やはり別府はすごかった。いろいろな特徴を持ったお湯が湧く温泉王国の中でもひときわ異彩を放つのが明礬地区にある「別府温泉保養ランド」。ここの泥湯がすごいという評判を知って、我ら大分ツアーのメンバーは勇んで乗り込んだのである。
…なんじゃこりゃあ。泥っていうか、泥っていうか、泥だよこれ。他に普通な感じの湯船も提供されているし、メインの泥湯も一応は温泉の体をなしているが、ディープすぎる未知の世界に迷い込んでしまったような気がした。
正直かなりはっきりと好き嫌いが分かれる温泉だと思う。泥と戯れるか、泥に遊ばれるか、勝つか負けるかふたつにひとつ。ドローはない。
地獄とは温泉が噴出するところだけど、普通は温泉施設=地獄ではない。一般の温泉施設は別な場所に湧いた温泉を施設まで引いてきている。ところが別府温泉保養ランドは紺屋地獄そのまんまなのだ。たしか「地獄に直接入る温泉です」と謳う看板があったはず。
現世にいながらにして地獄を体験するとは…いささか緊張の面持ちで敷地内へと歩を進める。実は別府温泉保養ランドの隣がこの日の宿泊先であり、我々は宿にチェックインした後で歩いてやって来た。下の写真は宿の駐車場から撮ったものだが、当ランドからも同じような風景が見える。
大きなアーチ橋は谷を渡る高速道路で別府明礬橋と呼ばれる。これはこれで迫力ある一種の見どころだ。なんてことはおいといて、玄関前まで来た。建物はなんだか役場とか病院のような雰囲気。
浴室までの通路が結構長い。ここが昔、紺屋地獄の見学スポットだった頃の遊歩道の名残だとの情報がネットにあり、なるほど納得。途中には広大な敷地を整地しているのか、重機と土木作業員の姿が見えたり、はたまた湯気を激しく噴出する源泉管理っぽい設備が見えたりした。
通路が終わると畳の休憩室があって、その向こうがいよいよ大浴場。夕方の時間帯、男湯の脱衣所はそこそこ人の気配がするし、アジア系の訪日客のグループがそれなりにいた。壁の分析書には「単純酸性泉、酸性、低張性、高温泉」とあった。
コロイド湯に入ってみた。適温で、慣れるといい具合に馴染んでくる。白濁したお湯は実際にはぼうっと青白く光って見える。きれいですな。甘い感じの硫黄香がするし、ここだけでも十分にいい温泉だ。
さてコロイド湯ってなんだろう。理科の授業でコロイドについて習った記憶はあるものの、目の前の温泉の状態とどう関係するのか、具体的なイメージは浮かんでこない。でもいいお湯なのは間違いない。
お湯はコロイド湯と一緒。ここはざっと見ただけで終了した。ふだん打たせ湯やらないからというのもあるし、なにより湯船に謎の虫が浮いてるッ! いや、虫や葉っぱが浮いていたって自然の摂理で一向に構わないポリシーなんだが、あの虫のフォルムが謎すぎた。
大きいバッタと異様に長い針を持った大きい蜂が抱き合っているようにも見えるし、大きい蜂が‘く’の字に折れ曲がっているようにも見える。でも羽らしきものは見えない。2匹の塊のような、屈曲した1匹のような。それにあのお尻の長い管はなんだ。蜂の針にしては太く長すぎる。こいつは何者なのか、いつまでも視覚情報が揺らいで定まらない。ああやばい。すぐに立ち去った。
ちなみに滝湯の奥には蒸し湯(サウナ)がある。こちらもスルー。
浴感は思ったほどドロドロしてなくて意外とサラリとしている。泥臭さもない。ただ底に溜まった泥による足裏のムニュッとした感触がなんともいえない。単に慣れていないだけだろうか。どうにも落ち着かない気分。
べつに批判・否定するつもりはなく、身の置きどころがなくてムズムズしてくる妙な感じが何とも形容し難いなあと。同行メンバーも同じだったようで「ここはもういい。露天に行こう」と先へ進んだ。
