随所にこだわりが光る、なまこ壁の一軒宿 - 桜田温泉 山芳園

桜田温泉 山芳園
春のグループ旅行で西伊豆エリア・松崎町の桜田温泉「山芳園」に泊まった。…すごいよ、ここ。我々のいつもの旅行だったらチョイスしないであろうハイクラス旅館とはいえ、あそこまでやってくれるとは、感無量である。

まず建物や部屋におおっ?!と思わされる。そして贅沢な貸切風呂に度肝を抜かれる。さらにすばらしすぎる料理が追い打ちをかける。

あらゆるところに手を抜かない、こだわりのある宿だと感じた。こだわりといっても、無愛想な頑固職人が~とか、価値のわからないやつは来ないで結構、みたいなトゲのあるやつじゃなくて、何の予備知識もなくボケーッと来た我々をも気持ちよくさせてくれる、ソフトなおもてなしの心があった。

桜田温泉「山芳園」へのアクセス

田園地帯の一軒宿

桜田温泉・山芳園は松崎町にあるから、普通は湯ヶ島の手前あたりから国道136号経由で土肥へ出て、伊豆の西海岸沿いを走ってアプローチするのかな。

我々はその逆コースを帰り道として使い、行きは中伊豆を貫く下田街道経由で天城越えした後、途中で観音温泉プリンシプルに立ち寄り入浴しつつ県道15号を西進するルートを取った。

桜田温泉は松崎の海岸から2キロあまり内陸にあって、周囲は山里まではいかないけど田園地帯の風情。海の気配は感じられない。温泉街といったものはなく、桜田温泉=山芳園のみの一軒宿だ。

ひと目で分かる外観

当宿は視界に入ってくればすぐわかる。昔の蔵のような独特の「なまこ壁」が目立つからだ。あと駐車場にも目立つ看板がドーンとあるからね。
桜田温泉の駐車場と看板
駐車場脇には温泉スタンドがあった。野菜直売所のノリで温泉を汲んで帰ることができる。
桜田温泉の温泉スタンド
目の前には田んぼが広がり、なんだかグワッグワッと鳴き声がする。近寄ってみるとカモの群れがいた(下の写真は翌朝帰る間際に撮ったもの)。ここではアイガモ農法を実践しているのだ。
桜田温泉 アイガモ農法

贅沢気分を味わえる桜田温泉の館内と部屋

「日本秘湯を守る会」の会員宿

しょっぱなから強い印象を放っているな。と思いつつチェックイン。ここは日本秘湯を守る会の会員宿であり、宿泊すると当会のスタンプ帳にスタンプを押してもらえる。電話もしくは日本秘湯を守る会のホームページ経由で予約するのが押印の条件だと思われる。スタンプ希望の場合はご確認を。

我々も持参したスタンプ帳を差し出した。3年以内にスタンプを10個集めて1泊無料ご招待の特典を受けるのが目標だ。いったんフロントに預かってもらい、チェックアウトの際に押印が増えた状態で戻ってきた。さすがの手際良さ。

館内はなんと表現したらよいのか、古ぼけたところはないし、もろもろの造作とか赤じゅうたんとか、とにかくハイクラスな印象だ。

文句なしの快適な部屋

部屋おまかせプランで予約したところ、案内されたのは新館2階の10畳+2畳分の広縁の客室。いい部屋が当たったみたいね。平日だったのも味方したか。もったいないくらいの水準の部屋だった。
桜田温泉 新館客室
河津桜が終わってる時期でもまだコタツがあった。卓上には桜田温泉の源泉を詰めたペットボトル飲料が置かれ、ウェルカムドリンクとしていただける。自分は帰ってから周囲の人間に当宿を宣伝する際の一種のお土産として持ち帰らせてもらいました。

こちらから申し出るまでもなく、備え付けの浴衣はサイズが合わないですねと、ちょうどいいサイズのやつに取り替えてくれた。風呂へ持っていくタオルは華やかな色付き。チェックイン時にいくつか用意されたバリエーションから選べる。

