秋雨の中の信州グループ旅行2泊目は松本市内にある浅間温泉「富士乃湯旅館」。市街地のはずれといったところにあり、都市の利便性と非日常的な旅情感を両立させている温泉街に佇む静かな宿だ。
しかし最も際立つ個性といえば、館内に展示されている美術品の数々。ガチで「おたから」レベルの品々はテレビ番組で紹介されたこともあり、番組を見たメンバーの約1名が行ってみたいとの由。
「よし、その夢かなえようじゃないか」と決まった次第だが、それ抜きでみても部屋食・貸切風呂など、なかなかサービスを頑張っている宿であった。
浅間温泉のバス停から富士乃湯旅館までの道は…どうやって行くんだろう。実はタクシーを使って楽をしたのである。温泉街はなかなか大きく広がっており、一本の通り沿いに旅館が並ぶだけの規模ではない。
当宿は市の中心から続く大通りが行き止まって終わった地点の一ブロック奥。細い小路の中にある。車で来た場合は少し離れた駐車場へ止めることになるだろう。
大女将に案内された部屋は新館2階の10畳和室+広縁。新館だけあってきれい。同様に新しくてきれいなトイレと洒落た洗面所付き。女性客を意識してか、アメニティを充実させている印象を受けた。おじさんには細かいことはよくわからないが。
旅館が密集するゴチャゴチャっとした立地にあるため、窓の外は隣の建物。山が見えるとか松本の夜景が見えるとかではない。別にそういう要素を求めていないからOK。
脱衣所の洗面所もやはり洒落たつくりになっていてアメニティに充実感がある。時間で男女が入れ替わるからもう一つの大浴場も同じになってるはず。掲示された分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、高温泉」とあった。やさしい系だ。
L字形をした浴室内は4名分の洗い場と4~5名規模のタイル張り浴槽。露天風呂はない。ガラス張りの向こうが庭園風になっていて、外へ出られるドアはあるけど、「ドアを開けたままにすると蜂が入ってきますので閉めてください」的なことが張り紙してあった。外へ出ようと試みるのはやめておいた。
ようするにマイルド・スッキリの極みなのである。それじゃ面白くないよと思うかもしれないが、単なる沸かし湯と明らかに違う感触はあるし、入った後は肌がすべすべになった。
浴室の洗い場は1名分。円形の浴槽は1名、よくて2名の規模だ。床が畳敷きになっている点はプレミアム感あり。
お湯は概ね大浴場と一緒、ただしやや熱めになっている。それによく見ると小さい糸くずのようなフワフワした湯の花が漂っていた。おそらく貸切の方はフィルターとかを通さずに源泉をまんま投入しているものと思われる。こいつは本物だぜ。
つい長く粘りたくなるが「入浴時間は30~40分にしてください」と断り書きがしてある。そりゃそうだ。ノーチャンスの客がいるようになったらよくないからな。なので30分ほどで出た。源泉そのままを味わえるから、もし富士乃湯に泊まることがあれば、宿泊中に1回は貸切を試していただきたい。
さて、いまどきの旅館業でそんな工数のかかる手法を取れるのか、と訝っていると、はたして食事出しにやって来たのはバイト風の若者であった。外国人実習生とかではなく日本の若者。松本だけに信州大学の学生だろうと勝手に想像している。
本当に真面目に丁寧にやってくれるので、多少ぎこちなくても、がんばれ~と心の中で応援してしまう。食事と共にさわやかな一陣の風がやって来たとでも言おうか。布団の上げ下ろしも別の若者部隊が実行した。
よそが維持し難いサービスを信大生(想像)を使ってやるとは、なるほどね。信大生(想像)なら人材の質も相応に担保されそうだ。秘湯やあまりに田舎ではバイトが集まらないし、別の稼ぎ口を見つけやすい都会でもこうはいかない。松本市街という絶妙の立地を活かした人材戦略だ(想像)。
お造りには信州サーモンが使われていた。前半で出てきた椀物は松茸と鱧のお吸い物。こりゃあ贅沢だ。
10品くらい出てきて最後のシメは松茸ご飯ってのがまたイカす。
量はたっぷりだし味も良し。とにかく洒落た華やかさにあふれる献立であった。これを部屋出しでやってくれるんだから大したもんだ。
もうひとつは明治期の近代日本美術をリードした一人・西郷孤月の作品。先代が収集したものらしい。よく知らないのだけど西郷孤月は横山大観、橋本雅邦、岡倉天心といった名前と関連がある模様。そういえば茨城・五浦の美術館で見たなあ。こんなところでつながってくるとはね。