なお、泥湯では底にお尻をつくわけにはいかないので、中腰のような格好で入る。また上がった後は体中に真っ黒な泥が付着するわけではない。見た目は泥でもサラッとして粘着性は薄い。最終的にはカランで洗い流すべきだろうけど、しつこくまとわりつくものではなかった。その点は田んぼやバラエティ番組の罰ゲームで入らされる泥んこと違う。
御婦人が合流する場合、塀により男からは見えない位置でタオルを外して泥湯に入る→泥につかりながら湯船中央まで移動→男の視界に入るが首から下は泥の中だから見えない、という形で混浴への抵抗は少ない方だろう。
その件はおいといて、メイン露天へ入ると、やっぱり浴感は内湯の泥湯と似ている。しかし足元の感触がさらにパワーアップしていた。ムニュッ、じゃなくて、ジャリッ。いやジョリッか。
つま先やかかとが堆積層にめり込む感触。足の指の間に粒が詰まる感触。一定以上にめり込むと泥層に達してムニュッとする感触…なんだこの原初の記憶に訴えかけるような、ゾゾゾっとする感覚は。
またも落ち着かない気分に支配されてきた。くわばらくわばら。でもまだ帰るわけにはいかない。最後に一番奥のサブ露天風呂が残っている。しかもそこは「自律神経」とだけ書かれた謎の札が立っていた。その謎を体験せずに帰れるかっての。
その件はおいといて、サブもやっぱりメインと同様だった。気のせいかもっとゾゾゾ感が強かったような。ある意味で自律神経を根本から叩き直してくれそうだ。
もちろん以上は個人の感想で、泥湯に馴染みまくってる客の方が多い。ふと見ると、他の客はうれしそうにニヤニヤしたり、目を閉じてじっと瞑想にふけっているのだった。
底の泥をさらって腕・胸・首・顔に塗りたくっている者もいた。泥パックってやつかな。健康と美容に効果あるんだろうけど…うーーん、自分はパスだな…。なお、「取り返しのつかないことになるから頭には泥を塗らないように」的な注意書きがあった。怖えー。
自分はあの泥の感触がどうにも落ち着かず…田んぼの中に入る経験があれば何も突飛に感じなかったのかもしれないが。
人それぞれ合う・合わないはあるだろうけど、損得で語るものではないし、一度は試してみてもいいのではないかと思う。ハマれば相当気に入るだろうし、他の客の幸せそうな表情からして、普通はお気に入りの確率が高いんじゃないかな。
さあすぐにでも体験しに行こう。明晩(明礬)? それとも今夜(紺屋)?
おあとがよろしいようで。
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…なんじゃこりゃあ。泥っていうか、泥っていうか、泥だよこれ。他に普通な感じの湯船も提供されているし、メインの泥湯も一応は温泉の体をなしているが、ディープすぎる未知の世界に迷い込んでしまったような気がした。
正直かなりはっきりと好き嫌いが分かれる温泉だと思う。泥と戯れるか、泥に遊ばれるか、勝つか負けるかふたつにひとつ。ドローはない。
別府温泉保養ランドへのアクセス
別府温泉保養ランドはJR別府駅から明礬を経由するバスで約30分。バスの本数はあまり多くないので注意。そして最寄りのバス停の名前がこれまたすごい。「紺屋地獄前」というのだ。地獄ですよ地獄。地獄とは温泉が噴出するところだけど、普通は温泉施設=地獄ではない。一般の温泉施設は別な場所に湧いた温泉を施設まで引いてきている。ところが別府温泉保養ランドは紺屋地獄そのまんまなのだ。たしか「地獄に直接入る温泉です」と謳う看板があったはず。
現世にいながらにして地獄を体験するとは…いささか緊張の面持ちで敷地内へと歩を進める。実は別府温泉保養ランドの隣がこの日の宿泊先であり、我々は宿にチェックインした後で歩いてやって来た。下の写真は宿の駐車場から撮ったものだが、当ランドからも同じような風景が見える。