部屋にはもちろんシャワートイレ・洗面所・金庫などあり。冷蔵庫は空っぽ。部屋で飲みたければフロントに頼むか1階の自販機でどうぞ。WiFiは「1階ロビーで使えます」との言い方で接続情報が書かれている。窓の外の景色がこちら。
桜田温泉 部屋からの眺め
手前に見えるなまこ壁の蔵造りはスペシャルなメゾネットタイプの宿泊棟として使われている。ひとつは半露天風呂付きのスイートルーム。もうひとつはペット同伴可。夢のような空間に違いないけど、我らの経済力ではちと厳しい。


圧巻のスケールにこだわりの源泉

貸し切りとは思えぬ、広すぎる露天風呂

山芳園の大浴場は1階に複数ある。

・檜風呂(男女別)
・室岩風呂(女湯のみ)
・貸切家族風呂
・貸切露天風呂

貸し切りの2つは予約不要で空いていれば利用できる。ただしすべてのお客さんが機会を持てるよう、30分以内を目安にお願いしますとのこと。この日は利用したいときにふらっと行ってみるといつでも空いていた。

最初に試したのはやっぱり露天風呂。専用の階段を上った先の屋上相当に岩風呂が作られていた…ひ、広い! 前日泊まった船原温泉「うえだ」の大露天風呂に勝るとも劣らぬ広さである。30名くらいいけるんじゃないの。

あつ湯と湯滝が醸し出すワイルド

興奮を抑えつつ脱衣所の分析書で泉質をチェック。「ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とあった。満を持して無色透明のお湯の中へ。

だだっ広い岩風呂の中に我らだけがポツンと浸かる、贅沢すぎる図にすっかりのぼせ上がってしまった。なんという広すぎる貸切風呂。ただし、のぼせたのはお湯が熱めだったせいもある。こんなに広いところへ源泉をかけ流しで投入しているにもかかわらず熱めってのは、湯量が相当豊富なんだな。結構結構。

奥の一角には岩を積んで作った湯滝があった。源泉を上から滝のように落として投入しているのだ。滝状態にあるお湯は少しも触っていられないほどに熱い。相当な高温泉だね。しかもお湯の通り道になってる岩の部分はドス黒く変色している。桜田温泉のパワーを感じた。

時代に合わせたリニューアル

また、我々が入場してきたのと反対側にも元脱衣所と、現在は締め切られている元出入口があった。この露天風呂は以前は貸し切りでない混浴だったそうだから、脱衣所や出入口が2つあるのは男性用と女性用ってことか。まあ今どきは混浴にしておくよりは貸し切りで提供する方が喜ばれるでしょうね。

露天風呂の背後は山林ぽいけど、正面側は田畑の中に住宅が点在する風景だから、露天エリアは目隠しの塀で囲まれている。それでもレイアウトを工夫して緑の中の秘湯感が演出されていたのは良い。

ちなみに湯船は深め。腰掛ける格好で入れるように岩を組んだ箇所をところどころに作ってある。あとカランが3つほどあった。でも体を洗うなら内風呂へ行った方がいいと思う。

ぬる湯好きにおすすめの家族風呂

夕食前には内湯の貸切家族風呂へ行った。2名分の洗い場と4名規模の岩風呂があった。浴槽の半分は深く、残り半分は浅く作られている。お湯はややぬるめ。とくに湯尻側で浅い方ははっきりとぬるい。ぬる湯党の我々にはうれしい温度だ。

浴槽の縁にあたる岩には白い析出物の塊がびっしりとこびりついている。貸切家族風呂の見た目における最大の特徴ともいえる。こびりついた量が露天風呂の比ではない。こりゃあすごいね。

貸し切り系のうち一般受けするのは当然ながら露天風呂の方だ。開放感と圧倒的なスケール感は群を抜いている。しかしじっくりとお湯に浸かることを楽しむのであれば家族風呂をおすすめしたい。

こちらもハイレベルな檜風呂

翌朝は檜風呂へ。男湯の脱衣所にはガラス越しに桜田温泉の源泉パイプを見られるコーナーがあった。いろいろと説明が書いてあり、湧出した源泉を加水せず圧力を抜かず空気に触れさせずに湯船に投入できるよう、独自の冷却システムを用いているとのこと。ここにもこだわりが。