西郷の品はテレビ番組「なんでも鑑定団」に出品され、結構な高評価を受けたようだ。その録画DVDがさりげなく部屋に置かれていた。DVDはその場で再生して観ることができる。
富士乃湯旅館は、10室という小規模・繊細なお湯・ぱっと明るさが広がるような料理、これらの特徴から「松本に咲く一輪の花」とでも呼びたくなるような宿であった。
正直な話、メンバーに教えてもらわなければ浅間温泉や当宿に着目することはなかっただろう。自分の基準だと一人泊OKかどうか、加えていくらか鄙び寄りの観点で見てしまうからやむを得ない面もあるが、温泉宿にはまだまだ知らない世界があった。人の話には耳を傾けてみるものである。
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しかし最も際立つ個性といえば、館内に展示されている美術品の数々。ガチで「おたから」レベルの品々はテレビ番組で紹介されたこともあり、番組を見たメンバーの約1名が行ってみたいとの由。
「よし、その夢かなえようじゃないか」と決まった次第だが、それ抜きでみても部屋食・貸切風呂など、なかなかサービスを頑張っている宿であった。
浅間温泉「富士乃湯旅館」へのアクセス
浅間温泉はJR松本駅から路線バスで20分。個人的な印象では、市内の道路の混み具合で所要時間は結構違ってくるんじゃないかと思った。浅間温泉のバス停から富士乃湯旅館までの道は…どうやって行くんだろう。実はタクシーを使って楽をしたのである。温泉街はなかなか大きく広がっており、一本の通り沿いに旅館が並ぶだけの規模ではない。
当宿は市の中心から続く大通りが行き止まって終わった地点の一ブロック奥。細い小路の中にある。車で来た場合は少し離れた駐車場へ止めることになるだろう。
洒落た新館の和室
我ら一行は、安曇野・大王わさび農場の見学を終え、雨だしもう今日はいいやということで、若干フライング気味にチェックインしたら入れてもらえた。玄関ロビーのところに犬小屋があったけど中は空っぽ。ワンちゃんの鳴き声はどこか別の方向から聞こえてきていた。大女将に案内された部屋は新館2階の10畳和室+広縁。新館だけあってきれい。同様に新しくてきれいなトイレと洒落た洗面所付き。女性客を意識してか、アメニティを充実させている印象を受けた。おじさんには細かいことはよくわからないが。
旅館が密集するゴチャゴチャっとした立地にあるため、窓の外は隣の建物。山が見えるとか松本の夜景が見えるとかではない。別にそういう要素を求めていないからOK。
スッキリを極めたやさしいお湯
外が庭園になってる大浴場
泊まった曜日と早めチェックインが奏功して、他の客はまだ誰もいないようだった。今のうちにお風呂を独占させてもらうとしよう。当宿にあるのは男女の大浴場と貸切風呂が一つ。まず男湯となっている大浴場「夕映え」の方へ行った。脱衣所の洗面所もやはり洒落たつくりになっていてアメニティに充実感がある。時間で男女が入れ替わるからもう一つの大浴場も同じになってるはず。掲示された分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、高温泉」とあった。やさしい系だ。
L字形をした浴室内は4名分の洗い場と4~5名規模のタイル張り浴槽。露天風呂はない。ガラス張りの向こうが庭園風になっていて、外へ出られるドアはあるけど、「ドアを開けたままにすると蜂が入ってきますので閉めてください」的なことが張り紙してあった。外へ出ようと試みるのはやめておいた。
これぞやさしい「美人の湯」
湯船につかる。泉質からして目立った特徴はない無色透明のお湯だけど、やさしい系のいい浴感だ。適度にぬるくて入りやすい。置いてあった温度計を突っ込んでみたら40℃を示した。アルカリ性温泉に時おり見られるヌルヌル・ヌメヌメはない。湯の花もとくになかった。ようするにマイルド・スッキリの極みなのである。それじゃ面白くないよと思うかもしれないが、単なる沸かし湯と明らかに違う感触はあるし、入った後は肌がすべすべになった。
湯の花漂う畳敷きの貸切風呂