大きなアーチ橋は谷を渡る高速道路で別府明礬橋と呼ばれる。これはこれで迫力ある一種の見どころだ。なんてことはおいといて、玄関前まで来た。建物はなんだか役場とか病院のような雰囲気。
強烈な印象の内湯エリアで初の泥湯
大浴場までの長い通路
中に入り、靴を下駄箱に入れてサンダルに履き替え、受付で1100円を払う。宿泊もやっているみたいで館内は広そうに見えるが、探検する余裕はない。まっすぐ浴室へ向かった。浴室までの通路が結構長い。ここが昔、紺屋地獄の見学スポットだった頃の遊歩道の名残だとの情報がネットにあり、なるほど納得。途中には広大な敷地を整地しているのか、重機と土木作業員の姿が見えたり、はたまた湯気を激しく噴出する源泉管理っぽい設備が見えたりした。
通路が終わると畳の休憩室があって、その向こうがいよいよ大浴場。夕方の時間帯、男湯の脱衣所はそこそこ人の気配がするし、アジア系の訪日客のグループがそれなりにいた。壁の分析書には「単純酸性泉、酸性、低張性、高温泉」とあった。
普通の良い温泉:コロイド湯
浴室内で最初に待ち構えているのが、コロイド湯と名付けられた白濁硫黄泉ぽい10名規模の内湯浴槽。壁には数名分の洗い場がある。ただし蛇口のみでシャワーなし。石鹸・シャンプーもない。かけ湯したり泥を洗い流すのに使えるけど、当ランドで洗髪・体を洗うという発想は持たない方がいい。コロイド湯に入ってみた。適温で、慣れるといい具合に馴染んでくる。白濁したお湯は実際にはぼうっと青白く光って見える。きれいですな。甘い感じの硫黄香がするし、ここだけでも十分にいい温泉だ。
さてコロイド湯ってなんだろう。理科の授業でコロイドについて習った記憶はあるものの、目の前の温泉の状態とどう関係するのか、具体的なイメージは浮かんでこない。でもいいお湯なのは間違いない。
打たせ湯に浮かぶ謎の生物
浴室は2つの露天エリアにつながっている。実際に体験した順番を無視して、まず一方の滝湯を紹介しよう。浅めの細長い浴槽に高い位置から打たせ湯が落ちている。まあよくあるやつだ。お湯はコロイド湯と一緒。ここはざっと見ただけで終了した。ふだん打たせ湯やらないからというのもあるし、なにより湯船に謎の虫が浮いてるッ! いや、虫や葉っぱが浮いていたって自然の摂理で一向に構わないポリシーなんだが、あの虫のフォルムが謎すぎた。
大きいバッタと異様に長い針を持った大きい蜂が抱き合っているようにも見えるし、大きい蜂が‘く’の字に折れ曲がっているようにも見える。でも羽らしきものは見えない。2匹の塊のような、屈曲した1匹のような。それにあのお尻の長い管はなんだ。蜂の針にしては太く長すぎる。こいつは何者なのか、いつまでも視覚情報が揺らいで定まらない。ああやばい。すぐに立ち去った。
ちなみに滝湯の奥には蒸し湯(サウナ)がある。こちらもスルー。
内湯の泥湯で予想を超える感触
もう一方の露天エリアがメインの泥湯だ。まず露天に出る手前にあった内湯の泥湯に入ってみた。見た目は泥以外の何物でもない。完全に透明度ゼロの泥の中へ消えていく下り階段を下りていかねばならないので転倒に気をつけよう。竹の手すりをしっかりつかんで頼るべし。浴感は思ったほどドロドロしてなくて意外とサラリとしている。泥臭さもない。ただ底に溜まった泥による足裏のムニュッとした感触がなんともいえない。単に慣れていないだけだろうか。どうにも落ち着かない気分。
べつに批判・否定するつもりはなく、身の置きどころがなくてムズムズしてくる妙な感じが何とも形容し難いなあと。同行メンバーも同じだったようで「ここはもういい。露天に行こう」と先へ進んだ。
