花の存在もわからず。匂いは軽い刺激のあるインク臭。かすかにヌルヌルもあって温泉らしさは十分に感じられる。

広くてすいてたからかなりのんびりできた。

森の中を思わせる露天風呂

しばらくまったりした後に今度は露天風呂へ。こちらはいかにもな岩風呂。縄文の森に見立てた木々に囲まれ、目隠しされて眺望はないものの雰囲気はいい。一部は屋根に覆われているから雨やカンカン照りの日でも大丈夫。

露天風呂のお湯を見てクリアな黄褐色だとわかった。内湯もたぶん同じだろう。お湯の中は湯の花でなく落ちてきた葉っぱや木くずが粉々になったようなやつが漂っていた。

浸かってみると内湯よりも一段ぬるい。とはいえぬる湯ではないから、一部の客は岩組みの絶妙な場所を利用して半寝湯状態にしていた。ほとんど誰もいなかったから自分も真似してみた。体勢に無理はあるがのぼせにくい。※混んでる時はやめましょう。

匂いについてはインクの刺激が消えて典型的なモール臭が前面に出てくる。さらに肌がなじんでくると泡付きが確認できるようになった。ヌルヌルも内湯より強く、なかなか結構なお点前である。

露天風呂の方も混んでなくてのんびりできた。住宅街の喧騒は届かず、時おり木の枝がパキッと折れて落ちてくる音がするのみ。気分転換にはぴったりだ。

出てしばらくしてから効いてくる

内湯へ戻って、試しに2名規模の味噌樽風呂へ入ると、熱い。無色透明なんで温泉でないようだし、すぐに出た。ついでにお隣の水風呂も試してみたら、まあ普通の水風呂だった。完全にサウナ用ですな。あるいは御柱蔵石風呂との冷温交互浴用にどうぞ。

こうして内湯メインと露天風呂を中心に1時間ほどの入浴を終えた。どうやら加温・循環・消毒ありのようだけど、そんなことを気にさせないくらい、結構なお湯だった。

パンチの効いてる温泉を求めるよりはリラックスしたい人向け…と言いたいところだけど、帰りの電車の中で急にぐったりして体に力が入らなくなったのは、高張性のなせるわざだろうか。あんまりなめちゃいけませんね。


志楽亭でそばを食べてみた

館内には食事のできる休憩処(畳語らい処)があり、ほぼほぼ無添加の野菜にこだわった献立が提供されている。その外廊下部分がこちら。
畳語らい処付近
奥のつきあたりから出ると「そばレストラン志楽亭」へつながっている。今回はそばへのこだわりが良さげな志楽亭へ行ってみた。
志楽亭の店内
最初に出てくる冷たいお茶はそば茶である。そばは二八とプラス150円で十割を選べる。せっかくなので十割のせいろそばを注文。
十割せいろそば
十割だからすぐに短く切れちゃいそうな印象は受けるけど、普通につまんですすれる。が、自分の味覚だと「さすが十割」などと違いのわかる男のコメントはできません。二八で良かったかもなあ(豚に真珠)。量は見た目以上に腹にたまる。並盛一杯でもう十分。もちろん食後用のそば湯は全部飲んだ。

さあ温泉に入ったしそばも食べたし、帰ろう。でもある用事のためにショッピングモール「川崎ラゾーナ」へ寄り道した。にぎやかで現代的な集客施設。さっきまでいた志楽の湯との差が激しい。縄文時代から21世紀にタイムスリップしてきた気分だった、というと言い過ぎか。