上の通り夕方に大浴場へ行ったので夜は貸切風呂「富士」へ行ってみた。また、翌朝には男女入れかわった大浴場「芙蓉」へ行ったら先客がいたので、風呂を独占することを優先して再び貸切風呂を利用した。予約は不要で、札が「空き」になっていれば裏返して中へ入り、鍵をかける方式。浴室の洗い場は1名分。円形の浴槽は1名、よくて2名の規模だ。床が畳敷きになっている点はプレミアム感あり。
お湯は概ね大浴場と一緒、ただしやや熱めになっている。それによく見ると小さい糸くずのようなフワフワした湯の花が漂っていた。おそらく貸切の方はフィルターとかを通さずに源泉をまんま投入しているものと思われる。こいつは本物だぜ。
つい長く粘りたくなるが「入浴時間は30~40分にしてください」と断り書きがしてある。そりゃそうだ。ノーチャンスの客がいるようになったらよくないからな。なので30分ほどで出た。源泉そのままを味わえるから、もし富士乃湯に泊まることがあれば、宿泊中に1回は貸切を試していただきたい。
気合のこもった食事サービス
部屋食を可能にした「さわやかな風」
富士乃湯の食事はかなり頑張っている。朝夕とも部屋食。特別オプションとかではなくすべてのプランがそうだと思う。料理は一度出しではなくおしながきに沿って少しずつ持ってくる。素朴系よりは手の込んだ系に近い。さて、いまどきの旅館業でそんな工数のかかる手法を取れるのか、と訝っていると、はたして食事出しにやって来たのはバイト風の若者であった。外国人実習生とかではなく日本の若者。松本だけに信州大学の学生だろうと勝手に想像している。
本当に真面目に丁寧にやってくれるので、多少ぎこちなくても、がんばれ~と心の中で応援してしまう。食事と共にさわやかな一陣の風がやって来たとでも言おうか。布団の上げ下ろしも別の若者部隊が実行した。
よそが維持し難いサービスを信大生(想像)を使ってやるとは、なるほどね。信大生(想像)なら人材の質も相応に担保されそうだ。秘湯やあまりに田舎ではバイトが集まらないし、別の稼ぎ口を見つけやすい都会でもこうはいかない。松本市街という絶妙の立地を活かした人材戦略だ(想像)。
きらびやかに輝くような夕食
本題に戻ろう。夕食は会席風でたくさんの種類がちょっとずつ出てくる。相当な手間がかかっているだろう。食前酒は信州りんご酒だった。前菜の皿にはフグ皮の煮こごりなんていうものも。お造りには信州サーモンが使われていた。前半で出てきた椀物は松茸と鱧のお吸い物。こりゃあ贅沢だ。
10品くらい出てきて最後のシメは松茸ご飯ってのがまたイカす。
量はたっぷりだし味も良し。とにかく洒落た華やかさにあふれる献立であった。これを部屋出しでやってくれるんだから大したもんだ。
朝食は卵かけご飯で
朝もさわやかな若者部隊が食事をセッティングしてくれた。出てきたのは一般的な和定食。ブランド卵(会田の平飼い卵)を使った卵かけご飯が特徴。ガチでお宝! 価値ある美術品の展示
富士乃湯の個性である美術品について簡単に触れておく。ひとつは松本藩ゆかりの品だ。古文書・古絵図・刀剣など。藩主と縁の深かった先祖から代々伝わるものらしい。もうひとつは明治期の近代日本美術をリードした一人・西郷孤月の作品。先代が収集したものらしい。よく知らないのだけど西郷孤月は横山大観、橋本雅邦、岡倉天心といった名前と関連がある模様。そういえば茨城・五浦の美術館で見たなあ。こんなところでつながってくるとはね。
西郷の品はテレビ番組「なんでも鑑定団」に出品され、結構な高評価を受けたようだ。その録画DVDがさりげなく部屋に置かれていた。DVDはその場で再生して観ることができる。
人の話を聞いてみるのも吉
チェックアウトの際、テレビに出演していた若女将が出てきた。もはや有名人と対面する気分でちょっと緊張した。そして前日は鳴き声だけだったワンちゃん(コーギー)が玄関につながれていて対面することができた。富士乃湯旅館は、10室という小規模・繊細なお湯・ぱっと明るさが広がるような料理、これらの特徴から「松本に咲く一輪の花」とでも呼びたくなるような宿であった。
正直な話、メンバーに教えてもらわなければ浅間温泉や当宿に着目することはなかっただろう。自分の基準だと一人泊OKかどうか、加えていくらか鄙び寄りの観点で見てしまうからやむを得ない面もあるが、温泉宿にはまだまだ知らない世界があった。人の話には耳を傾けてみるものである。
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