浴室はちょっと階段を下りていく半地下風のつくり。カランは5つ。手前に3名規模のあつ湯槽、奥に4~5名規模のぬる湯槽があった。自分はぬる湯槽専門で。

檜の感触がお湯の印象に柔らかさを加えているような気がする。また他の浴場もそうだったように、湯口には「源泉100%かけ流し認定浴槽」のステッカーが貼ってあった。これは日本源泉湯宿を守る会が発行したものである。たしかに湯口から源泉が惜しげもなく投入される端から、かなりの量がオーバーフローして出ていくのが見て取れる。

貸し切りではない一般浴場ながら、ここも相当なレベルだ。天井はかなり高く、半透明のトタン屋根だから採光性もあり、閉塞感がなく入浴中の気分は良い。仮に浴場がここだけだったとしても全然不満はないくらいだ。


おったまげた料理の数々

ヘルシーかつ美味すぎる夕食

食事にもこだわりと驚きがあった。朝夕とも1階の個室のテーブル席。夕食は18時か18時半かを選べる。スターティングメンバーがこれ。
桜田温泉 夕食その1
この時点でハイソ感が半端ない。どれもこれも手が込んでいるうえ、大変美味なり。味付けに使われる食材には自家製のものも多く含まれ、新鮮さとヘルシー感も半端ない。

刺身はメダイ・キンメダイ・イナダ・イサキのカルテットが放つキトキト感がやばい。わさびは伊豆の生わさびを自分ですりおろす。塩でも召し上がれますよとのことだが、その塩は温泉から作った塩。ここにもこだわりが。

途中で金目鯛のかぶと煮(?)と野菜を温泉で炊き合わせたのが出てきた。うおおお。この時点でお腹は満たされる。
桜田温泉 夕食その2

金目鯛の煮付という最強のラスボス

だがすべては序章にすぎなかった。ラスボス・金目鯛の煮付がおごそかに登場。うおおおおおおおおおおおおおお。
金目鯛の煮付
写真ではわかりにくいが、とんでもなくでかい。我々グループで1尾をシェアするとはいえ、それでも食べきれるかどうか。だが超うまい。タレが絶妙の味付けなのだ。やめられない止まらないの勢いで我らの胃袋に収まっていき、最終的にはきれいに片付いた。

締めのご飯はアイガモ農法の自家米。ご飯のお供に用意された自家製だしふりかけや鹿肉のピリ辛味噌と合わせると「食べ過ぎ危険」になってしまう。デザートだって桜田温泉特製。いやー、最初から最後まで、おったまげ通しでしたね。

役者揃いの朝食

朝食は8時か8時半。いずれもレベルの高い役者揃い。伊豆らしく、アジの開きが日常見かけるやつよりひと回り以上大きい。
桜田温泉 朝食
左端の小鉢はたしか漬けキンメダイ。濃厚な味がご飯のおかわりを誘うキラーコンテンツだ。

食後はフロントそばの炉端風ロビーへ移動。ここでセルフの無料コーヒーをいただける。朝食に付いてきたデザートのお菓子とともに。
炉端でいただく食後のお菓子とコーヒー
なお、今回はスタンプをもらうために日本秘湯を守る会のホームページ経由で予約した。この場合、食事はフルコースプランになる。山芳園のホームページや旅行予約サイト経由だと食事をもっと軽くしたライトプランも出ている。


おそろしすぎる桜田温泉の実力

桜田温泉山芳園。おそろしすぎる実力だ。今回の伊豆旅でいうと、1泊目の船原温泉うえだは北の玄武、2泊目の当宿は西の白虎に喩えられよう。我ながらよくぞそんな身に余るところへ泊まろうと思ったな。

だが虎穴に入らずんば虎子を得ずという。我らは未知の世界をおそれず白虎の懐へ入り、夢のような体験という虎子を得たのであった。経済的にそうそうできることじゃないが、今回は思い切って正解でしたね。