なお、泥湯では底にお尻をつくわけにはいかないので、中腰のような格好で入る。また上がった後は体中に真っ黒な泥が付着するわけではない。見た目は泥でもサラッとして粘着性は薄い。最終的にはカランで洗い流すべきだろうけど、しつこくまとわりつくものではなかった。その点は田んぼやバラエティ番組の罰ゲームで入らされる泥んこと違う。
激烈な印象の露天風呂は泥がドロドロ
内湯よりもパワーアップしたメイン露天風呂
露天エリアには2つの浴槽がある。手前にあるのがメイン露天風呂。ここは混浴で、女湯からも合流してくる(ただし竹の手すりで仕切られ完全には合流しない)。御婦人が合流する場合、塀により男からは見えない位置でタオルを外して泥湯に入る→泥につかりながら湯船中央まで移動→男の視界に入るが首から下は泥の中だから見えない、という形で混浴への抵抗は少ない方だろう。
その件はおいといて、メイン露天へ入ると、やっぱり浴感は内湯の泥湯と似ている。しかし足元の感触がさらにパワーアップしていた。ムニュッ、じゃなくて、ジャリッ。いやジョリッか。
なんともいえない感触が…
砂よりも少し粗い粒がかなり厚く、底なしかと思うくらいに堆積している。良く言えばサンゴ礁の砂だが…。強烈な硫黄泉の国見温泉の露天風呂がこんな感触だった。温泉の析出物が溜まりまくったんですかね。つま先やかかとが堆積層にめり込む感触。足の指の間に粒が詰まる感触。一定以上にめり込むと泥層に達してムニュッとする感触…なんだこの原初の記憶に訴えかけるような、ゾゾゾっとする感覚は。
またも落ち着かない気分に支配されてきた。くわばらくわばら。でもまだ帰るわけにはいかない。最後に一番奥のサブ露天風呂が残っている。しかもそこは「自律神経」とだけ書かれた謎の札が立っていた。その謎を体験せずに帰れるかっての。
泥の極み:サブ露天風呂
メインからサブへの移動…10~20歩くらい…は全員の視界に入る中を歩いていくしかない。女湯からサブ露天風呂への移動はちょっとハードル高いね。一応、男女の入口は別になっていて、浴槽で合流するけどメイン露天のように竹の手すりで仕切られている。その件はおいといて、サブもやっぱりメインと同様だった。気のせいかもっとゾゾゾ感が強かったような。ある意味で自律神経を根本から叩き直してくれそうだ。
もちろん以上は個人の感想で、泥湯に馴染みまくってる客の方が多い。ふと見ると、他の客はうれしそうにニヤニヤしたり、目を閉じてじっと瞑想にふけっているのだった。
底の泥をさらって腕・胸・首・顔に塗りたくっている者もいた。泥パックってやつかな。健康と美容に効果あるんだろうけど…うーーん、自分はパスだな…。なお、「取り返しのつかないことになるから頭には泥を塗らないように」的な注意書きがあった。怖えー。
とにかく一度体験してみてもらいたい
泥を抜きにして温泉としてみると全体にぬるめで硫黄感があり気に入るタイプのやつだ。最後に再びコロイド湯につかったら幸せな気分になった。でもそんな特徴を軽く吹っ飛ばす強烈な泥の印象。地獄に直接入るという謳い文句はダテじゃなかった。自分はあの泥の感触がどうにも落ち着かず…田んぼの中に入る経験があれば何も突飛に感じなかったのかもしれないが。
人それぞれ合う・合わないはあるだろうけど、損得で語るものではないし、一度は試してみてもいいのではないかと思う。ハマれば相当気に入るだろうし、他の客の幸せそうな表情からして、普通はお気に入りの確率が高いんじゃないかな。
さあすぐにでも体験しに行こう。明晩(明礬)? それとも今夜(紺屋)?
おあとがよろしいようで。
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